モンスターハンター・トータス   作:綴れば名無し

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 今回の話は第四章「騒動の終わり」に繋がるお話です。
同じ幕間の物語「魔王襲来と復讐の時」のその後にあった話でもあります。

 サブタイトルに深い意味はありません(幼女枠を奪った奴への批判とか、ロリを成長させるとかいう外道に対する作者の個人的な怒りとか)
最初の部分はある人物の一人称視点から始まります。



幕間の物語 非情な魔王の所業

 僕は何度世界を救ってきたのだろう。

始まりは勇者の子孫、それから武器の達人、冒険者、魔法使い、将軍、覇王、一兵士、貴族、農民…同じようなものから全く別の生まで数え切れないほど生れ落ちては世界を救う旅をしてきた。

戦いの中で僕は知った、人を殺す恐ろしさ、正義と悪の真実、戦争の根底にあるもの。

魂という器に、僕が重ねてきた生涯の記憶が上塗りされる度、やがて心は腐っていた。

 

 そして俺は世界を滅ぼす側になった。

最初は魔物として、次に亜人、魔族、勇者の子孫、皇帝、魔導師、騎士、商人、農民…人間にとって善であった頃とは真逆で苦難に塗れた悪の道を敢えて選んで進み続けた。

それで思い知らされた、命の尊さ、進化の可能性、無常の真理。

既に器は歪んで、積み重ねた魂の情報量は、俺の認識を越えていた。

 

 唐突に善でも悪でもない、只の人間として転生し、生涯を終えた時に俺は悟った。

俺の魂は既に形成する自己が普通の命が持って生まれるそれとはかけ離れている。

知性ある命の思考を完全に理解して読み取り、感情の仕組みを制御して自らを高みに昇らせることも、底辺に貶めることも自在に操ることが出来た。

文字通りの全知全能、神に近い存在へと俺の魂は進もうとしているのだろう。

 

 だが、俺はそれを拒絶した。

神とはまだ命なき星が生んだ、姿なき無形の存在である。

形在って神を僭称するものは神に非ず、神の紛い物だ。

神は命あるものを玩弄しない、神は歴史を書き換えたりしない、神はただ命あるものが織り成す世界(物語)の始まりから終わりまでを、淡々と記録するだけの終末装置に過ぎない。

 

 その星の世界が終われば、神はまた次の世界を始めて、星の終わりまで見届ける。

それを永遠に繰り返すものが神、であれば俺はそんなものに成り下がるのは御免だ。

かつてはヒトであった俺だ…なら、俺がなすべき事は只一つ。

 

「人が滅びに向かわない為の抑止力、人が可能性の先にある進化に辿り着くための壁」

 

―――それが(オレ)がこの生涯で為せる唯一無二の偉業だ。

差し当っては名前を変える必要があるだろうな…

偽りの神の眷属を排して、オレは一国の王として、人間に仇為す魔王として、何時かは勇者に討たれる者として、新たな生を始めるのだから。

ヤハウェが創り出した原初のヒト…その名を借りてみるのも面白いか。

 

 

「ん~っ!これ美味しい!」

 

「そうかそうか!美味いか、フハッハッハッ!それは良かったな!」

 

 商業都市フューレンを襲った一連の騒動の最中、宿屋の一室は穏やかな時が流れていた。

突如部屋を訪れた魔王アダムに最初は警戒していたミュウだが、彼が取り出した甘いお菓子や果実の飲み物の誘惑に負けて、すっかり気を許してしまっている。

彼もミュウに菓子や飲み物を与える以外は何かする素振りもなく、ただ上機嫌に笑っていた。

 

「このお菓子、なんていうの?」

 

「それはな、チョコレートだ。樹海にある果実の種を潰して、砂糖を混ぜたものを固めて作る菓子の名。―――ククッ、この世界で製法を知る者がいるかはオレにも分からぬがな?この話をいつかお前の想い人にでも話してやるといい」

 

「わかったの!……おもいびと?」

 

「お前を助けた小僧…と言えば分かるだろう」

 

 口いっぱいにチョコレートを頬張りながら首を傾げていたミュウは、アダムの一言で誰のことか分かって、あっと声を上げて頬を赤くする。

それを見て彼はまたニヤニヤ笑いながら彼女を揶揄う。

 

「愛い奴だ、その年で色を知るとは…クククッ」

 

「…ぅみゅぅ…」

 

「照れるな照れるな。無垢なお前が大人の階段を上る為に必要な事だ、それは」

 

「…ほんとーに?」

 

「あぁ。初々しい恋はやがて異性への愛となり、深まった愛は欲の形を求めて交わり、そこに新たな命が生まれる。……まぁお前がそうなれるのはまだまだ先の話やもしれんがなぁ」

 

「みゅぅ…お兄ちゃんの話は難しいすぎるの…」

 

「ハッハッハッ!分からずともよい!甘い菓子で口の締まりがなくなった男の戯言と聞き流せ!」

 

 そう言ってアダムは指先で無詠唱の魔法を展開し、ミュウの手元にあるコップに液体を注ぐ。

果実の酸味が強めのそれは、チョコレートとよく合う飲み物である。

無論、ミュウがそれを知る筈もないのだが…

 

 朝食の後でお菓子を沢山食べたミュウは満足して食べる手を止めて話に夢中になった。

アダムが話す内容は、幼い彼女には難し過ぎるものもあったが、彼女の好奇心を擽るものばかり。

半日近く和気藹々と話していた彼は、唐突にこんな事を言い出した。

 

「ミュウよ、お前に一つ問うておくことがある」

 

「なぁに?」

 

「お前は小僧を好いている。…が、お前と小僧の間には結ばれぬかもしれない絶対的な壁がある…お前はそれを、理解しているな?」

 

