モンスターハンター・トータス   作:綴れば名無し

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幕間の物語 清水幸利の珍道中・商業都市編と田植えと恋路と胸騒ぎの続きになります。
今回も原作に名前だけ出た人が出てきます。



幕間の物語 清水幸利の珍道中・湖の街編

 

 商業都市フューレンから出て何日くらいか経った。

荷馬車の外に出る事は滅多にないが、吹き込む風が冷たくなったのを感じる。

俺が身体をブルリと震わせると、垂れ幕の外から毛皮が投げ込まれた。

 

「わっと…!?」

「この先は冷える。それを着ておけ」

 

 …驚いた。道中一度も喋らなかった御者の男が俺に声をかけてきた。

俺は何度か口をパクパクさせて、小声で「ありがとう…」とだけ返す。

ごわごわの茶色い毛皮は、明らかに普通の動物から獲れるようなものじゃない。

……多分だけど、魔物の毛皮なんだろうな。

 

 コートのように後ろから羽織ると、その温かさに驚いた。

外から吹き付ける冷風が嘘みたいに、内から暖かくなっている。

 

「あと少しで湖の街に着く。…お前がどう立ち振る舞うかは、そこの指示書に目を通せ」

 

「……あ、あぁ。分かったよ」

 

 御者の言葉に一言返して、目の前にある木箱の上に置かれた羊皮紙を広げる。

そこにはホルアドで会ったあの魔人族の女の人、カトレアさんからの言葉が書いてあった。

湖の街ウルは王国最南端の居住区であり、その先にある山脈とシュネー雪原を越えて、目的地のガーランドに到着するらしい。

 

 俺の胸は高鳴った。ようやく狭苦しい荷馬車生活とお別れなのか……!

そして、俺が必要とされる。俺にとって新しい異世界での生活が幕を開けるんだ。

思わずニヤけてしまう口元を手で覆い、続きを読む。

 

「ウルで荷馬車を下りて、協力者であるフリートホーフの冒険者達と合流。それから俺は駆け出し冒険者の1人で闇術師をやっているという(てい)で彼らに同行……こりゃ、楽勝だな」

 

 自慢じゃないが、アニメやゲームで見て培ってきた俺の演技力は人より上手い。

元々の顔立ちや体格のせいで演じる役柄には限界があるものの、この程度ならお茶の子さいさい。

この時の俺は……まさか、()()()()()になるなんて思いもしなかった。

 

 

「―――――確認しました、遠いところからご苦労様です」

「いえ……それでは、この辺で」

 

「はい。帰りの道中、貴方達に神エヒトの御加護があらんことを―――」

 

 湖の街で一番の宿と言われている水妖精の宿、そこのオーナー・フォスが頭を下げた。

荷下ろしの最中にこっそりと毛皮から冒険者用の外套に着替えた俺は馬車を離れる。

御者はフォスに頭を下げながら、身を潜める俺にチラと視線を送った。

 

 俺は感謝の意を込めて、強く頷きを返して冒険者ギルドへと向かう。

道行く人は俺を見ても、偽の冒険者プレートを見て「あぁ」と納得して通り過ぎた。

しかし油断は出来ない。何処に誰の目があるか分からないと、俺は外套についたフードを被る。

 

 

 

「あぁ!貴方が依頼で来てくれた冒険者の最後の方ですねっ」

 

(―――ッ!?……あぁ、俺のことか)

 

 冒険者ギルドの入り口で、白い馬の世話をしていた金髪の青年が声をかけてきた。

俺はビクッと肩を震わせて周囲を見回し、何事もなかったかのように平静を装う。

平常心、平常心だ俺……ビィー・クゥール……!

 

「そうだ。…アンタが依頼人か?」

「申し遅れました。私が今回の魔物討伐の依頼人”ウィル・クデタ”です。道中の護衛と魔物討伐の支援、宜しくお願いします!」

 

 差し出された手と、屈託ない笑顔を見て確信した。こいつは僕が苦手とする典型的な奴だ。

温室育ち、何一つ不自由ない暮らしの中で馬鹿々々しい正義感とやらが芽生え、命知らずにも魔物を倒して武功を上げようとか考えてる……後ろに控える冒険者も一部が呆れて笑っていた。

 

(こんな奴らを助けるために、俺は召喚されたっていうのか―――――!)

 

 そう思うと怒りで腸が煮えくり返る思いだが、今は我慢しなければならない…!

