畑山先生サイドの話になります。
幕間の物語 湖の街にて… と 幕間の物語 清水幸利の珍道中 の続きです。
愛子達がウルでの稲作を手伝い始めてから十日近くが経過した。
昼下がりのある日、愛子達が水を引いたばかりの田んぼの中に素足で入っていくのを、デビット達がハラハラした様子で見守っている。
神殿騎士として育った彼らにとって、素足で泥水の中に入るなど考えられない事なのだ。
しかし町の住人達に神の使徒の偉大さをと教会の権力を改めて町の住人達に知らしめる為、何よりも…ハジメの事を思って憂鬱な表情を浮かべてばかりの愛子が、稲作の手伝いをやっている時だけは、眩しい笑顔を浮かべているから。
「愛ちゃん~、こっちの田植え終わったよ~!」
「はーいっ!それじゃあ、いったん休憩を挟みましょー!相川君達も、いいですかー?」
「「「へーいっ」」」
愛子から少し離れたところで、稲の苗を植えていた妙子が声をかける。
泥まみれの手を、首にかけた手拭いで拭いてから愛子は彼女に返事をし、また別のところで田植えをしていた男子3人に声をかけた。
温かな陽射しの照りつける田んぼで、皆一様に額に汗を浮かべながら笑っていた。
(……うむ、泥にまみれようとも……愛子は美しい……お前らもそう思うだろう?)
固い表情……に見えて、口元はニヤけているウェーブのかかった金髪の神殿騎士。
デビットは町の住人達と楽し気に話す愛子を見て、更に頬を吊りあげて笑う。
声にはしない、心の声で周囲の警戒にあたる部下3人と目を合わせて会話をする。
(同感です、隊長。やはり愛子様は笑顔の似合う女性ですね)
(自分、隊長の恋路を応援しております)
(休憩に入った今こそ、優しく声をかけて気遣うのがベストな選択であると進言します)
ジェイドの言葉に頷いて、ぐっと握り拳をつくったデビット。
心の中で爽やかな笑顔を浮かべて愛子に話しかける自分をイメージする。
楽しく田植えを終えた愛子達の護衛をしていた自分がかける言葉の最適解を探す。
凡そ数秒の静止状態から抜け出して、意を決したデビットが声をかけようとした。
「――――愛子、お疲r「おーい、差し入れ持ってきたよーっ!!」クッ……!」
デビットの声を遮る女性の声に、住人達の表情が一段と明るくなる。
坂の下から片手で荷車を牽いているリンネと、風呂敷を両手に抱える優花、奈々が隣にいた。
悔しそうに顔を歪めるデビットに気づいて、男子3人が「ざまぁ」とこっそりニヤける。
「ウルの皆さん、デビットさん達も一緒に休憩にしましょうか!」
「あ、あぁ…そうだな!そう声をかけようと思っていたところだ、ハハハッ……」
愛子から話しかけて貰えたことは嬉しかったが、気遣いで好感度を上げる作戦が失敗に終わったことで、騎士達は一様にガックリと肩を落とした。
リンネが荷車の車輪に岩を置いて固定し、荷台から樽を降ろしている。
優花と奈々が持っている風呂敷から、焼いたばかりのパンの匂いがふわぁと広がった。
「うっひょーっ!腹減ったぁ!」
「ちょっと玉井君、みんなの分もあるんだから先走らないでよぉ!」
男子3人の中から一番に飛び出した淳史が風呂敷に手を伸ばそうとして、その手をぴしゃりと奈々に叩かれて止められる。集まってきた住人が笑ってそれを見つめていた。
平らな石の上に腰かけて、それを見守っていた愛子。
今度こそ!とデビットは手持ちの水筒を取り出して背後から歩み寄ろうとするが―――
樽の蓋を取っ払って、柄杓で水を回し飲みさせていたリンネが愛子の隣に座った。
初対面で彼女とあまり仲のよくなかったデビットは声をかけづらくなって立ち止まる。
「あっはっはっ、若い子は元気でいいねぇ~。―――ほい、お水」
「あっ…ありがとう御座います!リンネさん」
(ああああぁぁぁっ!!?私が先に渡そうと思っていたのにぃぃぃっ……。というかそれ住人達が回し飲みしていた柄杓ではないかあぁぁっ!?そんなものを愛子に渡すなどと―――)
デビットが渡し損ねて手に持ったままの水筒も、彼が直飲みしているものだから愛子に飲ませようとした時点で邪な考えがあったと思うのだが……。
そんな彼の心の叫びを知らず、愛子は柄杓に口をつけて一息に水を飲み干す。
「……んくっ……っはぁー!生き返りますねぇ」
(愛子ぉぉぉぉぉっ!!?)
