今回の話は以前にチラっとだけ出てきたオリ冒険者とその妹、原作でアレーティアとシアにボコられたレガニドさんが登場。ついでに空気だったランデル王子が曇ります(直球)
ランデル・S・B・ハイリヒという少年は不自由のない生活を送ってきた王子様だ。
そんな彼の初恋はつい最近のこと、異世界からやってきた7つ年上の少女に恋をした。
王族であるなら権力で彼女を許嫁とすることも出来たが、幼いランデルはそんな薄汚い世界の王道とは無縁な、自分自身の積極的なアプローチで恋を実らせようと努力する。
しかし彼女はランデルのことを異性としての恋愛対象として見ていなかったという。
花の女子高生が10歳の子供に恋愛感情を抱くということは創作の世界でも稀なことであり、熱烈な彼からのアピールも親戚の子供が構って欲しいからそういう事を言っているんだろう程度にしか思っていなかった。
更に運の悪いことに、彼女は別の男性に恋をしていることをランデルは聞かされる。
また、彼女と同じ異世界からやってきた複数人の男性からも彼女は好かれていた。
幼い心に、2度目の嫉妬という感情が芽生えたのはこの時であったという。
彼が初めて嫉妬というものを覚えたのは5,6年前のこと。
彼の姉リリアーナ・S・B・ハイリヒと親密な関係にあった青年、公国の次期領主レイネルク・フォウワード・ゼンゲンに対して事ある毎にちょっかいをかけていた。
心から敬愛する姉に対し、馴れ馴れしく接するレイをランデルは嫌っている。
自分よりも体が大きく(歳が離れているから当然のことだが…)頭もよくて(歳が離れているから…)周りとの会話も卒なくこなす(歳が(以下略))
とにかくランデルはレイを自分より上だとは認めようとしなかった。
ある時を境にレイネルクが公国を離れ、王城にも顔を出さなくなった。
ランデルは嫌な奴が姉から離れていって万々歳だったのに、それからというものリリアーナの表情が寂しそうにしているのを彼は何度も目撃する。
それで彼の胸の内に複雑な感情が生じたのは言うまでもない。
リリアーナが王城を出て王国内の町を見て回ったり、帝国へ何かしにいったりというが増えたのは同時期であったが、ランデルはその事に関心を持たなかった。
無理もない。まだ10歳になったばかりの子供に政治の話なぞしても、首を傾げるばかり。
物の道理が分からぬ内は、学ぶことから始めるのが基本である。
いずれ王位を継ぐものとして将来を期待されていると自覚はしていなかったが、ランデルが新しいことを一つ覚える度に喜ぶ父エリヒドと母ルルアリア、姉リリアーナの顔を見るのが好きだったから、面白くない勉強も剣の稽古もランデルは頑張れた。
そうして努力する姿を、初恋の相手に見せつけることでいつか振り向いて貰える。
だが子供らしい甘い幻想を夢見ていたランデルの下に、恐ろしい知らせが入った。
「使徒様が大迷宮で大怪我を負われたとか…治癒師の娘が頭を強く打ったらしく…」
治癒師と聞いてランデルは彼女のことだと思い、座っていた椅子から弾かれたように立ち上がる。その話をしていた従者を問い詰めて使徒が運ばれたという治癒院へと急ぎ向かった。
後になって気づいたのだが、使徒にはもう一人治癒師がいたことをランデルはこの時忘れていた。
意中の相手である彼女以外、彼にとって眼中になかったのである。
(香織、どうか無事でいてくれ…!)
