開かれた扉の先から放たれる光に四人の目が慣れ始める。
そこに広がる光景は、この世のものとは思えない妖しさが漂っていた。
「これは―――」
「…綺麗」
「………(こくっ)」
ハジメとアレーティアが感嘆の吐息を漏らし、ルゥムも頷いて百階層を見渡す。
天井、壁、明らかに人工的な形で拡張された空間を支える頑丈な柱だったもの。
それら全てに青白い結晶が生えて、神秘的な光を放っている。
四人の中で先頭に立っていた教授が数歩進んで足元の結晶を手に取って口を開く。
「…周囲に見えるこの結晶は全て”龍脈の結晶”のようですね」
「これ全部ですか!?すげぇ…」
「大迷宮を調査していて私は常々疑問に思っていたのです。この大迷宮は
そこまで言って教授は掌に収まるサイズの結晶体を掴んでじっと見つめる。
後ろで扉がゆっくりと閉まっていくのを見て、僅かにアレーティアが狼狽えた。
ハジメは既にその可能性を想定していた為、態度や行動にそれが現れなかったが…
(後ろに退くことは許さない…てことか)
扉が閉まる音を待って、教授は一番光が強い方へ手に取った結晶体を掲げながら話を続ける。
「凡そ数百年は在り方を変えなかった大迷宮、そこに集められたモンスター達の生体エネルギーや常に無人で発動し続ける特殊な魔法を発動した後の残滓は一体どこに消えているのか?」
生き物や大地に流れる魔力とは別の目に見えない特殊な力。
仮にこれを生体エネルギーと名付け、それの流れを地脈と呼ぼう。
帝国のある学者は古龍などの環境を変化させるほどのモンスターがこの生体エネルギーを豊富に蓄えているという仮説を立てたことがある。
古龍が現れる度、天変地異が起こるのはこの生体エネルギーが関係しているかもしれない。
提唱された当時は根拠とする実例も少なく、この話はあまり多くの者に知られていなかった。
教授は編纂者としてこの話を頭の片隅に置いていた。
結果、
「どこにって…それは―――」
ハジメが答えに詰まっていると、教授は振り返ってアレーティアに聞いた。
「…アレーティア。魔力を感じますか?」
「…ん、凄い魔力の塊…この先、一点に集中してる」
魔力操作を有するアレーティアだけが感じる百階層内の圧迫感。
それは膨大な魔力の総量であり、もし彼女やハンターの三人の誰かが”魔力感知”の技能を有していれば強大過ぎる魔力量によって心身に異常をきたしていてもおかしくない。
現に魔力とは無縁である筈の三人ですら妙な威圧感を覚えているのだから。
「一点とはどの辺りですか?」
「……あれ」
片膝を着いてアレーティアに目線の位置を合わせた教授が周りを見る。
彼女は右手の人差し指で、先ほど教授が結晶体を掲げた方…光の強い方を指す。
四人は周囲を警戒しながら、アレーティアが指さした方へと歩みを進めた。
ハジメは片方の手を額の前で翳して斜め前から降り注ぐ青白い光を遮っている。
太陽のように眩しく、久しく触れていない蛍光灯のような色の光は不気味だった。
光を浴びても温かいとは感じないのに、身体に妙な躍動感が時折迸る。
不快ではなく、かといって良い気分になれるかと問われればそうではない。
彼の人生で今まで一度も立ち会ったことのない何かに直面しているような…
「―――これは」
教授の言葉に三人は顔を上げ、部屋に入った時と同じように言葉を失う。
強い光の中に在ったのは龍脈の結晶が蜘蛛の巣のように絡み合い生み出した球体。
それは恰も虫の幼体が成体へと生まれ変わる時に作る繭のようだった。
「……少々、不味いことになりましたね……」
何かに気づいた教授が周囲の龍脈の結晶の塊を見渡す。
徐々にそれらが光を失い、繭の中で何かが動き出そうとしている。
ルゥムも直感でその何かに気づいたのか、素早く動いた。
「………ッ!」
「えっ!ちょ、ルゥムさん!?何を―――」
ハジメとアレーティアの手を掴んで来た道をルゥムは戻ろうとした次の瞬間―――
百階層内全てを震わせるような命の鼓動。
人よりも遥かに大きい、恐ろしく強大な生命の覚醒。
ルゥムに引っ張られながらハジメが後ろを振り向いて音の発生源を確認する。
