―――グルオオオオォォォォッ!!!
ベヒーモスの咆哮が第六十階層の全てを震わせる。
ハジメは耳を塞いで、奥歯を強く噛み締めて肌がヒリつくのを感じた。
同じような感覚にこれまで三度遭遇したことがある。
一度目はハルツィナ樹海で、魔人族が操るイャンガルルガと戦った時。
二度目はブルックの町で、興奮状態にあったティガレックスと戦った時。
三度目は商業都市フューレンで、闘技場に突っ込んできたバルファルクと戦った時。
(――――――こいつはヤバい……!)
そう思っていた矢先、ベヒーモスの咆哮に怯みながらも立ち向かう二頭のモンスター。
ギギネブラがその口を大きく開けて飛び掛かり、ネルスキュラが猛毒の鋏を突き出す。
―――グオオォォッ!
ベヒーモスが繰り出したのは前脚による軽いジャブのようなもの。
だがそれを食らったギギネブラは鋭い爪に容易く皮を引き裂かれて空中で血を噴き出した。
勢いを殺されて空中でバランスを失ったギギネブラが橋の上に倒れ込む。
地面から突っ込もうとしたネルスキュラが進路を塞がれて立ち止まる。
―――ギシャアァァァ!?
更にベヒーモスは頭部の巨大な角を橋へと突き刺して、そのまま地面を破砕しながら突き進む。
蛮顎竜のそれとは遥かに別格の地面を掘り返す重機のような一撃は二頭を巻き込んだ。
ベヒーモスが唸り声を上げて地面に刺した状態から突き上げを放つ。
「っ!?」
空中へと吹き飛ばされたギギネブラとネルスキュラの巨体がハジメ達のいる方へ向かっていた。
ルゥムは既に鬼哭斬破刀を抜刀したままベヒーモスに向かって駆け出し、被弾範囲から逃れている。
しかしハジメは老山龍砲を構えたのが仇になった。避けきれないと判断して足下に手を当てた。
「”錬成”ぇっ!!」
ハジメの眼前で地面が隆起して彼の体を守る岩の壁が展開される。
直後ギギネブラの翼が岩の壁を吹き飛ばすが、ハジメは伏せていたお陰で直撃を免れた。
ネルスキュラ、ギギネブラともに橋の上をバウンドして――――――
―――ヴルォォォ……
―――キシイィィィ……
どちらも受け身を取れずに橋の下、底の見えない暗闇へと落ちていった。
(吹っ飛ばされたら一巻の終わりか……!)
ハジメの背中を冷や汗が伝い、ブルリと肩を震わせながら冷静さを取り戻そうと息を吐く。
そうして彼が再び老山龍砲を構えて周囲の状況を探って脱出を考える。
空中には十体は飛び交う蛇竜ガブラス、戻りの道も数匹が行く手を阻むだろう。
眼前のベヒーモスが簡単に逃がしてくれる保証もない…そうなると最も最善の方法は…
(やるしかないか……!ここで!)
*
ルゥムは抜刀ダッシュから黄の練気を纏った横一線の斬撃をベヒーモスの前脚に食らわせる。
辛うじて表皮を裂いて刃が肉に届くまでの威力を食らわせることは出来たが、それでも浅かった。
ベヒーモスの前脚は爪の先から肩に至るまで肉の層が分厚く、太刀の刃では骨まで届かない。
一歩、二歩とバックステップで彼女はベヒーモスから距離を取る。
―――グルオオォォッ!!
ベヒーモスが吠えて、ルゥムは頭上から突然現れた高熱の塊に気づく。
見切り斬りで着弾と同時に爆発して火の粉をまき散らすそれはまるで――――――
(……
離れたところに居たハジメは、何もない空間から紅蓮の炎を纏う岩の塊が現れるのを見た。
古龍種が出鱈目な強さであることはある程度予想していたが、これは流石に予想外である。
不意にベヒーモスが唸り声をあげて頭部が青白く光り出した。
ルゥムの足下で不自然に風が渦巻き、徐々にその強さを増そうとしている。
「ルゥムさん――――――!」
「………!」
流石にこれを見切り斬りで躱すのは難しいと判断して、ルゥムはその場で納刀。
ベヒーモスが吠えて足下の風が竜巻に変わる直前でハジメのいる方へと飛び込んで回避した。
対象を掬い上げるように吹き飛ばす竜巻の魔法”ミールストーム”だ。
地面を転がりながら体勢を立て直すルゥムは無表情のままジッとベヒーモスを見据える。
彼女の中で先ほどの二種類の攻撃がどういう仕掛けなのか、まだ答えが出ていないのだろう。
横に並んで老山龍砲を構えながらハジメは気づいたことを伝える。
「さっきの攻撃は恐らく魔法です…吠えたり頭上が光った時が、その前兆かと」
「……(こくっ)」
「ルゥムさんの太刀で足や胴に攻撃があまり通らないなら、俺の武器でも刺さるか怪しい。……ので、俺はここから奴の頭部を狙っています!」
「……(こくっ)」
二度目の頷きと同時にルゥムは鬼哭斬破刀を抜いて走り出す。
切っ先で地面を擦り、チリチリと火花を散らしながら逆袈裟に切り上げる構えを取った。
ベヒーモスが再び唸り声からの天に向かって吠える…燃え盛るメテオが落ちてくる。
今度は走り続けているから躱すことも考えなくていい。
ルゥムの走り抜けた後、メテオは地面に触れた瞬間に爆発四散する。
「……!」
抜刀ダッシュからの逆袈裟斬り、狙ったのは先ほどと同じ前脚表面。
今度は更に刃が深くに食い込んで血が噴き出し、ベヒーモスが悲鳴を上げる。
足下の虫を追い払うかのようにもう片方の前脚で叩こうとするが―――
キィン!と見切り斬りで後退、からの練気全開による気刃大回転斬りで更に前脚を攻撃。
鬼哭斬破刀の刃が赤い気を纏い、ルゥムの防具はベヒーモスの血で赤く染まる。
―――グルオオォォォッ!!
