百階層の番人の名前が今回の話で出てきます(名前の由来は原作だと英単語のXeno「異質な」「未知の」とジャイナ宇宙論における魂、生きている実体「ジーヴァ」から来ているそうです)
ジャイナ宇宙論及びジャイナ教について少しWiki齧りましたが、かなり難しい内容でした…
宇宙論の方に関してはちょっと興味が沸いたのは此処だけの話。
書斎にあった書物の写しを八割終わらせた教授と三人は合流した。
膨大というほどでもないが、コンビニエンスストアの棚に陳列されているくらいの量はあったそれをあの短時間で簡潔に纏めた教授の手腕にハジメは絶句する。
「一体どんな
「地道な努力の積み重ねは、稀に奇跡を呼ぶことだってあるんですよ」
「…なる、ほど…?」
「ハジメ、深く考えても多分一生理解出来ない。教授が異常なだけ」
「………(こくこく)」
そんな話をしている間にすっかり外は暗くなって、天井から降り注ぐ白い光が弱くなると、今度は赤や青、黄色といった様々な色に輝いて星明りのように明滅を繰り返す。
食料などが積んである荷車を百階層の入り口から持って来ることになってハジメが一言。
「…折角ですし、例の宝物庫を試しで使ってみませんか?」
「む、それは名案ですね。使い心地を確かめておきましょう」
「………(こくこく)」
「賛成。あの荷車を百階層通って此処まで運ぶのは骨が折れる」
言い出しっぺであり、アイテムボックスを使い慣れているハジメが宝物庫を指に嵌める。
龍脈の結晶とあの青白い竜の死骸を横切る際、ハジメはあることを教授に尋ねた。
「……結局、こいつは何て名前のモンスターだったんでしょうか……」
千年以上の時を経て、蓄積した龍脈の力を糧に生まれ落ちた古龍級のモンスター。
だがオスカー・オルクスの屋敷にあった書物にも、その名前は記されていなかったという。
アーティア頭防具越しの顎に手を当てて彼は僅かな思案の後――――――
「ギルド発足当時は名付けの基本として、過去の文献から祖先であるモンスターの生態や特徴を基に名前をつけ、後の世にそれが定着していったと言われています。このモンスターが他の場所にも棲息している可能性を考えるなら、今この場で名をつけるべきでしょう。―――よろしければ、私から一つ名前の提案があるのですが…聞いて頂けますか?」
三人は少し顔を見合わせてからコクリと頷いて、教授は竜の死骸を見つめてその名を呼んだ。
「”ゼノ・ジーヴァ”……ゼノとは古い言葉で異質なものを指し、ジーヴァは古代の占星術における霊魂、魂を指す言葉です。この竜に、相応しい名前かと……」
「…ゼノ・ジーヴァ…良い響きですね。俺はいいと思います」
「ん、ハジメと同意見」
「………(こくこくこく)」
そんなこんなで四人はゼノ・ジーヴァの死体を横切り荷車の元まで辿り着いた。
ハジメは手を前に翳して、宝物庫を通じて普段の自分が漁るアイテムボックスへアイテムを収納する姿を思い描いた。すると――――――
「ッ――――――よし、手応えあり!」
指輪が光り輝き、それにコンマ数秒遅れて荷物が光の中へと吸い込まれる。
空間を捻じ曲げて一点に収束するような不気味な光景だったが、ハンター達三人にとっては普段のアイテムボックスにモンスターの鱗やら爪やら入れているのと変わりない光景だった。
荷車の上で山積みになっていた素材は一つ残らず宝物庫の中へと消えていく。
フゥと一息ついてからハジメは逆に取り出すことも出来るかを確認する。
適当に思い描いたのは鉄鉱石。今度は掌を上にして念じると、何もない空間から鉄の塊が光の収縮と共に現れ、落下してハジメの掌に収まる。
「上手くいったみたいですね」
「…宝物庫の中、まだ余力がありそう?」
「ん、あぁ……さっきの量を放り込んでも圧迫された感覚はまるでなかった」
「…なら、アレ…ある程度は持ち帰れそう?」
そう言ってアレーティアが指さしたのはゼノ・ジーヴァの死体。
本来であればギルドの定めた規定量のみを剥ぎ取り、素材の一部を提供する。
しかし百階層には死体を処理するスカベンジャーが一匹も存在しない。このまま放置すれば死体の腐敗が進み、百階層の空気が瘴気に汚染されてしまう可能性があった。
