モンスターハンター・トータス   作:綴れば名無し

171 / 240
 年末になって、ようやくニンテンドースイッチ購入を決意した作者です。
こうしてモチベーションが上がった時にしか話を書けない事にもどかしさを感じながらも、今日がクリスマスだった事に飯になるまで気づかなかったという……。



幕間の物語 ある冒険者たちの話 1

 俺達は冒険者だ。

子供の頃に謳われた華やかな英雄譚に憧れて、冒険者になった。

しかし現実は絵本のように優しくはない。

 

 ギルドから斡旋してくれる仕事だけでは食っていくのがやっとで、身なりを整えて良い暮らしをしたければ、樹海や大迷宮に潜って魔物(モンスター)を倒し、素材を売って一攫千金を狙うしかなかった。

冒険者が命を落とす多くの理由が、魔物との予期せぬ遭遇である。

 

 火を吐くもの、氷を操るもの、土に潜るもの、空を飛ぶもの――――魔物の強さは生態系において()()の一言に尽きる。鋼の剣では倒れない、鉄の矢では傷もつかない。

神の奇跡に縋って魔法を行使しても()()()()()()()()()()()

 

 やがて長い夢から醒めた者達は、職を変えてありふれた人生を送る。

()()()()()()()()()()。夢を夢のままで終わらせない、その一心で冒険者を続けている。

 

 

「――――――クソっ!!!」

 

 ガシャン!と大きな音を立てて、床に落ちた食器が割れる。

此処は帝国領、首都から少し離れた町”ブルック”の冒険者ギルド。

 

 悪態をついた男は机に拳を叩きつけたまま、苦悶の表情を浮かべていた。

その男は少し前に、貴族だった子供から無理なお願いをされて、乱暴に断った冒険者である。

 

 尋常じゃない男の様子に、周りの新米冒険者たちは「何あの人、こわっ」「シッ、目ぇ合わせんな……ぶっ飛ばされるぞ」とヒソヒソ話をしながら、男から離れていく。

 

「……………俺だって……!……あいつ等みてぇに強けりゃ……!」

 

「――――――――どうしたよぉアレックス、キレるなんてお前さんらしくもない」

 

 陽気な声をかけて男の肩をポンと叩く者が現れた。

2人が親しい間柄であると知らない冒険者たちが息をのんで、男がまた怒り出さないかとこっそり見守っている。

 

 暫く俯いたままの男は間を置いて、ゆっくりと長い息を吐きだした。

肩を叩いた者は野性味あふれる腰に長剣を携えた巨漢である。

首に提げた冒険者の序列(ランク)を示す黒が、きらりと光った。

 

「……レガニド、何で此処にいる?」

 

アレックス”と呼ばれた男の問いかけに巨漢”レガニド”は苦笑して向かいの椅子に腰かける。

レガニド、アレックスの名を聞いた冒険者たちが興奮しながら、小声で言葉を交わし合う。

冒険者として優秀な者に与えられる色の序列。

 

 青、赤、黄の冒険者は新米(ルーキー)。トータス中探せば何処にでもいる、冒険者の夢物語に憧れた若者が大半を占めるのがこの3色である。

 

 紫、緑、白の冒険者は中堅(ミドル)。大半が冒険者として生計を立てる事の厳しさを知って、前者の3色から脱落者が出る。数は新米の半分以下とされている。

 

 黒、銀、金の冒険者は最高位(プロフェッショナル)。多くが天職や魔法適性に恵まれて、幸運に幸運が重なって魔物討伐数や依頼達成率が過去の記録を塗り替えた者達である。

 

「いや~ちょいと前までミン男爵家の坊ちゃんに雇われてたんだけどよぉ~?誰に何を吹き込まれたか知らんが、坊ちゃんが「ハンターでもない貴様では私の身を守れる程の実力を持っているとは思えない!」とか言われて、あっさり手切れ金渡されて解雇されちまったのさ。まぁったく困ったもんだよ、帝国生まれの怪物(ハンター)達には――――――そういうお前さんは、何に怒ってた訳よ?」

 

