初期プロット段階で良い意味でネタキャラにしようと思っていたら、王国側にも常識人増やした方がいいかなと思って書いたらこうなった……
第四章「騒動の終わり」の翌日、次に投稿予定のハジメ達がホルアドに向かう日の出来事ですね。
勇者とは、そもそも何を起源に生まれた天職なのだろう?
読んで字の如く、勇ましいだけの者が勇者に選ばれる訳ではない。
困難に立ち向かって偉業を成し遂げた者、武勇に優れた者を指すのが一般的だ。
勇者は英雄と同一視されるが、後者はどちらかというと歴史に名を遺す者である。
天之河光輝は
彼の友人や彼の世話を焼く幼馴染からしたら、勇者でも不思議とは思わない。
しかし彼のいき過ぎた正義感や偏見に塗れた言動を知る人物からしたら勇者とは認めたくない。
此処である疑問が浮かぶ。
それでは
天職が血統に左右される等の学説は未だ世に出てはいないが、過去に勇者の天職に選ばれた者がいたとして、その子孫が同じように選ばれる可能性は無いとは言えぬであろう。
冒険者にはかつて人間族で最強と謳われながら魔獣の前に散った者がいるという。
似たようなもので、遠い昔に勇者と呼ばれた者を血縁者に持つ一族がいた。
一族の家名はベレジナ、かつての勇者の名前ネイ・ベレジナを一族の誇りとして、ベレジナ家に生まれた男児はミドルネームにネイを名乗る。
そんなベレジナ家はハイリヒ王国の貴族だった。
王都の近くにある神山から更に北上した先の穀倉地帯を取り仕切っている。
当主は既に老いた身であり、公の場にはあまり姿を現さない。
現当主の子どもは三人、既に成人して次期当主の座を約束された長男。
当主の座などに興味はなく、冒険者として生きる道を選んだ青年の次男。
数年前に生まれたばかりだが、魔法に天性の才があると言われている長女。
この話は、その中で最も波乱万丈な人生を送る次男”アベル・ネイ・ベレジナ”に焦点を当てる。
*
「ハッ、せいっ!っえぁぁっ!」
王都の冒険者ギルド本部に併設された訓練所に威勢の良い掛け声が木霊する。
石造りの壁で囲まれたそこには、半裸で木剣を振り続ける金髪の青年がいた。
彼こそがアベル・ネイ・ベレジナ、冒険者としての呼び名は”閃刃”のアベル。
陽が昇るよりずっと前に起きて、訓練所で一人我武者羅に剣を振り続けている。
木剣を握り込んで離さない両手は傷だらけかと思いきや、かなり手入れが行き届いていた。
これは彼がこうして自身を追い込むようになる前、多くの美女を侍らせる貴族の次男として、身嗜みにはかなり気を遣っていた頃の名残であるという。
肌が丸見えの背中や胸板には幾つもの刺し傷や火傷の痕が残っていた。
「「「「きゃーっ!アベル様~っ」」」」
それから間もなく、訓練所を囲む柵の外から黄色い声が上がる。
アベルは木剣を振る手を止めてチラと声のする方へ振り向いた。
そこには彼の取り巻きである見目麗しい美女たちが立っていて、彼に手を振っていた。
アベルと彼女達の付き合いは数年前、王都で開かれた貴族達のパーティーが始まりだった。
当時のアベルは自身が冒険者として最高ランクの金である事を鼻にかけて、退屈な令嬢暮らしに飽き飽きしていた彼女達は刺激的な彼の誇張表現たっぷりな武勇伝にメロメロになって今に至る。
(今思い返すと、私は貴族の子として恥ずべき振舞いをしていたのだな…)
当時の一人称は僕、俺だったアベルが自分を「私」と言うようになったのは少し前から。
貴族の子どもだから、コネや金を積んで金ランクの冒険者になったのだろうと同業者に嘲笑われて、ムキになった彼が魔物討伐で実力を認めさせようと旅に出たのが事の始まりである。
(―――実際、冒険者になる時に父の友人だった元冒険者を頼ったのは否定しないが)
思い出す度に顔から火が出そうになるほど恥ずかしい自分の経歴ばかり。
結局、碌な実力もないアベルは旅先で魔物の群れに遭遇して、恐怖で動けず死を覚悟した。
そんな時に、彼が変わるきっかけをくれたあの二人が現れたのだ。
(噂が何のアテにもならないと、彼らは私の前で証明してみせた…)
言葉遣いは荒々しく、下品な事ばかり言うが実力は呼び名に違わぬ英雄級だった男。
一見物静かで美しいが、口を開けば棘のある言葉ばかりで分析力がずば抜けて鋭い女。
まさに比翼連理、一騎当千の活躍をした二人組のハンターにより、アベルは助けられた。
(私も肩書だけの男ではないと、人に示さなければならない―――!)