「ギルドと帝国の研究機関が未確認の個体として、多くのサンプルを欲しがるでしょうね。ここは一つ、アレごと収納出来るか試してみてはどうでしょう?」
「そうですね。その前に俺も、あいつの剥ぎ取りをしておきたいですし」
命尽きる瞬間には立ち会えなかったが、ゼノ・ジーヴァとの死闘は良い経験になった。
ゼノ・ジーヴァだけではない。このオルクス大迷宮の表から百階層の屋敷に至るまで。
ハジメは獲物となったもの全てに感謝して、ゆっくりと最後の剥ぎ取りに移った。
百階層でハジメの獲得した素材一覧
・???の幽鱗9枚 ・???の白殻8個 ・???の幽角2本
・???の幽爪4個 ・???の幽翼3個 ・???の幽膜4枚
・???の尻尾4個 ・???の幽玉1個
・古龍の血10個 ・古龍骨17本
*
ゼノ・ジーヴァの死体回収も滞りなく完了して、一行は屋敷に戻って食事に入る。
アレーティアが屋敷の厨房を見て、まだ使える調理器具などから本格的とまではいかないが、野営中の食事よりはマシなものが作れるということで三人は彼女に調理を任せた。
余談だが彼女の料理が出来上がるまで、ハジメは軽く屋敷の周りを散策した。
その途中で石造りの窪んだ場所が彼の目に留まる。
窪みの端っこに鎮座している石の彫刻、見覚えのある顔にハジメは声を上げた。
「……どう見てもこれリオレウスだよな……」
ゲブルト村で初めて出会い、少し前の九十九階層で戦った火竜の顔を模った彫刻。
彫刻の脇に小さく文字が刻まれており、リオレウスの彫刻に触れると魔力を吸い取られる代わりに彫刻の口からお湯を出す仕組みになっているようだ。
「つまりは風呂か」
一人そう呟いてハジメは食後にゆっくり入ろうかなぁとぼんやり考える。
教授の予想で、屋敷の空間が暗くなったのは外と連動している可能性があるらしい。
今外に出てもどこに繋がっているか確証がない上に、夜行性で狂暴化したモンスターに襲われた時のリスクを踏まえ、出発は明朝にするべきとの結論に至った。
お湯に浸かるということ自体がこの世界に来て久しぶりの行為。
今夜くらいは羽目を外してもいいだろうと思ったハジメだが――――――
(……先にルゥムさんと、アレーティアに入って貰うか……)
共にオルクス大迷宮の死線を潜り抜けた(アレーティアにとってはそうかもしれないが、ルゥムにとって大迷宮のモンスターくらい余裕なのはここだけの話)仲間を労おうと思った。
…決して見目麗しい女性が入った後のお湯がなんか良い匂いがして柔らかくなるとか、スケベ親父みたいなことを考えたわけではない。
思春期特有の童貞ムーブ全開な彼に、混浴なんて考えは浮かびもしなかったのである。
「ハジメ君、此処にいましたか。食事の準備が出来たようですよ」
「教授。…分かりました、すぐに行きます」
屋敷で三人に振る舞われた料理は、大迷宮中の食事で一番の御馳走。
保管していたアプトノスの肉で一番高級な部位、サーロインを使っている。
調理場を漁ったところ、腐っていない調味料の内、岩塩を見つけることが出来た。
彼女はシンプルに厚いサーロインをレアで仕上げて、塩をまぶす。
付け合わせにアオキノコを灰汁と臭みが取れるまでじっくり煮込んで、塩の他に香辛料になりそうなものを刻んで体の温まるスープを作った。
デザートにガララアジャラの棲息していた階層で拾った紅い果実を、塩水で揉んでから軽く凍らせてシャーベット状にしたものを出して完成。
味わい深い三種の料理にハジメは感嘆の息を零し、教授も改めてアレーティアの料理の腕前を賞賛し、ルゥムは無言だがいつもより早いペースで食事を取った。
「―――さて、明日はいよいよこの大迷宮ともお別れになります」
食事を終えて、食後の白湯を啜っていた教授が一息ついてそう告げた。
アレーティアにとっては三百年ぶりの地上であり、思う所は色々あるものの、四人の中では一番それを心待ちにしている。
ハジメは戻ってからすぐにウルへ向かおうと考えていたが、何処に出るか分からない以上は近くの町でギルドの伝書鳥を使い、ウルで待つリンネ達と連絡を取るのが良いと考えていた。
教授は帝都に向かい、大迷宮で知ったことを全てギルドに報告するつもりだ。
ルゥムが同行は必要かと目線で尋ねたが、彼は首を横に振って「貴女は貴女の望む方へ向かって下さい」と言い、彼女はこくんと頷く。
