追記補足:投稿した時の文で勇者君が腕一本持っていかれたことになっていましたが、作者の記憶違いでした。持っていかれたのは脳筋君だけです(勇者君は足と目)
王都の北側、神山と王城とは反対の方角、二つの山に挟まれる形で治癒院は建てられた。
此処に運ばれてくる患者の多くは身分の高い者の親族か聖教教会の関係者が殆ど。
オルクス大迷宮から戻ってきた神の使徒一行も王城ではなく今はここに身を寄せている。
回復薬と解毒薬のお陰で回復した遠藤浩介は自分の所属するパーティーメンバーと再会。
彼が根性を振り絞って地上へ助けを呼びにいかなかったら、恐らくもっと死者が出ていただろう。
永山パーティーは一人も欠ける事なく、負傷していたメンバーの傷も治癒院に到着する頃には完治していた為、王城へ報告に向かった雫から次の指示があるまで待機を言い渡されている。
次に最も被害の大きかった子悪党パーティーの現状。
リーダーである檜山大介とメンバーの一人、中野信治は死んだ。
生き残った斎藤良樹、近藤礼一も治癒院に来る前に体内から影蜘蛛の幼体を全て吐き出したとはいえ、かなりの精神的ダメージが残っている。
生還した騎士の誰かが話したのか事故とはいえ勇者に傷を負わせた話が治癒院の職員達にまで伝わってしまい、現在は人も寄りつかない離れの病棟に隔離されていた。
そして、神の使徒リーダー代理として雫が不在となった勇者パーティーは今………
*
「おーい、坂上君起きてる~?今入って大丈夫?」
「おう、大丈夫だぜ」
結界師の谷口鈴は片手に籠を持ちながら、一人用の病室の前まで来てから扉を控えめにノックして、中から聞こえてきた拳士の坂上龍太郎から返事が返ってきたのを確認してから中に入る。
貴族と同格かそれ以上の待遇をしろと命じられている神の使徒達に与えられた個室は豪華だ。
大理石の床に高級感ある真っ赤な絨毯を敷き、壁には無数の絵画、窓の枠には金が使われている。
豪華な造りの暖炉に来客用のソファーと机、机の上には山積みの果物が銀の皿に盛られていた。
龍太郎は一人用にしては大きすぎる、柔らかなベッドの上で上半身だけ起こして鈴を迎え入れた。
「悪いな、医者の先生には止められてるんだが…どうにも飯の量が少ないとなぁ」
「にゃはは~いいってことよ!坂上君、いつもたくさん食べてるもんね」
お気楽そうに笑いながらベッド横の椅子に腰かけた鈴は籠を龍太郎に差し出す。
布を被せられた籠の中には水の入った瓶と、具沢山のサンドイッチが入っていた。
治癒院では患者に用意される食事の内容も量も規則で決められており、育ち盛りの大食漢である彼はそれに耐えきれず、自由に出歩ける鈴に頼んでこっそりと間食を持ってきて貰っているのだ。
片腕で器用にコルク栓を抜いて水を飲んで一息つき、サイドテーブルに瓶を置いてから龍太郎はサンドイッチを一つ掴んで豪快にむしゃむしゃと食べ始める。
鈴はまた陽気に「にゃはは」と笑っていたが、ふと視線が肘から先がなくなって包帯の巻かれた彼の腕に吸い寄せられて少しだけ笑顔が硬くなった。
「―――――――――」
「んぐ、っふぅ……ん?どうした、谷口」
「……ぅえ!?え、あ、ううん!にゃはは~なんでもないよ~?」
「???そうか」
視界の端に移るクラスメイトの様子が変だと感じた龍太郎だったが、当の本人から何でもないと言われて自分の気にし過ぎだったのかもしれないと頭の中で完結し、目の前の食事に戻った。
しかし鈴は微笑を浮かべて俯きながら、食事をする龍太郎へこんな質問をした。
「鈴達、これからどうなっちゃうのかな?」
「………どうなるってそりゃあ………」
「最初は魔人族と戦争だ~とか言われて混乱したけど、いつの間にか大迷宮に潜って魔物と戦って、それから大迷宮を攻略することが目標になって………でも、攻略できなくて………」
「………」
笑顔が段々と曇っていく鈴を見て、龍太郎も暗い面持ちでサンドイッチから手を離す。
教皇と国王からの命令である大迷宮の攻略は、神の使徒が生きている限り続くだろう。
しかし彼ら彼女らに、再び地獄よりも悲惨なあの場所へ足を踏み入れる勇気はなかった。
こんな時、親友である勇者の天之河光輝が居てくれたら、きっと「大丈夫だ!」と自信満々に胸を叩いて皆を励ましてくれた。龍太郎は弱気になってふとそんな事を考える。
その光輝は立って歩く足を失い、目も殆ど見えない状態だという。
今は降霊術師の中村恵理が付きっ切りで看病をしてくれている。
彼の幼馴染である治癒術師の白崎香織は少し前に目を覚ましはしたが――――――
涙を目に浮かべて駆け寄った雫を前に、キョトン顔の彼女は一言。
「………ええっと、どちら様………ですか?」
(頭打って記憶喪失……んなのアリかよ……)
龍太郎はあまり詳しくないが、漫画やドラマだとありがちな展開だという。
記憶喪失というものは様々な原因によって引き起こされ、香織のそれは外傷性に因るもの。
自分の名前、出身地、家族のことから友人のことまで、彼女の記憶から抜け落ちている。
それを話しにきた時、絶望を抑えて感情の抜けきった雫の顔を龍太郎は忘れられない。