「………そんで、後ろで物凄い顔したまま固まってる神殿騎士さんはどったの?」
ふぁさぁと髪を揺らしながら、肩越しに首を傾けて振り返るリンネ。
キョトンとした顔の愛子を見てハッと我に返ったデビットは咳払いを一つして誤魔化す。
「ん、ん”ん”っ!なに、周囲に魔物が来ないか見張っていたに過ぎんさ。私達神殿騎士は、愛子達の護衛を任されたと同時に、行く先の町や村の治安を守るのも仕事の内だからな!」
「ずっと見回りをしてくれましたからね……。ありがとう御座います、デビットさん」
「……ふ、ふふっ。礼の言葉を貰うほどの大したことはしていないさ、愛子」
胸を張って、リンネよりも自分達が強い立場であることを誇示しようとするデビット。
しかし彼女はどこ吹く風といった様子でニヤニヤ笑うだけ。
代わりに愛子が田植えの最中のデビット達を思い出して、座ったままで頭を下げる。
朗らかな笑みを含めた感謝の言葉に、思わずデビットは鼻の穴を大きくしてニヤけそうになった。
「―――――よいしょ。アタシは他の人達んところに声かけてくるわ」
「分かりました、リンネさん」
片手でポンポンと脚絆の汚れを払って立ち上がるリンネ。
愛子の視線が自分から逸れたのを知って、眉間に皺を寄せてリンネを睨むデビット。
わざわざデビットの脇を通り抜けていこうとしたリンネは通り過ぎる刹那――――
「その恋、叶うといいね」
「んなっ!!!?」
笑みを浮かべて一言告げたリンネは、手をひらひら振って歩き去っていく。
顔を赤くしたデビットは怒ろうと拳を振り上げるが――――
座ったままの愛子がキョトンとした顔で見つめているのに気が付いて、寸でのところで止まる。
「――――ま、まったく!あの女は……」
「………?」
*
「はい、どうぞ」
「おぉ……ありがとう、お嬢ちゃん」
田植えを負えて、汚れた体を拭いて来た住人の最後の1人にパンを手渡す優花。
感謝される事で心の中に温かみを感じながら、山の方から吹きつける風に目を細める。
「……田植えに適した時期の筈なのに、風は冷たいんですね」
「……昔はもっと温かい土地だったんだけどねぇ。
「……あの出来事……?」
首を傾げる優花に対して、住人はしまったという顔を浮かべて、慌てて下を向いた。
だが下を向く一瞬、住人の視線が田んぼの周りを歩き回って、住人達1人1人に声をかけるリンネに向けられていたのを、優花は見逃さなかった。
そして……吹いた風に揺れる腕のない服の袖を見て、何となく察する。
(きっとリンネさんが腕を失ったことに、関係あることなんだ……)
荒野でドスジャギィをあっさりと瀕死に追い込み、その後の道中襲い掛かってきたモンスターを軽く捻って返り討ちにしたリンネの強さ……恐らくはその
優花が出会ってきた人の中で、一番強いと思った彼女が大怪我をし、その事がきっかけで町の住人達が彼女を気遣うようになった出来事を、優花は知りたいと思わずにはいられなかった。
……しかし、悲しそうな顔をする住人を見たら、その好奇心より罪悪感が上回った。
気分を切り替えようと、優花は周囲の景色に目を向けようとして―――――
「……あれ……?」
田んぼの広がる大地の端、針葉樹に続く坂道を馬に乗った集団が上っていくのが見えた。
茶色い毛並みの馬の中で、一頭だけ白い馬が目立ち、それに乗る人物も集団から浮いている。
(……貴族の人なのかな…?見た感じ、私達と年齢はそんなに変わらなそうだけど……)
