モンスターハンター・トータス   作:綴れば名無し

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 今回の幕間の物語は第四章の「フューレンを覆う影」と同時刻から並行して進んだ、リンネさん視点のお話。サブタイトルでお察しの通り、リンネさんの素が見られます。


幕間の物語 悪鬼哄笑

 咽かえるほどの生臭い、血の臭いを嗅いで私は自らの獣性を抑えられなくなる。

そうなり始めたのは何時からだったか、生まれた時からか、或いはそれよりも前か。

 

 用心棒となり、あの町の住人達に頼られ始めてから?

片腕を失い、ハンターである事を止めた時?

あの人の死に向き合えず、一人で狩りをするようになってから?

ありふれた孤児として足掻き、自らの非力を悟った時?

 

「―――――――――否」

 

 否、否、否、否であると私は思う。

この身は生れ落ちるより前から畜生の生を歩んできたのだ。

故に抑えられなくなったは誤り、正しくは()()()()()()()だろうよ。

 

 どうして自分をまるで()()()()()()であるかのように語るのか。

私自身理解に苦しむが…恐らくはさっきの有象無象とのやり取りが原因だろう。

権力や地位に縛られる人間というのは、平時は偉ぶって上から見下す癖に、自分達が危ない目に遭うと余裕もなく下の者に助けを求める…哀れだし、滑稽な生き物だと笑ってしまう。

 

 身の丈を越える鋼鉄の太刀を肩に乗せて、道の真ん中を悠々と歩く。

建物の中から息を呑む人の声や、私に対する恐怖の目が向けられている。

嗚呼…鋭すぎる感覚というのは、偶に不便だ…と私は感じた。

いっそこの目と耳も失った方が、生き易いのではと思えるほどに…

 

「―――――フゥ」

 

 少しうんざりとした気分になって、歩きながらため息を吐いた。

注目を集める事も、あれから大分慣れてきたつもりだが…やはり好きになれない。

用心棒としての()()()は所詮、あの人達が後悔し続けない為に演じているだけだ。

本当なら私は人目につかない所を、あの不肖の弟子と同じように彷徨っていたい。

 

 ふらりと現れて、屍の山を築き上げたら、またふらりと立ち去る。

その身は風来坊か根無し草か、何にせよ天涯孤独の身である私には相応しい在り方だ。

…まぁ、あの娘はそんな風に難しい事とか考えてないだろうけどね。

 

 頭上の空の景色の一部を隠していた鬱陶しい住宅街を抜けて門が近くに見える。

騒がしい男達の怒号に混じって、知性あれど理性なき獣の臭いと血の臭いが匂う。

 

「――――――嗚呼、是…」

 

 あの町を離れてから久しく嗅いでいなかった。

アイツの生まれ故郷に駆け込んだ時、少しだけ相手をしてやったが、武器の切れ味が良すぎたのか、はたまた相手が文字通り雑魚だったのか、勝負はあっさりと終わってしまった。

あれから暫くの間、身体にこびり付いた血の臭いで欲情しないよう我慢するのが大変だった。

 

「此の匂い…」

 

 すぅっと鼻いっぱいに息を吸い込んでから息を吐いた時には私の顔は笑っていた。

さっきまでの鬱屈とした気分は晴れて、心が曇りなく晴れ渡る気分だった。

 

「―――――――――多いなぁ」

 

 吸い込んだ息に混じる、その場で空気を震わせる独特な鳴き声の震動。

それを臭いで嗅ぐだけで、私は獲物の数が手に取るように分かる。

トカゲの小物1、トカゲの雑魚6、距離はあるけれど変な力をつけたトリの小物1…

 

「―――――――――ク、フフ」

 

 この程度を片付ける為に、私はあの有象無象の頼みを聞いてやったというのか。

少しは骨のある奴と死合えると思った少し前の自分を殴り殺してやりたい。

歩きながら鉄刀を肩から離して、地面に当たらない程度に素振りをする。

 