差し出された手を軽く握り返して、再びフードを深く被り直して指定された馬に跨る。

……正直、馬の扱いなんて初めてだから不安しかないんだが……。

僕の思っていることを予想でもしていたのか、冒険者の1人が小声で告げた。

 

「安心しろ坊主。その馬はよほど強く叩かない限り、急に走ったり暴れたりしないように徹底的に調教してあっからよ。お前は一番後ろからついてくりゃいい」

 

「……あぁ……」

 

 そのついて来るのも精一杯なんだけど……とは言えず、軽く頷いて返すしか出来ない。

ウィルと冒険者のリーダー格らしい男が打ち合わせを終えた。

馬の背に跨り、軽く腹を足で蹴ると前に歩き出す。

…これ、チンポジ気をつけないと揺れる度に玉がヤバい事になるんじゃ…?

 

 俺の嫌な予感は当たり、坂道に差し掛かってからは股間の息子を鞍に何度も強打する。

悶絶して声をあげたいのを堪えながら、前を行く冒険者達と依頼主についていく。

 

 強く吹いた風にフードを飛ばされて顔が露わになるが、落ち着いてそれを戻す。

……フードを被り直す瞬間、視界の端に誰かいたような気がするが……気のせいだろう。

今はとにかく集中…!……此処を、この場を凌げば……俺はっ。

 

 

「―――――ちょ、ちょっと待って!と、止まって……!」

 

(………は!?この声って…。なんで()()()が此処にいるんだよ…!)

 

「……ん?誰か来ますね」

「女の子だ」

「ヒュウ、結構可愛い子じゃん」

 

 針葉樹の道なき道を進んでいた俺の背後から誰かが声をかけてきた。

その声に聞き覚えがあった俺の背筋に電流のような衝撃が走り、次第に動悸が激しくなる。

 

 俺の動揺など知らず、単純な顔で追いかけて来るアイツを見る一行。

冒険者達は下卑た笑みを浮かべて、アイツの体を嘗め回すように眺めていた。

……普段から顔を合わせてる俺からすれば普通くらいのアイツの何処がいいのか分からない。

或いは性的趣向がそっち方面に特化しているのかもしれないな。

未成熟な奴の何処がいいのか理解に苦しむ。成熟した魅力あふれる大人の女こそ正義だろ常考。

 

「どうしますリーダー。一度止まりますか?」

「……まぁ、いいんじゃねえか?」

 

「――――あぁ。()()()()()()()俺達が何とかするさ」

 

(……こいつ等、場合によっちゃアイツを殺すのか……?)

 

 考えるだけで恐ろしい。だが、アイツが追いかけて来た理由なんて俺以外にないだろう。

さっきフードが外れた時、誰かに見られていたと思ったが……まさかアイツがいるなんてな。

…つまり、アイツと一緒にいた奴らも、先生も此処に居るって事か。

クソっ!此処まで来ても、俺の邪魔をするっていうのかよ!!

 

 

「ハァッ、ハァッ……!―――あ、あの。後ろの…貴方に、聞きたいんですが!」

 

「……何か?」

 

 返事をしないと余計に怪しまれると思った俺は、出来るだけ裏声でそっけなく返事をする。

フードで隠れた顔を見られないようにしていると…アイツが、園部が近づいて来た。

冒険者の何人かが、懐をゴソゴソと漁っている。

 

「―――――やっぱり、貴方……いえ、アンタよね()()

 

「………」

 

 次の瞬間、冒険者の1人が短剣を腰から抜いて―――――

 

―――グギャアァァッ!

 

 一頭の白い鱗が生えた、恐竜のような見た目の魔物が草むらから飛び出してきた。

まるでポケモンの唐突なエンカウントみたいだなとか思った俺がいる。

 

「なっ!?」「ま、魔物ッ」

「キャッ―――」

 

「……ッ!!」

 

 驚いて、冒険者は園部に向けていた短剣の先を魔物へと変える。

園部は自分が短剣を向けられそうになったことにも気づいていない。

魔物が突然現れたことに驚いて、その場で尻もちをついていた。

 

(今だ――――――!)

