モンスターハンター・トータス   作:綴れば名無し

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第六十階層:森の精霊と呼ばれていたもの 後編

 

「――――――ハジメ、もう大丈夫」

 

 彼の腕に抱えられていたアレーティアはそう言ってスッと地面に降りる。

木の根で貫かれた胸の傷は塞がったけれど、それなりに出血をしたようだ。

彼女は眼前で次々の周りに黒い鳥を召喚するレーシェンを睨みつける。

 

「まだ私は、戦える」

 

「―――やるしかねえってか」

 

 老山龍砲の銃口を向けながら、ハジメはギッと奥歯を噛み締めて闘志を滾らせた。

レーシェンが片腕を斜めに上げたのを見て、直感で二人は左右に分かれて転がる。

 

―――ヴオォッ!

 

 鳴き声を発しながらレーシェンが振り下ろした手に合わせて黒い鳥は二人の方へ突っ込む。

辺りに木も岩もない平地で二人が黒い鳥の攻撃を避けるのは容易だった。

装填したのは火炎弾、選んだ理由は木で出来た体なら単純に考えて効くだろうと思ったからだ。

 

「食らえ!」

 

 ズドン!と一発、発射の反動を軸足で受け流しながらハジメは効果の程を確認する。

ところがレーシェンは火炎弾を胴体に撃ち込まれても当然だが血は出さないし、一瞬表面が焦げる程度ですぐに再生して呻き声の一つも上げなかった。

 

(クソ、効いてるのか判断がつかねえ…!)

 

 徹甲榴弾に切り替えて地道に体の木を破壊するという手も考えたが、火炎弾で掠り傷にもならなければ弾数の少ない徹甲榴弾の爆発威力に期待するだけ無駄だろう。

そもそも目の前の相手がそう易々と再装填の隙を与えてくれるようには見えない。

 

 反撃と言わんばかりにレーシェンは地面に手を着いて何かを発動させる。

ハジメは自分の足下で地面が一瞬光ったのに気づいて咄嗟に後ろへ転がった。

直後、地面を引き裂いて無数の木の根が彼の立っていた場所を突く。

 

 アレーティアも魔法を展開してレーシェンを攻撃しようと両手を前に構えるが黒い鳥に阻まれて上手く発動出来ずに左右へバックステップを踏んで回避を続けていた。

 

 再度ハジメが老山龍砲を構えると、レーシェンは黒い靄と一体化して姿を消した。

姿が見えなくなって彼は焦って、背後に瞬間移動したレーシェンに気づくのが遅れる。

レーシェンが両手を足下の地面へと刺して唸り声を上げた。

 

(これはッ…!)

 

 直感でレーシェンが何を仕掛けてくるのか分かったハジメは、レーシェンとの距離を取らなければと地面を蹴って前方面に転がった。

レーシェンの足元が光り、木の根がレーシェンの周りを守るように飛び出す。

奇しくもアレーティアの近くにハジメが転がってくる。

 

「ハジメ!」

 

「アイツ…遠距離の攻撃中心と思ってたんだが…どうやら違うみたいだな」

 

「…瞬間移動で距離を詰めて来ることもある…」

 

「おまけにこっちの攻撃が効いてるのか反応が分かり辛い。…ジリ貧だな」

 

 ゆっくりと地面に刺した手を引き抜いてレーシェンは二人を見つめる。

不気味な頭骨の奥で次はどんな手を使って攻撃しようかと考えているのだろう。

一方でハジメは状況分析をしながら、攻めに出るか守りに出るかを決めあぐねていた。

 

 反動の大きい老山龍砲では構えて狙いを定めるまでの間、レーシェンに攻撃されてしまう。

ハジメの防具では恐らく木の根の一突きですら致命傷になりかねない。

かといって守りに徹すればアレーティアに攻撃が集中する可能性も考えられた。

彼女の自動再生は魔力が尽きてしまえば発動が出来なくなってしまう。

魔法で攻撃しようにもその隙がなかった。

彼が必死に考えを巡らせていると、不意にアレーティアが口を開いた。

 

「……これなら、いけるかも」

 

「何か良い手があるのか?」

 

「…良いか悪いかで云ったら悪手かもしれない…でも絶対に攻撃は当てられる」

 

「構わない。言ってくれ」

 

「ん、それじゃあ――――――」

 

 再びレーシェンが黒い靄で姿を消した僅かな時間の間にアレーティアは作戦を説明する。

ハジメは彼女の口から出てきた言葉に少々ドン引きしながらもそれに同意した。

 

 レーシェンは木々の近くに数を増やした黒い鳥を伴って現れる。

ハジメは老山龍砲を背負い、スッと鼻で軽く息を吸ってから――――――

 

