モンスターハンター・トータス   作:綴れば名無し

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 やや駆け足気味でサブタイトル通り、彼と彼女が動きます。
ついでにアレも動きます、襲撃予測地点は……まだ内緒にしておきましょう!


幕間の物語 魔王襲来と復讐の時

 

 リンネが出て行って少し後、宿屋の中は不気味なほど静まり返っていた。

朝食を食べ終えたミュウは満足そうにしてベッドにちょこんと腰掛けている。

優花はリンネを真似して扉に近い壁際に寄り掛かって外の様子を窺ったり、懐に隠した短剣を確認したりと落ち着かない様子だった。

 

「………」

 

 そんな中、ノイントは窓際に立ったまま微動だにせず空を眺めていた。

彼女の瞳に映るのは青空と白い雲に一点だけ、不自然な輝きを放つ星。

昨夜はやや南側にあった筈のそれは、いつの間にか北の方へと動いている。

 

 星があんな不自然に動いて、それも昼間から輝きを損なうことなく空に浮かぶだろうか?

答えは否、否である。記憶を失ったノイントでも、それくらいの常識は残っていたらしい。

 

(…この胸の騒めきは…なに…?)

 

 不安を後押しする不自然な鼓動を刻む胸に手を当てて原因を探るノイント。

リンネが出て行ってから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ミュウではない、ベッドに腰掛けた彼女はノイントと背中合わせの状態なのだから。

優花でもない、彼女の視線はあくまで扉と窓に対してだけ向けられている。

 

(では誰が……何のために……)

 

 不意に目を閉じて、フューレンに運ばれてくる前の自分の記憶を思い出そうとした。

ビデオテープの時間を巻き戻すように、一方通行とされている世界を、逆の方向に。

医者の家、緑の葉が生い茂る木々、上下逆さまの視界、空中――――――

 

(ッ……こ、れは?)

 

 一説では失った記憶を取り戻す際に、人は側頭部に痛みが走るという。

今の彼女にも同じ状態が起ころうとしていた。幸いなことに技能”精神耐性”が働き、その痛みで苦悶する様子を部屋の中にいる2人に知られる事はなかったのだが……

 

 靄のかかった記憶の底に手を伸ばすような感覚で、ノイントは更に踏み込んだ。

体を裂くような衝撃、熱、血のような赤い光を放つ銀、迫ってくる黒い竜。

そこから先へ彼女が意識を沈ませようとした瞬間、部屋の扉がノックされる。

 

「「――――――ッ!」」

 

「……?」

 

 背中に電流が走ったかのような衝撃で壁から離れた優花が一歩下がって短剣に手を伸ばす。

ノイントも目を見開いてベッドの近くで首を傾げてきょとんとしてるミュウの近くに歩み寄る。

小さく息を呑んで、覚悟を決めた表情の優花が声を上げた。

 

「どちら様ですか……っ」

 

「――――――」

 

 返事は無い、その時点で扉の向こうにいるのが()()()()()()ではないと断定できる。

奥歯をカチカチと震わせながら、それでも毅然とした表情で扉を睨んだ優花は短剣を抜いた。

ミュウが不安そうな表情をしているのを横目に、ノイントは優しく彼女の背に手を置いて微笑む。

 

「大丈夫ですよミュウ、貴女は私から離れないで下さい」

 

「……うん」

 

 それから二秒、三秒と時間が過ぎてもノックの後から声が掛かることはなかった。

念のためにとノイントが無音で窓際に気配感知を行うが目立った反応は無い。

扉の向こうからは足音も、吐息も、何も聞こえてこない……

一瞬、優花は不安を紛らわすために希望的観測を心に抱いてしまう。

 

(……誰かが部屋を間違えたのかしら……)

 

 ミュウを攫った例の犯罪者達なら問答無用で扉をこじ開けて襲い掛かってくるだろう。

その様子が無いのであれば、他に挙げられる可能性はさっきリンネにしつこく迫ってきた貴族と同じような目的で着たフューレンの一般人である可能性があった。

しかし考えを巡らせるより先に、状況は動き始める。

 