 

「……俺が囮になる!皆は依頼人を守れッ!」

 

 思い切り馬の腹を蹴飛ばしたら、甲高い嘶きを上げて走り出した。

俺を制止しようと手を伸ばすウィルを無視して、森の奥深くまで逃げる。

上手くやった!そう思って振り返って――――俺は唖然とした。

 

「ま、って!!何で逃げる、のよっ!!」

 

「おま、え……何をしてんだよ手ぇ離せっ!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

下手をすれば馬の後ろ足に身体を蹴られるかもしれないのに、鞍を握る手を緩めず、必死の表情で俺についてきたのだ。

動揺が隠せず、俺は演技する事も忘れて怒鳴る。

 

「離せ園部!!お前、そのままだと怪我じゃ済まないんだぞっ!」

「離す…訳、ないでしょっ!!何でアンタが此処にいるのか、聞かなきゃ…ッ!」

 

「それはこっちの台詞だ!!―――いいから、さっさと離れろよッ」

「嫌…よ…!クラスメイトが二人もいなくなるとか、愛ちゃんが悲しむ…でしょうがっ!」

 

「そっちの事情なんて知らねぇよ!!こうなったら――――」

 

 人殺しになるかもしれない、そんなリスクも考えずに足で園部の手を蹴ろうとした。

それが悪手だった。園部を蹴り落とそうとすることに意識を削いだ俺は、馬の行く先を操る手綱を握る手を緩めてしまった……。再び馬が嘶く。

 

「うわっ!?」

「きゃあぁぁぁっ―――――」

 

 自分の体がぐらりと揺れて、宙に放り出される浮遊感に包まれたと思ったら…地面に叩きつけられる衝撃と共に、痛みで意識が飛びそうになった。

俺が落ちた時に園部も握る手が限界だったのか、地面をゴロゴロと転がっている。

 

 馬は砂煙を上げて、何処かへと走り去ってしまった。

何度も地面の上をバウンドして、額から熱いものが流れるのに気づく。

()()()だ。……馬から落ちたんだから、当然か……そりゃあ痛い筈だ、血も出る筈だ。

 

「……あ、ぐ……がぁ……!お…っ」

 

 言葉にならない呻き声をあげながら立ち上がれたのは俺の執念だろう。

今は痛みに悶絶している場合じゃない、園部から逃げなくては――――!

 

「……って…!待ち、なさいよっ…!」

 

(……コイツ、まだっ!?)

 

 流れ落ちた血で視界が赤く染まった。

その背後から聞こえる声に振り返ると、腕があり得ない方向に曲がった園部が這いずりながらこっちに向かってきていた。……ゾンビかお前はっ!?

 

「う、るせぇ……!お、れに……関わる、なっ!」

「小学生みたいな、我儘ッ……言ってんじゃない、わよ…!ぁ、ぐっ!!―――アンタが何をするのも……アンタの勝手かもしれないけどね……!それで愛ちゃんが…私達の大切な先生が悲しむなら、見逃す訳には……いかないの、よっ!」

 

 お互いに満身創痍での追いかけっこにならない追いかけっこ。

血まみれで息も絶え絶えの俺が四つん這いで逃げ、這いずる園部が片手で地面を掴みながら追う。

何時までもこんな状況が続けば、襲ってきた魔物に食い殺されるかもしれない…怖かった。

 

 けれど何よりも……()()()()()()()()()()()()()。それが一番嫌だった。

もう痛いのは嫌だ、苦しいのは嫌だ、辛いのは嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ―――――

 

「……だ、れか……た、すけ――――」

 

 

「―――――全く、様子を見に来てみりゃ…随分と情けねえ恰好になりやがって」

 

 

(……ッ!)

 

 別方向から掛かる声。それを聞いた瞬間、園部以外の誰かが追ってきたのかと警戒する。

それと同時に、口調こそ違っているが……その声は誰かに似ている気がした。

顔を上げると……魔人族特有の黒い肌に赤い瞳、金髪の男が木の上に立っていた。

カトレアさん以外で初めて見たその男の声音は……()()()()にそっくりだった。

 

「……あんた…は――――ゲホッゴホッ!」

「あぁ~喋るな喋るな。お前、見ただけで肋骨の2,3本は逝ってんだぞ?馬車の旅といい…よくもまぁ、お前みたいな()()()が執念だけで、そこまで生きられるもんだ―――よっと」

 

 男は軽い口調で地面に降り立ち、俺の目の前に小瓶を置いた。

緑色の怪しげな液体が入ったそれを見て…味方である筈の男から渡されたそれを毒物か何かと勘違いしてしまい、思わず顔を顰めてしまった。

 

「安心しろガキんちょ。そいつぁ俺が商人のフリしてた時に帝国の奴らから拝借したもんだ。一口飲めば、たちまちどんな傷も治っちまうっつーくっそ便利な代物だ」

 

