ドスジャギィのタックルハメを許さない……。
デビットが操る馬車の勢いは徐々に衰えていく。
数匹のジャギィは剣を振り回して挑発するチェイス達を無視して、馬車へと向かう。
(このまま奴らに襲われたら馬車が横転する……ええい、止むを得ん!)
「愛子、他の者達も!近くのものに掴まっていろ!!」
返事を待たず、デビットは手綱を目いっぱい引いて馬車を止める。
疲れていた馬は嫌そうに頭を振って嘶き、馬車の中で小さな悲鳴が上がった。
観念した獲物に余裕を持ったのか、それとも動きを変えた事に警戒しているのかジャギィ数匹はバックステップを取って唸り声を上げる。
馬車の中でお互いに身を寄せ合って振動を凌いだ愛子達は扉から出る。
デビットはそれを止めたかったが、今の状況を神殿騎士4人だけで乗り切るのは不可能の判断して、せめて愛子だけでも守るようにと馬車から飛び降りながら腰の剣を抜いた。
「俺より前に出るなよ!!」
「は、はい――――!」
――――グァッ!ギャアッ、アッアッアッー!
―――ギャオッ!ォッォッ!
牙を剥き出しに睨みつけるジャギィを前に、優花以外の女子2人が小さく悲鳴を上げる。
男子3人はそれぞれ武器を構えてデビットの斜め後ろに出てはいるが、引き腰だ。
優花は腰から投げナイフを2本取り出して、何時でも投げられるように指の間に挟む。
「た、隊長――――!!」
「今そちらに―――クソっ!」
「こいつ等、無駄に統率力の良い……!」
ジョシュア、ジェイド、チェイスの3人はジャギィノス数匹に追い回されている。
そうこうしている内に、群れのリーダー格であるドスジャギィが姿を現した。
悠々とした足取りでデビットと同じように群れの先頭に立つドスジャギィが唸った。
尖った口の端から涎が垂れ落ちたのを見て、優花の背筋に緊張が走る。
―――グォルルルッ……!
「くッ……醜い魔物風情が!愛子には指一本、手を出させん!」
―――スゥ……ゴオッ、オッオッオッ!!
「うおおぉぉぉっ!!」
デビットの叫び声と、ドスジャギィの鳴き声が荒野における開戦の合図だった。
*
「このっ、食らえ!!」
先手を取ったのは優花、投げナイフ2本をドスジャギィの頭部目掛けて投げつける。
ナイフは風を切る音と共に、ドスジャギィの襟巻のような耳を僅かに切り裂いた。
しかし大したダメージは与えられなかったのか、ドスジャギィは体についた虫でも払うようにぶるりと身震いして、デビットへと駆け出した。
「おおぉっ!」
―――ヴヘエェィ!!
続いてドスジャギィとデビットの攻撃が同時に行われた。
真正面に剣と盾を構えて突っ込むデビット。ドスジャギィの牙、爪から繰り出される攻撃を盾で受け流すと同時に、剣の刺突で致命傷を狙ったのだ。
しかし直前までドスジャギィの攻撃を考えてなかったのが災いとなった。
奇妙な掛け声をあげたドスジャギィはあろうことか、デビットへと胴体の横側を晒す。
一見無防備な体勢だが、足の関節が限界まで引き締まっている―――――つまりは……
―――ヴォアッ!
「何ッ―――ぐああぁぁっ……!?」
剣が胴に突き刺さる事もお構いなし、自分の体重を乗せた捨て身のタックル攻撃。
ドスジャギィの橙の皮を裂いて中の肉へとデビットの剣がズブリと突き刺さる。
しかしデビットはドスジャギィの渾身の一撃をまともに食らって、後方へと吹き飛んだ。
「デビットさんっ!」
吹き飛んだ先に愛子と女子2人がいた。
彼女らを囲むジャギィ達はドスジャギィの戦いの邪魔をしないよう、間合いを詰めて来る。
剣を振り回したり、足元に転がる石ころを投げつけて必死の抵抗をしていた3人の動きが止まった一瞬を、ジャギィ達は見逃さなかった。
―――シャアァッ!
「きゃ――ッ!?」
1匹のジャギィが口を大きく開いて、噛みつこうとしたのは奈々だった。
彼女は辛うじて自身に牙が突き立てられる事はなかったが、手に持っていた剣を予想出来なかった強い力で銜えられて放してしまう。
勢いで後ろへとよろめいた彼女が尻もちをつくと、別の個体が側面に回り込んで飛び掛かる。
「させないっ!!」
バチッ!