馬車に揺られながら、ランデルは神エヒトに初恋の相手…白崎香織の無事を祈った。
その願いが神エヒトに聞き届けられたのか、或いは
「香織っ!!」
慌てて後ろを追ってくる従者を置き去りにして、ランデルは香織のいる病室へ飛び込んだ。
ベッドから降りて椅子に座り、窓の外をぼんやりと見つめていた彼女は振り返り彼に一言。
「……ええっと、きみ誰かな?」
「――――――は?」
息が詰まるような思いでランデルは目を見開き、その場で立ち尽くす。
対する香織は「知らない子どもが部屋に飛び込んで来て困ってます」と困ったように笑いながら、彼の後ろで呼吸を整えている従者に助けを求めた。
「ランデル王子…?うーん…ごめんね、わかんないや」
その後、院長の話で香織が記憶喪失の状態にあると知ったランデルはショックのあまり気絶。
目を覚ましたのは半日経って夕方頃、王城で三国会議のパーティーが始まろうかという時だった。
今から馬車で向かっても間に合わないだろうということもあり、そもそも両親と姉からは無理に参加することもないと言われていた為、彼は治癒院に残った。
また香織の所へ訪ねたのだが、帰って来る反応は「あっ、さっきの子だ」と彼の名前も覚えていない様子で微笑を浮かべた彼女の他人行儀な挨拶。
ランデルは院長が「過去の話をすれば、時間をかけて断片的なことは思い出す可能性があるかもしれない」と言われ、必死になって香織にこれまでの話をした。
「…そっかぁ…私、そんなすごい事に巻き込まれてたんだね…」
まるで他人事のようにランデルの話を聞く香織に記憶が戻った様子はなく…
夜も遅いし子供は寝る時間だと従者に言われ、ランデルは落ち込んだ様子で去っていった。
広いベッドの上で一人眠りに着いたランデルは明日からのことを考える。
三国会議にはレイネルクが参加している。またあのチャラついた男が大好きな姉に近付かないよう自分が出るべきだと思う一方で、このまま治癒院に残って香織の記憶が戻る手助けをするのが今の自分に出来る精一杯のアピールじゃないかと思った。
普段は従者に起こされないと早起きの出来ないランデルは一人で起きて着替える。
身形を整え、鏡の前で香織にどんな台詞を言うのかを羊皮紙に書いては声に出して読む。
昨夜のショックが嘘のように回復したランデルは勢いよく香織の病室へ入った。
「おはよう香織!今朝は天気がよいな!余と朝食を一緒に――――――」
キチンと畳まれたベッドに香織の姿はなく、ランデルは再びがっくり膝を着いたのだった。
*
「――――――それで、ここがベレジナ領。私はこの辺で生まれたの」
「へえ~そうなんだぁ…いいなぁ、私も生まれた場所のことが思い出せればなぁ…」
(…なんだこの状況。おいアレックス、誰だあの黒髪の可愛い子ちゃんは?)
(知らん、いつの間にか部屋に居た。…リズとも打ち解けているようだし、追い出すのはな…)
ランデルが朝のお誘いに失敗して落ち込んでいる間、少し離れた病室にて。
銀ランクの冒険者、天閃のアレックスと黒ランクの冒険者、暴風のレガニドは困惑している。
アレックスの妹”リズ”が病室で見知らぬ少女と話をしているのだ。
一冊の本をベッド脇のサイドテーブルに置いて、ベッドで上半身だけ起こしたリズが地図を指差しながらその土地の名前や自身の出生について話す。
見知らぬ少女…香織がそれに色々なリアクションを返して楽しく二人は笑いあう。
仲睦まじいのは結構だが、場違いな冒険者のオジサン二人は蚊帳の外である。
「…な、なぁリズ…その子とは…知り合いなのか?」
「えっ?ううん違うよお兄ちゃん。カオリは今日友達になったの!」
「初めましてリズちゃんのお兄さん。私、白崎香織っていうみたいです」
(…なんだその曖昧な自己紹介は…というかアレックスの妹さんよ、出会ったばかりの相手といきなり友情結べるとかすげぇな、コミュ力金ランクかよ)
心の中でレガニドがツッコミを入れ、彼の表情からなんとなく心の声を拾ったのか、香織は苦笑しながら自分の置かれた状況というものを軽く説明した。
「なんか私、神の使徒って呼ばれる…異世界?から来た高校生って私の親友だったって女の子から聞かされて。…オルクス大迷宮ってところで頭を打って、記憶を失っちゃったみたいです」
「オルクス大迷宮!?よく生きて帰ってこれたな…つーか神の使徒って噂の…」
香織の話を聞いてレガニドは顎が外れんばかりに口を開けて驚く。
冒険者達の間で最強の称号を手に入れようと流行った大迷宮攻略。その中で最も危険とされているオルクス大迷宮はモンスターの巣窟であり、最高到達点である第六十五階層付近まで進んで無事に帰ってこれた冒険者は殆どいない。
この二人が完全装備で挑んでも、到達できるのは恐らく第三十階層後半といったところ。
目の前のおっとりした笑顔を浮かべる少女がそんな場所から生還した事実にアレックスも驚いて、リズは兄の珍しい反応が見れたと嬉しそうにクスクス笑って――――――