 ガチャッ!とドアノブから音が鳴った。

ミュウが小さく悲鳴を上げ、優花とノイントも鋭く息を呑んだ。

念のためにと内側から施錠していた筈のドアノブは、何かの力によって施錠が解かれる。

心臓が早鐘を打ち、優花は技能を唱えようと口を開きかけたが――――――

 

「―――ククッ、俺の読み通りか……あの女が不在なのは好都合だ」

 

「「ッ!!?」」

 

「……だぁれ……?」

 

 ギイィ…と扉が開いた先に立っていたのは()()()()()()()

フードで全体をすっぽりと覆って3人から顔は見えないが、その声は男のそれである。

しかし男の声を聞いた瞬間、優花は心臓を鷲掴みにされたような恐怖を、ノイントは何処かで聞き覚えのある本能が忌避する不安感を、彼に対して抱いた。

不安そうな表情でミュウが問いかけるのに対して、赤衣の男は静かに告げた。

 

「時間はそう多くは残されていない。用があるのはお前だ、海人の子よ」

 

 彼の言葉を聞いた瞬間、優花は奥歯を食いしばって素早く短剣を投げようとした。

だが赤衣の男は瞬く間に彼女との距離を詰め、短剣を握る手を掴んでそれを阻止する。

 

「クククッ、俺の毒で侵されてから血の気が多くなったか?しかし生きていた事は喜ばしい、賞賛に値するぞ小娘。故にだ――――――」

 

 次の瞬間、フードの奥から覗く男の妖しく光る眼を優花は見つめてしまった。

彼女の全身はぬるま湯に浸かった時のような脱力感に包まれて、思考がまともに回らなくなる。

必死になって叫び声をあげようとする彼女の唇に指を当てて、赤衣の男は優しく告げた。

 

()()()()()()()()()()()。お前は外で、邪魔が入らないように見張っていろ」

 

「……は、ぃ……」

 

「―――園部さん!?」

「お姉ちゃん…?」

 

 虚ろな表情で返事をした優花は短剣を懐の鞘に戻し、覚束ない足取りで部屋を出て行った。

驚愕の声を上げるノイントに対して赤衣の男は顔を上げて明るい口調で話しかける。

 

「さて、その顔では俺の事をもう忘れている様子だなノイント?」

 

「……いきなり何を言って―――」

 

「あぁ、気にするな…確かめたかっただけだ。――――――それとなノイントよ、俺に対し敵意を向けるのは構わんが……お前の相手は俺ではない、()()()()()()()()?」

 

「――――――ッ!??」

 

 彼の言葉と同時に、ノイントは背後から刺さるような敵意を感じて振り返る。

さっきまでは建物と空以外何も映らなかったそこに、黒い着物を纏った竜人の女がいた。

竜人の女、ティオ・クラルスは仄暗い笑みを浮かべて琥珀色の瞳からは光が失せている。

窓の外にいる彼女は、風魔法で窓の前に浮かんでいたのだ。

 

「………………」

 

「此処で暴れられても困る、離れたところでやれ」

 

「………………」

 

 笑みを浮かべる以外は静かにノイントを見つめるだけのティオに対して赤衣の男が声を掛ける。

対するティオは彼の言葉も聞こえていないようで、その場から動こうとしなかった。

やれやれといった様子で軽く肩をすくめた彼はノイントに向かってある方角を指差し告げる。

 

「宿屋を離れて商業区の円形広場、そこなら人もいない。好き勝手暴れても問題なかろうよ」

 

「………」

 

 状況についていけなかったノイントは思考を急速に回して整理しながら考えた。

目の前の男は気配感知と魔力感知で調べるまでもなく、とてつもなく強大で恐ろしい存在だと分かる。唯一救いがあるとするなら、男に殺意や敵意が感じられない事か……

 

 一方で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ミュウや男の存在など眼中になく、ただぼんやりと開かれた瞳は彼女だけを見ていた。

優花がさっきの男の妖しく光る眼を見た途端に操られるように部屋を出て行ったのは、間違いなく精神を支配する闇属性の魔法が関係しているのだろう。

 

 自分が取るべき最善の行動は何か、ノイントは心の底に生じた恐怖が思考の隙間に入り込まないように懸命に精神を奮い立たせようとするが――――――

 

