前回の話 その男、魔王であり最強 の続きになります。
これで愛ちゃんサイドの話は少し止まるかもしれません。
清水君の話を書こうとか考えつつ、勇者君達が空気なことに気づいた作者。
……まぁ、いいか…!(望まれたら、即興で書くかも?)
「―――――遅いなぁ優花っち」
田植えを終えた女子生徒、妙子がぼんやりと森の方を見続けて言った。
五分か十分ほど前のこと。突然、彼女のところへ優花が荷物を押し付けてきたのが始まり。
「ちょっと用事が出来たから、アタシ行くね!荷物お願いッ」
「―――って言われて帰りを待ってるんだけど……いつ帰ってくるのかなぁ」
「まぁ優花っちはアンタや私と違ってしっかりしてるし。すぐに帰ってくるでしょ」
「あ、言っちゃあいけないことを言ったな?許さんぞ奈々~」
傍らで泥で汚れた手のケアをしていた奈々を見上げて笑いながら抱き着く妙子。
背後に回り込んで両手で脇腹を鷲掴み、トータスに来る前より少しついた贅肉を摘まむ。
「やっ、こらッ妙ッ。あんっ♡くすぐったいったら!」
「うりうり~宿で美味い飯をたらふく食って肥えたのはこの脇腹か~?それとも胸か~?」
「やめてったらぁ!」
女子二人が仲睦まじく戯れているのを遠目に眺めて、内心「俺らも混ざりてぇ…」とか考えてる淳史、明人、昇の三人は、田植えで疲れた腰をトントンと叩いていた。
愛子は田んぼの管理をしている町の住人と、この後の段取りを確認している。
デビット達も食事を終えて、長閑な作業の中で見回りをしながらも欠伸を噛み殺す。
そんな時だった。
森の方に近いところで作業をしていた町人が悲鳴を上げたのは。
「り、リンネちゃん!!!それに使徒様もっ!?」
その声にバッと顔を上げた愛子は、見えてきたものに目を見開いて言葉を失った。
口から血をダラダラと零しながら優花を背負い、泥と血に塗れたリンネが歩いてくる。
「り、リンネさんっ!園部さんっ!」
「優花っち!?」「優花ッ」
「そ、園部っ!」「ち、血がっ!?」「おい、大丈夫か!」
愛子、妙子、奈々、淳史、明人、昇の順に声をあげて2人に駆け寄った。
リンネは介抱しようと駆け寄ってくる町人と6人に声を張り上げる。
「触るなッ、毒だ!!――――ッグ!?ごほっ、がはっ…」
残り数メートルの距離で踏み止まった町人と6人。
デビット達も声を聞いて駆けつけてきた。
痛々しいリンネの姿に、後ろで気を失い苦しそうにしている優花を見て青褪める。
「こ、こんな――――クッ!!何があった狩人!何をしていたッ!!」
「デビットさんっ、今は説明を求めるよりも彼女達をっ!」
「そうよ!医者のところに連れて行かないと!!」
「優花っ、優花!?返事しなさいよ、ねえっ!」
「ま、まさか魔物が…?」
「嘘だろ。あんなに強かったリンネさんが?」
「こんな町の近くに出て来るなんて―――」
詰め寄ろうとするデビットに非難の声をあげる愛子と女子二人。
混乱して憶測で物を言い出す男子三人に町人たちの顔色が不安に染まっていく。
リンネは咳き込んで口の中に溜まった血の混じった唾液をベッと吐いて言う。
「…魔人族よ…。けど、奴は山脈の方に飛んでいった。――――アタシは状況、よく呑み込めなかったけど……園部ちゃんと同じ年くらいの男の子が、その魔人族と一緒に――――」
(同じ年くらいの男の子………まさかっ!?)
