八重樫流の考察とかは深く考えずにそれっぽいのをチョイスしました。
八重樫一族は代々続く古流武術の家である。
兵法三大源流の内、馬庭念流からの派生として江戸時代に確立された八重樫流。
主体である剣術には馬庭念流の形を取り入れ、幻とされる甲賀流の忍術、日本最古の柔術とされる竹内流の羽手(拳法躰術)の流れも汲んでいた。
日本が戦争に負け、剣術も忍術も必要とされなくなった時代が訪れても他の流派と同様に、建前として剣道や近代武道の道場を運営してはいるが、剣術や忍術といった技を選び抜かれた門下生達に脈々と受け継がせているのだった。
八重樫雫はそんな家に生まれた一人の女の子である。
一人っ子ということもあって、彼女が何れ八重樫家の当主の座を継ぐのは決まっていた。
しかし当主であるなら、その肩書きに相応しい武の才能を持ってなければならない。
幸いにして彼女は四歳で剣術の才能を周囲の人間に認知させていた。
―――彼女は父”八重樫虎一”をも超える剣術少女として大成するだろう。
誰もが無責任な期待を彼女に押し付け、彼女もそれに応えようと努力を重ねた。
女だから武の道に合わない等と時代錯誤なことを言う愚者はいない。
メキメキと実力を付けて、それに並行として勉学にも励めば八重樫家は安泰だ。
まさに順風満帆の勝ち組人生…ここまでの経歴を見れば誰もがそう思っただろう。
だが人生とは常に上手く回らないことがお決まりのクソッタレな脚本だと相場は決まっている。
彼女の見る世界が壊れ始めたのはそう…幼馴染の少年、天之河光輝と出会って同じ小学校に通いながら、年相応に彼女が恋心を意識し始めた時だ。
その日も何時ものように明朗快活に周囲へ笑顔を振りまく光輝の隣を歩いていた。
学校が終わって真っ先に実家の剣道場へと向かう彼を追おうとした雫を呼ぶ女子達の声。
最初は何か用があるのかとお互いに名前を憶えている以外は親しい間柄でもない他の教室の女子達が声を掛けてきたことに深い疑問を抱かなかった。
相談事なら教室で済むはずなのに、態々人気の少ない体育館裏に呼び出されて雫は…
バシャッ!
雫が頭から被った水は明らかに衛生的に良いものではないとすぐに分かった。
鼻が曲がる腐った卵のような臭いは雨の日の後に漂う排水溝のそれとよく似ている。
呆然とした表情で視線を向けると、呼び出した彼女達の一人がバケツを手にしていた。
それは錆だらけの歪な形で外に放置されてからずっと使われていないものである。
中には数か月前に溜まったっきりの雨水が入っていたのを雫も覚えていた。
(……どうして……こんな酷い事するの……?)
唖然とした表情で硬直した彼女はやがて深い悲しみを覚える。
その時、ニヤニヤした表情で雫を見る女子達の一人が理由を話した。
どうやら彼女達は雫と一緒にいる光輝のことが好きで溜まらなかったのだ。
だから四六時中傍にいて楽し気に笑う雫の存在が邪魔だった。
こうして一人になった時を見計らって、虐めてやろうと思い至ったのである。
浅はかで醜い嫉妬心の産んだ行動だが、幼い子供にはよくある行動だろう。
その後、雫に汚物を見るような目で逃げ帰っていく女子達に脅されて、体中異臭を漂わせて家に戻った彼女は自分が不慮の事故で泥水を被ってしまったのだと両親に嘘をついた。
雫が嘘をついたのは人生でこれが初めてのことである。
武の道を研鑽する身である彼女が、嘘偽りを述べる等と誰も疑わなかった。
それから彼女は事の発端である光輝に相談を持ち掛けることにした。
何か問題が起きれば遠慮なく俺を頼れと、その頃から彼が口癖のように言っていた。
きっと雫には想像もできない方法で彼は問題を解決してくれるだろう。
……そう思っていた一週間後、虐めは更に辛辣なものへ変わっていた。
お気に入りの筆箱を、自分が目を離した隙に刃物でズタボロに壊された。
給食のおかずを配膳係の子がわざと少なくして、酷い時は配られさえしなかった。
着替えの時に服を外に投げられた時は通りかかった用務員さんがいなかったら、雫は下着姿で校舎内をうろつくことになるかもしれなかった。
(何も変わってない…!寧ろ酷くなるばっかり…どうして私がこんな目に!!)