香織は医師によるカウンセリング等を行いながら、時間をかけて記憶が戻るのを待つしかない状態であると告げ、雫はメルドと共に王城へ向かった。
「――――――っ!」
パン!と乾いた音がして、驚いた龍太郎が顔を上げると、鈴が自身の頬を叩いていた。
何かを吹っ切るかのように椅子から立ち上がって大きく息を吸い込んだ彼女は言う。
「暗い顔してこんな弱音吐いてもどうにもならないよね!……というかそんなの鈴らしくないし……ごめんね坂上君!ちょっと鈴、気合入れ直しに外で自主練してくる!」
「お、おう………なぁ、谷口!!」
ズンズンと元気よく部屋を出ようとする鈴に慌てて龍太郎は声をかけて呼び止める。
振り返った彼女は何時ものように天真爛漫な笑顔を浮かべていた。
しかし彼の目には、今の彼女が辛いのを我慢して無理をしているように見えた。
「な~に?」
「……サンドイッチ、美味かったわ。また頼むな」
「うん、任せといて!」
(……こんな時、なんて声をかけてやりゃあいいのか……わからねえ)
自分の不甲斐なさに内心苛立ちを感じながら、龍太郎の言葉に笑顔で頷いてサムズアップを送る鈴を見ると、彼も少しだけ心が穏やかになった。
*
「もし、そこの方。神の使徒ではありませんか?」
「へっ?」
治癒院の廊下を一人歩いていた鈴は唐突に後ろから声を掛けられて振り返ると、軽鎧を着て腰に剣を下げた男の兵士が立っていた。
なぜ治癒院に武装した兵士が入ってこれるのか、彼女はそれを疑問に思わなかった。
「あ、うん…そうだよ!鈴も神の使徒!」
「そうでしたか。丁度よかった、私は帝国軍の者です」
「帝国?」
鈴は聞き慣れない単語に首を傾げ、顎に手を当てて考え込む。
そして王城で受けた座学の中に、隣国のヘルシャー帝国という名前があるということを思い出して「へえ~」と暢気に感心したような声を上げる。
「その帝国の人が、鈴に何か用ですか?」
「ええ。現在王城から此方に向かっている神の使徒、八重樫様より言伝を預かっておりますので、それを皆様にお伝えする為に一足早く参上致しました」
「シズシズ帰って来るんだ!それでそれで!?言伝って」
「お伝えします。八重樫様より神の使徒で動ける方は今後について重要な話があるので、余裕を持って八重樫様が現在使われている居室に集まって欲しいとのことです」
鈴はそう聞いて動けるメンバーを頭の中で即座に数える。
永山パーティーは負傷した綾子と浩介が少し心配だが全員問題なし。離れの病棟に隔離されている良樹と礼一は出れない。残っているのは勇者パーティーの自分を除く龍太郎と恵理…記憶喪失状態の香織、そして神の使徒で一番重傷の光輝。
(うーん天之河君は絶対安静だし、坂上君とえりりんは問題ないとして…かおりんはどうしよう?――――――いや、記憶が無くてもかおりんは仲間だもん。ちゃんと声かけておかなくちゃ!)
「分かったよ!鈴が他の皆に伝えておくね!」
「ありがとう御座います。それでは、私はこれで――――――」
「伝言ありがとー帝国の人ー!」
元気いっぱいに返事をして、治癒院の廊下を走り去っていく鈴を男は微笑ましく見守る。
すると彼の背後からズンズンと足音を立てながら白衣姿の老人が声を掛けてきた。
老人はこの治癒院の院長であり、職員から剣を持った兵士が院内をうろついていると報告を受けて彼を探していたのだ。
「そこの君!此処は治癒院だぞ、そのような物をひっ提げて来るんじゃあない!」
「――――――ああ、治癒院の院長でしたか。丁度良かった」
先ほど鈴と話をしていた時と変わらぬ微笑を浮かべて兵士は院長と向き合う。
治癒院には怪我人病人が山ほどいて、中には刃物などの武器を見るだけで精神に異常をきたしてしまう患者もいる。そんな所に武装したままの兵士が来るなど非常識極まりない。
「早々に立ち去り給え!幾ら同盟国の兵士であろうと、このような振る舞いは―――」
「失礼致しました。ガハルド皇帝陛下より、此方を院長殿にお渡しするようにと」
兵士は懐を漁り、一巻きの羊皮紙の封を切って院長へと手渡す。
話を無視された院長はややムッとしたが皇帝の名前を出されて渋々羊皮紙を受け取る。
次の瞬間、院長の怒り気味だった顔から血の気が引いて背筋が凍り付く。
「こ、れは……?どういう、ことだ……」
「そのままの通りです。どうか院長殿、賢明な判断をなさいますよう」
兵士は院長に頭を下げてから、言われた通りに治癒院を出ていった。
それから暫くして、職員の一人が壁に凭れ掛かった院長を見つけて慌てて駆け寄る。
怪我や病気という訳ではなく、精神的なショックで院長は壁に凭れ掛かっていた。
彼の手に握られた羊皮紙には王国の民の心胆を震わせる一文が書かれていた。
【ハイリヒ王国の国王エリヒド・S・B・ハイリヒを三国会議の場にて斬首刑に処した】
治癒院の院長はこの時悟った。
数百年続いたハイリヒ王国の歴史に、終止符が打たれたのだと………
いつぞやのダイスロールの白崎さんのロール結果回収。
頭を強打→死なない(記憶喪失)物語終盤まで眠り姫でも良かったんですが、彼女には彼女の物語を準備してあげようかなと(生温かい目)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