愛子の脳裏に過ぎったのはいなくなったハジメの姿だった。
どういう経緯か分からないが、優花が森に向かったのはハジメの姿を見かけたからだと、そう考えてリンネに聞こうとする愛子に……僅かだが意識を取り戻した優花が告げる。
「愛…ちゃん…。いた、のは……南雲…じゃな、かっ…―――清、水―――あ、たし…とめられな――――――――ぐっ!?う、ぅげえぇえぇぇぇっ……」
必死に掠れた声で見たものを告げた優花は口から大量の血を吐いた。
それは新緑の芽吹く地面を赤く染めて、リンネの防具も朱に染める。
異常な苦しみ方と共に暫く血を吐いていた優花は再び意識を失った。
「園部さんっ!!今は喋らないでッ、安静に―――」
「ちょっと誰かっ、担架か何か持って来なさいよっ」
「いやぁっ、優花!死なないでぇっ!」
「な、何で清水が此処にいるんだよ!」
「そんなの、南雲の奴みたいに逃げたからに決まって―――」
「けど!それじゃあ何で魔人族と一緒に―――」
「―――兎に…角…。今は、道…開けて……医者のところに!」
自分も毒に侵されて、相当に苦しい筈のリンネは息遣いを荒くしながら、誰よりも早く…それでいて背負った優花の体を揺らさないように気を遣いながら、医者のいる町の建物目指して小走りで進んでいった。
動揺の広がる田んぼに取り残された町人たちを見て、デビットは素早く指示を飛ばす。
「落ち着けッ、此処からは我ら神殿騎士が周囲の警戒に当たる!町人はそれぞれの建物に戻って、不急の外出は控えろと町人全員に伝えよ!…チェイス、お前は早馬を走らせて山岳の関所を見て来い。関所が破られた形跡がなければ、万が一に備えて関所の兵の一部を町の見回り等に回す必要がある。ジョシュア、ジェイドの両名は神の使徒から清水という名前の男子がいなくなったかの真偽を、ホルアドに滞在しているメルド・ロギンスへ確認を取りに向かうんだ。―――この場の見回りは私が引き受ける!」
「隊長……。―――了解ですッ」
「メルド・ロギンスへの報告を終えた後は、増援を教会に要請します!」
「決して、ご無理をなさらないでください!」
それぞれ散っていく部下たちを見送って、デビットは腰の剣を抜いた。
…しかし、陽に煌く刃に瞳を照らされて…脳裏に過ぎったのは荒野での無力だった自分の姿。
自分を圧倒した魔物を容易く退けたリンネが、手も足も出なかった正体不明の魔人族。
仮にそれと自分が相対することになったとして…自分は五体満足に生きて帰れるだろうか?
「デビットさん……」
彼の背後では、リンネと優花を心配そうに見つめながらも…この場に残るべきか迷っている愛子がいた。デビットは、私情込みなら自分の傍らで愛子の身の安全を守りたいと思っている。
しかし……今は自分よりも、傍にいてやらねばならない瀕死の少女がいるだろう。
「行ってやれ愛子。毒に身体を侵されて、触れる事は叶わずとも……
「――――ッ、はいっ」
「―――君達も、大事な友人を…見守ってやるんだッ」
最後にデビットが声をかけたのは、どうすればいいか慌てていた妙子達だった。
彼ら彼女らは愛子がリンネの向かった方へと駆け出したのを見て、デビットの言葉に背中を押されて、強く頷き返してから後を追いかける。そんな6人の姿を見送って、フッと微笑んだデビット。
「狩人に代わり、神に選ばれた神殿騎士の隊長…このデビット・ザーラーが!!ウルの町と神の使徒、愛する者全てをを守ってみせるとも!!」
そう叫んで、デビットは田んぼの近くに備蓄されていた火打石を使って松明を作製し始める。
昼間から魔物に効果があるかは微妙だが、燃え盛る松明を田んぼの周りに並べることで森から魔物が町に近付こうとするのを防ぐ考えだった。
小さな音を立てて空に舞い上がる火の粉。
空は不穏な空気に合わせたかのように、灰色の雲が青い空を覆い隠そうとしていた。
*
「―――ぁ、ぐ、ぅぅ……!」
ベッドの上で藻掻き苦しむ優花は、土気色の肌をしていた。
