ずいぶん昔に芽生えた恋の、話をしよう。
僕にとって世界とは地獄そのものであり、死が唯一の救済であるのは今も変わらない。
幼い頃、僕のせいで父親が死に、母親は嘆き悲しみ僕を夫殺しの売女と罵った。
あの時から親からの愛情というものが二度と僕に向けられることはないと悟った。
それから暫くして、おかしくなった母は低俗な男と再婚した。
子を産んで体に魅力のないあの女に言い寄ったのは、まだ未成熟な僕を性的な玩具にするため。
必死に僕は抵抗を続けたけれど、そんな僕を見てあの女は更に詰る。
売女、淫売、醜女、悪女…そんな風に呼ばれる僕は徐々に生きる気力を失った。
そして僕はあの夜、
天之河光輝、同じ学校に通う男の子で、クラスの人気者で、目立たない僕とは真反対の存在。
後で調べて分かったけど、家族との仲も良好で、人生が完璧に定められているような存在だった。
僕の死にたいという望みを光輝君は拒んで、僕に生きる活力をくれた――――――
――――――いや、与えてしまった。きっと光輝君にとって人生で最大の失敗だろうね。
だって、あの時から僕は君に救われたことで君に依存して、君を独占したいと思っていたから。
学校に通うと、光輝君がこっそり差し向けたクラスの子達が僕を心配して集まってくれた。
先生にも話をしてあったのか、授業が終わってから家族のことで悩みはないかと相談してくれた。
――――――嗚呼、光輝君…君は、君って奴は…
そんなの僕は望んでないんだよ?君が僕を生かした時点で、僕が望むことはたった一つだけ。
こんな歪んだ気持ちを糧に生きることしか出来ない僕を、光輝君に一生かけて
君の周りに群がる有象無象を、僕はどんな汚い手段を使ってでも消してあげよう。
これから一生、ずっと光輝君にとっての特別な存在が僕以外に現れないように…
何度でも、何度でも、何十回何百回でも、僕はこの愛を君に捧げようじゃないか。
君に拒否権はないんだよ?これは君が始めた物語なんだから。
これは僕にとって生涯唯一無二の恋の物語、醜い女の歪んだ幸福に満ちる人生の始まりだ。
*
「――――――恵理、そこにいるのか?」
「うん、ここにいるよ
神の使徒のリーダー、いずれ世界を救うであろう勇者のためにと与えられた豪華な部屋。
そこに入れるのは治癒院の中でも一番の治癒師だけであり、基本的に面会謝絶となっている。
……
僕だけは唯一の例外、慢性の人手不足に悩まされている治癒院の院長に掛け合って、親しい間柄である僕が光輝君の身の回りの世話をすることに、老年の院長はなんの疑問も抱かなかった。
「すまない、周りがよく見えないんだ……今は夜なのか?」
「違うよ光輝君、今は朝。まだお昼ご飯まで大分時間があるよ」
僕が進んで光輝君の身の回りの世話をすると言い出すにあたって、最大の障害になるであろうと予想していた八重樫は意外にあっさりと僕にその役目を任せてくれるばかりか、自分から光輝君の代わりに国王からの叱責を受けにいこうと治癒院を離れてくれた。
大迷宮で感情的にヒスった時は笑っちゃいそうだったけど、今は感謝してるよ。
白崎香織もあのザマで、今や光輝君に近付く悪い虫なんて一匹もいないんだから。
……南雲の奴にも、まぁ感謝はしておいてやろうかな……といっても今頃はあの大迷宮の化け物共に襲われてとっくに死んでるだろうけど。
「そうか……ところで、誰か来なかったか?」
「ううん、誰も来てないよ。皆、あの大迷宮で怪我は殆ど治ったみたいけど…精神的にも参っちゃってるみたいでさ…今は他の部屋で休んでるんだよ」
光輝君の目は松明の火で炙られて危うく失明するところだったけど、なんとかそれは免れた。―――個人的には失明してくれてた方が都合は良かったけど、僕の姿を見てくれないのも、それはそれで寂しいからね。
でも今の光輝君に残ってる視力は盲目の老人も同然で、今も手は宙を彷徨っている。
まるでベビーベッドに寝かされた赤子が無造作に手を伸ばしているような無邪気な姿に僕は下腹部から溢れそうになる興奮を抑えて、そっと光輝君の手を握ってあげた。
「光輝君も今は無理をしないで、ゆっくり休んで?お水、持ってきてあげるね」
「…すまない恵理。君も疲れてる筈なのに、こんな…」
ああ、弱気になって落ち込んでいる光輝君も新鮮で殺しちゃいたいくらい可愛いなぁ…!
