第四章「似た者同志は同じ道を歩めない」の時間に起きていた出来事です。
フューレン市内の混乱は中心部にまで及んでいた。
普段は頼らない集会所に助けを求める市民が殺到し、職員は緊急クエスト発注の対応に追われるも受注出来るハンターは2人、ハジメとカルトゥスしかいない。
その片方、ハジメも集会所を一度訪れてからは姿が見えず、残ったカルトゥスは救難信号を受けて森林地区の方へと向かっている。
頼みの綱である冒険者達が門の方へと対応にあたっているが――――――
―――ヴオオォォォ、ヴオオォォォ!
「畜生ッまた仲間を呼ぶ気だぞ!」
「あと何匹相手にすりゃいいんだ!」
帝国領に通じる街道側の門の前で陣取る兵士達と冒険者達が口々に悪態をつく。
門の入り口にドスギルオスが一頭、市内に架かる橋を渡ろうとしていた。
陣形を組んで盾を構える兵士達の前にはギルオスの死体が既に五体転がっている。
しかしドスギルオスが頭巾殻*1でギルオスを集めて突撃を指示する。
当初数匹程度と想定したギルオスの数は時間の経過と共に増えて、軽く二桁に届いていた。
兵士達は盾や結界師が貼る結界のお陰でドスギルオスの麻痺毒液を食らわずに済んでいる。
冒険者達も何度か戦った事のある経験者がいるお陰でタイミング良く躱すことに成功していた。
突撃してくるギルオスの麻痺牙に気を付けながら子分を手当たり次第に狩っていく。
それで最後に残ったドスギルオスの数に物を言わせて倒すつもりだったのだが――――――
「ハンターの応援はまだ来ないのか!?」
「畜生が!こんな事なら逃げりゃ良かったぜ!!」
「泣き言を言うな!此処で食い止めなければ都市が……」
「けどっ!どうしてこんなにモンスターが攻めて来るんですかぁ!!」
苛立ちと共に吐き捨てる言葉、叱咤激励、泣き言……その中に生じる疑問はただ一つ同じこと。
フューレンには対モンスター用アーティファクトの結界が張り巡らされている。
それは純粋にモンスターの攻撃から都市を守るだけでなく、モンスターが嫌がって結界を迂回するような仕組みになっていた。
今まではそれで襲撃の被害など滅多になく、平穏無事に過ごせていたのだ。
だがドスギルオスは明確な敵意を以てフューレン市内に入り込もうとしている。
実戦に何度も出ている帝国の兵士が居たなら、それが何を意味するがすぐに分かった。
―――このドスギルオスは支配種だ。
王国の兵、ましてや一度も襲撃を受けたことがないフューレンの駐屯兵にそんな事が分かる筈もなく、彼らはいつ現れるか分からないハンターの到着まで持久戦を強いられることになる。
*
「――――――ですから、剣聖殿のお力添えを!」
「……と、頭下げられてもねえ……」
宿屋にて、リンネの部屋にノックも無しに駆け込んできた貴族の1人が頭を下げている。
彼女と貴族には面識があった。……といっても、彼女がハンターを引退する時に顔を合わせた程度だが、王国の有力者でウルの町の奇跡を起こした彼女の逸話を知らない者はいない。
何処で知ったのか、フューレンに彼女が滞在していると知った貴族は助けを求めに来た。
入り口でお断りのポーズをしているリンネの後ろでミュウが朝ごはんを食べている。
優花は不安そうに、ノイントは無表情で、貴族とリンネのやり取りを見守っていた。
「さっきも言ったけど、アタシはもうハンターじゃない。町の騒ぎは知っているけど、アタシにも守らなきゃいけない約束があるの。それは
「そ、そんな………ッ!」
冷徹な目で嘆願する貴族を追い返し、リンネは扉横の壁際に背中を預けて目を閉じた。
優花達が話しかける以外では終始そんな調子で、神経を張り詰めているのだ。
扉の前を誰かが通るたびに薄らと目を開き、片方しかない腕は立て掛けた太刀に伸びる。
「んみゅ~……」
(リンネさんのあんな表情………初めて見た)
食事を食べ終えたミュウの口を拭きながら、優花はリンネの顔をチラ見する。
怒った時のハジメや威圧的な態度を取った大の男のそれとは明らかに違う。
彼女の立っている場所だけ、温度がガクッと下がっているような恐ろしさを感じた。
どうにかミュウの好奇心がリンネに向かない事を優花は祈るばかりだった。