「……みゅぅ」

 

 これまでの会話の中で何度か出てきた恋愛の話、それにミュウは強い関心を示していた。

アダムの言葉に、彼女は悲しそうな顔をして俯きながら首を縦に振った。

 

 ミュウが初めて好きになった相手、彼と恋人になるには、彼女はあまりに幼過ぎる。

彼女がそれで良くても、彼は認めてはくれないだろう。…拒絶される等と彼女は考えたくもない。

彼の周りにはミュウよりも綺麗な、彼が恋心を抱いてしまいそうな相手が何人もいるという。

 

 彼はいずれ誰か一人か、或いは数人と結ばれるのだろう。

しかしそこに自分の居場所はない…そう思うだけでミュウは胸が張り裂けそうだった。

考えすぎて目に涙を浮かべそうになったミュウの頬に、すっと温かい手の温もりが触れる。

彼女が顔を上げると、アダムが柔和な笑みを浮かべていた。

 

「考えるな、想いのままを、オレに言ってみろ…ミュウ」

 

「…ミュウ…は…ハジメ…お兄ちゃんが…好きなの」

 

 最初は裸を見られたから、その責任を取ってとか故郷の人が言った言葉に従って。

けれども本当は…苦しいところから自分を救い出してくれた時の温もりが愛おしく感じたから。

愛おしいという言葉の意味をまだ理解しきれていないミュウだが、心はそう言っていた。

小さな体を震わせながら、心の中に溜まった想いを吐き出す。

 

「…ハジメお兄ちゃんが好きで、ハジメお兄ちゃんにも、ミュウを好きになって欲しいの…」

 

「…年が離れていても…か?」

 

「…それ…は…ぅぅ…」

 

「―――嗚呼、これ以上はオレも良心が痛むな…許せよミュウ、少し意地悪が過ぎた」

 

 優しく頭を撫でるアダムの前でミュウは赤くなった鼻をスンッと啜る。

何処からともなく取り出したハンカチで零れ落ちそうな涙を拭い、彼はそっと囁いた。

 

「お前の恋を叶える方法がある…と言ったら、お前はどうする?」

 

「………ふぇ?」

 

 驚いた様子で顔を上げるミュウの前でアダムはフフンと笑いながら席を立つ。

その手に翳した魔法の光、それはどの属性にも満たない、()()()()()()()()()

神代魔法の担い手ですら、それを使う事は不可能である。

偽りの神ですら、その魔法が存在している事を認識していない。

 

「俺の魔法で、お前を小僧と同じ年にまで成長させる事が出来る」

 

「…お兄ちゃんと…同じ…」

 

「そうだ、であれば越えられぬ壁は消え、お前は想いに向き合う事が出来る」

 

 ただの子どもなら、怪しげな魔法を前に怯えて逃げ出すだろう。

しかしミュウはその甘い言葉に誘われて、椅子から降りて彼の前まで歩く。

その魔法が発する光は、神秘的でありながら温かなものを感じさせた。

 

「もしお前が成長すれば、想いを遂げる可能性は出てくる。…が、お前は苦しい思いをするかもしれん…それでも、お前はこのオレの魔法を欲するか?」

 

「………!」

 

 苦しいという言葉を聞いて、ミュウの足が止まる。

脳裏に過ぎるのはあの乱暴な人間達の罵声や恐ろしい空間。

また同じ目に遭うのかと思えば、恐怖で震えそうになった。

…けれども…

 

(…いたい)

 

 たとえ、どれだけの苦難の道であろうと進み続ける。

 

(…ミュウはハジメお兄ちゃんの…)

 

 それが、自分の願いを叶える道だと分かっているなら。

 

(…ハジメお兄ちゃんの傍に、ずっといたい…!)

 

 躊躇う事はあっても、顔を上げて、足は前へ進み続ける。

それが…ヒトの意志だ…アダムは言葉にせず、ただ笑みを浮かべていた。

きっとこんな事にこの魔法を使うと知った第三者がいたら、笑うだろう。

世界を滅ぼす事も容易なそれを、たかが少女の恋愛事に使うなど…

 

「答えは得た。…目を閉じろ、レミアの子…ミュウ・メロウ」

 

 静かな声でアダムに言われた通り、ミュウはその場で目を瞑った。

魔法の光が意志を持ったように揺れて、彼女の頭の上にアダムの掌が翳される。

重力に曳かれるように魔法の光は彼の掌を離れ、彼女の頭上へと触れた。

 

「――――――命じる」

 

 アダムが発する言葉はヒトの言語ではなく、この世の言葉でもなかった。

ただ、視力を使わない事で鋭敏になったミュウの聴覚は幾つかの言葉を聞き取る。

 

(……あーかーしゃ……?こん、げん…?)

 

 その言葉の意味を、彼女が理解するのはずっと先の話である。

次第に眠気が襲ってきたミュウは眠くなって、その場で崩れ落ちそうになる。

寸でのところをアダムに抱きかかえられて、彼女はベッドに寝かされた。

 

 大きくなった体で目を覚ました彼女はその後、夕方前に目を覚ます。

彼女の目覚めを待っていたアダムは笑いながら「悪いな、別れの時だ」と言って部屋の窓を飛び降り、ミュウは慌ててそれを追いかけようと窓に近付くも、外に彼の姿は無かったという。

 

 





 ある人物って態々書かなくても、初登場時の言い回しとかで大体の読者は「あっ、そういう…」と察しがついているんでしょうね。
因みに彼の周回数(何のとは言いませんが)は三桁越えてるとだけ…

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。

初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)

  • 続編にして
  • このまま話数増やしてもいいんじゃね?
  • 打ち切りはヤメロォ!
  • もっと周りの話補完して♡
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