モンスターハンター・トータス   作:綴れば名無し

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 今回は二話連続で投稿するのであまり話す事がありません。
強いて言えば、この選択が作者にとって最善だったとしか……



幕間の物語 ありふれたハジメのいない話・後編(トゥルー)

「万翔羽ばたき、天へと至れ―――”天翔閃”!」

 

 光輝の詠唱と共に、眩い光が彼の握る剣から放たれる。

オルクス大迷宮攻略が始まって半日ほど経過したメルド率いる神の使徒一行。

今は最後の攻略階層「二十層」で、小さなモンスターを相手にしていた。

 

 それは人の赤ん坊ほどの大きさを持つ深緑色の胴体に、大型犬の手足ほどの長さはある焦げ茶色の六本の節足を持った甲虫種のモンスター「カンタロス」

光輝たちは道を塞ぐようにして現れたカンタロスの群れを相手にしていた。

 

 いきなり現れたグロテスクな外見の虫に「ひぃっ!?」と悲鳴をあげる女性陣。

流石に他の男子たちも狼狽えはしたが、光輝は「女の子たちを怖がらせた悪い魔物」に怒りを感じて剣で斬りかかった。

 

 しかし振り下ろされた光輝の剣は、カンタロスの甲殻に当たったものの、あっけなく弾かれる。

これにはメルド以外の誰もが驚かされた。弾かれた当の本人である光輝も驚いた。

直後―――虫程度の魔物に加減を間違えたと憤りを覚えた光輝は、最大の技を使ったのだ。

 

 土煙を巻き上げて斬撃が地面を砕きながら進んでいく。

流石に固いカンタロスも魔力を込めた斬撃に耐性を持ってはおらず、バラバラの欠片となって階層の地面に命を散らしていた。

 

「……ふぅ……もう大丈夫だ、雫、香織――――――ぐぁッ!?」

 

「この大馬鹿ものが!!!」

 

 爽やかに一仕事終えたような笑みを浮かべて後ろで怯える女子たちの下に戻る光輝。

それを殴りつけたメルドは、普段とは打って変わって鬼気迫る表情で怒鳴り声をあげていた。

 

「素材の回収を念頭に置けと少し前に言っていただろう!倒せたから良かったという訳じゃない!あの程度の虫にあんな大技を使って、無駄をなくすことを考えんか!加えてこんな閉所であんな技を使えば、崩落の危険がある!貴様は仲間を貴様の手で殺すつもりか!!」

 

「め、メルド団長……。す、すいません」

「謝る相手を間違えるな!二度とあんな真似はするな……いいな!」

「は、はいっ」

 

 訓練中にも見せないメルドが怒り狂う様子に流石の光輝も怯えて素直に非を受け入れた。

それを見ていたクラスメイト達は光輝を不憫に思いつつも、メルドが異常なほどにピリピリしている事に疑問を抱かずにいられなかった。

 

 彼らが二十層にいたるまで、倒してきたモンスターは想像よりずっと弱かった。

最初に出くわしたモンスターは草食種「リノプロス」近接武器の鋼鉄の刃をも通さない頑丈な頭を持つリノプロスを相手に、彼らは囲んで魔法をかけることで傷を負わずに倒せた。

この時に魔法で不必要な攻撃を加え過ぎた為、彼らは素材を剥ぎ取ることが出来ずに、メルドから「攻撃の加減を考えろ」と真面目に注意されている。

 

 その後も草食種「アプケロス」「ガストドン」魚類「ガライーバ」甲殻種「ヤオザミ」

甲虫種「ランゴスタ」といったハンターにとっては雑魚(・・)と言えるモンスターしか戦わなかった。

どれも特徴的な攻撃や集団での戦いといった場面を迎える事があっても、倒すのは容易だった。

 

 だというのに、メルドは何かを警戒しているのか鋭い目つきで周辺を窺っている。

次の階層に降りれば彼の放つ鋭い気迫からも解放されると神の使徒たちは少し我慢した。

安全を確保した騎士団の一人が歩き出して、神の使徒たちがそれに続こうとした時―――

 

「あれ何かな……キラキラ光ってる……」

 

 香織が声を上げて指を差した先に、全員の視線が吸い寄せられた。

そこは光輝の放った天翔閃によって崩れた天井の一部から光を発する鉱石が顔を出している。

メルドも流石にその輝きを見て心が落ち着いたのか、静かに説明をする。

 

「アレはグラシスメタルだな。本来はシュネー雪原やエリヒド王国南の雪山にしか産出しない貴重な物なのだが、こんなところで見られるとはな……光を当てれば純白に輝き、硬度も十分なものとして錬成師の間では需要が高いそうだ」