 普段使っているモノよりは素材も軽いし脆いけれど、相手がこの程度なら十分だ。

私の存在に気づいた冒険者か兵士か、声を掛けてくるが私の耳にその言葉は届かない。

血の臭いで興奮し、心臓の鼓動が早鐘を打った時点で、私の視界は周りを四つに分ける。

私と、獲物と、地形と、その他動いたり音を出したりする何かだ。

 

「―――――――――アハ、ハハハハッ」

 

 私の歩みが小走りに、小走りが全力疾走へと変わっていく。

前方で人の形をした何かが構えを取って獲物と向かいあっているが関係ない。

地面を強く蹴って跳躍しながら、私は興奮状態を極限まで高めて笑い出す。

 

「げぇああはははははははははははっ!!!!」

 

 獲物の一匹が私の笑い声に顔を上げた、しかし反応するにはあまりに遅すぎる。

鉄刀を逆に持って切っ先を落下先にいる一匹目の獲物に向かって突きつけた。

 

我流”飛翔兜割”

 

 ある特殊な蟲を操って使う技”飛翔蹴り”と、太刀が纏う気を消費して放つ技”気刃兜割”

そのどちらでもない、私がハンターである事を止めた時に編み出した我流剣技。

落下の勢いと太刀のリーチの長さを活かし、獲物の弱点である頭部一点に狙いを定めた。

 

 私の姿を見てから威嚇の鳴き声を上げて、その場に踏み止まったのがそもそもの間違い。

一匹目の獲物は開きかけた口を頭蓋骨から下顎にかけて串刺しにされて絶命した。

他の獲物たちがそれに驚き、憤るように鳴き声を上げる。

 

「―――っせえええぇぇぇぇんだよぉぉぉぉぉ!!」

 

 地面に倒れ伏した一匹目の獲物の頭を踏みつけながら太刀を引き抜いて私は駆ける。

一匹目の丁度後ろに並んでいた二匹目と三匹目の獲物に向かって横薙ぎの刃を振るう。

 

 極ノ型”抜刀ダッシュ”からの”抜刀斬り”

先に刃を食らった二匹目の首が吹き飛び、三匹目は真横から胴体を切り裂かれて息絶えた。

 

 ただやられるだけの獲物じゃない、残りの雑魚三匹が三方向から私を囲む。

鉄刀が浴びた獲物の血が刀身を伝って握り込んだ手に伝わってくる。

この生温かさとぬめり気、更に濃くなる血の匂いが私の心に笑いを誘った。

 

「ギャアハハハハハハハハッ!」

 

 四匹目と五匹目は愚かにも私の目に見える範囲から牙を剥いて襲い掛かった。

六匹目だけは私の哄笑を威嚇とでも勘違いしたのだろう、矢や後ろに後退る。

鉄刀の鞘を持たない私は抜身のままで右手に持ったそれを、左腰の方へと構え―――

 

「――――――ッシェアァァッ!」

 

 特殊納刀から怒号一閃の”居合抜刀斬り”で前に踏み込んだ。

飛び掛かった四匹目と五匹目は哀れにも空中で胴を両断されて地面に落ちる。

落ちる時に切れた箇所が悪かったのか、血が噴き出して私を頭から染めた。

 

 やめて欲しいと心の底から思う。

だって…そんな気持ちの良い事をされたら、ますます暴れたくなってしまうから。

 

―――ヴルオォオオンッ!

 

「――――――親玉」

 

 いつの間にか遠くで様子を見守っていた小物が前に出てきていた。

部下をあっという間に失ってご立腹の様子だが、私には何の関係もない。

鉄刀の刃から滴る血の雫を見下ろして、小物に向かって笑いかける。

 

「御命、頂戴―――!」

 

 小物が身体を痺れさせる液体を吐き出すが、抜刀したまま走る私には当たらず。

稲妻走りに距離を詰める私に対して、後ずさりで距離を取りながら麻痺液を吐く小物。

時間にして十秒にも満たない攻防は、小物が麻痺液を切らしたことで決着となる。

 

「―――ッェストオオオオォォォォォォ!」

 

