というわけで更新遅くなって申し訳ございません。
そろそろ本編を進めないと考えながら、また性懲りもなくオリジナルキャラクター量産を考えてしまう作者。
ウルの街を温かに包み込んでいた太陽が雲に隠れて、昼が夕方へと時の針を進める。
リンネは剥ぎ取りと仕分けを終えたブランゴの素材を、近くの農耕地域に放置されていた荷車の台へと載せて一度街に戻ろうとしていた。――――その時だった。
――――――……キィィィィイッ!
「アレは……ッ」
よく野球の試合会場などで打ち上げられるゴム風船が放つ甲高い音。
それを耳にしたリンネが振り返った先は先ほどブランゴ達が降りてきたであろう山脈地帯の麓。
そこから赤い光の玉が空中へと放たれている。
フィールドワークやクエストの最中にハンターが他のハンターへ協力を要請する際に放つもの。
”救難信号”を軍事目的の為に転用されたものが、赤い光の玉の正体である。
それを知っていたリンネが荷車を手放して光の下へと駆け出すのは速かった。
「ハッ!……嫌な予感的中……ってね!」
ブランゴの素材が、せめて針葉樹林から臭いに吸い寄せられた甲虫種の小型モンスターの餌にならないように祈りながら、彼女は木々の間を駆け抜ける。
*
「うわあぁぁぁっ!」
救難信号を打ち上げた者たち―――帝国の兵士達は窮地に陥っていた。
彼らは王国の要請で、魔人族と人族の境界線である山脈地帯の監視所に交代で派遣された。
しかし着任早々、魔人族に怪しい動きがあると哨戒中の兵士から報告を受けた彼らは一個中隊を率いて境界線に差し掛かるギリギリのラインを調査していた。
その時だった、突然空が暗くなったかと思い顔を上げた彼らがモンスターに襲われたのは。
彼らを襲ったのは背が青く腹周りの白い海洋生物を思わせる細身の大型の飛竜種”レイギエナ”
他の飛竜種に比べて風を受けて飛行の際に姿勢を制御する翼膜が発達しており、体内には大気中の水分を用いて氷を発生させる特殊な器官を宿し、飛行しながら風圧に乗せた氷で攻撃を行う姿から「華麗なるハンター」の異名で知られるモンスターである。
―――キエァアァァァァァッ!
「ひ、怯むなぁっ!陣形を組んで応戦しろぉっ!!」
咆哮を上げて頭上から氷の粒を降らせながら飛び回るレイギエナに応戦する帝国兵。その中で中隊長を務める”ハリス”という男が隊列の先頭に立って身の丈ほどある巨大な盾と槍を構えて叫ぶ。
彼ら帝国兵が纏っている装備はハンターが身に着ける武器と防具を軍事用に改良したものだ。
通称”帝国式・防衛隊戦闘服”と”帝国式・防衛隊広刃型長槍”を身に纏っている彼らの戦闘能力は、中型モンスター程度であれば苦戦する事はあっても討伐が出来るくらいには高い。
―――だが、レイギエナは自らの優位性を理解して地上には降りてこない。
大型モンスター、それも飛竜種にもなれば知能の高いモンスターが多く、レイギエナは戦いにおいて自分が地上に降りれば不利になると気づいている。
そして目の前の獲物が持つ武器は空中に届かない事も襲っているうちに理解した。
「む、無理です!あんなに速く動き回る飛竜なんて、捉えきれません!!」
「馬鹿者!!ここで我々が奴を食い止めなければ、次はウルの街が襲われるんだぞ!?」
弱音を吐く部下の一人に怒鳴るハリスは、空中で姿勢を変えたレイギエナに注目する。
「来るぞ!!」と彼が叫んだ瞬間、急降下してきたレイギエナの巨体が錐揉み回転しながら兵士達の頭上を通り過ぎていく。すれ違う途中で引っ掻こうとレイギエナが伸ばした爪は、ハリスが盾で防いだお陰で直撃を免れた。
兵士達が頭上の敵を見上げ続ける姿勢に疲弊し、凍てつく体の痛みに意識を失いそうになる。
彼らは氷属性を纏ったレイギエナの攻撃を受けて”氷属性やられ”になっており、徐々にスタミナを失いつつあった。
一人の兵士が寒さで歯をガチガチ鳴らしながらハリスに反論する。
「し、しかし中隊長。このままでは我々が――――!!」
「とにかく、奴が地上に降りるまで耐えるんだ!そうすれば――――」
―――グオオォォォッ!!!
ハリスの口にした希望的観測は、山から響き渡る咆哮に掻き消された。
レイギエナが空高く飛翔して首を山の方に向けると、一頭の猿のようなモンスターが木々や岩々を足場に飛び跳ねながら兵士達の方へと向かってきていた。
「そ、そんな………もう一匹……!?」
兵士の一人が絶望の声をあげて、他の兵士達にも恐怖がぶわぁと伝染する。
中型モンスター、雪獅子の異名を持つ牙獣種”ドドブランゴ”が場に乱入してきたのだ。
更に絶望は止まらない。
本来であればレイギエナとドドブランゴは相容れないモンスターであり、お互いに近い距離に存在すれば縄張り争いが生じるのは必然であった。
しかし―――
「こいつ等――――――魔人族の
トータスのモンスターには二種類の存在がある。
自然に世界の生態系の一部として産み落とされて活動する”通常種”
自然だったものを魔人族の魔法により操られて、戦いだけに特化した”支配種”
ハリス達の目の前にいるのは後者、魔人族による支配種として生かされたモンスター達である。
―――キエエェェッ!