 

 錬成師―――その言葉を聞いた瞬間、二名の顔はあからさまに曇った。

メルドは既にホルアドを去って生きているかも分からないハジメの怒り、叫ぶ姿を思い出す。

香織は出会った最後の夜に交わした曖昧な会話を思い出した。

 

 そんな二人の様子など誰も気づかずに、グラシスメタルの塊に見惚れていた。

不意に一人、小悪党パーティーのリーダー檜山が瓦礫をよじ登っていく。

彼はグラシスメタルを手土産に、香織の好感度を上げようと考えたのだ。

 

「おい大介、勝手なことを――――」

 

 檜山の行動を咎めて声を上げたメルドが後を追おうとした。

そして一人の騎士がアーティファクトを使って、グラシスメタルそのものが転移のトラップである事を知って叫んだが、既に檜山の手はグラシスメタルに触れていた。

 

 直後、巨大な魔法陣が彼らの足元に浮かび上がって――――――彼らの姿は二十層から消える。

 

*

 

 

「うそ……だろ……」

 

 騎士団の一人、アランという男が絶望に染まった表情で目の前のモンスターを見ていた。

神の使徒たちは転移された事に慌てふためき、それ(・・)に注意を払うものは少ない。

しかし騎士団の多くが目の前のそれを見て心臓が凍り付いたように止まり、目が大きく開かれる。

 

 後に生き延びた彼らは知ることになるが、彼らが飛ばされたのはオルクス大迷宮六十層。

一本の巨大な石橋の上に、彼らは召喚されている。振り返った先に続くのは上へ……つまりは地上へ戻る為の階段。その周辺には人の大きさほどある細い体の蛇竜「ガブラス」が数十体の群れで空中を飛び回り、彼らを餌として捕食するつもりなのか、威嚇の鳴き声をあげている。

 

 しかしそんなガブラス達の威嚇もメルドの耳には届かない。

橋の中心に居座って、その口に中型(・・)のモンスターを口に銜えた巨大な黒い塊。

その存在感に比べれば、ガブラスなど文字通りちり芥に等しい。

 

 

曰く「それは異世界(エオルゼア)より新大陸に侵略してきた伝説の魔獣」

曰く「それは旧約聖書における陸の怪物、神が天地創造の五日目に生み出したもの」

曰く「それは中世の悪魔イメージにおける暴飲暴食、あるいは貪欲」

 

古龍種《魔獣》「ベヒーモス」が、メルドたちの目の前に居座っていた。

筋骨隆々の巨体を支える手足、二本の禍々しく捻れた角、巨大な尾は魚類のそれを遥に上回る。

ベヒーモスの双眸が固まるメルドたちを捉えた瞬間、威嚇の唸り声は咆哮に変わった。

 

「グルガアアアァァァァァァァァーーーーーーー!!!!」

 

 あまりに大きすぎる咆哮に誰もが耳を塞いだ。鼓膜が破けるかと思うような痛みに襲われた。

周囲を飛び回るガブラス達ですら、咆哮の余波で吹き飛ばされて、何匹か気を失ったガブラスが石橋の下―――底の見えない暗闇へと落ちていった。

メルドは絶望するわけにはいかない。歯を食いしばって的確な指示を出す。

 

「アラン、神の使徒全員を連れて撤退だ!蛇竜共には構うな、脱兎の如き撤退を急がせろ!

 他の連中は俺と共にベヒーモスの足止めだ!いいか、決して戦う等と考えるな!?死ぬぞ!!」

 

「め、メルド団長!俺たちも戦い「ガアァァァッ!」ッ!!?」

 

 メルドが先頭に立って剣と盾を構える。そこへ駆けつけようとした光輝だったが、直後に吠えたベヒーモスの気迫に押されてその場で尻もちをついた。

クラスメイト達の誰もが混乱に陥る。見たこともない大きさのモンスターを目の前にして、震えながら涙を流して死ぬのは嫌だと叫ぶ。

 

 ベヒーモスによる攻撃が始まった。右の前足を振り上げて橋へと叩きつける。

直後、メルドを先頭に王国最強と言われる騎士たちの魔法による障壁が張り巡らされた。

―――だが、障壁の意味はなかった。

 

「ッ!!後ろへ跳べえぇぇっ!」

 

 メルドは叫んで近くにいる障壁を張っていた騎士を抱えて飛び込んだ。

メルドたちの立っていた足元の地面が熱を帯びて赤みを帯びた瞬間―――大爆発を起こす。

 

「「ぎゃああぁっ!?」」 「イヴァン、ベイル!」

 