怒りで吠えたベヒーモスは確実に攻撃を当てようと腰を低く落として重心を斜めに傾ける。
直後、風を切り裂くような尻尾のうねりと共に黒い巨体が橋の上で時計回りに一回転した。
周囲を飛んでいたガブラスが余波で吹き飛び、壁に叩きつけられて奈落へと落ちる。
ハジメはその間に徹甲榴弾Lv3を回転攻撃後の硬直のタイミングに合わせて撃った。
ドォン!と云う音と共に真っ直ぐ飛んでいった弾はベヒーモスの角に突き刺さる。
回転攻撃を刃で受け流して巨体の隙間を通り抜けたルゥムは無傷で出てきた。
更に受け流しからの練気解放状態による気刃斬りを連発、着実にベヒーモスを傷つけていく。
徹甲榴弾Lv3が爆発を起こし、ベヒーモスの角にほんの僅かだが罅が入る。
あと一撃か二撃を与えれば部位破壊になるだろうとハジメが思っていると――――――
―――グルオオォォォッ!!
(っ!?なんだ……ベヒーモスが、
牙を剥き出しにして鬼のような形相のベヒーモスから睨まれてハジメは怯む。
ルゥムはその間に前脚両方の爪を鬼哭斬破刀の気刃斬りで破壊に成功する。
突如、ハジメの足下で赤い光が点滅する。
メテオかと思い彼が頭上を見上げると、そこには炎を纏わない…ただの岩の塊。
メテオが爆発四散する炎を纏う隕石とするなら、こちらは物理的な岩の塊が落下してくるだけ…
名前をつけて分けるのなら”コメット”といったところだろうか…?
メテオよりも緩やかに落ちてくる岩の塊を、ハジメが後ろに転がって避けるのは容易だった。
――――――そう、ただコメットが落ちてきただけなら、まだ戦いは続いただろう。
―――グルルルッ……!
(……なんだ……ベヒーモスが……急に大人しく?立ち上がって―――)
突如ベヒーモスが後ろ脚だけで立ち上がり、辺りに妙な緊張感が漂い始めた。
ベヒーモスとハジメの間、橋の上にコメットが来た時のような赤い光が浮かび上がる。
ガブラス達が不安の声を上げて飛び回る中、ルゥムは何かに気づいて彼の方へ駆け出す。
ハジメは赤い光の上を見上げて――――――
「……………は?」
そこには、先ほどのメテオ、コメットとは比べ物にならない巨大な隕石。
見えない天井に赤い雲が渦巻き、その中から巨大な隕石が落ちてこようとしていた。
後にギルドが記録するベヒーモスの攻撃手段はどれも規格外とされているが、中でもこの攻撃は
メテオの上位互換にして、ベヒーモス最強の必殺技……それは――――――
「――――――ッ!!!」
ハジメはその時、何を叫んだのか自分でもよく覚えていなかった。
ただ、あれを食らうのはまずいと懸命に走ってくる彼女に手を伸ばして―――
ベヒーモスの咆哮と同時に、紅蓮の魔力を含む爆炎の奔流が六十階層を包み込んだ。
超駆け足であることに突っ込んではいけない(戒め)
ルゥムさんが毎分三桁~四桁のダメージを取ってくれたお陰で、早々にベヒーモスが例の確殺攻撃を出してきましたが、これにはちょびっと理由があったりします。
その話を書く年明けになるかもしれませんが、今は兎に角二人を奈落へボッシュート。
因みにギギネブラ君とネルスキュラ君は奈落から這い上がれるけど上がってきたら上がってきたでベヒーモスにブチ殺される未来しかありません。
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