 このレガニドという男、暴風や金好きの異名で呼ばれている有名な冒険者の1人である。

長剣を使わせれば、その剣技で右に出る者はいないと冒険者ギルドのギルドマスターに言わせた程の実力者なのだが、報酬にがめつい一面もあって異名の前者は戦いぶりから、後者は依頼主からの評判でついたものだ。

 

 そしてアレックスという男は、銀の序列を与えられた有名な冒険者である。

特定の武器に拘らず、依頼の内容や状況に応じて剣や斧、弓、棍棒と様々な物を使い分けて戦った冒険者についた二つ名は”天閃”。

 

 レガニドのように報酬額や内容に拘らず、基本的にどんな依頼でもこなして、必ず達成する事から次の”金”序列に昇格する冒険者の候補に彼の名前が挙がる程、冒険者ギルドでは有名人の彼が、何故あのように苛立っていたのか―――――アレックスは話した。

 

 

「……妹の病が……悪化したんだ……」

 

「そりゃあ……なんとも」

 

 アレックスが苛立ち、暗い顔をしている理由を知ったレガニドは納得する。

冒険者として付き合いの長いレガニドは、アレックスの両親が既に他界しており、唯一の身内である妹が重い病を患って、アレックスが冒険者として稼いだ金銭の殆どを妹の病の治療費にしている事を知っていたのだ。アレックスが妹を溺愛している事を、よく知っていた。

 

 彼の妹が患う病を治せるのは、王国と教会に雇われた腕の良い治癒師が働く治療院しかない。

しかしそこは貴族や王族、教会の関係者が優遇されているためアレックス達のような一般人が治療を満足に受けるのは、多額の支払いを要求されるのだ。

 

 脳裏に過ぎるのは病でやせ細り、床に臥せながらアレックスの名を呼ぶ妹の弱弱しい姿。

アレックスは助けられるのならと、家財の全てを治療費に回そうとした――――だが。

 

「教会の連中、俺ら平民の足元を見やがって……!今までの治療費じゃ足りねぇ、妹の病を治したかったら倍の金額を収めろと抜かしやがった……ッ。王も糞、貴族も糞、教会の崇める神も!……

まるで同じクソったれだ!」

 

「―――――っとと……ッ!?言い過ぎだぜ、アレッちゃん。ちょっと落ち着けって……な?……どこで教会の連中が目を光らせてるか、分かったもんじゃないんだぜ……?」

 

 神妙な面持ちで周囲を見渡すレガニドに宥められて、アレックスはぐっと狼狽える。

彼の言う通り、聖教教会と彼らが信仰する神エヒトに対する暴言を吐いてはならない。

そんな事をすればあっという間に教会から”異端者”の烙印を押されて、まともな生活を送ることが出来なくなってしまう。

 

―――最悪の場合、神殿騎士に断罪の名目で殺されてもおかしくはない。

妹にまで危険が及ぶことを恐れたアレックスは口を閉ざして少しの間、目を瞑る。

 

「―――――悪い……熱くなり過ぎた……」

 

「ガハハッ、気にするなよ!俺とお前の仲じゃねえか!」

 

 レガニドは椅子から立ち上がって、受付まで歩いていく。

長剣を揺らしながら、大きな背中を向けて歩くレガニドを見ていたアレックスは、何度も彼に助けられたことを思い出して、少し申し訳ない気持ちになる。

 

 少し経って、湯気の立つ褐色のお茶を陶器のカップに入れたレガニドが戻ってくる。

普段から酒を飲んでいるような彼にしては珍しくお洒落な物を飲むものだとアレックスが驚いた。

その顔を見たレガニドが、苦笑する。

 

「俺だって、同業者の身内が病で苦しんでるって時に、暢気に酒を飲んだりは出来ねえよ」

「………本当にすまないな……。気を遣わせたようで……」

 

 2つのマグカップの内、片方をアレックスの前に置いたレガニド。

代金を支払おうと懐を漁ったアレックスに対して、レガニドは苦笑して首を横に振った。

 

「―――――で、お前さんの怒りの理由は()()()()か?」

「―――――ははっ……お見通しか、流石は”黒”の冒険者だな」

 

