ドスプーさんはなんとかなったんですが、肝心の蟹に苦戦しました……
クッソ硬すぎて弾かれまくった……心眼をつければ勝てたんだ……(言い訳乙)
サブタイトル通り、これで彼らの出番は終わりです。
時系列は第四章の「仕組まれた騒動」の少し前になります。
夜明けの風が商業都市フューレンを撫でつける。
森林公園と商業区の境界線にある市中を流れる川の流れを利用した水車小屋の近くに、トレイシーと真っ黒な装束に身を包んだ三人組、アレックス、レガニド他数名の冒険者が集まっていた。
「全員集まったな。……指名の依頼だ、作戦の内容は受注した者に限り、私の部下から説明を受けていると思うが改めて私の口から話させて貰う。質問のある者は話の後に手を上げて名乗り出ろ」
普段から凛とした雰囲気を纏う彼女が、この時だけはより一層鋭さを増している。
近づいたものを容赦なく噛み殺す番犬を思わせる鬼気迫る彼女に誰もが息を呑む。
アレックスとレガニドは彼女が戦姫と呼ばれるに至る逸話を思い出した。
今から数年前、魔人族がシュネー雪原から湖の町ウルへ向かって侵攻する事態が起きた。
その時に陣頭で指揮を執っていたのが皇女トレイシーだった。
彼女は数十頭の騎兵を引き連れて、自らの軍馬代わりに夜鳥に跨り剣と槍を振るい、単独で数十人の魔人族の兵士を嬲り殺して返り血を浴びたという。
鮮血を浴びながら踊り狂って哄笑する彼女は、敵味方に等しく恐怖を与える存在だった。
奮戦の結果、魔人族は侵攻から一時撤退に方針転換したのだが、彼女はそれも追撃し撃滅した。
あまりに人間離れした振舞い故に付いた呼び名が「戦狂いの姫」戦姫である。
「作戦の第一段階として、私の部下が敵の本拠地へと侵入し、見張りを全て殺す。その後、建物内に火を放つ。これを合図に第二段階で私と冒険者の大半は正面から突入、建物内に残ったフリートホーフの構成員を残らず殺して貰う。捕縛する必要はない、一人も逃がさず殺せ。第二段階の直後に裏手へ回り込んだレガニド、アレックスと少数精鋭で奴らの保管している商品……奴隷になった者達を救出、保安署まで護送しろ。道中の障害は容赦なく潰せ、事後報告で構わん」
「モンスターとの遭遇の際は?」
「小型10体程度であれば部下達が対処出来るが、大型となれば話は別だ。作戦開始前に全員へ手渡した救難信号弾を上空へ打ち上げ、ハンターの到着まで市街地に行かせないよう陽動に徹しろ」
「その他予想外の事態が起きた場合は?」
「対処可能な場合にのみ、独断での行動して貰って構わない。しかし生き残る事は最優先に考えろ、建物内での盗品以外の物を持ち帰るのを私は咎めるつもりはない」
その言葉だけで数人の冒険者達が下卑た笑いを漏らす。
仕事が減っている彼らにとって、仕事の中で得た金目の物は副収入になり得るのだ。
モチベーションアップも込めたトレイシーの言葉は効果覿面である。
「時間だ、各員配置につけ!」
「「「「「応ッ!!」」」」」
*
しかし事態は第一段階から予想外の方向へと動いていた。
トレイシーの部下である黒装束の三人組がフリートホーフの建物内から悲鳴を耳にする。
建物の入り口や周辺の小屋にいる筈の見張りが消え、周りに血痕が散っていた。
彼らは少し考えて、第三勢力の可能性有と一人がトレイシーの下へ向かった。
その隙に騒ぎが起きた建物内へと黒装束の2人が特大威力の火属性魔法を放つ。
「「猛き炎よ、我が身に燃ゆる矛先、眼前の敵を貫け―――”緋槍”!!」
文字通り炎の槍が詠唱した2人の掌の先から現れて飛んでいく。
建物の壁を壊して、狙いを定めた武器庫で炎の槍は大爆発を起こした。
運悪く武器を取りに武器庫の近くへ走っていた構成員の数人が巻き込まれる。
「ぎゃああぁぁぁっ!!?」
「熱いぃぃぃ!が、ぎぃぁ……!」
「だ、だずげ―――ッ」
全身が炎に包まれた者の絶叫は束の間、声も上げられず地面に倒れて暴れ苦しんでいる。