そこでハジメはふとアレーティアが此方をじっと見つめているのに気が付いた。
「…アレーティア、どうした?」
「…ハジメ。私…此処を出ても、教授にはついていかない」
「えっ!?そりゃまたどういう理由で…」
彼女はトータスでただ一人の吸血鬼、失われた数百年前の歴史を知る生きた証人だ。
帝国だけに限らず、世界中の歴史家が彼女の持つ知識や当時の様子を知りたがるだろう。
てっきり教授についていくものと思っていたハジメの問いかけに、彼女はゆっくりと答える。
「私に帰る故郷はない。吸血鬼は私一人だけ。…何処にも居場所がない…。だから、ここでハジメと出会ったのは運命…何かの縁だと私は思いたい…」
「そ、それはまぁ…偶然の一言で片付けるのは残酷だし…縁は大事にするもんだが…」
「…拒んでもいい。そしたら私は教授の所へ行く。…でも、もし…ハジメが、一緒に居ていいって言ってくれたら…私…ハジメについていきたい」
(―――やっべえ圧倒的
遠く離れたウルの大地で、真・神の使徒だったノイントが「クチュン!」と小さなくしゃみをする。
その横でティオが彼女に釣られて「ぶえっくしょい!」と大きなくしゃみをした。
余談だが弾みでフードが取れて危うく竜人であることがバレそうになったとか…
若干涙目で上目遣いに見て来るアレーティアに対し、ハジメは思わず胸がドキッとした。
(ちょっとズルくね!?その位置からの表情と台詞で言われたらノーって普通言えないだろ!――――――ええい落ち着け俺、とにかくここは冷静に、先のことを考えてだな――――――)
「俺についてくるのは構わないが……具体的にはどこまで?」
「…どこまで?」
「初めて会った時、第一階層で話したよな…俺は元は神の使徒、異世界から来たんだって。だから最終的に俺は故郷へ帰ることになる。そうなったら――――――」
またアレーティアは孤独になるかもしれない。そう言いかけてハジメは口を閉ざす。
安易に故郷へ招くなんてことは言えない。河原で捨てられた犬猫を拾ってくるのとは訳が違う。
国籍やら身分やらの証明、最終的には衣食住の保障をしなければならなかった。
ただの未成年、現状は行方不明扱いの高校生でしかないハジメにそこまでの責任は負えない。
「…ハジメが故郷に帰るまで。自分でちゃんと答えを出す。それじゃあ…ダメ?」
(ん゛っ゛!!その返事だともう結論は決まってるじゃないかぁっ…!)
美少女の上目遣いほど童貞を勘違いさせて容易に言い包められる技はない。
ハジメは少し考えるフリをして内心の荒ぶる欲望を鎮めつつ、肩越しに振り返って答える。
「…それなら…まぁ、構わない…ぞ」
「…ありがとう。ハジメ…好き」
「なっ――――――!?」
「―――
(こ、こいつ…!!俺が女耐性低いと分かってて、おちょくってやがるっっっ!?)
小悪魔のような笑みで舌の先をペロっと出したアレーティアの笑みに対し、ハジメはやっぱりノーって答えようかなと内心思ったが、自分の発言には責任を持たねばならないと思い留まった。
こうして各々が大迷宮を脱出した後の流れを話し合い、屋敷のベッドで眠りにつく。
地上の月明りには劣るかもしれないが、天井から降り注ぐ淡い鉱石の光も悪くなかった。
微睡む意識の中でハジメはそう思いながら目を閉じるのだった。
混浴シーンがあると思った読者の方、申し訳ないです…
こっちのアレーティア(ユエ)がハジメへの好感度が爆上がりしてないのとハジメ君が年相応に恥じらいを持っているので今は無理です。
ルゥムとアレーティアはお互いの性格上、無言の入浴になってしまいますし、ハジメと教授の場合は風呂場でも教授がアーティア頭装備外さずに入る以外見せるところがないという…
ちょっとした告知ですが今後の展開についてアンケートを締め切りました。
結果として「ハジメを中心としたハンターライフ」の続編と「続編の外典」の二作品に分けて書くことにします。(ペースはいつも通り、遅くても週1話~気分次第で連投を維持の方針で)
本作は本編がラスト1話、幕間はあと5~6話で終わりを想定してます。
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