「オイオイオイ、”銀”のお前に言われたら嫌味にしか聞こえねえぞって」

 

 ゆっくりと、マグカップを手に取ったアレックスは語り出す。

帝国の首都であった事を――――自分の思いの全てを吐露する。

 

「妹の治療費を稼ぐために……帝国の首都まで足を運んだ。あそこはハンター達が本拠点を置いてるからな……依頼なら何でもあると思っていたんだ―――――その考えが甘かった」

 

 ハンター以外はお断り。依頼受注の最低条件はハンターランク1以上。

帝国における冒険者の仕事の多くは、ハンターに取って代わられているのが現状だった。

森丘や樹海、大峡谷での鉱石や薬草採取なども、ハンターの仕事になっている。

 

 アレックスは仕事が見つからない事に焦りを隠せず、何でもいいから仕事はないものかと首都を歩いていた。そこへ身なりの良い子供が話しかけてきたのだ。

 

「親が魔物に襲われたから、襲った魔物を倒して欲しい――――――本来ならハンターがやる仕事を俺が引き受ける気になったのは、言わずとも分かるよな?………此処から先が滑稽の極みさ」

 

 アレックスは子供の話を真剣に聞いて、父親を喪った子供に同情して仕事を受けようとした。

ところが子供が言っていた敵討ちにはあるべき”報酬”がなかった。

元貴族で、生活が困窮しているというのは知っていた。それでも僅かな額でもいいから仕事を受けようとしたアレックスに対して、依頼主が支払うべきものが()()

 

「カッとなってよ……子供相手にキレちまったんだ「笑えねえ冗談だくそったれ!テメェら貴族は揃いも揃ってろくでなしか!?」―――――子供に言う事じゃねえって、分かってた筈なのによ」

 

「いや……そりゃあ子供(ガキ)が悪いだろうよ。……報酬がなきゃ俺達は動かねえさ」

 

 例えハンターより非力でも、神の使徒よりも天職やステータスに恵まれなくても、彼らは冒険者として仕事を引き受けて、衣食住の為に汗水流して働かなければならない。

働いた分だけ報酬があるから、冒険者はどんな仕事も引き受けられる。

報酬がないというのはそもそも依頼として成立していなかった。

 

「俺はさっさと子供から離れようとしたんだが……あいつは何を拘ったのか、俺にしがみついて、お父さんの仇を討ってくれと泣きながら頼んできた―――――妹の事も心配で俺はイライラしてて――――それで……子供を足蹴に……しちまった。俺っ………情けねえよなぁ……っ」

 

 涙声になるアレックスに対してレガニドは黙って話を聞いていた。

彼は知っていた。本当はアレックスが子供が好きな事を。冒険者という危険な仕事を続けていると、次第に表情が険しくなったり、荒々しい口調を使うようになるのは珍しい事じゃない。

 

 それでも妹の為に、人としてはまともでありたいと思いながらも、苛烈な鍛錬を積んで冒険者として実力をつけなければ稼げないと心を殺してきたアレックス。

彼が子供に手をあげるところなんて、レガニドには想像が出来ない。

 

 想像できないような光景を生み出してしまう程、アレックスの心中は荒んでいたのだろう。

敵討ちをしてやれない悔しさ、報酬がなかった事への怒り、病に苦しむ妹への心配、何よりも―――――子供を傷つけてしまった自分への憤りが、彼を苛んでいた。

 




 似たような仕事をする集団が2つあったら、依頼する人達は必ず優秀な方を選ぶ。
それは当たり前だけれど、選ばれなかった人達にも、物語はあってもいいと思う。
……ハッピーエンドか、バッドエンドか、それはまだ分からないけれど。

御存知とは思いますが、レガニドさんは原作に出てきた人です。
アレックスさんは名前も設定も本文書きながらパっと思いついて、生まれました。
原作でも黒と金は出てきたけれど、銀がいなかったので……。

感想、質問、ご指摘など待ってまーす!

初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)

  • 続編にして
  • このまま話数増やしてもいいんじゃね?
  • 打ち切りはヤメロォ!
  • もっと周りの話補完して♡
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。