槍が通過したところに立っていた者は足を吹き飛ばされて迫る火の手に飲まれんと四つん這いになって同じように起き上がれない仲間に助けを求めるが2人仲良く瓦礫の下敷きとなった。
黒装束の2人はその場から素早く移動して、逃走経路となる馬小屋を目指した。
ところが馬小屋の近くに来て馬ではない何かの鳴き声を聞いて2人は足を止める。
木々の茂みに身を潜めて、馬小屋をそっと覗き込むと――――――
「ッ……狗竜……!」
「……あれが奴らの商品か……?」
一頭のドスジャギィが空腹を満たさんと繋がれた馬を襲って食い殺していた。
ドスジャギィの首に巻かれた鉄の首輪から千切れた鎖が見え隠れしている。
フリートホーフの連中が誤って外に出したのか?と2人は同じ考えを巡らせるが、先ほどの見張り小屋や周辺の様子から狗竜1頭だけの仕業とは考え難い。
第三勢力による仕業と妥当な判断をして、2人はすぐさま動いた。
(馬小屋は放っておいても狗竜が居座っている。奴らは逃げられないだろう)
(正面から突入する姫様に合わせて、我らも先行して地下へ向かうぞ―――!)
建物内から少し離れた川の近くに、下水道へと通じる道があった。
2人はそこへ素早く細い体を入り込ませて先に進もうとするのだが―――
「――――――ぅっ……」
「これは……!?」
明らかに汚水のそれとは比べ物にならない異臭が鼻腔を刺す。
感情を抑える訓練等で無表情を常としている2人が思わず顔を歪める。
片方の手で短剣を構え、もう片方の手で鼻の近くを覆う。
1人が懐から魔力を込めた緑光石の欠片を指で弾いて先の通路へ落とす。
こうする事で視界の悪い下水道内の全容が明らかになるのだが――――――
直後、緑光石の落ちた場所から震動が起きて2人は壁に手をついてしゃがむ。
岩を砕く音と共に下水道の壁を突き抜けて、一本の巨大な角が現れる。
それは生前、真紅の角を持つ
「―――この場から撤退するぞ、救難信号を上げるんだ」
「あぁ。……どうして、こんな奴が市内に居るのかという疑問は一先ず置いてだ……!」
砂埃を払って姿を現した頭蓋骨を背負う巨大な甲殻種モンスター。
異様に発達した左爪を持つそのモンスターはかつてブルックの町近郊に現れた岩穿テツカブラ同様の二つ名を持つ危険な存在である。
奴に挑んだ剣士は武器を砕かれ、奴に挑んだガンナーは蜂の巣にされた。
そんな逸話と共に多くのハンターから畏敬の念を込めて付いた二つ名は”
甲殻種の大型モンスター”矛砕ダイミョウザザミ”が下水道に居座っていたのだ。
幸運にも視界の悪い下水道内で矛砕ダイミョウザザミは音を頼りに襲ってきたのだ。
もし2人が緑光石を投げるより先に足音を立てて歩いていたなら、今頃は死んでいただろう。
背筋が凍り付きそうになった2人は技能”気配遮断”でその場から撤退を始める。
矛砕ダイミョウザザミは2人を追いかけようと再び地中に潜っていた。
しかし2人とは別の方から聞こえる無数の人が悲鳴を上げる音に反応し、そっちへ向かう。
その方角には、フリートホーフの建物があった。
*
「ッ!?なんだ、皇女様のお付きか……脅かすなよ」
大混乱に陥ったフリートホーフの建物正面から反対の方角にて。
下水道を出た途端に脇目も振らずに走ってきた黒装束の2人が向かった先に冒険者達がいた。
先頭で警戒していたレガニドが咄嗟に武器を構えるも、ほっと一息ついてそれを下ろす。
「どうやら向こうさんはえらい騒ぎになってる、このまま俺達は――――――」
「下水道には大型が居座っている、一時撤退するぞ」
「我らは正面に突入した姫様と、報告に向かった仲間と合流する」
彼の言葉を遮った黒装束の言葉に後ろで会話を聞いていた冒険者達が驚き目を見開く。
レガニドも「大型か……そりゃなんとも……」と動揺を抑えながら渋い顔をしている。
そこに一歩進み出たアレックスが難しい顔をして割って入った。
「しかし下水道には奴隷たちが居る筈だ。せめて彼らを――――――」
