「ば、バイアス皇子?突然どうされたのですか?」
バイアスが会議の予定にない発言をして席を立ち、その場の視線を釘付けにする。
隣で少しムッとする父の気配に気づいたリリアーナが王国代表として問いかけた。その流れでバイアスの隣に座る、本来この後に予定していた話をするはずだった帝国代表のガハルドに彼女は目線を移す。彼が何時ものようにバイアスを諫めてくれると思ったのだが―――
「構わん、好きに話せ」
「が、ガハルド様!?何を―――」
「どっ…どういうつもりだ!こんなの予定にないぞっ」
ガハルドが容認したことで、黙っていたエリヒドが焦りと困惑のあまり叫んだ。
会議の隅っこで雫は「三国会議はこういう雰囲気が普通なんですか?」と傍らにいるメルドへ問いかけるが、彼も今まで無かった展開に困惑していて「いや、違う」と返す事しか出来なかった。
バイアスは背後で控える部下から、一枚の羊皮紙を受け取り声を大にして読み上げる。
「長きにわたり続く魔人族との戦争。それによる三国が受けた被害、主に各軍の損耗率や戦況維持のために投入した兵士含めた資源の消費量、各国が失った領地の範囲を俺の部下は記録してきた」
彼の手によって大きく広げられたトータスの大陸図。雫は今まで見た事なかったそれを目にして、自分達のいる場所が大陸の最北端である事を初めて知って驚く。
人間族が生活圏にしている場所は大陸の土地の面積の四分の一しかない。対する魔人族は南方から中央を跨いで東西まで支配領域を持っている。
彼女はこんな大きな敵と戦うつもりだったと今更になって知ったのだ。
「ヘルシャー帝国とアンカジ公国の国力が年々減少傾向にあるのに対し、ハイリヒ王国はある時から増加傾向にある!これは、先々代の皇帝が三国との友好関係を築いたことの証として疲弊した王国軍に代わり、ウルから南の山間部、シュネー雪原までの主戦場に一時の間、帝国軍の戦力を配置するということで王国の国力回復に助力した結果であった」
多くは語られないトータスの歴史。その一端であり、この世界で云うところの近代史になるのだろう。まだ帝国にハンターの概念は定着しておらず、今よりも過激な実力主義の封建的な社会秩序を敷いていた頃。この場に居る者で、その頃のヘルシャー帝国に実際に足を運んだものはいない。
現皇帝であるガハルドですら、皇帝になる前の歴史として幼少期に学ぶくらいの古い話なのだ。
弱者を軽んじる先々代の皇帝にどういう意図があって王国に貸を作ったのかは分からない。
或いは誰も知らぬ内、
バイアスの言わんとしていることが王国と教会を批判することに繋がると被害妄想でもしていたのか、不機嫌な顔で聖教教会の代表代理であるフォルビン司祭が口を挿もうとするが―――
「それはいい!!」
視界の隅で口を開こうとしていた
昔の事とはいえ約束は約束。帝国はそれを違えるような卑怯者になるつもりはない。
しかし最初にバイアスは言った「現状ハイリヒ王国の国力は増加傾向にある」と。それはつまり、かつて魔人族との戦争で減少傾向にあった国力はとっくに回復しきっているのだ。
先々代と交わした約束は「一時の間、王国領の防衛を代わる」というもの。既にその時期は過ぎており、シュネー雪原の最前線に倒れてるのは王国兵士である筈だが…
帝国側の要請に王国側は苦言を呈し「神の名の下の約定に従い、引き続き防衛の意思を貫いてくれ」と要請は却下され続けてきた。ある時を境に帝国側もそれを口にすることはなかった。
…否、あえて言葉には出さなかったのだ。
ガハルドが皇帝になってから、バイアスが皇子としての在り方を変えてから、トレイシーが皇女の座に着いてから、三者はまったく同じ意見が口から出ている。
実力主義というのはそのままに、前時代的な体制を敷いてきた帝国を彼らは一新した。
多くの事柄に目を向けて変えようとするうち、常に邪魔する存在があったと気づいたのだ。本当に居るかどうかも定かではない神エヒトに心酔する教会と、教会の走狗と化した王家、それを利用して悪行三昧、腐敗しきった貴族連中。
今の人間族が病に倒れた病人なら、それを治そうとする帝国にとって彼らは病原体である。
治る気があるならと彼らのように染まり切っていない公国には救いの手を差し伸べた。だが帝国が何度も救いの手を差し伸べてもそれを拒んだうえに、王国側と教会は帝国に唾を吐いた。
言葉が通じないのであれば、お望み通り…
「だがな!!ハイリヒ王家の者共、そして王国貴族諸侯に俺は帝国軍の総指揮官という立場にある者としてこの場を借りてハッキリ言わせて貰う!もう国力は十分に戻っただろう!?いつまでっ!俺達は一体いつまで他国の領地を守る為に兵士達を死地に追いやらなければならないのだ!?」
「な、何を言い出すかと思えば…バイアス皇子!陛下の御前、代理とはいえ聖教教会の司祭様であらせられるフォルビン様の前で無礼が過ぎますぞ!?」
沈黙の間を置かずに、侮辱されたと憤った王国貴族の一人が怒鳴り散らす。
一度はそれに便乗しかけたエリヒドだったが、ハッと我に返り穏やかな笑みでバイアスに批判の声を上げる貴族達に向かって手を上げて制する。
