誰も救われない胸糞BADENDの一つになります。
(さむい…つめたい…くるしい…)
海人族の子ども、ミュウ・メロウがそこで力尽きてどれくらい時間が経ったのだろう?
檻から逃げ出して、大好きなお母さんのいるところに帰りたかっただけなのに。
絶え間なく流れてくる汚水に混じり、鉄錆のツンとした臭いも混じって流れてくる。
(ママ…たすけて……くるしい、しんじゃう…よ)
もうそこに掴まっている力もなくなった。
ミュウの小さな体は濁流の渦へと飲み込まれていき、やがて見えなくなる。
幼い海人族の少女が死んで、ここに死体が眠っていることを…誰も知らない。
彼女の帰りを待ち続ける母親も、じきに彼女の後を追う事になるのだから。
ハジメはライセンの荒野から道に迷い、商業都市フューレンに立ち寄ることなく悪夢に苛まれる野宿を経て、何の因果か始まりの場所…宿場町ホルアドへ戻ってきてしまった。
彼の選択と行動によって救われなかった命が一つだけではないと、彼が知ることはない。
そしてこの時、ホルアドにはオルクス大迷宮二度目の挑戦をしに神の使徒達が集まっていた。
またどこぞの神が定めた運命の必然か、或いは気まぐれな悪魔の悪戯か…
両者が運悪く同じ宿に泊まった先で、月下の再会が果たされようとしていた。
*
「………南雲くん?」
(――――――ざっけんなよ…なんで此処にまだ
ハジメは宿場町ホルアドに着いて宿屋を探そうと町を歩こうとした。
だがハンターの姿でうろつく彼を見て町の住人達は嫌そうな顔で彼を見る。
旅の疲れに優花の一件があって、知らず知らずのうちに彼は苛立っていた。
だから見慣れた宿屋が目についた時、安易な考えでそこに泊まろうと思ったのだ。
困惑する宿屋の店主を脅す勢いで先払いで金を支払い、一人部屋を取った。
どうせ横になっても悪夢に苛まれるだけだと分かっていながら、本能に押し寄せてくる睡魔と疲労の波は体に安らぎを求めている。
さっさと眠って、それから次どうするか考えよう…そう思った矢先。
「うそ…本当に…南雲くんなの?」
「そうだよ…!きっとそうだよ雫ちゃん…!」
偶然同じ宿を取っていた神の使徒達の白崎香織、八重樫雫と再会してしまった。
以前の彼とは似ても似つかない姿を見て驚愕する雫に対し、香織は感極まっている。
一方のハジメは二人の姿の奥、
「――――――ッ!!」
トータスに来た頃から、ずっとハジメの引き摺ってきたトラウマが脳裏を過ぎる。
役立たず、愚図と罵られ寄ってたかって子悪党4人に痛めつけられた時。
クラスメイト達に見下されて、醜態を晒す彼を嘲笑う幻聴がまた聞こえてきた。
「待って南雲くん逃げないで!!」
ハジメは2人の姿を見て怯えた訳ではない。
ただ2人が居るという事は確実に
ハジメは空っぽの胃が見えない力で押し潰されるような不快感に襲われた。
後退る彼に対して香織は駆けだしていく。
「メルドさんから話は聞いたよ…!南雲くんが辛い思いしてたって聞かされて…!私、南雲くんがそんな風に思ってたなんて知らなくて…どうして相談してくれなかったのかずっと考えてっ、それで謝らなきゃって――――――」
「…なせよ…」
「香織いったん落ち着いて。南雲くんも、色々と思う所はあるかもしれないけど、少し私達と話をしましょう?大丈夫よ、光輝はいまメルドさん達と一緒に居るからここには呼ばないわ」
「……離せって言ってんだ」
「――――――え?」
言葉を捲し立てる2人に対し、怒りが限界に達したハジメは目を見開く。
ぽかんと口を開ける香織がハジメに伸ばした手首を掴んで後ろへ突き飛ばす。
「きゃ――――――!?」
「俺に、関わってくるんじゃねえよどいつもこいつも!!!」