医者の男は口や手を布で覆った状態で吐き零した血を拭きながら容態を診ている。
部屋の外で、到着した愛子が急いで湯を沸かし、妙子と奈々が綺麗な布を家中からかき集めていた。男子三人は事情を説明する為に水妖精の宿のオーナー、フォスの下へと向かっていた。
ベッドに優花を寝かせたリンネはというと、診察の順番を優花が最優先であると言い放ち、男子三人に走り書きのメモを手渡して「これをフォスに見せて」と伝えてから、隣の部屋に籠って時折苦しそうに咳き込む声を出していた。
「医師さんッ、お湯持ってきました!」
「そこの机に置いてくれ!それから汚れた布の処分を頼むッ」
「はいっ」
程なくして男子三人はフォスを連れて戻ってきた。
フォスは額に脂汗を浮かべ、憔悴しきった様子でリンネの姿を探す。
彼らが走ってくる音を聞きつけたリンネが、優花のいる部屋に入る。
「―――や、フォス……ちょっと、無理しちゃった……ケホッケホッ!」
「オーナー!!貴女という人はッ……兎に角、これを…!」
「ん……アタシより、先に優花ちゃんに……」
フォスが持ってきた鞄から取り出したのは、青紫色の怪しげな色の液体が詰まった瓶だった。
忙しさでリアクションすることも出来なかった女子二人と男子三人も、流石にそれを見て呻く。
中身が何かも分からないものを、優花に飲ませようというのか?
医者はそれが何なのか分かっているのか、急いでフォスから瓶を受け取り。
その蓋を開けてから、綺麗な布を瓶に突っ込んで染み込ませると、ぜぃぜぃと苦しそうにしている優花の口に移して飲ませた。
「―――フォスさん……あの、瓶の中身は一体……?」
「ハンターが使う、”解毒薬”だとオーナーから聞いております。魔物が持つ危険な毒も、あれを飲めばたちまち治って…ハンターは戦えるようになるのだと……」
「……解説どーも。……それじゃ、もう一本の方を、頂戴……」
先ほど田んぼで咳き込んでいた時よりも、幾分か表情が和らいだ様子のリンネ。
二本目の解毒薬を鞄から取り出したフォスからそれを受け取り、一息に飲み干す。
次第に肩で息をしていたリンネの顔色は良くなり、咳もしなくなっていた。
瓶の中身、最後の一滴まで舌で舐め取ったリンネは呟く。
「――――ぉぇ……何年経っても、この苦さだけは慣れないわ……」
「リ、リンネさんっ。……もう、大丈夫なんですか!?」
「えぇ…。血を吐いたり色々衝撃的だったかもしれないけど、先生さん達が心配するくらいの見た目ほど重傷じゃないわ。……
空になった瓶を防具のポケットにしまったリンネはゆっくりと立ち上がる。
彼女の言葉を聞いて首を傾げた愛子は、ベッドの上でまだ苦しそうにしている優花を見て気づく。
心配そうに見守っていた妙子が声をあげる。
「ど、どうして!?同じ解毒薬を飲んだのに、優花っち全然治ってるように見えないよ!」
「……あのド外道女たらし―――っと、これは私情だったね……―――アタシ達に毒を食らわせた魔人族曰く、ハンターとしてある程度の毒に耐性を持つアタシなら、毒を解毒薬で完全に解毒することは容易く出来る。―――けど園部ちゃんは別」
「で、でも!解毒薬は魔物の毒なら効果があるって…!」
「只の毒なら、確かに解毒薬で普通の人でも治せるでしょうね。……けど、奴がアタシ達に食らわせた毒は、多分モンスターの持つ複数種類の毒を混ぜた特殊なもの……。だから園部ちゃんに解毒薬を投与しても、毒の進行を遅らせることしか出来ない」
リンネはあの魔人族、アダムが樹海なら治す方法があるという言葉から、使用された毒が樹海に生息するモンスターのものであると考えていた。
フロギィ、ゲリョス、プケプケ、イャンガルルガ、リオレイア、ギギネブラ、ビシュテンゴ、エスピナス、ロアルドロス亜種、トビカガチ亜種、ガブラス―――――数えたらキリがない。
毒を食らって暫くの間、身動きがとり辛かったことから、麻痺等の可能性も考えられる。
「そんなの……どうすれば……」
