モンスターハンター・トータス   作:綴れば名無し

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 何日かに分けて、ハジメ本編の方と並行して書いたら内容がグチャグチャになってしまった感


幕間の物語 雫の決断

 

 治癒院に与えられた雫の個室に集まったのは総勢9名の神の使徒達。

これから自分達がどうなるのか、それを話す為に戻って来るという雫の帰りを今か今かと待ち侘びる彼ら彼女らの中で、香織は「私、場違いじゃないかな…?」と心の中で思っていた。

記憶を失った彼女には、何故周りが神妙な面持ちをしているのか理解出来ない。

だから香織はあの八重樫雫と名乗った、自称友人だった少女がくるのを待つばかり。

 

 部屋に集まってから一時間が経過して、廊下から複数人の足音が近づいて来る。

入り口の近くに立っていた鈴が椅子から立ち上がって扉の前に駆けていく。

複数聞こえる足音はきっと雫の他にメルド団長や誰か王国の人が来てるのだろう。

そんな事を思いながら彼女は笑顔で先に扉を開けて雫を迎え入れようとして――――――

 

「シズシズおっかえりー!……って……あれ?」

 

「ふむ、シズシズとはお前の愛称か。フフッ、随分と可愛らしい呼び名じゃないか」

 

 扉の前に立っていたのは雫ではなく紅髪の女性、トレイシーだった。

見知らぬ美女の到来に鈴達は言葉を失い、半口を開けて呆然としている。

トレイシーの肩越しにひょっこり顔を出した雫が申し訳なさそうに笑う。

 

「いえ、そんな。――――――ただいま鈴。みんなも待たせちゃってごめんね」

 

「う、うんおかえり…それで、その人は…?」

 

 鈴は内心(めっちゃカラフルな美女キター!)と歓喜している。

一方で恵理はトレイシーを一目見て、高貴な身分の人であり、更にはこれまで見てきた王家や王国貴族にはないただならぬ気配を感じ取った。

壮絶な人生を送ってきた彼女にしか伝わらない、第六感からの警告。

 

(…ヤバい…この女は、敵に回したらヤバい…!)

 

 自分の本性を見抜かれるだけでなく、あっという間に舌戦で言い包められそうだ。

そんな彼女の不安を余所に、トレイシーは当たり前のように部屋の中に入る。

集まった神の使徒を一人ずつ見て「例の勇者はどうした?」と雫に問う。

 

「勇者…光輝は両足を失って、今は動ける状態にありません」

 

「そうか……いいだろう、それではお前が伝えるべき事をこの者達に伝えよ。私は出番が来るまで此処で見物させてもらう」

 

 言うや否や、トレイシーは部屋を暖める暖炉の脇にある壁に寄り掛かった。

自然と二人の会話を聞いていた鈴達の視線は雫へと集まる。

彼女はやや緊張した面持ちで、ゆっくりと息を吸って吐いてを繰り返し――――――

 

「…まず皆に、伝えることがあるの――――――」

 

 雫はヘルシャー帝国とアンカジ公国による革命の一夜を語りだした。

あまりに想像を絶する話の内容に、鈴達は驚愕のあまり言葉を失う。

 

 三国会議の中断に始まり、王都の主要施設強襲と制圧。帝国と王国領に点在する関所が壊滅状態であり、商業都市フューレン、宿場町ホルアド、湖の町ウルといった王国領内の比較的規模の大きな場所も既に占拠されている。

ウルの名前を聞いた鈴がある事を思い出し、ハッとした表情で声を上げた。

 

「ま、待ってシズシズ!湖の町って今、愛ちゃん達がいるって―――」

 

「…そうね。でも―――「案ずるな使徒の娘。神の使徒は一人の例外なく傷つけることなく丁重にもてなすよう配下たちに厳命してある」―――だから安心して」

 

「そ、そっかぁ…よかったぁ…」

 

 暫く会ってはいないが、鈴達にとって愛子はこの世界で唯一信じられる大人である。

作農師として農地改革の旅に出ている彼女らが無事であると分かって鈴がほっとするのも束の間。

雫は悲しそうに目を伏せながら衝撃の一言を口にする。

 