ハジメの精神はもう限界に近かった。
「な、南雲く―――「おい八重樫テメェ!!人を見るなり保護者面してんじゃねえよ!赤の他人でしかねえお前に、上から目線で話しかけられるのがどんだけウザいと思ってやがる!!」っ」
それから他の宿泊客や神の使徒が来てもお構いなしにハジメは2人を罵倒し続けた。
トラウマに抗う為の憤怒、自分の行動に対する混乱、疲労と幻覚による焦燥、全てが極限。
床に尻もちを着いたまま呆然とする雫と泣いて嗚咽を零す香織を見下ろし彼は叫ぶ。
「二度と、俺に、話しかけるな―――――――――!!」
彼が部屋に入った直後、慌てて谷口鈴が雫達に駆け寄って声を掛ける。
しかし雫は彼を本気で怒らせてしまった事、自分達が何も彼を理解していなかった事を思い知らされて、積もり積もった精神的ストレスで呼びかけに反応も出来ないくらい憔悴している。
香織は好きだった彼に突き飛ばされ、罵声を浴びせられた事実が受け止められず、ただ駄々っ子のように泣き喚いているだけだった。
そんな光景を見て黙っている天之河光輝ではない。
怒り心頭の彼はハジメの入った部屋の扉を殴る勢いで呼びかけた。
「出て来い南雲!!2人に謝れ!!!」
しかしどれだけ彼が叫んでも部屋の中から返事はない。
業を煮やして友人の坂上龍太郎が扉を蹴破って、中に入るが………
既に部屋の中は荷物の入ったリュックだけを残してハジメの姿はなかった。
*
「…クソ、クソクソクソ…なんで俺はいつもこうなるんだよ…」
ホルアドの煌びやかな宿屋が並ぶ表通りから外れた裏路地にて。
異臭と汚物が積み上げられた建物の隅にハジメは座り込んでブツブツ呟いている。
あの夜から村に着いてからは彼の生きる全てが順風満帆に運んでいた。
なのに、たった一人…園部優花が村に来てから全てが一夜の夢のように霧散した。
ハジメの目の前にはまだ優花の幻覚が立っている。
彼女は言葉を発さず、ただ血に塗れた青白い顔で笑いながらハジメを見下ろす。
それが逆に彼の心を蝕み、狂わせていた。
故に、彼は近づいて来る一人の青年の存在に気が付かなかった。
「―――ひゃははははっ!!死ねぇ、南雲ぉぉぉ!!!」
「――――――ッ!!?」
目を見開いて初めて彼は近づいて来る檜山大介の存在に気が付いた。
ハンターとして培われた気配察知能力も、危機管理能力も今の彼からは失われている。
強過ぎる力が生んだ慢心と、摩耗した精神状態で維持できない集中力が生んだ結果。
短剣を両手に握り締め、ギラギラと狂気を孕んだ目で突っ込んでくる彼を躱せず―――
「………が、ッ!?」
―――直後、ハジメの腹部に鋭い痛みが走った。
大介は狂ったように笑いながら刃物を握る手を離して走り去っていく。
ハジメはゆっくりと視線を優花の幻覚から、自分の腹部へと下ろす。
いつか見た時と同じような真っ赤な自分の血が服に滲んでいた。
「…おい、おぃ…マジかよ、冗談だろ…ハハッ…」
自嘲気味に笑いながら痛みを堪えてハジメはゆっくりと立ち上がった。
ぼたぼた、ボチャッと傷口から血が溢れて来るのもお構いなしに立ち上がる。
止血用の包帯も、回復薬も、全て宿屋のリュックに置きっぱなしだった。
「此処まで、来て、やっと、変われた…と思った…」
霞む視界がどんどん黒色に狭まっていく。
腹の傷を抑えていた手にも力が入らなくなって、やがてだらりと垂れる。
自重を支える足から力が抜けて…遂に彼の体は地面へと倒れ込む。
「…は、ハハッ…無様だな…」
過去を振り切れず、こうして忘れた筈のトラウマを生んだ張本人に殺される。
こんな滑稽で、呆気ない死に方が自分の最期だというのか…?
認めない…!認められない…!認めたくない…!そんな事は断じて!!