「おねえちゃん……」

 

 ぎゅぅと服の裾を握るミュウの不安げな表情を見てドクンと心臓が跳ねた。

今、ノイントが取るべき選択……それは、()()()()()()()()()()()()()

迷っている時間を与えては貰えないだろう。

ミュウの頭を優しく撫でてたノイントは力なく笑った。

 

(こんな時……私は彼のように、彼女の不安を取り除くことも出来ない)

 

「……分かりました、ついていきましょう」

 

「………………」

 

 不安がるミュウの手を優しく離してから、ノイントは窓の外にいるティオの方へ向かった。

魔力操作によって体内に秘められた膨大な魔力を惜しみなく消費する。

ティオが行っている風属性魔法と同系統の飛行で部屋の外へ出て、ミュウの小さな身長からは見えなくなってしまった。

部屋に取り残された彼女は不安そうな表情で、自分を見つめる赤衣の男を見る。

そこで彼はわざとらしく驚いて仰け反るフリをしてこう言った。

 

「――――――そういえば名乗っていなかったな、許せよ海人の子。俺の名前はアダム、今日は……ククッ!そうさな、恋に悩める幼子に気まぐれで救いの手を差し伸べてやろうと来たのさ」

 

 

 

 

 

 

 宿屋から離れ、建物の屋根よりやや上を飛ぶティオとノイント。

両者の間に会話は無く、いつの間にかティオの顔から笑みが消えていた。

円形広場はアダムが言っていたように人の姿がなく閑散としている。

 

「――――――此処で殺す前に一つ、ぬしに問うておこう」

 

「……何でしょうか?」

 

 ノイントはどうして自分が彼女(ティオ)に殺されなければならないのか?

そんな疑問を抱きながら、質問する権利が自分にはないと思い込んでそう言った。

 

 一方でティオは痛々しい見た目でありながら、今までの真・神の使徒には無かった小奇麗な服で着飾っているノイントに対して怒りが心の底から沸々と沸いていた。

 

 今更、偽りの神の被造物がヒトの真似事をするのはどういうつもりか。

お前達が何も考えずに殺してきた者達も、同じようにしたかっただろうに。

無表情でいてもティオには分かる。彼女(ノイント)は自身が殺されそうになっている事に対して何故?という()()()()()()()を浮かべているのだ……

 

 魔王アダムから彼女の居場所を聞き出し、一時的に協力関係を結んだ時にティオは聞かされた。

今のノイントが、ティオの知っていた真・神の使徒だった頃の記憶を失っていると。

()()()()()()()?そんな事はティオにとって関係ない。

 

「数百年前、ぬしは人間共を嗾けて竜人の里を襲った。……覚えておるか?」

 

 彼女が記憶喪失の状態にあると知っていて、我ながら意地の悪い質問だとティオは思う。

けれども、こうして確かめて、彼女の口から()()()()()()()()を聞かなければ、ティオは溜まった怒りを爆発させる事が出来ないのだ。

そうして数秒の間を置いた後、ノイントは一言。

 

「……思い出せません」

 

「――――――ッッッ!!」

 

 懐より取り出した鉄扇に紫紺の炎を纏わせて、ティオはノイントに向かって襲い掛かる。

武器を持たないノイントは身体強化で迫りくる炎の刃を避けようと動いた。

 

 空に浮かぶ浮かぶ赤い星が地上から徐々に大きく見えて、商業都市フューレンに近づいて来ようとしているのは誰も気が付くことは出来なかった。

 

 




 優花さん危うし、魔王様が下半身で行動する生き物だったらお持ち帰りされてた。
ちなみにティオさんはノイントが襲うよう煽動したと言ってますが、実際にノイントがやったかは不明です(数百年前だと今や魔王様の部下になったアインス・アルサーク姉貴の可能性も……)
やられた側からしたら特定の個人というよりは真・神の使徒そのものに対してブチギレてるので皆殺しだあぁぁぁ!と内心荒ぶっているんでしょうけど。

感想、質問、ご指摘等お待ちしております!

初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)

  • 続編にして
  • このまま話数増やしてもいいんじゃね?
  • 打ち切りはヤメロォ!
  • もっと周りの話補完して♡
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