―――ガアアァァァッ!
レイギエナが再び地上スレスレに急降下して、氷を纏った尻尾で兵士達を薙ぎ払おうとする。
それに合わせたかのようにドドブランゴは隊列の横から兵士の一人に掴みかかって牙を剥けた。
「ぅ、ぐああぁぁっ!」
「ハリス隊長――――!!」
尻尾の一撃を完全には防ぎきれなかったハリスが吹き飛ばされて地面を転がっていく。
その間にドドブランゴは悲鳴も上げられなかった兵士の一人の肩を、防具ごと噛み砕いた。
白目を剥いて血の泡を拭きながら、その兵士は地面に倒れて気を失う。
ビクビクと痙攣をしているがまだ息はある、すぐにでも治療をすれば命は助かるだろう。
―――もっとも、モンスター達が彼らを見逃してくれればの話だが。
―――ゴアァァァッ!
「わああぁぁぁっ―――――!!」
半狂乱になった兵士達が槍を振り回してドドブランゴを攻撃しようとする。
予めそれを想定していたドドブランゴはバックステップで攻撃を回避した。直後、後ろ足で地面を強く蹴って空高く飛び上がった。
何をするのか兵士たちが気づいた時には遅かった、牙獣の巨体がその場の地面を大きく揺らす。
「ぐ、おおぉぉっ……!」
ハリスは満身創痍で立ち上がる。
額から血を流し、既に氷属性やられでスタミナが限界を迎えている彼に、まともな戦いが出来る筈がないというのに。
再び急降下姿勢をとったレイギエナの双眸が孤立したハリスを捉える。
次の一撃をもって勝負を決めにいくつもりだ……。それに気づいた兵士達が彼を助けようとする。しかしドドブランゴのボディプレスの衝撃で地面を揺らされた彼らが鈍重な装備をつけたままバランスを保てるはずもなく―――ハリスは自分の死を覚悟した。
次の瞬間―――レイギエナが斜め下への急降下を行う直前で、何かが宙へと投げ込まれた。
目が眩むほどの閃光、レイギエナとドドブランゴの悲鳴に似た絶叫。羽ばたくことを忘れたレイギエナの体が地面へと墜落する。ドドブランゴは前足で顔を覆いながら後ろ足で仰け反り、頭をフラフラさせている。
「救難信号を受けて急行した!!湖の街ウルの用心棒リンネ、推して参るぅぅッッツゥアアラァァァァァーーーーッ!!!」
名乗りと共に掛け声をあげたリンネが飛竜刀を手に地面で藻掻くレイギエナへと斬りかかる。
先ほどレイギエナを落としたのは彼女が針葉樹林の中で咄嗟に拾った光る虫”光蟲”を素材にて調合した”閃光玉”である。
ザシュッと鱗と肉を断ち切る飛竜刀【月】の刃からレイギエナの体内に伝わる”毒属性”の攻撃。
その痛みにうめき声をあげたレイギエナがようやく立ち上がると、横斬りで後ろへ下がるリンネ。
ドドブランゴも含め、二頭はまだ閃光玉の効果が残っている。
眩暈の状態で正しく獲物を捉えられず、空振りを攻撃を見舞う。
「ど、こ、狙ってンじゃああああああぁァッ!」
突き、切り上げからの振り下ろしを二度、レイギエナの胴体へ食らわせたリンネ。
その間にドドブランゴの攻撃から復活した兵士達の一部は負傷したハリスと気を失った重傷の兵士を治療しようと駆け寄り、残りの兵士達がドドブランゴへの逆襲を開始した。
「突け、突け、突けぇっ!」
「「「「「おおぉぉぉっ!!」」」」」
先ほど弱音を吐いていた兵士がハリスの代わりに先頭に立って叫んでいた。
長槍の先端が、ドドブランゴの白い体毛に覆われた肉へと突き立てられると、ドドブランゴは悲鳴を上げて体をふらつかせる。
そして幾度の攻撃を繰り出して、太刀はその武器の長所である技を使える条件を整えた。
「
怒号と共に繰り出される四連続の袈裟斬りが無防備な獲物の体へ刻まれていく。
最後に脳天目掛けて振り下ろされた刃がレイギエナの両翼膜をズタボロに引き裂いた。
満身創痍のモンスターを前に、リンネは気刃斬り究極の秘奥義を放つ。
「止めの――――――気刃大回転斬りィィィッ!!」
―――ギエッ……ェァァ…!?