突然、刺さるような痛みが襲い、彼女は苦悶の表情で咳き込む。
「っ!?けほっ、こほこほっ―――!」
「―――リズ!!!」
「リズちゃんどうしたの!?」
「!!医師呼んでくらぁ!!」
リズが口を覆った手を離すと、掌にはうっすら血が滲んでいた。
香織はサッと血の気が引いて、
どうしてこの時こんな動きが出来たのか、後になっても分からない。
記憶はない、それでも目の前の女の子を助けたいから――――――
この体が、為すべき事を覚えている限り。
「天恵よ、彼の者に今一度力を!!”焦天”!!」
香織の発動させた治癒魔法が光の奔流となってリズの体を包み込む。
呆気に取られていたアレックスの前で、リズは表情を段々と和らげていく。
脱兎の如く部屋を飛び出したレガニドが医師を連れて戻ってくると――――――
リズは先ほどの苦しみが嘘のように穏やかな表情で寝息を立てていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
治癒魔法の発動で体内の魔力を消費した影響か、香織は治った筈の頭の傷が疼く。
しかし息を整えて、サッとリズの手首を握って脈拍が安定していることを確かめる。
「……うん、大丈夫……リズちゃんは…これで――――――」
体から力が抜けて膝を着きそうになる香織を、咄嗟にアレックスが掴んで支えた。
彼女を椅子に座らせて、落ち着いたのを確認してから彼はゆっくりと頭を下げる。
「妹を助けてくれて…ありがとう」
「えっ…そんなお礼なんていいですよ。私も、自分で何をしたのかよく分かってなくて…」
”焦天”という技能は治癒師の中でも優れた者しか使えない回復能力に特化したものだ。
余談だが複数人を癒す治癒魔法として”回天”という”天恵”の上位互換技能がある。
医師の診察で、リズの体は特に異常もなく回復傾向にあると後に判明するのだが…
開け放たれた扉の前で、香織の声を聞きつけて駆け付けたランデルが声を上げる。
「き、貴様!!香織に何をしているっ―――!」
「あ?」
「は?」
「…あっ、昨日の子供…」
運悪くランデルが目撃したのは、香織に肩を貸して椅子に座らせたアレックスの姿。
想い人を取られたと思い込んだ彼が真っ赤な顔でアレックスに詰め寄るが本人は困惑するばかり。
診察の最中ということもあり、医師が待ったをかけようとするも相手が王子様ということもあって対応に困った結果、レガニドがランデルの前に立って歩みを止める。
「おいおい坊ちゃんよぉ、わりぃけど今ダチの妹が診察中なんだわ。なんで怒ってるのか知らねえけどよ、レディの部屋にノックも無しで踏み入るなんて随分と礼儀知らずじゃねえかぁオイ?」
「なっ、この痴れ者め!余を誰と思って――――――」
「ねえ君」
レガニドは穏やかに止めたつもりだが、逆にランデルの怒りを買ってしまったらしい。
一触即発となった部屋の中に、突然凛とした声が部屋に響き渡り、全員の視線が香織に集まる。
先ほどまで疲労して安心しきった笑みを浮かべていた香織が、今は怒りを露わにしていた。
「か、香織…?」
「そのおじさんの言う通り、今は女の子の診察中なんだよ?王子様だかなんだか知らないけど、女の子の部屋に断りもなく入って…デリカシーがないって思わないの?」
「な、なッ――――――!?」
「話なら後で幾らでも聞いてあげる。だから…今は出て行って!!!」
初めて会った時からは想像も出来ないような大声で香織に怒鳴られたランデルはビクッと肩を竦ませて、オロオロした様子で従者に助けを求めるような視線を送るが、首を横に振られてトボトボと退出していった。
香織はフン!と鼻を鳴らしてから唖然としている医師に診察の続きを促す。
「先生、リズちゃんの容態はどうなんですか?」
「あ、は、はひっ!!心拍も安定して…特に異常は見られないかと――――――」
(…すげえなこの嬢ちゃん、一国の王子様を怒鳴って追い返しやがったよ…)
(神の使徒ってのは一国の王子より発言力が強いのか…?)
ブルックの町で二人が目にした神の使徒、園部優花とは似ても似つかない。
医師の診察が終わるまで、アレックスとレガニドは一言も発することが出来なかった。
それから暫くして、彼女を探しに来た鈴に呼ばれて香織は後をアレックス達に任せて、眠っているリズに「はやく良くなってね」と別れの挨拶を送って部屋を出ていった。
この後、初恋の相手に怒られて傷心中のランデルをどん底に突き落とすような話が院長から伝えられるとは誰が予想出来ただろう。
変にエヒトへの信仰とか意識してないだけまだやり直せるよ王子、ファイト!(白崎さんとフラグが立つとは言っていない)
この勢いで皆さんお待ちかね、例の勇者君の話を中村さん視点で書こうかな…
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