三国会議から一夜明けて、リリアーナ・S・B・ハイリヒは自室で目を覚ます。
意識が完全に覚醒するまで彼女は昨日見た光景は悪い夢だったんじゃないかと思った。
しかしその考えは、扉の前で見張りとして立たされているクゼリーの姿で否定される。
*
あの時、皇帝の宣言と同時に武装した帝国兵が一斉に場内を取り囲んだ。
メルドやクゼリーが剣を抜いて応戦しようとするも、先手を打った帝国側の兵士によって国王エリヒドや女王ルルアリアを人質に取られ、抵抗することも出来ず拘束されてしまった。
リリアーナも同様に捕まってしまったのだが、彼女はその時ある人物に助けを求めた。
「レイ様――――――!」
「………」
帝国兵達に剣を向けられて降伏しているのは王国貴族と聖教教会の人間だけ。
彼女が名を呼び、叫んだのは公国側で終始沈黙を貫いていたレイネルク。
彼は一瞬だけ彼女の方へ目を向けて口を開きかけるが、何かを堪えるようにグッと奥歯を噛み締めて、無言のまま険しい表情で彼女の下へ歩いて行く。
「ッレイ!?」
「兄さん、何を―――」
彼の父ランズィと弟ビィズが引き留めようとするも、レイは帝国兵達に囲まれてしまう。
しかしそれを見ていた皇女トレイシーが口端に微かな笑みを浮かべて「行かせてやれ」と兵士達に指示を出し、リリアーナは縋るように彼の名を呼ぶ。
「レイ…様…これ、は…」
「――――――許さなくていい」
突然、レイはリリアーナの肩を掴んで引き寄せる。
彼女が驚き目を見開いた直後、もう片方の手で彼女の項に手刀を叩き込む。
そこで彼女の意識は刈り取られ、目が覚めたのは自室だった。
その後の話は彼女の目覚めを待っていたクゼリーから語られた。
「ッ――――――!?どう、し……て…」
「リリアーナ様っ!!」
クゼリーが駆け寄ろうとするも帝国兵に阻まれ、彼女はキッとレイを睨んだ。
しかし今思い返せばあの時リリアーナを気絶させたのは正解だったのだろう。
気絶したリリアーナを抱きかかえ、レイはゆっくりとクゼリーの方へ向かった。
帝国兵が視線でトレイシーに確認を取ると、変わらず笑顔のまま彼女は許可を出す。
「こいつを、自室に運んでくれ。…それからアンタとこいつは、迎えが来るまで部屋から出るな」
「……どういうおつもりですか?ゼンゲン家次期領主」
決して親しい間柄ではないが、それでも以前は名前で呼んでいたクゼリーが呼び方を変える。
レイのことを肩書き、そして家名で呼ぶことで敵視しているのだ。
彼は問いには答えないまま、静かにリリアーナの体をクゼリーに預けて踵を返した。
ニヤニヤした表情のトレイシーがようやく彼に向かって問いかける。
「さて、どういうつもりかな?レイネルク・フォウワード・ゼンゲン」
「――――――決まっているだろう。アンカジ公国は王国を裏切り、帝国に付いた。そして帝国が王国を占領下に置くなら、公国にも相応の取り分があって然るべきだ」
「ふむ…それで?革命に立場上協力したお前が欲するのはその娘か?」
「後ろのこいつは順当にいけば、弟ランデルより先に王位継承権を持つことになる。革命が成功しても、帝国の下に付くことを良しとしない反対派が生じるのは確実だ。そうなった時に旗頭に推されるのは国王の子である二人のどちらか…お前達の事だ、ランデルを強制的に国王の座に着かせて自分達に都合のいい傀儡政治でも行わせるつもりだろう?」
「フ、ハハッ!どうやら砂の民も
二人が話している間も、国王エリヒドや司祭フォルビンが喚き散らしていたが無視される。
片腕だけのメルドは拘束されない代わりに剣を没収されて、その後ろで雫が女の帝国兵士に武器を隠し持っていないか確認されて、手だけ縄で縛られていた。
彼女は突然の事に唖然とし、まだ混乱から抜けられず思考が停止していた。
「王位継承権を持つこいつを王国内に置いておくべきじゃない。反対派や教会の残党が近づけないように、公国で暫くの間は身柄を預からせて貰うのが最良だと判断した」
「―――ほう?それは
「どうせ調べはついてるんだろう?