 いつかに見た剣術の掛け声を真似て、私は鉄刀を袈裟に振るった。

小物は部下のそれより分厚い肉と硬い鱗に体を覆っている。

流石に一撃で切り落とすことは叶わなかったが、刃は確かに骨まで届いた。

私は柄から手を離して、その場で絶叫する小物の目玉に向かって貫手を放つ。

 

 グチャッという音がして、温かな血の感触に浸りながら、私は奴の目玉を引き抜いた。

切り裂かれたところか血を噴き出し、喉から血を吐き出して小物の体はその場で崩れ落ちる。

最後の抵抗だったのか、残った六匹目が私の背後から飛び掛かるも…

 

「―――キヒッ」

 

 私は六匹目の頭を掴んで地面へと叩きつけ、そのまま開けっ放しの下顎に足を突っ込んだ。

足の裏に牙が刺さっても気にせず、手にした目玉をその場に捨てて六匹目の上顎を掴む。

 

「―――が、あああああぁぁぁぁぁ!」

 

 咆哮と共に下顎を足で固定したまま、上顎を更に開こうと持ち上げた。

ガパっと開いた頬肉が裂けて、六匹目は拘束から抜け出そうと脚をバタつかせる。

けれども、決着の音は数秒もしない内に鳴った。

 

―――ブチッ!

私は上顎を奴の体から引き千切ろうとしたのだが、下顎が耐えられなかったようだ。

咀嚼能力というものを失って激痛に襲われた六匹目が目をひん剥いて倒れる。

もう片方の空いた足で頭蓋骨を踏んで確実に殺した。

 

 

 それから何分経ったのか…狩った獲物の処理を残った奴らに任せて私はその場を立ち去った。

あの感触じゃ下位相当の素材しか剥ぎ取れないだろう、彼への手土産としては貧相だ。

空を仰ぎ見ると、雲の隙間から太陽の光が差し込もうとしている。

 

(嗚呼、あの時もこんな空が――――――ぅっ!?)

 

 そう心の中で呟きかけた瞬間、身体の一部に激痛が走る。

堪らずその場で鉄刀を突き刺して体の支えにするが、痛みは止まない。

顔中から汗が吹き出し、血の気が引いて、一瞬でも力を抜いたら意識を持っていかれそうになる。

 

「…ハァ…ハァ…っぐ…ぁ!!」

 

 痛みを発するのは()()()()()()()()()の付け根。

あの時から何度かこういった症状に悩まされる事はあったが、今回は久しぶりだった。

近くの民家に背中を預けて座り込み、私は目を瞑る。

 

「ったく…不甲斐ないったら…ありゃ…しない…ねぇっ!」

 

 極限まで昂り、暴れた後はいつもこれに悩まされていた。

用心棒の仕事を続けるのに大した障害じゃないとタカを括っていたが…

 

 それから一時間か二時間、人通りの少ない路地裏には私の息遣いだけが聞こえていた。

全身血塗れの体は高熱を帯びて、頭が妙な浮遊感に襲われる。

あの町で同じような事が起きた時と同じ対処法をするために、私は立ち上がった。

 

「…井戸…」

 

 あの町に流れる血も凍りついてしまうような冷水を、流石にこの都市では期待しない。

…私がいつものお気楽な用心棒に戻る為にも…この血を流さなきゃ始まらない。

 

 けれども…嗚呼、さっき暴れたばかりなのに…私の心はまた乾く。

血が沸き立つ程の戦いを、神経が狂ってしまう程の蹂躙を、求めて止む事はなかった…

 

 




 どこぞの装甲悪鬼に登場する複眼お嬢様みたいな笑い方をするリンネ姉貴。
しれっとオリ要素”飛翔兜割”なんて出してますが、要はライズの飛翔蹴りを蟲使わずにやった感じです。ルゥムのお師匠さんに当たる人なので、当然フロンティアのアレは出ましたね。

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。

初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)

  • 続編にして
  • このまま話数増やしてもいいんじゃね?
  • 打ち切りはヤメロォ!
  • もっと周りの話補完して♡
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