うめき声と共に両足から重心を崩して倒れ伏すレイギエナ。
飛竜刀の刃は淡く白い光を放って、それを手にするリンネに赤いオーラが揺らめく。
立って飛び上がる力のないレイギエナから視線を外したリンネ。
隊列を整えた帝国兵達の一糸乱れぬ波状攻撃に、ドドブランゴも限界だった。
これ以上の戦闘継続が困難と生存本能が知らせてくれたのか。
或いは何処かから支配する魔人族の指示なのか。
拳が傷つくのも厭わず、地面を殴って土煙を巻き起こすドドブランゴ。
連携していたレイギエナには目もくれず、逃げ去る
「―――追撃はするな!重傷者の応急手当と周囲の警戒にあたれ!」
氷属性やられが解除されてある程度の体力回復を終えたハリスが即座に指示を飛ばす。
交戦の最中も負傷兵は増えており、ドドブランゴへの反撃で先頭に立っていた男は盾を持っていた腕が折れ曲がっており、地面へと座り込んで他の帝国兵から治療を受けていた。
戦いが終わっても、現場には未だ張り詰めた空気が漂っていた。
*
闘争における敗北と死を悟った瞳がゆっくりと光を失っていく。
次の一撃が必要ないと知るリンネの目とレイギエナの目が合う。
言葉では表せない、複雑な思いを孕んだ何かを訴えかけるレイギエナに、リンネは一言だけ。
「――――――アンタが狩られる側だった……
―――………ゥ。
胸から血を噴き出しながら、レイギエナの瞼が閉じる。
太刀を地面へと突き立てたリンネの手に、剥ぎ取りナイフが握られた。
自身で斬り刻んだレイギエナの胸元へ刃を、握る腕ごと中へと突き進ませる。
そして――――――
「………クソ共が……!」
バキリと音を立てて赤い珠を片手で砕いたリンネ。
それを地面へと放り投げて足で踏みつける。―――何度も、何度も。
そうこうしていると、負傷者の手当てを終えた帝国兵達が近づいて来る。
彼らの目は、既に死んで動かなくなったレイギエナと、それを容易く仕留めた片腕のない
一歩前に進み出たハリスが頭を下げる。
「狩人殿。貴方の助けあって、我々は全滅を免れた。部下の分も含めて礼を言わせてくれ……!」
「――――ン。どーいたしまして!帰りは護衛が必要?」
「既に我々の救難信号を受けて監視所から支援部隊が急行している。心配は無用だ」
「そ。―――じゃアタシは獲れる物だけ持って街に戻るけど……」
「あぁ、その……。助けて貰った我々としては心苦しいのだが……
「提示」―――その言葉が意味するものは二つある。
一つが王国や帝国で一般にも普及している「ステータスプレート」
そしてもう一つがハンターのみが所持している「ギルドカード」
リンネは剥ぎ取りで血だらけになった手をどうにかして着ているオルムングβ防具に擦り付けて綺麗にして、アイテムポーチの脇から二枚のカードを取り出した。
「ん……ぺっ」
本来であれば針で指先を刺して血を垂らすステータスプレート。
しかしその方法が血以外の体液でも代用可能だと知っていたリンネは臆する事なく口から唾を吐いてステータスプレートを展開する。
余りに珍しく、そして受け取るのに抵抗感が拭えない方法をとったリンネに、ハリスは苦笑いを浮かべるしかなかった。
普通じゃない結果が映し出されるステータスプレートを見ても、ハリスは特に驚かない。
ハンター達のあいだでは、こういった現象が珍しくないという。
帝国で何度かハンターと言葉を交わしてきたハリスにとっては、日常茶飯事なのだ。
しかし、ギルドカードに表示された彼女の名前とハンターランクを見て凍り付く。
「こ、これは……もしや、貴方様は………!?」
「あー……様なんてつけなくていいから、一応”元ハンター”だし」
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ハンター名:リンネ ハンターランク:999
称号:湖の街の用心棒
自己紹介文「まだ若いし、いけるし」
装備:飛竜刀【月】
EXオルムングヘルムβ
EXオルムングメイルβ
EXオルムングアームβ
EXオルムングコイルβ
EXオルムンググリーヴβ
攻撃の護石Ⅴ
クエストクリア回数:56701
友好度:999
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「……ウルの街に、凄腕の元ハンターがいるとは聞いていましたが…」
「今は無駄に高級そうな宿屋のオーナーだよ。……それじゃ」
もう確認の必要がないと分かったリンネが踵を返して去っていく。
既に陽が山間に隠れようとしており、辺りは暗くなり始めている。
帰り道、地面に突き立てた太刀を手に取って背中の鞘に納めるのも忘れない。
幸運にも荷車に載せていたブランゴの死骸は無事だった。
リンネはそれをウルの街の”ハンターズギルド”へと提出して宿に帰った。
その頃には真っ暗になっており、血にまみれた彼女が宿屋の正面玄関から堂々と入ってきて宿泊客に悲鳴を上げられて、フォスに怒られた。
彼女とハジメの出会いは―――もう少し先のお話。
没ネタ
ハリス「こ、これは―――!(自己紹介文とステータスプレートの年齢を見て)」
リンネ「よし、お前らそこに一列で並べ―――憎悪を込めて殺してやる」
感想とか待ってまーす!
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