 呆然とした光輝の目の前で爆発をまともに受けた二人の騎士が宙を舞う。

何とかかすり傷で済んだメルドが二人の下へ駆け寄ったが最後―――悲痛に顔を歪めた。

メルドは二人に僅かな黙祷を捧げ、すぐにベヒーモスへと向き直る。

 

「……え………?」

「光輝、何ボケっとしてるのよ!立って!逃げるのよ!!」

 

 尻もちをついたまま立ち上がれずにいた光輝の手を引いたのは雫だった。

彼女は何が起こっているのか理解して、この絶望的な状況で「自分たち」だけでも逃げ切れるようにと戦っているメルドの判断に従っていた。

 

「雫……騎士の二人が起きないんだ……メルド団長は何で……」

「分かり切ったことを言わせないで!今は逃げる事だけ考えるのよ!!」

 

「逃げる……?それはダメだ雫……。俺達は勇者なんだぜ?……世界を魔人族から救うために此処に来たんだ……ここで逃げるわけには……」

 

「まだ分からないの!?二人は死んでるのよ(・・・・・・・・・)!!あたし達も、このまま此処にいたらあそこの化物に殺されて、あっという間に死ぬのよ!」

 

 突然目の前で起きた攻撃による、騎士団二名の即死。

その現実を直視して、冷静に動けたのは雫ただ一人だった。

他の生徒たちは咆哮の怯みから治ったガブラスに襲われ、噛みつかれ、皮膚が溶けるような液体を吐きかけられながらも、懸命に次の階層へと走っていた。

 

 光輝は半ば引きずられるようにして、雫に遅れて我を取り戻した龍太郎の手によって去った。

それを後ろ目に見ていたメルドは小さくフッと微笑み―――眼前のベヒーモスへと叫ぶ。

 

「ここから先は一歩も通さん!!魔獣ベヒーモス、俺が相手だ!!」

 

「ヴルヲヲヲォォォッ――――!!!」

 

 剣を手にしてベヒーモスへと突っ込んでいくメルド。

それを援護する残った騎士たち。一人だけ撤退の先陣を切った騎士は仲間の無事を祈りながら、地上までの脱出路を確保するために走り続けた。

 

*

 

「…………かえって……これた…みたいね……」

 

 そう呟いた雫は息も絶え絶えになりながら、傍らで蹲るクラスメイトの背を擦る。

同じ勇者パーティーの一人、谷口鈴は目の前で人が死ぬ光景に耐えられず吐いていた。

親友の中村恵理も顔を真っ青にしながら、何時吐いてもおかしくない様子。

 

 他のパーティーも同じようにオルクス大迷宮の入り口の端で地面にへたり込み、ある者は実感の湧かない人の死に呆けた顔のまま放心状態で周囲の言葉も聞こえず、ある者は自分たちが置かれた状況の危険を再認識して恐怖に身体を震わせて蹲る。

 

 そんな中で、光輝は愕然とした表情のまま遺跡の入り口を見続けている。

アランという撤退した騎士は再び大迷宮へと潜り、メルド救出へと向かった。

彼は恐怖で今にも膝から崩れ落ちそうなほど震えていたにも関わらず、「メルド団長を犬死させてなるものか!」と勇んで大迷宮に戻った。

 

 それから何十分、何時間経ったのだろう。

外は既に暗くなって、誰もが一度宿に戻って落ち着こうと考え始めた時―――

 

「メルドさん!!」

 

 光輝の叫びで全員が大迷宮の入口へと視線を向けた。

そこには鎧を砕かれ、剣を圧し折られ、盾を持っていた腕をグチャグチャに食い潰されて、全身が火傷を負ったように腫れあがり血まみれで気を失っているメルドがいた。

彼はアランが一人で担いで、大迷宮から戻ってきたのだ。

 

「香織ッ、メルドさんに治癒を!」

「分かってる!」

 

 誰も言葉にはしなかったが―――戻ってきたのはメルドとアランだけだった。

他の十数名いた騎士団の者たちは、誰一人としてオルクス大迷宮から戻ることはなかった。

 

 メルド団長はその後、治療院に運ばれたが何時目を覚ますのか分からないという。

騎士団は事実上の壊滅状態。神の使徒たちも戦意を喪失してオルクス大迷宮攻略どころではなくなった。彼らは数か月のあいだ、身動きの取れない生活を送ることになる。

 

 これはよくある異世界の話。

力を手にした若者たちが、絶対に敵う事のない存在を目の前にして、挫折を味わった話。

 

 




感想とか待ってまーす!

初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)

  • 続編にして
  • このまま話数増やしてもいいんじゃね?
  • 打ち切りはヤメロォ!
  • もっと周りの話補完して♡
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