リンネが荷馬車と荷物を預けて宿屋に戻ってくるとベッドでミュウが寝ていた。
どうやら荷台に座っている間は気にしていなかったが、一日半の旅で疲れが溜まったらしい。
仕方ないとリンネは苦笑した、見た目は十五、六歳だが、中身はまだ小学生以下なのだ。
扉を閉めて腰掛けたリンネは優しく彼女の髪を撫でようと手を伸ばし―――
「………」
笑顔のまま何もせず無言でその手を止めてから静かに引っ込めた。
部屋の奥でフードを脱ぎ、窓際に椅子を置いて外を眺めているティオがいた。
リンネは無言でその隣の壁際に寄り掛かってゆっくりと話しかける。
「人間の町はお好き?」
「……難しい問いじゃな。過去を思えば嫌いと答えるが、既に過ぎた事と割り切ってしまうのなら、豊かな町の営みをこうして眺めるのは悪くないと思うのじゃ」
「たとえそれが人間の町であっても?」
「そうじゃな。…そういうおぬしはどうなんじゃ?」
「貴女に今のアタシがどう見えているのか、それに因って答えが変わるわねぇ」
リンネの言葉にティオは振り向いて表情を窺う。
笑っている…何時もと変わらない陽気な笑みを浮かべている…ように見えた。
瞳の奥深く、心の奥底では、ティオが抱いていたものと同じものが蠢いている。
「おぬし……」
「さーて、そろそろハジメ君帰ってくる頃かしらー!お昼の準備しなくっちゃ!」
ティオの問いには結局答えずに、はぐらかしてリンネはその場を離れる。
彼女の背中で揺れる青白い髪が左右に首を振って「答えるな」と言ってるようだ。
不意に窓の外で強い風が吹いて、窓辺に飾られていた花弁が散って空に消える。
散った花弁は
「……嫌な風が吹くのう……」
*
気の良い冒険者の男に頼まれて、浩介を助けたミッドガル。
地面に寝かせたままでは回復するものも回復しないと親切な彼は浩介を小脇に抱えて自身の寝泊まりしていた集会所二階のベッドに寝かせたのだ。
本来はハンター以外の利用不可なのだが、ミッドガルを前にした職員は無言で了承した。
規則すら無視出来る彼の発言力、ギルド内での地位はかなり高いのだとハジメは再認識する。
同時に頭の中では不安や心配が渦巻いて、彼は付き添いながら考え続けていた。
(何で遠藤がここに…?…いや、考えるまでもねえ、オルクス大迷宮攻略に来たんだ。…だとすれば他の連中もいる筈だが…あの冒険者の話じゃ遠藤は一人で大迷宮から出てきた…確かこいつのパーティーメンバーは永山、野村、辻、吉野だったか…クソっ、冗談じゃねえ!こんなところで見つかって面倒事なんざ死んでも御免だってのに―――)
「―――お前さん、コイツの知り合いかぁ?名前を呟いてたみてえだが」
「あ、いや…俺は………っ!?」
「………(ぎゅっ)」
突然、手を握られたハジメが顔を上げると、ルゥムがじっと彼を見守っていた。
無表情でも見つめる目の色で意味は分かる…「大丈夫?」と聞いているようだ。
ハジメはぎこちない笑みを浮かべて「大丈夫ですよ」と答える。
「…こんな時に何ですが、俺の名前は…南雲ハジメって言います」
「ほぉ~……ん??ハジメって確か…」
「サーが王都でお会いした少女の二人が探していたという少年ですね」
「ッ……その事は、俺も聞いてます……」
危うく怒りを露わにしそうだったハジメは奥歯を噛み締めて堪える。
ハジメの様子から訳ありと判断してミッドガルは看病ついでに聞こうとするが―――
「…その声…南雲…お前…っ!…なのか?」
「お?もう目が覚めやがった…タフだねえ」
「流石は神の使徒…といった所でしょうか」
「…そいつが神の使徒だって、よく分かりましたね」
うめき声を漏らして意識が戻った浩介の言葉を、ハジメは分かっていて無視した。
彼の問いかけにマリアンナはしれっと「前に見た時、全員の顔は覚えていたので」と答える。