「………革命の後、エリヒド国王は王城で斬首刑にされたわ」

 

「なっ――――――!?」

「ざ、斬首刑って……」

「そんな……」

 

 歴史の教科書でしか聞いた事のない人の死に方を聞かされて、使徒達は息をのむ。

椅子から弾かれたように立ち上がった重吾は絶句し、そういった事への耐性がない綾子が青ざめた顔で地面にへたり込む。健太郎が慌てて彼女を助けに入ろうとする横で、浩介は呆然としている。

 

「…王国はこれから事実上帝国の占領下に置かれることになるの。当然、王国と親密な関係にあった聖教教会はこれに猛反発したけれど、会議に出てた人達は――――――」

 

「国王と同じ末路を辿った。―――フッ、あの妄執に憑りつかれた愚かな教皇の首を刎ねてやれなかったのは残念だが…連中は神山に籠ったっきり出てこないのでな。近いうちに此方から攻勢に出るつもりではある。…ククッ…狂信者共の終焉の地が神山とは、中々に愉快な結末を迎えそうだ」

 

「…ッ…な、なんで…」

 

 重苦しい表情で一つ一つを語る雫とは対照的に、トレイシーはまるで散歩帰りのような爽やかな雰囲気のまま、雫の語れない現状と先の展開を語る。

そんな彼女に対し、混乱から立ち直った龍太郎が怒りを露わに叫んだ。

 

「そんな事してっ…なんでアンタは平気な顔で言えるんだよ…ッ!?同じ人間同士で殺し合って、こんな事になって、アンタらに何の得があるって言うんだよ!!」

 

「ッ龍太郎止めて!!それは―――」

「構わんさ雫。お前達の死生観と道徳心に則れば、湧き出る怒りにも納得がいく」

 

 壁に預けていた背中を離して、トレイシーはツカツカと龍太郎の方へ歩み寄る。

しかし軍靴の足音が一歩一歩、部屋の中に木霊する度、使徒達は恐怖を感じた。

頭一つ分の身長差で見下ろすトレイシーが笑顔でゆっくりと口を開く。

 

「私を人殺しと罵るかは好きにしろ。ただ…あの場で死の恐怖に打ち勝って、私に交渉を持ち掛けてきた雫の努力を無駄にするような行いは控えておけよ?それではあまりに雫が報われん」

 

「………なんだと………ッ!?」

 

 トレイシーの言葉でようやく頭の回転が遅い龍太郎も理解した。

既に王都を始めとする王国の主要都市が陥落し、教会の権力も失墜している。

 

 神の使徒は王国の保護下にあって、教会が保有する戦力と見做される。

帝国側からすれば、個々の力が強い彼ら彼女らを野放しにしておくのは危険であり、やろうと思えば今この場で全員を始末することが可能なのだ。

急に目の前の女性が強大な存在に変わり、龍太郎は後ろへ一歩後退る。

 

「――――――さて雫よ、まだこの者達に語っていない事があるだろう?」

 

「………はい」

 

 これまでより深刻な表情で雫はトレイシーから聞かされた世界の真実を語った。

神エヒトとその眷属が仕組んだ人間や他の種族との争いの歴史。神の使徒も、ただの操り人形として召喚されたのであって、魔人族との戦争に勝ったとしても故郷に帰れる保障なんて最初から存在しなかったのだ。

 

「…嘘、だよね?シズシズ…そんなのって――――――」

 

「いきなりこんな話聞いて信じられないかもしれないけど、全て事実よ。イシュタルさんは私達を使い捨ての駒としか見ていなかったの」

 

 再び壁に背を預けて彼女達の話を遠巻きに眺めていたトレイシーはある事に気づく。

故郷へ帰れないと知って、使徒達のほぼ全員が絶望に満ちた表情を浮かべている。

しかしその中で唯一、驚いた顔をしてはいるものの、それ以上の感情を表に出さない者がいた。

恵理だ。彼女にとって故郷は目的(光輝)の一部要素にしか見ていなかった。

 

 彼女は母親と表向き仲良しなだけで、既に親子の縁など切っている。

ただ未成年が生活していくうえで家庭環境を心配されるなどの余計な問題を抱え込みたくないから、実の母親にとって人に知られたくない話を脅しのネタに、金銭だけは不自由なく使える額を用意させているのだ。

 

(どうでもいい事だけど、光輝君が知ったらどんな表情するかなぁ…?)

