モンスターハンター・トータス   作:綴れば名無し

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 モンスターハンター・トータスの最終話です。


狩人達の夜明け

 

 屋敷の外が夜明けの色に変わる頃。

ハジメは一人目を覚まして、出発の前に屋敷の外を散歩している。

ふと彼の視線は屋敷の向かい側にある百階層の扉で止まった。

 

(…本来ならあの時、俺は死んでる筈だった…)

 

 彼が心で呟くあの時とは、ゼノ・ジーヴァとの戦いよりも遥かに前の事。

ハイリヒ王国を出て、ライセンの荒野でランポスの群れに襲われた時だ。

鳥竜の鋭い牙で腹を引き裂かれ、臓物が引き摺り出される痛みを身体は覚えていた。

グッと両手に力が入り、彼の記憶は更にそれからのことを思い出す。

 

(…ゲブルト村で火竜の攻撃を食らった時も、ハルツィナ樹海で黒狼鳥と戦った時も、ブルックの町で轟竜と戦った時も、ライセン大峡谷で老山龍と戦った時も、商業都市フューレンで天彗龍と戦った時も、このオルクス大迷宮でのこれまでの戦いだってそうだ…)

 

 全て思い出す度に、癒えて傷跡も残らなかった体が小刻みに震えている。

死ぬような目に遭う度、恐怖で何度心を折りそうになったか分からない。

 

 心を腐らせたのはトータスに来てから、色々な事があったから。

誰かが言った。お前(ハジメ)には戦う事なんて無理だと…

誰かが言った。貴方(ハジメ)は守られる側なのだと…

誰かが言った。貴様(ハジメ)も単なる遊びの駒に過ぎないと…

 

――――――それが、どうした?

戦いに不向きだと、無理は百も承知だ。

守られる側だと決めつけるな、守る側になる時だってある。

その単なる遊びの駒の動きが、決定的な何かを変えた。

 

(…これから先、もっと厳しい戦いを強いられるかもしれない…)

 

 オルクス大迷宮が例外級のハンターでなければ踏破出来ない難易度だった。

他の大迷宮がそれを更に上回る強敵揃いだったら?また誰かに助けて貰いながら、ハジメはおんぶにだっこで故郷へ帰る道を見つけるのか?それが自分の選んだ道の果てか?

 

(――――――違う!!俺は―――)

 

 確かにまだ弱いかもしれない、誰かに助けて貰うこともあるかもしれない。

けれど只のお荷物になるのは死んでも御免だ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……もっと…強くなりてぇ…っ!)

 

「――――――っ!?やべっ」

 

 掌にぬるりとした感触がして、ハジメは手を強く握り過ぎて血が滲んでいることに気づく。

ハンターにとって唾つけときゃ五分と経たずに完治する傷だが、もしこの瞬間にモンスターが襲ってきたらハジメは手を負傷した不利な状態で戦う事になるだろう。

常に警戒してアンテナ張っていろとは言わないが、戦える状態ではいられるように。

それがオルクス大迷宮でハジメの得た経験の一つである。

 

 幸い屋敷の周りには薬草くらいは自生している。

三人に心配をかけないようにと、ハジメは近くの茂みで薬草を探す。

大した移動もせず目的の薬草は見つかり、彼は摘み取ったそれを口に含んで飲み込む。

とっくに血は止まっていたが、異常な速さで瘡蓋が出来、皮膚が元に戻っていく。

 

(…ずっと気になってたが…俺の体は、一体いつからこうなったんだ…?)

 

 ハンターになる前はこんな風にならなかっただろう。

あの村で目を覚ました辺りから、重傷だったハジメの回復速度は異様に早かった。

それ考え始めた時、ハジメの耳は不意に誰かの声を拾う。

 

「――――――ajasta,Reunalla(時 の 縁 に)―――Liekki,syttyy(炎 は 灯 る)―――♪」

 

(アレーティア?…じゃないな。…この声は、まさか…?)

 

 声のする方へゆっくり歩いて行くと、声の主が誰かはすぐに分かった。

誰かが分かると同時に意外な人物だった。

屋敷の傍、露天風呂に水を張る為の湖の畔にルゥムが居た。

 

 聞こえたのは言語理解を以てしても聞き取れない言葉だが、何をしているのかは分かる。

彼女は湖の向こう側、ハジメに背中を向ける形で静かに唄っている。

 

Veden Pinnalla(水 面 に)―――Ravista,Muiston Katkelma(揺 蕩 う 記 憶 の 欠 片)―――」

 

 何を意味する唄なのかハジメには分からないが、感情はなんとなく歌い方で伝わってくる。

何かに対する愛しさ、切なさが止まず…ずっと求め続けているような焦がれる想い。

 

 人なのか、場所なのか…何を求めているかは定かではないが、今のハジメには染みる唄だった。

故郷と、故郷で待っている家族の事を思えば、自然と彼の目から涙が滲む。

涙が頬を伝って地面へぽつりと落ちる微かな音に、ルゥムは唄を止めて勢いよく振り返る。

 

「………!!」

 

「あ、ルゥムさん!?すいません、盗み聞きするつもりじゃ―――」

 

 ハジメは咄嗟に頭を下げて、心配されないよう手の甲で涙を拭ってから顔を上げた。

振り返った時は目を見開いて驚いた様子のルゥムだが、彼が顔を上げた時にはいつもの無表情に戻っており、ハジメをじっと見つめている。

 

「―――その、本当にすいませんでした」

 

「………(ふるふるふる)」

 