「―――――ぐっ、んっ……!?」

 

 言われた通り、意を決して小瓶のそれを口に含むと……薬草のような苦味とキノコのような青臭さに混じって、懐かしいハチミツの甘味が口の中に広がった。

飲み込むと、次第に体が熱を帯びていき……傷口の周りに一瞬だけ痒みが走る。

……不思議と、体の痛みが取れていた。

 

「……マジかよ……」

「マジもマジ、大マジよ。ウケるよなそれ、そんなものを使って魔物をぶっ倒しちまうやべー奴らが帝国にはウジャウジャいるんだぜ?――――()()()()だぜ、ったくよ」

 

 ……この男の、このノリの軽い口調は素なのだろうか?

というかしれっと商人のフリって言ってたし……こいつは、あの御者なのか。

道中碌に口を開かず、最後に毛皮を投げ渡してくれた……似ても似つかない。

 

「おっ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか思ってるな」

 

(――――ッ、こいつ……いま、俺の心を……!?)

 

「おうよ、俺様の技能”透視”の前じゃ隠し事なんて無駄無駄ぁってな?―――あぁ、一応言っておくけど、俺の素はこっちだから。御者のありゃフリだフリ。演技クソだるかったわー……」

 

 聞いたこともない技能をあっさりと口にして、1人大仰なリアクションを繰り返す男。

後ろで意識が朦朧している園部の存在に、ようやく男は意識を向けた。

 

「さあてと……目撃者及び邪魔者は消せっつー隊長殿の御命令だ。……俺的には好みドストライクな娘だから、お持ち帰りと洒落込みたいんだが――――――わりぃな」

 

 指をゴキゴキ鳴らして、園部の前に立った男はスッと手刀を構える。

一瞬だけ心の中で迷いが生じた。…何も殺す必要はないんじゃないか。

俺がガーランドに逃げ切ればいいだけなら、その辺に縛って放置しておくだけでいい筈だ。

 

……だけど、俺にそんな我儘を言う権利がないことを知っている。

何よりも……俺を追ってきた園部が悪いんだ……。

余計な事に首突っ込んでなきゃ……今頃、天之河の奴らと勇者ごっこが出来たのによ。

……クラスメイトの死から目を逸らしたくて、俺は目を瞑る。

 

 

()()()()で待っててくれりゃ、こっちから会いに――――――ッ!!?」

 

 

 手刀が振り下ろされる瞬間、殺気を感じた男は後ろへと飛び退く。

次の瞬間、男が立っていた場所に一本の短剣が突き刺さっていた。

ビィィンと震える短剣の飛んできた方から、凛とした声が響き渡る。

 

「まったく……魔人族ってのは、節操がないのねぇ。こんな子供まで手にかけるなんて…さ!」

「ありゃりゃ()()()()()()()()()が、向こうから来ちまったか」

 

(……女……?)

 

 長い髪に黒い角のような髪飾り、服装は町の住民のそれだが……。

女の目つきは刃物のように鋭く、魔人族の男を射抜かんとしている。

男は飄々とした調子を崩す事なく、女に話しかけた。

 

「ウルの町の用心棒、最強と謳われた元ハンターのリンネ・ユキト。わりぃが今お前とやりあってる余裕がないんだ。……見逃しちゃくれないかねぇ?…ほら、ハンターは人を傷つけたら―――」

 

「アタシがハンターだったら、それもアリだと思うけどねぇ。()()()()()()()()()()()()()()

武器を使わなきゃ、素手でもアンタ1人を殺す事くらい出来るよ?()()サマ」

 

 ぞわっと肌に寒気が走る。

目の前の女、リンネから放たれる威圧感が、男の近くにいる俺にまで当たった。

一触即発の空気の中で……俺は自分が無事にガーランドへ逃げ切れることだけを祈る。

 

(…………っていうか………魔王……って!?)

 

 





肩書だけで圧倒的強者感出す奴ら。
ハンターでなければセーフとかいうけど……リンネさんはどうするのか……?
そろそろ清水君の短い旅も終わりに近づいてきました。
後は……そうですね、魔人族側で頑張って貰いましょう。

感想、質問、ご指摘などお待ちしております!

初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)

  • 続編にして
  • このまま話数増やしてもいいんじゃね?
  • 打ち切りはヤメロォ!
  • もっと周りの話補完して♡
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