きっと普段のハジメなら、そう言って生きる為の気力を振り絞っただろう。
――――――だが、死に瀕して彼の口から零れた言葉は諦めだった。
「もう、いいか…俺は何も…変われなかったんだ…」
なんと無知蒙昧で愚かなことか、そんな風に前向きな考えをするからこんな最期を迎えるのだ。
無能は無能らしく、愚図は愚図らしく…こんな汚物塗れの日の光も届かない裏路地で朽ち果てる。
それがお似合いなんだと、何処かで性質の悪い自称神様が嘲笑っている事だろう。
「あぁ…けど、よかった…
いつの間にか、優花の幻影は形も残さずハジメの目の前から霧散していた。
それだけでも今の彼にとって最大級の心の安らぎが与えられる。
ずっと蝕んでいた精神に、ようやく眠りへの誘いが齎された。
それが永久に終わらぬ眠り、南雲ハジメという命の終わりを告げるものだとしても―――
「…ざまぁ、みろ…俺は…これで…」
コツコツ、コツコツ…不意に裏路地へと誰かが歩いて来る。
殺し損ねたのでは?と大介あたりが戻って来たのか、ハジメはそう思って顔を歪ませた。
しかしうつ伏せの状態から顔を上げることも出来ず、既に視界は血の赤と黒一色に染まっている。
この際、死体を弄繰り回されたとしてもそれはそれで仕方ない事だと割り切ろう。
そう頭の中でぼんやり考えながら、ハジメは意識を手放そうとして―――
「――――――!!!」
「………ぁぁ、貴女、ですか…」
裏路地に来た足音の主は息を呑み―――まさか死の間際に初めて聞けるとは思いもしなかったが―――ハジメの方へと一直線で駆け寄り、血の池に沈んだ彼の体を抱き上げた。
懐かしい、あの村の土と草の匂いがした。
異臭まみれの裏路地に倒れ、朦朧とした意識の中で、彼はそれだけを的確に嗅ぎ取った。
「………!!(フンフンッ)」
懸命に首を左右に振って彼の体を揺らす白い毛皮の防具に身を包んだ少女。
その瞳から涙が滲んでぽつりぽつりと彼の頬に当たって血まみれの口元へ伝い落ちる。
言葉にしなくてもその意味は伝わる「死なないで」きっと彼女はそう言っているのだろう。
「…すい、ませ…俺…なんにも、あなたに…恩返し…できな…」
「………ッ!」
「けど、最期に…もう一度…だけ…言わせて、ください…」
残された最後の力を振り絞って、ハジメは見えなくなった目で彼女の方を向く。
右手を上げて、そっと彼女の肩を掴んで想いを伝えるように力を込める。
「………ッ!?………ぅぅ!!」
「――――――助けてくれて、ありがとう、御座います。ルゥムさ……」
ポトリと、ハジメの手がルゥムの肩を離れて血だまりへと落ちる。
目を見開いてそれを見つめていた彼女は、やがて彼の顔を見ながら体を揺する。
彼は目を開けない。体から流れ出る血の勢いが弱まったのは、既に血が体内に残っていない証。
ルゥムは小さな口を開けたまま、その唇を震わせる。
「………ぁ、あぁ……うぁ…!」
ポタポタ、ポロポロ、ボロボロ…涙は止まらない。
胸を引き裂くような悲しみに耐えられず、彼女の内に
「ウアアアアアアアアァァァァァァァァ――――――!!!」
黒雲がホルアドの空を覆いつくすまで、さほど時間は掛からなかった。
人々は何事かと家を出て空を見上げる。
誰もそれが一人の少女の起こしたものだとは思わないだろう。
既に事切れた彼の亡骸を抱き上げて、涙を流したまま少女は立ち上がる。
――――――もう、いい。どうなったっていい
―――
―――私の大切なもの奪う、こんな世界…なんて…母さんの力で、私が…
*
大介は達成感に満ちた笑顔で町中を駆け抜けていた。
道行く人々は彼の手や服に付いた血を見て何事かと彼を恐れ、その場から離れていく。
そんな事も気にせず、彼は宿屋に着いたら自分の目的を果たそうと思っていた。
大好きな白崎香織を泣かせた
きっとハジメを快く思わない天之河や龍太郎、そして友人達は自分を賞賛するだろう。
傷ついた香織の心もきっと自分に向いてくれるはず―――!