「…ク、ククク…ッ!そういう事か。それなら、あぁ…
クゼリーがリリアーナを自室に運ぶまで、トレイシーとレイの会話はそれだけだった。
その後は国中で喧伝されている通り…国王エリヒド、並びにフォルビン司祭や帝国に歯向かおうとした王国貴族はその場で斬首刑にされたという。
王女ルルアリアはランデルが城に戻るまでの間、皇帝ガハルドと今後について話し合っている。
リリアーナは静かに両手で顔を覆い、嗚咽を零して泣き始めた。
それまで悲痛な面持ちで話していたクゼリーが、そっと彼女の肩を抱いて慰める。
彼女にとって父エリヒドは決して王として無能な人ではなかった。
皇女トレイシーと密かに交流していた頃から政治を学んだリリアーナはかつての歴史を知り、信じられないような政策や思想で圧政を敷いてきた指導者がいたことを学んだ。
後の世に愚者と酷評される彼らと比べて、国王エリヒドがそうだったかと言われると、彼女は肉親という要素を抜きにしてもそんな事は無いと言える。
若くして流行病で亡くなった先代の祖父から王位を継ぎ、メルドやウォルペン等の優秀な人材を選んで役職を与え、数十年の治世で国内に敵を作ることはしなかった。
母ルルアリアは下級貴族の生まれであったことから周囲に婚姻を反対されたが、女王の地位を与えるに相応しい政治手腕の持ち主であるとエリヒド自らが喧伝することで認めさせた。
そんな彼がしてしまった失敗が何なのか?深く考えるまでもない。
教会の権力に膝をついて従順になるばかりで、他国との繋がりを疎かにしたこと。
似たような理由で、国内に蔓延る貴族の腐敗を正さなかったこと。
それらが積もり積もって昨夜の革命に至ったのだ。
(これから、この国は………)
クゼリーが語った通りなら、レイの予想通りランデルが王位を継ぐことになるだろう。
しかし彼はまだ幼く政治など出来る筈もない。恐らくは王女ルルアリアが出した意見や提案などを、帝国側が承認したうえでランデルが行ったという体裁を整えるといったところか。
正当な王位継承者の言であれば、反抗的な貴族も首を縦に振らざるを得ない。
(私は、これから――――――)
…と、彼女が悲しみ後ろ向きな思考へと落ちてしまいそうな時だった。
部屋の扉が控えめにノックされて、リリアーナはクゼリーへと首を縦に振る。
「…入って構いません」
「あぁ良かった……では、失礼して……」
ガチャリと扉を開けて入ってきたのはビィズだった。
レイの弟であり、リリアーナとは年も近いのだがあまり面識はない。
警戒するクゼリーの視線に狼狽えながらも彼は優しい口調で言う。
「リリアーナ王女、それとお付きのクゼリーさん。お二人を移送する準備が整いましたのでお迎えに上がりました。それと、その前に帝国の皇帝から……亡くなられた国王陛下を弔う時間くらいは与えてやる……と」
「……ッ!」
「…す、すみませんでした!ですが、お伝えしなければと思い…ええと、その…自分は離れたところで待機しておりますので、どうか…悔いの残らないよう…」
*
城の正門にアンカジ公国へと戻る馬車の隊列が並んでいる。
レイは門の壁に寄り掛かって目を閉じたまま、リリアーナ達を待っていた。
と、そこへリリアーナ達の出迎えに行かされたビィズが小走りで帰って来る。
「兄さん、リリアーナさん達が来たら出発です」
「…ご苦労さん。お前は先に馬車で休んでていいぞ」
「………兄さん。本当にこれで良かったんですか?」
「何がだ?」
目を細めて城の方、国王エリヒドに別れを告げているリリアーナの姿を捉えたレイ。
彼は落ち着きを払っているように見えるが、ビィズにはどこか疲れているように感じた。
口にする言葉にも力が感じられず、そんな兄の姿を見たくないビィズは声を荒げる。
「とぼけないでください!あの時、兄さんはリリアーナさんを公国に連れていく本当の理由を言わなかったじゃありませんか!?このままじゃ兄さんは彼女に誤解されたまま―――」
「…ハッ!誤解もなにも…俺があいつの親父を殺す今回の件に加担してたってのは事実だ。あいつに俺を憎む理由はあっても、感謝する理由なんてどこにもないだろうが」
レイの言っていることに何も間違いはない。
彼がしたことは彼女の父親を死に至らしめ、彼女が守ろうとした国を崩壊させた。
どれだけ憎まれて、罵られても否定できない事実だから。
レイは城の方から目を逸らして、後ろ髪を掻いて面倒くさそうに溜息をつく。
「でもっ…それじゃあ兄さんは…!」
「…いいんだよビィズ。これで、いいんだ…。――――――心に抱えた本当の気持ちなんてのは…思うのは自由でも、言葉にするのは必ずしも自由って訳じゃないんだぜ?」
そう言ってレイは帰りも馬車の護衛する為に、隊列先頭の馬の方へと歩いて行く。
公国に戻るまでの道中、彼がリリアーナやクゼリーと顔を合わせることは一度もなかった。
手刀の下りを当初は腹パンにする予定だったけど、流石に加減したとはいえハンターの腹パンを12歳の女の子に食らわせたらヤバいと思ったので止めました。
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