ミッドガルは起きようとする彼の肩に手を当てて抑えながら言った。
「そのまま寝ておけ、薬が完全に回って完治するのは常人じゃ時間が掛かり過ぎる」
「…皆がっ…まだ、大迷宮に…!助けを呼びに…俺…はっ―――!」
途切れてはいるが、浩介の言葉からハジメはある程度の想像はついた。
恐らく大迷宮に挑み、モンスターに襲われて、助けを呼びに浩介だけ戻ってきた。
ミッドガルとマリアンナが浩介を落ち着かせている間、ハジメは俯いて考える。
(…この流れだと、助けにいかなきゃダメな奴だよな…)
ミッドガルとマリアンナの二人なら確実に助けられるだろうし、ルゥムでも問題ない。
しかし浩介に此処で存在を知られた以上、今後接触して来る可能性があった。
内心どす黒い感情を剥き出しにすれば助けたくなんてない。
いっそこのままモンスターに骨も残さず殺されてしまえばいいと思う
自分では手を下せない以上、モンスター頼みというのもなんとも情けない話だが…
(…園部は、泣くだろうな……最悪また抱え込んじまうし……)
黙っていても、何時か優花がクラスメイトに起きた悲劇を知る事になるだろう。
そうなった時、また彼女が変に責任を感じて心を病んでしまわないか心配だった。
ギリッと奥歯を噛む力が強くなり、握り締めた拳の内側が軋む。
「おい遠藤…黙って聞け…一度しか言わない…」
限りなく低いドスの利いた声でハジメはようやく重い口を開いた。
彼の尋常ならざる様子にミッドガルとマリアンナは何も言わずそれを聞き流す。
ルゥムは手を離して、今はジッとハジメの動きを見守っている。
(…クソったれが…もう二度と関わるつもりはねえと自分で言っておきながら)
今までクラスメイトに受けた仕打ちを忘れたわけじゃない。
偶々助けを求めた先にハジメがいて、先輩ハンター達が居たから彼はそれに頼るつもりだった。
私情を抜きにして、極めて個人的な緊急クエストであり、報酬は別途要求する。
「助けてやる。…だから二度と俺に、関わろうとするな…それだけだ」
「……っ……ぅ」
「返事はお前一人から聞いても意味がない。…他の連中にお前が頭下げろ」
傍から見れば重傷者に対して傲岸不遜な物言いをしているチンピラにしか見えない。
けれどもこの場に居る三人の先輩ハンター誰もが彼を責める様子はなかった。
一人は助けた張本人として、後輩の成長を楽しそうに見守っている。
一人は彼の名前と以前の出来事から推察して、ある程度の事情を知って黙っていた。
最後の一人…ルゥムだけは感情が読めない…無表情で突っ立っている。
「―――唐突に悪いんですがお三方―――」
「あー言うな後輩、皆まで言わずとも分かってる。オーケーだ、引き受けよう」
「私個人としても大迷宮はいずれ調べ尽くすつもりでしたので…今回はどの程度のものか確かめるついでに、王国側から情報を引き出す…良い交渉材料になるでしょうしね」
「………(こくっ)」
「―――ありがとう御座います」
幸い騒ぎを聞きつけたギルド職員が近くにいて助かった。
ハジメは事前に聞いていた宿屋と依頼主の名前を伝え、伝言を預ける。
「夜明けまでに俺が戻らなかったら、ノイント達をウルで預かって下さい」と…
一方的で無理な頼みである事は承知の上で、ハジメは職員にその言葉を託した。
サー・ミッドガルがクエストに参加しました。
マリアンナ・ベスタがクエストに参加しました。
ルゥムがクエストに参加しました。
HR21(ハジメ)HR999(ミッドガル)HR525(マリアンナ)HR999(ルゥム)
うーんこの初心者ハンターがキャリーされてる感…まぁ成長の糧にはなるし(震え声)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