「ひゃは、ひゃははっ!ざまぁ、ざまあみやがれってんだ…!」
オタクの癖に、愚図の癖に、香織に好かれようとするからこんなことになるんだ。
黙ってサンドバッグにされていたら少しは手心を加えてやろうと思ったのに。
大介はこの先、あり得ない未来の妄想に興奮しながら宿屋へ駆けようとして―――
ドォンッ!!
「………あ?」
自分に何が起こったのか、彼が分かるはずもないだろう。
轟音と閃光に目を閉じた人々の目の前で、檜山大介は塵芥となってこの世から消滅する。
呆然とする人々に、直後同じような現象が立て続けに襲う。
ドォンッ!! ドォンッ!!
ドォンッ!!
ドォンッ!! ドォンッ!!
ドォンッ!!
突如、道端で摘んだばかりの花を売っていた老婆が雷に打たれて死んだ。
そのそばを通っていた若い青年が、手に持っていた串焼きごと雷光の中に消えた。
悲鳴を上げようとした娼婦の女が、飛び込んだ先の家ごと轟雷に吹き飛ばされる。
老婆だった灰に手を延ばそうとした子供が、娼婦の産んだであろう赤子が、青年の恋人であっただろう少女が、声を上げる間もなく落雷に飲まれて死んでいく。
―――消えろ、消えろ、生きとし生けるもの。
――――――全てが雷に焼かれて塵も残さない。
―――我が娘の怒りは我の怒り。我が娘の慟哭は、我の猛り狂う嘶きである。
――――――お前達は、私の最も大切なものに手を出したのだ。
―――その罪、万死では足りぬ。魂魄の欠片も残さず、常世から消してくれる!
――――――
*
それはトータス史上最大にして最悪の事件として永久に語り継がれている。
かつて存在した信仰深き人間達の住む王国にある宿場町ホルアド。
何の変哲もない只の町が、一夜にして数人の生き残りを除いて
生き残った者達は偶々異変にいち早く気づいて、町の外にいたから助かったのだ。
既に彼らは時の人でありこの世に生きてはいないが、当時の言葉が綴られている。
「天より降り注ぐ青白い雷光が、道行く人々を襲い始めた」
「応戦しようとした神の使徒、勇者は瞬く間に消し炭へと姿を変えた」
「泣き崩れる彼の仲間達も、後を追う様に塵芥へと変わった」
「生き残ったのはハンターばかりで、王国の人間は誰一人生き残らなかった」
恐怖と混乱の中でこれだけ各々見たものが変わっているのも仕方ないだろう。
ただ、一人だけ冷静さを保っていた当時最強のハンターだった男はこう言った。
「夥しい落雷の衝撃で町が消し飛ぶ刹那、幻獣の背に人が乗せられていた」
果たしてそれは事実だったのか?確かめる術は今も残っていない。
人間も魔人も、その事件があってから決してホルアドへは近づかなくなったからだ。
度胸試しに足を踏み入れた冒険者、ハンターも一人として戻ってくることはなかった。
”禁足地”―――後にハンター達の間でホルアドだった場所はそう呼ばれている。
何十年、何百年の時が経っても、黒雲が晴れて落雷が止むことはないのだろう。
禁足地の最奥で、ずっと少年の亡骸を抱いて頭を撫でて続けている少女の心と涙のように…
―――もう…離れないから…これで、ずっと一緒…だから…
目を開けることはないと分かっていても、少女は彼の目覚めを待ち続ける。
虚ろな抜け殻となった少女と、亡骸の少年の時を邪魔するものは、どこにもいないのだから。
主人公死亡、ヒロイン大半が死亡、神の使徒ほぼ壊滅状態のルートでした。
ウルの町にいる先生たちと護衛隊は、色々あって死ぬので実質全滅に近いルートです。
魔人族との戦争は魔人族優位で進みますが、辛うじて人間側は生き延びます。
(とは言ってもこのルートでも黒い例のアレが目覚めたら確定でトータス滅亡ですが…)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