「優花っち……!ヤダよ、死んじゃやだぁっ!!」
「方法があるんでしょ!?何か、何か方法が!」
「その魔人族をとっ捕まえて、解毒の方法を―――」
「とっ捕まえるなんて無茶言うなよ!第一、何処を探すんだよ!」
「じゃあお前は園部がこのまま死ぬのを黙ってみてるのかよ!?」
絶望に染まった表情で、地面にへたり込む愛子。
泣き崩れそうになる妙子を支えながら訴えかける奈々の目にも涙が浮かんでいる。
こうなった原因である魔人族に怒りを募らせて拳を握り締める淳史。
それを諫める明人に、八つ当たりする昇。
騒がしくなる部屋の中で、リンネは壁に寄り掛かって優花の容態を見つめていた。
第一前提としてモンスターの毒だけという考え方から改めることも視野に入れる。
樹海ならモンスターだけでなくとも、人の命くらい奪える毒はそこら中にあった。
毒テングダケ、混沌茸、ドキドキノコ、オオマヒシメジ、マヒダケ、マンドラゴラ等―――
自然にあるものならドクカズラも危険な毒を内に溜め込んでいる。
それらの状態異常を治せる可能性を秘めて、治癒力に特化した森の素材。
幾つかの候補を頭の中に浮かべて、リンネはある結論に至った。
「―――先生さん。毒を食らわせた魔人族はこう言っていた。
「…樹海?」
「っそ。此処からライセンの荒野まで戻って、西に向かった先の帝国領に含まれてる亜人族の住むハルツィナ樹海。そこなら園部ちゃんを助けられるかもしれない」
「―――ッ!じゃあすぐにでも―――」
「待ってよ先生!そこまで行くってことは、またあの危ない魔物が沢山いる荒野を、病人の優花っちを守りながら行かなきゃいけないんだよ!?」
「でもっ、優花っちが助かる可能性があるなら!」
「話は最後まで聞いて。―――確かに、皆を連れて魔物から守りながら進むってなると何日も―――下手すりゃ一週間以上はかかるだろうね。そうなったら優花ちゃんは確実に死んでる」
「そんな……!」
「―――けど、
手紙のやり取りもしなくなって久しいが、あの飄々とした男なら力になってくれる。
腕前に申し分なし、普段はおどけている癖に頭の回転は他のハンターよりも速かった。
軟派野郎な所を除けば奴ほど頼りになるハンターは、リンネが知る限り多くない。
リンネの提案が、最もこの場で最善の選択であると頭では理解しつつも…愛子は首を縦に振り切れずにいた。後ろで不安そうな表情を浮かべる妙子達も同様だった。
当然だろうとリンネは心の内で自分を嘲笑する。
こんなことになったのは自分の力が及ばず、知らずの内にあの男に手心を加えたからだ。
その結果が、目の前で病床に伏せる少女一人と、無様に己の防具を少女と自分の血で染めた。
女の子一人守ることも出来なかった自分が、再び彼女を守りながら遠くの村に運んで治す?
自惚れるのも大概にしろよ、既にお前は例外ではない。ただの、片腕のない宿屋の女主人が―――
「……園部ちゃんをこんな目に遭わせたアタシが言うのも烏滸がましいとは思ってるんだけどさ……。アタシがこの娘を必ず助ける……そう、信じて……くれないかな」
それでも、言うしかなかった。
優花が助かる道はそれしかないのだから。
ゆっくりと愛子の前に歩いていき、静かに頭を下げるリンネ。
血糊がついた髪が肩から流れるように垂れ落ちる。
「――――――分かりました」
意を決して、リンネと同じように頭を下げる愛子。
驚き目を見開いたリンネが顔を上げると、愛子は頭を下げたまま言った。
「園部さんを……必ず助けて下さい!!」
こうして片腕のない元女狩人は町を出て、西へ西へと向かいました。
その背には、毒に侵されながらも懸命に生きようと苦しむ少女を背負い。
少年が暮らす村へと、運命の糸は徐々に伸びていくのです。
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初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