 ばつの悪そうな顔で目を伏せるハジメに対し、彼女は首を横に振った。

これまでずっと、ルゥムが一言もしゃべらない事にハジメは疑問を抱いていたが、人に言えないような事情があるかもしれないと察して触れずにいた。

それをこんな形で聞いてしまうとは…彼は自身の至らなさに少し腹を立てる。

 

「………?」

 

 しかし、そんなハジメを見たルゥムはゆっくりと彼の方まで歩み寄っていき…

怒られるんじゃないかと硬直した彼の口元に、ちょんとルゥムの人差し指が触れる。

 

「………」

 

「………ええと……今見聞きしたことは、誰にも言うな……ですか?」

 

「………(こくっ)」

 

「…分かりました!誰にも言いません!!」

 

「………(こくこく)」

 

 ハジメの返事に二度頷いてから、ルゥムは手を引っ込めて屋敷の方へ去っていく。

許されたと思って彼はホッと一息つくが、不意に先ほどまで考えたことを思い出す。

 

(――――――そういえば、俺を助けてくれたのはルゥムさんだったな)

 

 あの時、死にかけのハジメを救ったルゥムが彼に何をしたのか詳細は聞いていない。

その場にはいなかったアゥータは「回復薬でもぶっかけてくれたんじゃないか?」と暢気に笑っていたが、回復薬程度の効果で死にかけの傷があんなに早く治るだろうか?

彼女の去っていった方を見ながら、ハジメは思った。

 

(いつか、落ち着いた時にでも聞いてみるか…)

 

 望んだ答えが得られるかは分からないが、きっと彼女は答えてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 天井の光が太陽のような明るさを放つ頃、ハジメも散歩を終えて屋敷に戻った。

既に起きて朝食の支度をしているアレーティアを手伝い、ルゥムと教授を呼んでから4人は調理場に直結している食堂で食事を済ませてから、オスカー・オルクスの遺骨があった部屋に集まる。

 

「皆さん、転移でどこに飛ばされるかは分かりません…警戒を」

 

「了解です」

 

「ん」

 

「………(こくっ)」

 

 荷物は宝物庫の中に収まって、転移の指輪と一緒に今はアレーティアの指に嵌められている。

教授の言葉通り、オスカー・オルクスは明確な転移先をどこにも記していなかった。

どこに転移するのか分からない以上、警戒するに越したことはない。

 

 アレーティアが静かに両目を閉ざし、身体を通して転移の指輪から魔法陣へと魔力を回す。

4人の体を光が包み、五感と意識が違う場所へ飛ばされていくのが分かる。

肉体の完全な消失をもって、四人はオスカー・オルクスの屋敷から転移した。

 

 やがて弱まる光に目が慣れてきたハジメは周囲の景色が変わっている事に気づく。

あの魔法陣があった部屋とは違う、凸凹の岩肌が視界の大半を埋めている。

振り返って3人が居る事を確認してから、ハジメは微かに香る土の臭いで悟った。

 

「……この先、外に通じてるみたいです」

 

「そのようですね。…どうですか、数百年ぶりの地上の匂いは?」

 

「ん……命の、生きてる匂いがする……嫌いじゃない」

 

「………(こくっ)」

 

 転移した先が何処かの洞穴だったらしく、教授が先頭に立ってハジメが殿を務め、風の流れと微かな臭いの違いから外への道を探り当てた。

済んだ空気…と思ったが、どうやら外に何かいるらしい。

 

―――ォォォォ!!!

―――ォォォォ!!!

 

「この鳴き声……どうやら外で何か暴れているようですね」

 

「…無粋な奴ら。久しぶりの地上なのに…」

 

「…何処いってもあいつ等との戦いは付き物って事か」

 

「………(こくっ)」

 

 教授の言葉を皮切りに、4人は目線で合図を送ると同時に走り出す。

洞窟の出口、外の光は中から見れば点のように小さいが、走ればすぐに辿り着く。

モンスター達の鳴き声の他に、人の声らしきものが混じっている。

悲鳴ではないことから、恐らく外にいるのは同業者(ハンター)だろう。

好戦的な笑みを浮かべたハジメが老山龍砲に手を掛けて吠える。

 

「――――――やってやらぁぁぁっ!!!」

 

 これは、世界を救う勇者の物語ではない。

これは、世界を変える魔王の物語ではない。

これは、世界に生き様を刻んだ英雄達の物語ではない。

 

 これから始まる物語は、ハンターの物語。

南雲ハジメという錬成師の青年がハンターになって、モンスターと戦う物語だ。

 

 




 此処まで読んで頂いた方に、先ずはお礼申し上げます。
勢い任せで書き始めた作品ですが、思いの外好評だったのであれやこれやと考えながら話を書いていく内に初期のプロットから別の展開になってしまいました。

 余談ですが初期の流れでは太刀使い(ルゥム)とハジメの二人主人公みたいな流れで、スリンガーをハジメが錬成で開発したり、百階層ではタイトルモンスの大連続狩猟クエストをやる予定になってました(どうしてこうなったかは作者も覚えていない)

 続編の方はちゃんとあらすじとかプロットを固めてから書こうと思ってましたが、変に間を空けるとモチベーションが下がりそうなので、また見切り発車で今日明日中に仕上げるつもりです。(外伝含め)

 それとすっかり忘れていたんですが、時折挿む予定だったBADENDシリーズも書きかけのが見つかったので余裕があったら幕間の最後に挿入しようと思います。
BADに関してはとことんの胸糞で構成されるのでご注意を。

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
次作「モンスターハンター・トータス2」をお楽しみに!

初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)

  • 続編にして
  • このまま話数増やしてもいいんじゃね?
  • 打ち切りはヤメロォ!
  • もっと周りの話補完して♡
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