―――グエッ!?
妙子が手に持った鞭を振り上げて飛び掛かったジャギィを吹き飛ばす。
表面的な傷は与えられなかったものの、鞭で叩かれたジャギィは空中で姿勢を制御出来ずに地面へと倒れ込んだ。
優花がそこへすかさずナイフ3本を、今度も頭狙いで投げつける。
ツカカカッ!
―――ギィア……ゥァ…ゥ…!
「や、やった……!」
「油断するなよ園部!!」
「この野郎ぉぉぉっ!」「ッらあぁっ!」
ほっと息をつこうとした優花を怒鳴ったのは、ジャギィ1匹に苦戦を強いられた男子達だった。
相川が自分の剣と、馬車の中にあった予備の剣を使った即席の二刀流を用いてジャギィの噛みつきを防いでいる。そこへ仁村が槍でジャギィの腹を突いて、玉井が曲刀で首筋を狙って斬った。
最後の悲鳴すらあげられず死んだジャギィが力なく地面へと倒れ込む。
荒い呼吸を繰り返して震える両手に握る剣を持ち直す相川。生き物の肉を突く、斬る感覚があまりに生々しく、理解できない感触であった事に仁村と玉井は顔を青くする。
―――しかしこれだけ苦労して倒したのは子分のジャギィ
「デビットさん、しっかり……!」
「ぐ、がはっ……。愛子ぉ、逃げろ……奴が……!」
膝を折って口から吐血するデビット。
吹き飛んで地面へと転がる瞬間、受け身を取れなかった彼は頭を酷く打ち付けたのか、今にも意識が飛びそうなくらいヨロヨロと覚束ない足取りだった。
愛子は彼を治療しようと手元の道具を漁ろうとするが―――
――――――アッアッアッアッアッアッオーゥ……!
デビットが刺した剣を器用に地面へ体を擦り付けるようにして抜いたドスジャギィ。
その瞳には僅かな怒りの色が滲んでおり、目の前の彼ら彼女らを容赦なく殺そうとしていた。
愛子は道具から腰の短剣へと手を伸ばし、震える両手で握り締めた短剣を構えて立ち上がる。
「こ、この人は……殺させません……!わ、私が……あ、相手になります…!」
「あ、愛子……無茶だ……!構わず逃げてくれ……!」
「愛ちゃん先生!」「「「「「先生!!」」」」」
―――ヘエ”エ”エ”ィ”!!
先ほどデビットに仕掛けたのと同じように、体の横っ面を向けたドスジャギィが腰を落とす。
優花達は2人を助けにいきたいが、飛び跳ねるジャギィに行く手を阻まれて進めない。
恐怖で震える足、愛子のスカートの下が少し生温かく濡れる。
(……もう……ダメ……!)
目を瞑りながら短剣だけ真っ直ぐ突き出した愛子。
せめて自分の攻撃でドスジャギィだけでも倒せれば、他のジャギィやジャギィノスを、残った3人の神殿騎士が倒してくれるだろうと信じて。
………………。
………………………しかし何時まで経っても痛みがやってこない。
「………ッ……?」
恐る恐る目を開いた愛子の視界の先には―――数秒前までなかったシルエットが浮かんでいた。
腰まで伸びた真っ白な髪と、耳の上辺りに生える黒い角らしき髪飾り。
「ふぅ――――――ギリギリ間に合ったみたいだね。……この辺は旅にゃ向かないよ
「……え、あ……あの…――――――ッ!」
振り向きもせず愛子に話しかける”オルムングβシリーズ”装備の女。
”飛竜刀【月】”の鞘の金色が陽の光に反射して煌く。
愛子はようやくドスジャギィがどうなっているのか、女の肩越しに知った。
――――――ガアァーッ、ギャアアッ!?
太刀の刃はドスジャギィの胴を
女は太刀の一突きで突進する巨躯を貫き、その勢いを踏ん張った足で止めている。
現に女の足元の地面が物凄い角度でめり込み、土が踵の後ろで隆起していた。
「名乗りたいところだけど、ちょっと待ってて――――――なっ!!!」
女は片足をあげてドスジャギィの胴を押すように蹴って、片手で刀身を引き抜く。
目の前の状況にようやくついていけた愛子は、女が
彼女の後ろで、自分で治癒をかけたデビットがよろよろと前に進み出る。
「デビットさん!」
「…くッ……まさか、ハンター如きに助けられる……とはな……」
「ハ、ハンター……?」
「帝国で始まった、魔物を狩る事を生業とする野蛮人共さ……」
「アッハッハッ!助けた相手を野蛮人呼ばわりなんて、随分な物言いだねえ~」
デビットの言葉を聞いた女は笑いながら振り向きもせず、ドスジャギィに太刀を振り下ろす。
ドスジャギィの襟巻のような耳は先ほどの優花の投擲に加えて太刀の斬撃を数回受け止めた。
綺麗な扇状だった耳が広がると、所々欠けて血まみれになっているのが分かる。
―――アァーヒィ…!アァーヒィ…!