「オオラアァァァァァァ!」

 

 レーシェン目掛けて全力で走り出した。

当然、レーシェンの狙いは彼に定まり、横薙ぎに振るわれた腕の周りから黒い鳥が一斉に群れとなって彼に襲い掛かった。

肌を切り裂く爪や嘴の痛みに対し、彼は奥歯を食いしばって必死に耐えながら走る。

 

 レーシェンとの距離はもう殆どない、爪を振るえば当たる距離まで近づいていた。

その間にアレーティアは魔力操作で火属性の魔法を発動させる準備に入った。

狙いは勿論レーシェンだが、それを放てばハジメも無事では済まない。

だが先ほどの陽動も相まってレーシェンの注意がほんの僅かに彼女から彼に逸れる。

 

「――――――”蒼天”!」

 

 レーシェンの頭上から降り注ぐ青い炎の塊が一帯を焼き焦がす。

此処で初めてレーシェンが全身を燃やす炎に対し嫌がるような素振りを見せた。

襲ってくる時とは違う、明らかに苦しそうな呻き声を上げて暴れる。

レーシェンが炎の中から瞬間移動で脱出をしようと―――

 

「逃が、さねえぇぇっ!」

 

―――ッッッ!!?

 

 レーシェンの足を形成する樹木に鋭い痛みが走った。

ハジメが炎に身を焦がしながら、剥ぎ取りナイフをレーシェンの足に突き刺している。

そのまま両足とナイフを握ってない方の手も合わせてレーシェンの足にしがみ付く。

 

―――オォ、オオオオォォォォ!!

 

「ぐ、おおらぁぁ!!」

 

 ハジメを引き剥がそうとするレーシェンだが、彼も懸命に力を入れて対抗する。

その隙を見逃さず、魔力がやや尽き欠けていたアレーティアは最後の魔法を放った。

 

「”緋槍”!!」

 

 彼女の掌から放たれた炎の槍がレーシェンの角を破壊する。

炎の中から脱出できなかったレーシェンの体が徐々に端から焼け焦げていた。

対するハジメも全身に火属性やられを負って悶絶するほどの痛みを我慢している。

時間にして約一分、暴れる気力も出せなくなったレーシェンが膝をついて―――

 

「!!やった……」

 

「ッ……」

 

 体を形成する樹木が朽ちて人の形を保てなくなっていた。

掠れた声を上げる頭骨も急速に劣化し、やがて塵となって地面に飛散する。

最後に残ったのは大輪の花のように広がる樹木だった。

火が勢いを衰えていく中、煤だらけの体でハジメは生きていた。

 

「ッハジメ!!」

 

「…げほっ…なんとか、勝てたな…」

 

 しかし炎の中で酸素の供給が減っていたこともあり、ハジメはその場で倒れ込む。

アレーティアは涙目になって駆け寄り彼に謝ろうとしたが、彼は手でそれを制する。

 

「お前の作戦で勝てた。お前が謝る必要なんてどこにもないだろ?」

 

「…でも…」

 

「いーから気にすんな…つーか全身燃やされて腕を動かすのも辛い…アレーティア、疲れてるところ悪いんだが、俺のアイテムポーチから回復薬を取って貰えるか?」

 

「……ん」

 

 それから暫くして…

回復薬で傷を癒していたハジメと、それを手伝っていたアレーティアの下に教授達が合流する。

二人からある話を聞いて驚愕の事実が明らかになった。

 

「…それじゃあ、あいつは瀕死でお二人から逃げてたんですか…!?」

 

「ええ、深手を負わせるまではいきましたが、逃亡するアレを追いかける直前でジャグラスの群れに周囲を囲まれてしまいましてね、全滅させてからこっちへ向かったという訳ですよ」

 

「………(こくこく)」

 

「…あれで…瀕死…?」

 

(ガチでやってたら死んでたかもな…俺)

 

 こうして第六十階層の戦いは終わり、一行は剥ぎ取れるものを剥ぎ取って先へ進む。

体が木で出来たモンスターの剥ぎ取りというのも奇妙な体験だった。

此処で手に入れたものが、後に彼を助ける武器になる事を…まだ誰も知らない。

 

ハジメが獲得した素材一覧

・レーシェン討伐の証1個 ・レーシェンの木爪2個 ・レーシェンの呪角2個

・レーシェンの樹脂1個  ・怪物の呪骨4本 

 




 この1話を書く為だけにゲラルトさん縛りのレーシェンに挑んできました。
ぶっちゃけ本体との戦いはそこまで辛くありませんでした、鳥とジャグラスェ…

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。

初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)

  • 続編にして
  • このまま話数増やしてもいいんじゃね?
  • 打ち切りはヤメロォ!
  • もっと周りの話補完して♡
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