雫はまた光輝に相談した。
けれど彼女が望んだ答えは彼の口から出てこなかった。
逆に雫が何か悪い事をしてるんじゃないかと疑われた。
当時10歳の誕生日を迎えたばかりの彼女の心が狂い始めたのに誰も気づけなかった。
それから彼女は
暴走しがちな光輝を諫め、周りの同級生達に頼られるような存在として振る舞い、何か間違いがあった時は常に自分の努力が足りないのだと厳しく戒める。
―――もう心は壊れない、だって壊れる心も
中学校に上がってから、光輝と幼馴染である白崎香織と親しい仲になった。
中学生にしては少々メルヘンチックで誰に対しても分け隔てなく優しく振る舞う彼女と雫は対照的な存在だが、比較対象が居ることで雫の心に僅かながらの平穏が訪れたのも事実である。
束の間の平穏…それが再び狂い始めたのは、雫が香織に恋愛相談を持ち掛けられてから。
相手は違う中学校に通う見た目はパッとしない平凡を形にしたような同年代の男の子。
きっかけは休日のある日、厳ついヤンキーに因縁をつけられた子どもと老人を助けようと身を挺してヤンキー達から袋叩きにあって、結果的に子どもと老人を助けた彼の一部始終を見ていたことだったという。
(まるで漫画の主人公みたいな子ね…)
既に恋愛対象からは除外している光輝も似たような場面で同じ行動に出るだろう。
しかし彼の場合はやや行き過ぎた発言や行動が相手の神経を逆撫ですることがあった。
そういう時は決まって雫が割って入り、なんやかんやで丸く収めるのだ。
全てが終わった頃には彼女の心的疲労が極限にまで達している事を光輝は知らない。
運命の悪戯か、偶然にも香織の一目惚れの子と雫達は同じ高校に通うことになった。
それからの香織は幼馴染である光輝を彷彿とさせるような猪突猛進ぶりでその男の子にアピールして、香織を信奉する男子達が嫉妬に駆られて男の子を虐めるという事態に発展する。
流石に雫もそれは男の子が可哀想だと何とか止めようとしたのだが、そこへ更に厄介なことに光輝が香織の構っている男の子に無意識に嫉妬し始めてダル絡みするようになってしまった。
香織の行き過ぎた恋心を止めるどころじゃない、また光輝を何とかしなければ…
そうしないと、今度はあの男の子が
―――あんな目に遭うのは自分一人で十分だ……もう私は
この言葉の意味を雫は後になって少し分かった気がした。
光輝を好きだった女子達から言われた罵詈雑言の内、もっとも深く刺さった一言。
「あんたなんて男女よ、気持ち悪いだけのね」
女の癖に男みたいな毅然とした態度が気に入らない。
男みたいに振る舞うくせに、女みたいに髪を伸ばして馬鹿みたい。
光輝の前でだけ女らしく振る舞って、まるで構って欲しい男の子みたい。
―――嗚呼、本当に…心底私は気持ち悪い…男女なのね。
気持ち悪いという言葉が何度も頭の中で反響して、ストンと心の中に落ちていく。
あの時みたいな痛みは不思議と感じなかった。寧ろ
*
「使徒様、馬の準備が整いました」
「…!はい、すぐに向かいます」
自分の人生を振り返る走馬灯にしては、やけに暗い記憶しか蘇らなかったな…
でも、今の私には相応しい罰なのかもしれない…楽しい事なんて考えちゃいけないんだ。
南雲君も清水君も檜山君達も、死んでいった騎士の人達も…
こんな私に生きていていい理由なんてない。
醜い卑劣で下等な男女は、今すぐにでも罰せられるのが相応しいんでしょうね。
これで教皇の怒りが収まるなら、私の死は無駄じゃないことの証明になる。
私が死んだ後のクラスの皆は…どうなるんだろ、私には分からないかな。
これから死ぬより辛い目に遭って、最悪は死ぬかもしれない私に…未来のことなんて分からない。
従者の人に着いて行き、前にメルドさんから教わったように馬に跨る。
ちょっと高くて怖いけれど、乗り手が怯えていたら馬は言う事を聞いてくれない。
グッと恐怖心を堪えて手綱を握り、荷物を背に軽く足で馬のお腹を蹴って進むよう促す。
(…結局、動物園も遊園地も…いけなかったなぁ…)
幼い頃からの憧れ、いつか大好きになった
動物とたくさん触れ合って、遊園地のジェットコースターとかコーヒーカップとか乗って、普通の女の子みたいにはしゃげたら…それだけで私の人生は満ち足りたのかもしれないのになぁ…
遠くに神山へ続く山道の門が見えてきたことで私は気持ちを切り替え、門番に来た理由を言おうとして――――――
「申し訳ありません使徒様。現在、神山は教皇様の命で如何なる理由があろうとこの先、立ち入り禁止となっております。急ぎの用とお見受けしますが、どうかお引き取りをお願い致します。日を改めてお越しください」
「……………え?」
どうやら私はまだ、目の前に見える山の上で死ぬ予定が決まってないらしい。
男の虐めより女の虐めのが陰湿ってそれ一番言われてることだから…
参考程度に虐めの経験を知人から聞きましたがこれでもかなりマイルドです(実際は椅子に接着剤、移動教室のすれ違いの度に殴られ蹴られ、階段から突き落とされ等々)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