金髪を短く切り揃えた、精悍な顔つきで身なりの良い青年。
彼を守るようにして、周りの馬に跨る武器を持った屈強そうな男達が周囲を警戒していた。
優花は彼らの向かう先が、危険だと言われている山岳方面で、慌ててリンネに声をかける。
「リンネさんっ。あの人達――――」
「ん~?……あーアレね。商業都市フューレンから来た冒険者達だよ。悪い事は言わないから止めておけってギルド伝手に忠告したってのに……モンスター退治をしたいって、勇敢な貴族の坊ちゃんが山の方まで足を運ぶんだとさ」
「それは―――――」
「貴族の子息にしては殊勝な心掛けではありませんか」
休憩は終わりだと言わんばかりに田んぼの周りに散っていた騎士の1人、チェイスが感心する。
しかし優花は無茶だと思った。幾ら屈強な冒険者であろうと、あんな化物達に挑むなど無謀だ。
無理矢理にでも止めるべきではないのかと愛子が心配そうにリンネへ視線を送るが―――――
「言っても聞かない奴に、差し伸べる手は………生憎持ち合わせてないんでねェ……」
彼女の言葉を聞いて、誰も何も言い返す事は出来なかった。
住人達ですら、徐々に見えなくなっていく冒険者たちの一団を哀れみの目で見送っている。
優花は嫌な気持ちになって、冒険者たちの集団から目を逸らそうとして…ふと気づく。
固まって歩く馬の中で、一頭だけ小柄で操作が覚束ない者が最後尾にいた。
「……あれも冒険者……なのかな?」
しかし冒険者が馬も満足に操れないとはどういう事なのだろう。
フードを被って顔の見えないその小柄な馬に跨る者へ、優花は疑惑の目を向けた。
その時、山から吹きつける風が、一段強く吹いた。
「―――――キャッ」
「うぉっ!?俺のパンーーー!」
「待てぇっ昇!そっちは水引いたばかりの田んぼ―――」
スカートを履いていた奈々が、中が見えそうになって慌ててそれを抑える。
膝の上にのっけていたパンが転がっていき、男子達が騒がしくパンを追いかけた。
デビット達ですら予想しなかった風の強さに目を瞑ってしまうが―――――
「……今のって………清水……?」
風が吹いた一瞬、フードを被っていた者の素顔が露わになったのを優花は見た。
彼女が見間違える筈もない。そのフードの人物は、クラスメイトの男子…清水だった。
しかし、彼女の記憶が正しければ、彼は光輝達と共にホルアドにいた筈。
妙な胸騒ぎを覚えた優花は、誰にも何も告げずに冒険者の集団を追った。
その中で……風に乗って運ばれた臭いに妙な違和感を覚えたリンネの表情が硬くなる。
スンスンと鼻を鳴らして周囲の臭いを嗅ぎ、耳が拾う音を聞き分ける為に目を閉じて集中。
優花が冒険者達を追いかけたのに気づいて……嫌そうな顔で、それに続く。
「……こういう時の嫌な予感って……気持ち悪いくらい、当たっちゃうのよね」
少し前の感想にあったんですが、長文での考察や意見等はかなり嬉しいです。
感想の返信にも書きましたが、作者の悪い癖で…今回の本文のように勢いで書いて投稿することがあるので、後から設定のズレみたいなのがチラホラ見受けられます。
そういったものに、読者の方から指摘を頂けるとかなり励みになるので……
返信がいつも投稿後になっていますが、一日に3,4回は確認してたりします;
感想、質問、ご指摘等随時たくさんお待ちしてまります!
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