「無駄だ。奴と遭遇して逃げる際に確認した」
「
黒装束の2人から告げられた残酷な事実に誰もが息を呑んだ。
特に子ども好きで知られているアレックスの表情は悲痛に歪んでいる。
出来る事なら子どもの仇を討ってやりたいと思っているが……
「ハンターが到着するまでの間、建物内の敵を掃討する」
「我らが建物で騒ぎを起こせば奴も市街地に出る事はない」
そう言って返事を聞く前に黒装束の2人は建物の方へ駆けていった。
アレックスとレガニドは視線を交わし、彼らの言葉に従う他ないと意見を合わせる。
後ろで待機していた冒険者達も、真正面からモンスターとやり合うのを避けたい様子だ。
「作戦変更だ、向こうの連中に混じって馬鹿騒ぎだ野郎ども!」
「殿は俺が務める、いくぞ!!」
「「「応ッ!!」」」
*
「――――――フム、予想外の展開だな……これは」
燃え盛る建物内には入らず、出てくるフリートホーフの構成員が命乞いの言葉を発する前に殺す作業を繰り返しているトレイシーはそう呟いて剣についた血と膏を死体の服へと擦り付ける。
噂のように笑うこともなく、淡々と無表情で人を殺す彼女に、流石の冒険者達もぞっとした。
建物の中からランポスやジャギィといった鳥竜種の小型モンスターが吠えるのと、逃げ場を無くして襲われた構成員達の絶叫がそこら中から響いている。
そんな時、正面玄関の黒煙を掻き分けてくる者が彼女の前に現れる。
それは大混乱の最中、部下数人を護衛に引き連れて僅かな手元の盗品を抱えて命からがら建物から脱出してきたハンセンだった。
煙を吸って咳き込みながら煤だらけの顔を擦った彼が顔を上げると――――――
「……フン」
「ごげぁ!?――――ッカ、ぁっ、ごぽッ!!」
トレイシーは剣の切っ先でハンセンの喉を貫く。
部下達が慌てて武器を構えて彼女に襲い掛かろうとするが、気配を殺して彼らの背後に立っていた黒装束の1人が近い者から短剣で首を切り裂いて殺した。
驚愕の表情で血の泡を吐き出しながらハンセンは目で彼女に訴えかける。
「殺さないでくれ」「助けてくれ」「二度とこんな事はしない」そういった類の言葉だろう。
しかし彼女は表情一つ変えずに更に刃を奥へと押し込んでゆっくりと口を開いた。
「罪人なら罪人らしく、最期まで足掻いたらどうだ?」
「―――――――ッ!?」
「さて、薄汚れた金で腐った景色しか見てこなかったお前達に、皇女として私が与えられる最高の贈り物をくれてやろうじゃないか。そうさな……代償は、お前の命でどうだ!」
次の瞬間、頬が裂けんばかりの笑みを浮かべたトレイシーは息絶える寸前のハンセンへと顔を近づけて甘い声を脳髄にまで届けるように囁いた。
「命は散り際が一番美しい」
その言葉と同時に剣を横に振った、振り抜いた刃から血が飛び散って彼女の顔を濡らす。
ハンセンの首は片方の首の皮と僅かな肉で繋がっている歪な状態で地面に体ごと崩れ落ちる。
もう建物から出てくる者もいないだろうと、彼女は部下を連れてその場を離れていく。
こうしてフリートホーフは頭を失い、多くの構成員が死んだことにより崩壊した。
彼らの死は、これから起こる歴史の転換点で積み重なる死の数に比べれば僅かなものである。
それは無駄になるかもしれないし、何か意味を成すのかもしれない。
当事者であり、傍観者に近かった冒険者達は祈らずにはいられなかった。
罪人である彼らは別として、犠牲になった奴隷の魂が安らかに眠れることを……
皇女様がどんどんバーサーカーになっていく……というかアドレナリンドバドバで殆どのキャラがバーサーカーになるんじゃないかなぁ(特にハンター)
ちなみに没になった設定で、イメージしていたトレイシーの愛用武器は戦斧(ハルバード)でしたが、今は普通に両刃の片手剣持ってます。
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