でも、あぁダメだよ僕。殺しちゃったらそれまでなんだから、もっともっと愉しまないと。
名残惜しいけど光輝君の手を離してから、サイドテーブルの水差しからコップに水を入れた。
―――それから光輝君に見られないよう窓際へコップを持っていって懐から白い粉を取り出す。
これは僕がこれから半永久的に光輝君の世話をするために、治癒院の薬品保管庫から盗んだ。
”混沌茸”と呼ばれる毒キノコの一種で、白い粉の正体は混沌茸の胞子。
ほんの少し吸い込んだだけで、屈強な魔物すら幻覚に包まれ狂わせるらしい。
なんでこんなヤバいものが治癒院に置かれていたか疑問だったけど、まぁ医学の発展のために研究とかで使っていたんじゃないかな?僕はあまり興味ないことだから、詮索はしないけど…
この混沌茸の胞子をコップの水に一つまみ混ぜてから光輝君の口元へ持っていく。
僕がそんな事をして
「ん、ありがとう…まだ少し体が怠いかな…暫く横になるよ」
「うん。僕はここで見守ってるから、何かあったらすぐ呼んでね」
「……ああ、本当に……恵理には…助け…られ…」
混沌茸の効果なのか分からないけど、光輝君は瞼を閉じてベッドで横になる。
でもすぐに苦悶の表情を浮かべて、額に脂汗を滲ませながら僕の名前を呼ぶ。
「――――――ぅ、ぁ…恵理…恵理…」
「――――ク、フフフ。光輝君、僕はここにいるよ?光輝君」
やっぱり一人で勝手に苦しんでる光輝君よりも、僕の手で苦しむ光輝君が一番素敵だよ。
もう立ち上がることの出来ない光輝君の代わりに僕が何でもやってあげる。
シーツ越しに光輝君の股間を指先で弄りながら、光輝君の様子が面白くてずっと見ていた。
…そんな時だった、僕と光輝君の楽しい時間を邪魔する声が外から聞こえる。
「えりりん、いる?鈴だよ」
「―――チッ。うん、いるよ。どうしたの、鈴」
「王様のところにいってたシズシズが帰って来るんだって!それで、これから鈴達がどうするのか大事な話があるから、シズシズの部屋に動ける人は集まって欲しいってさ。えりりんは―――」
(あの女、予定よりも帰りが早いな。……面倒だが、ここで断ると後々厄介か。それに―――)
「うん、わかったよ鈴。光輝君も今日は調子悪いみたいでまだ眠ってるから、大事な話は私が後で伝えておくね。鈴は先に他の皆と部屋で待っててくれるかな?」
「りょーかいっ!」
あのクヨクヨしてた鈴が、なんの影響か分からないけど今は一人で勝手に立ち治ってくれる。
大迷宮から戻ってきて、これほどありがたいことはなかった。僕の精神的負担が大幅に減った。
疲れるんだよね、他の有象無象と変わりない奴の地味な友達のフリってのを演じるの……
念のために光輝君が起きて来ないようにさっきの混沌茸とは別のキノコ、マヒダケを乾燥させて粉末にしたものをそっと光輝君の口に入れておいた。
これで僕が不在の間に治癒師が来ても、僕がメモ書きで「調子が悪くて眠っているから起こさないで下さい」って机に置いておけば余計な疑いを掛けられる心配は無い。
――――――んで、そろそろ――――――
(光輝君がこんな風になった元凶のあいつ等に、たっぷりとお礼をしなくっちゃねぇ…)
あいつ等、お礼…あっ、ふーん(察死)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