 

 彼女の脳裏では自分からその話を伝えられた光輝の反応集が繰り返し再生される。

間違いなく周りの有象無象と同じように驚愕し、絶句するだろう。

それから正義感の強い彼は約束を反故にされたと怒りを露わにするか、或いは本当にどうすることも出来なくなって途方に暮れるか……

 

(ク、フフフ…やっぱり光輝君は面白いなぁ…!)

 

 ゆったりと妄想に耽る恵理の様子を眺めていて、トレイシーは確信する。

この少女は一見周りの使徒と比べて冴えない非戦闘員風な雰囲気を醸しているが、恐らく本性を露わにして動いたら使徒の中では一、二を争う頭の回転力が高い少女であると…

部屋に入ってきた時、使徒の誰かに警戒されたのは分かっていた。

今までの会話と反応で様子を窺っていたが、此処に来て確証を得られた。

 

(……しかし、この者は何に執着しているのか……)

 

 たった一人の異性に歪んだ愛を向ける少女の本心など、大半の人は理解出来ない。

トレイシーはこの中で恵理を優先的に使おうかと考えたが、その考えを即座に捨てた。

 

(執着心の強い者は、立ち塞がる障害に対し容赦なく牙を剥く…面倒だな…)

 

 恵理に関しては彼女の主張を受け入れつつ、それがトレイシーにとって今後の妨げにならないものであれば、看過することも吝かではない。

王国を手中に収めたことで人間側の抱える厄介事の多くが解決した。

一方、表面上の降伏をしただけで帝国や公国に不満を持つ貴族や教会信者は残っている。

皆殺しにするのは簡単だが、それだと今度は領民の統制が難しくなる。

 

 獅子身中の虫をただ駆除するだけでは、その先に待ち構える魔人族との避けては通れぬ戦いと講和条約の制定まで事を運ぶことは出来ないだろう。

 

「え、っと…質問いいかな雫さ―――雫ちゃん」

 

「ッ…香織…ええ、大丈夫よ」

 

 不安と混乱の最中、恵理とは別の意味で驚き以上の反応がなかった者がもう一人。

香織は手を上げてから雫に許可を求め、ゆっくりと席を立ってトレイシーを見る。

敵意が一切なく、純粋な興味と疑問の目で彼女は問いかけた。

 

「それで私達、使徒はこれから帝国の捕虜になるんですか?」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

「…フム、有り体に云えばそうなる」

 

 表向きは聖教教会の残党に対する人質として交渉材料にするため。

だが使徒はあくまで神エヒトの遣わした駒に過ぎず、彼らは容赦なく切り捨てるだろう。

かといって放置しておけば厄介なことになりかねない。

魔人族側に寝返った清水幸利のことを考えれば、手元に置いておくのが妥当な判断である。

 

 トレイシーが捕虜という言葉を否定しなかったことで鈴達の間に緊張が走る。

今すぐにでも逃げ出したい永山パーティーの女子二人に対し、戦う構えのリーダー重吾。

龍太郎もそうしたいが、片腕のない彼では恐らく目の前の皇女に勝てないだろう。

そんな彼らの様子を見て、雫がスッとトレイシーの前に立って説明を付け加える。

 

「捕虜と言っても形だけのよ。光輝や近藤君達みたいに治癒院から動かせない人はこのまま此処に留まって貰うことになるけど、一先ずは――――――」

 

 雫はまた一呼吸置いて、鈴達一人一人の顔を見てから口を開く。

 

「皆、この場で決めて。()()()()()帝国へ行くか、故郷に帰る方法が見つかるまで此処に残るか」

 




 もしここで皇女が使徒の存在を軽んじて放置したら、雫除いて全員行き先が決定してました。※GOODかBADで例えるならBAD(ある人物にとってのGOOD)

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。

 

初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)

  • 続編にして
  • このまま話数増やしてもいいんじゃね?
  • 打ち切りはヤメロォ!
  • もっと周りの話補完して♡
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