同時に自身の至らなさ、思い上がりをアベルは痛感した。
それから彼は金ランク冒険者、そして貴族の子である責任を負う為に自身を改めようと弛まぬ努力をすると、自身と偉大な先祖に誓いを立てたのだ。
「アベル様ぁっ!!」
「ッ!」
取り巻き達の声でハッと我に返ったアベルは自身の手が止まっている事に気づく。
首を振って思いに耽る時間も惜しいと、ただ声を掛けてくれた彼女達に一度だけ振り返って微笑みながら手を振ってから、再び木剣を振る鍛錬に戻る。
「「「「きゃーっ!」」」」
手を振られた方はそれだけで満足なのか、黄色い声を上げながら去っていった。
以前は彼女達からアベルは少し見栄っ張りな子供っぽさがあると思われていたが、ここ最近のクールに気取った―――本人にそのつもりはなくとも―――彼は大人っぽくなって良いと彼女達から評価を上げられているのだが…
「せっ、はっ、ぜえぁぁっ!!」
当の本人はそれに気づかないまま、昼過ぎまで鍛錬に励んでいた。
*
「フューレンの結界が破られた?」
昼食を取り巻きの美女たちが持ってきてくれた軽いもので済ませたアベル。
訓練所から戻って、冒険者ギルド本部の酒場で他の冒険者達と話をしていた。
以前は口先だけの貴族のガキがコネで冒険者になっただけだと周りからは敬遠されていた彼だが、最近では情報を得るために他の冒険者に気前よく酒を振る舞ったりしている。
勿論、彼が冒険者として稼いだ報酬でだ。
「それが真実だとしたら一大事じゃないか」
「まぁ俺もハンターズギルドの職員連中が話してたのを盗み聞きしただけだからよぉ、詳しい内容は本人たちに直接聞いてみるか、実際にフューレンにいかねぇと分からねえのさ」
「…そうか…」
泡立つ酒の入ったジョッキを抱えて酔っ払う冒険者に対して、アベルは大して冷たくもない水の入ったコップを傾けて一口飲んでから話を続けた。
「ギルドマスターからは?」
「なーんにも?…最近のギルマス、依頼の回りが悪くて老け込んじまってるからなあ」
冒険者ギルドのトップ、ギルドマスター”バルス・ラプタ”
現役時代は冒険者としてそれなりに名を上げて、引退後ギルドに再就職したのだという。
筋肉質で覇気を纏った男だが、最近はあまり元気がないようだ。
話し合う二人が共通で思い当たる事を頭に浮かべ、アベルが交わしていた視線を外す。
「…それは、仕方ないさ…魔物退治が殆ど彼らの専売特許になってしまったからね」
「けッ!帝国のハンター様様ってかぁ?…つぅかアベルよぉ、お前さん貴族の出だろぉ…ハンターに対して他の貴族共に比べるとなんつぅかよぉ…言い方が柔らけぇと感じるのは、俺だけかぁ?」
「―――ハハッ…貴方が酔っているから、そう見えているだけですよ」
「そうかぁ…ヒック…話ぁ、これで終わりだぁ」
「ありがとう、金は此処に置いておくよ」
合計で1000ルタ入った小銭袋を机に突っ伏していびきをかき始めた男の傍に置いて、アベルは愛用する剣と盾を背負って受付の方へ向かう。
声をかける前に顔を出した受付嬢に向かって彼は要件を告げる。
「フューレン支部からの依頼は、何か来てませんか?」
「―――確認しますね、少々お待ちください」
「お願いします」
それから数分後、羊皮紙の巻物を持った受付嬢が戻ってきた。
アベルは広げられた羊皮紙に目を通して、男から聞いた話を合わせて確信する。
(フューレンで何かあったのは間違いないな…)
宿場町と王都に来る予定だった商人がまだ到着していないのに対して、それらの護衛の依頼や王都、宿場町周辺の調査の依頼がここ数日で大量に発注されている。
彼は「ありがとう御座います、特に受ける依頼はありませんでした」と答えた。
「…フューレンに向かわれるのですか?」
「はい。噂を真に受けるつもりはありませんが、この目で確かめるべきかと…」
依頼を受けないのは、あくまで貴族の子として動く為の建前である。
本音を言うと依頼を受けて確認もするのが効率的なのだが、彼はそれを認めない。
変なプライドは相変わらずだと受付嬢はクスクス笑いながら羊皮紙を引っ込める。
「…私は何か可笑しい事をしましたか…?」
「フフッ、いいえ。……ただ」
「ただ?」
「―――貴方は以前よりも、素敵な男性になったんですね」
「…ありがとう御座います」
受付嬢の言葉を素直に受け取って頭を下げてから、アベルは静かにその場を去っていった。
彼女は本部で長く受付嬢をしている為、人を見る目というものが養われているのだ。
故に最初の頃にあったアベルの印象は最悪、いつか評判も地に落ちるだろうと思っていた。
だが突然彼の尊大な口調が穏やかなそれに変わり、自らの出自やランクを鼻にかけることもせず、ひたすら精進を重ねる好青年へとなっていたのだ。
年下の趣味は無く、既婚者である受付嬢は特に色目を使うことはないが…
それでも今の彼は、一昔前に流行った立派な冒険者と呼べる存在だった。
今も酒場で昼間から飲んだくれているロクデナシ共より、よっぽど良い男である。
金ランクの冒険者、勇者の子孫、アベル・ネイ・ベレジナ。
本来は落ちぶれる筈の彼が勇者と呼ばれ、人々に賞賛されるのは…もう少し先の話。
アベルのご先祖様が勇者だった云々は多分、独自解釈になります。
ネイ・ベレジナの名前の参考になったのは実在したフランスの軍人「ミシェル・ネイ」と彼が「勇者の中の勇者」と呼ばれるに至ったベレジナ川での戦いから着想を得ています(彼の人物像なども今後のアベルの口調とか活躍に生かされるかもしれません)
フューレンでの騒ぎが伝わるの早すぎない?って思うかもしれませんが、フューレンの貴族が騒ぎがあった直後に王都まで救援要請(早馬的なアレか、ギルドみたいに伝書鳩みたいなのを飛ばしたのかはご想像にお任せします)を出していたという事で…
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
-
続編にして
-
このまま話数増やしてもいいんじゃね?
-
打ち切りはヤメロォ!
-
もっと周りの話補完して♡