しかし、再び扉の向こう側が騒がしくなった。
追い返した貴族が再び、今度は別の貴族や有力者たちを連れてきているようだ。
中にはあまりしつこく頼むことに苦言を呈する者もいるのだが……
「クデタ伯爵!どうか貴方からも彼女に――――――」
「しかし、あまり強制させるのは……」
「何を仰いますか!モンスターを倒してこそハンターの本懐というものでしょう!」
「―――――――――――――――チッ……うっざいなぁ……」
舌打ちと共にリンネの発した言葉で部屋の空気が凍り付いた。
瞳は苛立ちで瞳孔が開き、扉の向こうで騒いでいる者達を射殺さんばかりの勢いで見ている。
だらんと下げた腕の先で手の骨がゴキゴキと鳴らされて、血管が浮かび上がっていた。
彼女が何を言いたいのかを何となく理解しつつ、優花は今にも恐怖で気絶してしまいそうだ。
ノイントはそんな彼女らと扉の向こうへ何度か視線を移し、顎に手を当てて何かを考えている。
流石にミュウも穏やかではない雰囲気を感じ取ったのか、不安そうに声をかけた。
「……おねえ、ちゃん?」
「―――――――――!!なぁにかな、ミュウちゃーん♪」
急に明るい笑顔を浮かべて部屋の中の方へと向き直るリンネ。
その変化に優花は驚きつつ、笑顔の裏に未だ潜む怒り狂う修羅の如き雰囲気に怯えていた。
幼いながらも数秒前まで険しい表情だったリンネを心配して、ミュウは恐る恐る聞いた。
「……だいじょうぶ?」
「何が~?お姉さんは何時でも元気一杯、何も問題は――――――」
とリンネが言いかけた瞬間、部屋の扉が激しく叩かれる。
笑顔のまま足を止めて手だけ太刀に伸びたリンネ。
このままでは不味いと判断した優花より先にノイントが提案を持ち掛けた。
「リンネ様、ミュウの守りは私に任せて頂けないでしょうか」
「……貴女、怪我人でしょ?無理せずお姉さんに任せて――――――」
「ですが、先ほどからこの部屋に訪問してくる人が絶えません。このままでは何時フリートホーフの構成員が紛れ込んで襲ってきてもおかしくはないでしょう。……懸命な判断を」
「……………」
ノイントの言っていることは間違っていない。
更に言葉を後押しするように彼女は指先からボッと炎の塊を浮かべて言う。
「このように私には全属性魔法の心得もありますので、対人戦だけなら多人数相手でも後れを取ることはないと思われます」
しれっと全属性適性とかいう神の使徒にもいない希少な存在であることを口にするノイント。
幸運な事に優花はそこまで気が回っておらず、リンネの反応に注目していた。
彼女は暫く考え込むような素振りを見せていたが、後ろでまだドンドン扉を叩く音に急かされて、若干苛立ちながらも前髪をくしゃっと掻き上げて情けない笑顔を浮かべて口を開いた。
「悪いねノイントちゃん、ハジメ君からの頼み事……引き受けてくれる?」
「委細承知致しました。この身に代えても、ミュウの事を守ってみせますとも」
「……優花ちゃん、2人と一緒に部屋で待ってて貰えるかな……?」
「は、はい……!」
次の瞬間、リンネは叩かれた扉に向かって一度だけ大きく蹴りを入れる。
ミシッ!という音と共に木の扉がひび割れて、向こう側から小さな悲鳴と後退る音が聞こえた。
太刀の柄を握り締めて、ハジメを見送った時のように肩に刃の背を担いで部屋を出ようとする。
「用心棒の本懐も遂げられないんじゃ………剣聖も地に落ちたり………ってか」
リンネの呟きに誰もが首を傾げる中、扉を開け放って彼女は去っていく。
彼女が出てきたと同時に多くの人間が名を呼び声を掛けるが、悉くを無視しているようだ。
廊下を曲って階段へ向かうとする際に優花は見た。
リンネの横顔は、先ほどの苛立ちに混じり……口角が釣り上がっていた。
リンネ姉貴が何で貴族達相手にちょっとキレ気味だったのかは結構先の展開まで詳細が明らかにならないかも……?(彼女の過去が色々関わっているので)
個々のキャラの昔の話とかもちょいちょい書けたらいいなぁと思いつつ、それを後回しにしないと全く本編が進まないジレンマ。
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