シン…と会場が静まり返った瞬間、雫は嫌な予感がして背筋をブルッと震わせた。
会場中の視線がエリヒドとバイアスに注がれる中、彼女だけは見ていたのだ。
バイアスが話している間、終始額に手を当てるようにして顔を隠しているトレイシーを。
手で隠した内側から覗いた不気味な笑顔が、彼女の頭から離れない。
「バイアス皇子、バイアス皇子。少し落ち着いたらどうかね?お父上に代わり、若くして帝国軍の総指揮官という立場に立つ君の考えは分かった。だけどね?それは先々代の皇帝と先々代の国王が交わした国同士の決め事なのだよ」
「国力が回復したからといって、戦い慣れていない王国軍の兵士を戦場に投入したとして、すぐにやられてまた逆戻りだ。敵に付け入られる隙を作ってしまう。それくらいなら、誰にでも……それこそ、まだ幼い私の息子ランデルにもわかりそうなものだよ?」
まるで親が悪戯をした子どもを叱りつけるようにバイアスを諭すエリヒド。
王国貴族側からはいい気味だと言わんばかりに嘲笑の声が漏れる。一方で帝国側の貴族はバイアスの性格を知った上で焦りと混乱が入り混じった不安の表情を浮かべた。
両者に挟まれる形で公国側は真剣な表情で事の成り行きを見守っていた。
「………」
「話は終わりかね皇子?では、元の議題に戻ると―――」
「――――――く、ふふふふっ!ハハハハッ……!」
そうエリヒドが言いかけた瞬間、会場内にトレイシーの笑い声が響き渡る。
雫の隣にいたメルドはこの時、会場の外が少し騒がしくなっていることに気づいた。
また言葉を遮られたエリヒドの横でリリアーナは初めて彼女と出会った時のことを思い出して、身に迫った目に見えない殺気に恐怖し震える。
「
「と、トレイシー皇女?貴女まで何を――――――」
「うん?お前は……あぁ、王国貴族の……誰だったか?フッ…悪いな。
「なっ――――――」
声を掛けたのは王国貴族の中でもそれなりの高い地位を持った侯爵家の当主だった。
しかしトレイシーは笑いを堪える興奮のあまり、彼に見向きもせずしれっと侮辱する。
リリアーナだけは彼の結末を知ってか、恐怖も相まって目を背けてしまう。
バイアスの突然の介入に始まり、トレイシーも加わって場は混乱を極めた。
エリヒドの怒りが徐々に限界へと達し、横にいたフォルビン司祭も怒りで顔を真っ赤にする。
両者が帝国側の退出を求めようと口を開きかけた次の瞬間――――――
バン!!と勢いよく大広間の扉が開かれて、全員の視線がそちらへ向けられた。
入ってきたのは血だらけで息も絶え絶えな王国兵、貴族側の女性から悲鳴が上がる。
城内の兵士と思しき者に肩を借りながら大広間に入ってきたその兵士は叫ぶ。
「…で、伝令…ッ!!ガーランドの軍勢が、ライセン大峡谷より出現!!同時にっ…南方の山間部を迂回する形で、別動隊と思しき敵戦力が公国方面に向かって進軍中とのこと―――!」
突如一人の兵士から告げられた魔人族侵攻の知らせは場内に衝撃を走らせた。
パニックが起ころうかという場内で、一部を除き冷静な判断が出来たのは数名だった。
クゼリー、メルド、リリアーナはフル回転で思考を回す。
(おかしい…なぜ
(大峡谷の方に王国軍は展開していない筈…どうやって
(魔人族が
思考すること数秒。三人は疑問符を浮かべている最中ふと周囲を見渡して、騒いでる人々が王国側の人間ばかりである事に気づいた。
公国側も見た感じは困惑しているが、貴族達と比べて
最後に視線を向けた先、帝国側の王族三人が目を合わせて何かを合図しているのを見て気づく。
(((――――――まさか!?)))
三人の疑問を軽くまとめ
・三国会議の真っ最中、仮にも厳重警備が敷かれている王城に満身創痍の兵士が直接乗り込むなんてことはほぼあり得ない(誰かに伝言を託して治療などを受けていないのが不自然)
・王国はライセン大峡谷の手前に関所があるだけで、大峡谷内で何か起きていたかとかを察知出来るような哨戒などは普段出していない(知ってるのは帝国軍ないし、そこら辺をいつもプラプラしてるハンターとハンターズギルドだけ)
・ガバガバ地理ですが、魔人族側の侵攻における最大のネックが雪山となっています。ウルへ入るには山間部の道(原作で云うハジメがウルの町守った時の話、大量の魔獣が通れるような道)を通らなければ人間族の領土へ侵攻出来ないわけです。
帝国側は湿地帯なうえに警備が厳重で無理ゲ、公国側は砂漠越え確定なのでモンスターとの遭遇含め物凄くしんどいのでルートとしては現実的ではないのですが、砂漠側の迂回路ならほんの少し進路を変えて進軍すれば宿場町ホルアドへ繋がるのでそこさえ占領してしまえば南北からウルを挟み撃ちにして丸っと領地を奪うことが出来るのです(公国軍と帝国軍に邪魔されなければ)
三人はこれだけの事をあの短時間で考え、王国以外の国の反応見て「あっ」となったわけです。
余談ですが帝国の先代皇帝も先々代皇帝も既にこの世にはおりません()
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