かなりの血を失って、ドスジャギィは瀕死に陥った。
攻撃の最中に負傷したのか、片足を引きずりながら掠れた鳴き声で逃げ出そうとする。
デビットが血気盛んに追撃の一歩を踏み出そうとするのを―――女の握る太刀が行く手を阻む。
何をすると憤り女を睨んだデビット。
女はゆっくり振り返って、冷徹な表情で静かに問いかける。
「アイツを殺して、貴方達にメリットはある?」
「――――――…ッ!」
群れのリーダーであるドスジャギィが敗れた事で、子分のジャギィ達も逃げ出そうとしている。
戦いが終わった事でようやく安心感を得た相川達がその場にへたり込む。
優花はナイフを腰に戻して、愛子の無事を確かめに駆け寄ってきた。
デビットは少し冷静になって考え、女の言いたい事を察した。
死にかけのドスジャギィ1匹殺したところで、荒野の魔物は他にも大勢いる。
追いかけている間に他の魔物と出くわしたら―――今度こそ確実に死ぬだろう。
*
「……あ、あの……危ない所を助けて頂き、ありがとう御座います」
「どーいたしまして。……そちらの騎士のお兄さんは、感謝しているようには見えないけど?」
愛子が一歩進み出て女に頭を下げると、優花達もそれに倣って頭を下げる。
しかしデビットだけは納得がいかない顔で女を睨んでおり、女は困り顔で笑う。
命の恩人に対してあまりに礼儀を欠いた行いであると、愛子がデビットへ怒った。
「デビットさん。彼女は貴方と私達の命を救ってくれたんですよ!そんな態度を取るのは失礼だと思わないんですか!それが大人のする事ですか!?ちゃんとお礼を言ってください!」
まるで子供を叱りつける親のようだなと女がクスクス笑った。
後ろで優花達は緊張の糸が解けた事も相まってほっこりしている。
流石に自分の非を認めたのか、苦しい表情になったデビットは顔を背けながら言う。
「……む……。……………チッ、一応礼は言っておくぞ狩人」
「はいはい、それでお礼を言われたって事にしておくよ。……っと、貴方のお仲間さん達も、無事に帰ってこれたみたいだね?」
リンネが指さした方角に全員が顔を向けると、馬に乗って走るチェイス達の姿が見えた。
愛子達は彼らも無事だったのかと明るい顔になって、デビットも一息つく。
減速する馬から飛び降りて、チェイスが慌てふためきデビットの前に立つ。
「隊長、皆さまもご無事で……お守り出来ず、申し訳ございません…!」
「……気にするな。1人も欠けず帰ってこれただけで良しとする」
「そうですよ、チェイスさん達も無事で安心しました!」
「………それで、そちらの方は……?」
「あら、そういえば自己紹介をしてなかったね。―――――ウルの街、水妖精の宿の従業員にして元ハンターの……リンネ・ユキトよ」
”元”を強調するリンネは太刀を背にしまいながらフワァサと長い髪を手で梳いた。
後ろで様子を見守っていた相川達男子が、流れるような美しい仕草に鼻の下を伸ばす。
ハンターであるという事に若干の嫌悪感を抱いていたデビットや同性である愛子、優花達も改めてリンネの姿に見惚れてしまった。
こうして愛ちゃん護衛隊は、1人も欠ける事なくウルの街への移動を再開出来た。
道中モンスターに出くわす事があっても、リンネが軽く追い払う。あまりに自分達とはかけ離れた戦い方を片腕一本で行うリンネを見た優花達は「あの人、
と思わずにはいられなかった。
とりあえず先生達の話はここで止まります。
この後、少ししたら彼女らも本編に出る予定なので。
次は本編進めようかなと思いつつ、愛ちゃん護衛隊に名前のなかった彼の話を一人称で書いてみようと考えてます(既に試作中)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております!
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