その鼓動は確かに青白い光を放つ繭の中から聞こえていた。
直後、地面が小刻みに揺れる。
人が立っていられない程の強さはないが、不安を感じずにはいられない。
繭が一段と強い光を放ち、中から幾つもの光線が放たれた。
「なっ――――――!」
「ッ!?」
あの光る巨大な繭を目にした時点で、それがモンスターである可能性は考えていた。
しかしハジメが今まで見てきたモンスターの攻撃とは明らかに格が違う光線。
それらは硬い龍脈の結晶を軽く触れただけで粉砕しながら多方向に伸びていく。
このままでは自分達に直撃するのも時間の問題だろう。
振り返らずに背後の攻撃を察知したルゥムは二人の体ごと近くの結晶体の裏に飛び込んだ。
ハジメは着地の瞬間に片膝を着いて事無きを得たが、アレーティアは顔から地面に激突する。
自動再生のお陰で傷にもならないが、流石に痛かった。
安心したのも束の間、近くに教授の姿がない事に気が付いてハジメは叫ぶ。
「教授ッ―――!」
教授は光線を放って周囲を攻撃し続ける繭を見上げたまま、その場に立ち尽くしていた。
恐怖で動けないという風には見えず、驚くべき事に彼は
「……嗚呼、なんと……なんと美しい」
「教授ッ!!早くッ、近くの物陰に――――――!」
ハジメの声は彼の耳に届いていない。
アーティア頭装備で隠された表情は誰にも見えないが、喜びを表現するように大きく広げた両手が彼の内から溢れ出る感情を物語っていた。
「命の誕生に祝福を…。これが……あなたの言っていた
繭の一部が裂けて新たな光線が教授に向かっていく。
ハジメは助けようと動きたいが、ルゥムは頑なに彼の手を掴んで離さない。
アレーティアも必死にその場で縮こまって光線が当たらないことを祈る。
「――――――素晴らしい」
「ッ教授―――!!!」
ハジメの叫びと同時に光線が教授を包み込む。
…しかしその光線が最後だったらしく、揺れと無数の光線による攻撃は止んだ。
恐る恐るハジメが壊れかけの残骸から顔を覗かせると…
「…教授…!」
「ご安心を。この程度で倒れるほど私は弱くはありませんよ」
先ほどの立っていた場所から僅かに下がってはいるものの、教授は五体満足に立っている。
その両手には直前で構えられた片手剣の神封龍剣【絶一門】と盾が握られていた。
スキル”
余波で僅かに体力を減らされはしたが、彼ほどのハンターであれば掠り傷以下である。
「それよりも…此処からが本番ですよ。皆さん、戦闘準備を」
「ッ……やっぱり、あの繭は……!」
「………(こくっ)」
「そんな気は…してたッ!」
教授の言葉に三人が再び繭を見上げると、中にいた奴がズルリと零れ落ちた。
先ほどの光線が結晶体を幾つも破壊したお陰でその巨体は広々とした空間に体を広げられる。
繭の中で数百年に及ぶ生体エネルギーの収束を経て羽化を遂げたそれは、巨大な四肢を地面に着いて、まだ上手く扱えない翼と尻尾を揺らめかせている。
半透明の体は大地に降り立つ生き物としては妖艶であり、さながら海月のようだった。
頭部の骨格は竜種のそれだが、複数ある橙色の目のようなものは虫の複眼を思わせる。
―――グルオオオオオォォォォォン!!!
それが吠える様は立派な竜の姿だが、声は狼の遠吠えのようにも聞き取れた。
各々が武器を構え、アレーティアも魔法を何時でも発動できるように体内の魔力を回す。
古龍の王たらんとするものは数百年の幼年期を終え、冥き奈落の底にて目覚めた。
全てを越えた先で一乙おじさんも盾持ちの武器だったら防げた可能性が…?
余談ですが魔力の圧云々は書いている内に思いついた独自解釈なので原作にそういった描写はなかったかもという事を此処でお伝えしておきます。
遅まきながら投稿遅れた言い訳ですがずっとAPEXやってました()
エルデンリングを買ったら多分、半年は失踪しかねないので買ってません。
(とか言いつつ、夏にモンハンライズ拡張があることから目を逸らし)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