モンスターハンター・トータス   作:綴れば名無し

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 二番煎じになるかもですが、ちょっと進行に詰まったので投下。
ざっくり説明するならエリヒド国王迫真の弁明(自己保身)回です。
この一話でしか使われなさそうな設定のモブとか出てきますのでご注意を。


国王の最期

 

 エリヒド・シャムル・バーン・ハイリヒは国王として無能ではなかった。

民衆からは歴代で最も心優しく理知的な人物であると好印象を持たれている。

妃に下級貴族の生まれであるルルアリアを迎えたのも、これまでの王族にない革新的な何かを感じさせるとして、聖教教会の教皇イシュタル・ランゴバルドは真っ先に彼らの門出を祝ったという。

 

 誰に対しても友好的で聡明なリリアーナを第一子として授かり、そんな姉にも劣らぬ美しい容姿で生まれた弟ランデルもいずれ王位を継ぐ子としての将来を期待されていた。

ハイリヒ王家は戦時下にあっても、平穏と繁栄を約束されている。

それが王国に生きる人々の、最後の縁であったことは疑いようのない事実であった。

 

――――――ただそれは、あくまで()()()()()()()での評価に過ぎない。

ヘルシャー帝国から度重なる兵力増員と助力を求められたにも関わらず、聖教教会の権力に頼ってそれら全てを断り、アンカジ公国で暴動や疫病の流行が起こった時も、適当な理由をつけて援助を出さなかった。

 

 当然、両国の国民からは不満が募った。自分達が苦しい思いをしている横で、涼しい顔をしている王国民に対し、敵以上の殺意を抱く者まで現れるほどに。

積もり積もった恨みは、いつか機を見計って晴らされるであろう。

そして…自分達よりも上の者を打倒する事を常としている帝国の権力者達が、これ程までに上等な餌を目の前に吊るされて黙っている筈もなく…

 

 ヘルシャー帝国の皇帝ガハルド・D・ヘルシャーと、息子バイアス・D・ヘルシャー、娘トレイシー・D・ヘルシャーが結託してハイリヒ王国攻略のために動き出した。

アンカジ公国の領主であるゼンゲン家の協力も取り付けて、両国の秘密工作が進められ……

ハイリヒ王国の王家と貴族が最悪の状況に追い込まれたと気づいた時は全てが遅すぎた。

 

 

「フム…我が国にはない上等な品だ。舌の肥えた王国貴族共の身には余る代物と言えよう。そこのお前。これはお前達で好きに呑むがいい。息抜きには丁度良かろう?」

 

「ははーっ!ありがたく頂戴しますッ」

 

 三国会議が中断された直後、エリヒド国王は同じように捕らえられたフォルビン司祭や他の王国貴族とは別の部屋…国王の執務室に連れていかれた。

両手を縛られ、真っ黒な外套で全身をすっぽり覆った者達に見張られるエリヒドの横で、好き勝手に執務室の棚を物色していた皇子バイアスは上機嫌に酒瓶をラッパ飲みしていたかと思えば、同じ銘柄の空いていない物を護衛の兵士に投げ渡す。

 

 兵士も畏まる様子はなく、酒瓶を受け取って深々と頭を下げた直後バイアスに背を向けて部下達を呼び集め、いそいそと酒盛りの準備に入ろうとしていた。

エリヒドは忌々し気にそれを睨むが、横目で彼を見ていたバイアスが鼻で笑う。

 

「くくくっ…!悔しいかエリヒド?お前達が後生大事に守ってきた国が土足で踏み躙られ、極限の栄華を象徴する年代物の酒が名も知らぬ一兵士共の回し飲みに費やされる事が、今のお前にとって愛娘をどこぞの馬の骨に奪われるのと同等の苦痛であろうよ」

 

「……そうやって卑しい獣の本性を剥き出しにして笑っているがいい……バイアス。貴様のような男には、いずれエヒト様が罰を下すであろうよ。…必ずな…」

 

「ガハハハハッ!そりゃあ見ものだ。親殺しに兄弟殺し、領民の口減らしから徴兵の見せしめまで外道の限りを尽くしてきた俺が、今更になって偽りだらけの神に裁かれる等と……笑えるなぁ?」

 

 神エヒトがどういう存在かを知ったバイアスには、神罰なぞ恐れる理由がこれっぽちも無い。

酒を飲んで酔いが回ってきたせいか、彼は悪い癖を出してしまう。

 

「お前の王妃様よぉ、ガキを二人産んだにしては随分と若々しい見た目してるじゃねえか。どうせお前は死ぬんだ。その後で俺が傷心の王妃様を褥で慰めても―――」

 

「ふ、ふざけるな!!王国を滅茶苦茶にするだけでは飽き足らず、私の妻にまで手を出すつもりか!?そこまで堕ちたか、この外道、帝国の屑男め!!」

 

「ハッハッハッ冗談だぜ、そんなマジになって怒るなよ。しかし―――俺は帝国の屑か。それならお前は屑の俺にすら劣る愚王だろうさ。可哀想になぁ…お前を信じていたアンカジの連中は…」

 

「公国の奴らも貴様らと同じ、卑怯な裏切り者だ…!」

 

「先に裏切ったのはテメエ等だろ。後で同じ目に遭ったお前らだけが被害者ぶるってのは道理が通らねえよなぁ?…ご先祖様が草葉の陰で泣いてるぜ」

 

 若かりし頃は力で有無を言わさず相手を屈服させるだけの単純馬鹿だったバイアスが、辺境最優と英雄狩人の影響を受けて改心した結果、出来上がったのが会話で人を煽り、精神的に潰そうとする下衆である。

 

 勿論、それをする相手は限られているのだが…される側は堪ったもんじゃない。

怒りで顔を真っ赤に染めたエリヒドに対し、バイアスは酒瓶をグイっと呷って飲み干す。

 

「――――――げえっぷぅ。戦で勝った時の美酒には程遠いが、クソ美味いタダ酒ごちそうさん」

 

 怒りではなく酔いで顔を赤くしたバイアスは上機嫌のまま部屋を後にする。

彼は手にした酒瓶を、これ見よがしにエリヒドの足下へと放り投げた。

鼻で笑う彼の表情から「酒瓶(それ)を拾って殺せるものなら、俺を殺してみろ。出来ないだろうがな?」と言葉には出さず背を向ける。

悔しそうに俯き、背後で見張りが離れていく気配を感じながら――――――

 

「ふ、ぐぅぅ…っ!」

 

 エリヒドは悔しさでボロボロと泣き出してしまった。

王たるものが人前で泣くことなど決してあってはならない―――かつて先代の王から王位を譲り受けるにあたって、エリヒドが教わった事の一つだ。

国の象徴、最高権力者である王が感情に左右される事は国民を不安にさせる。

だから今の今まで、頭に被った王冠が価値を無くす瞬間までは、泣くことが出来なかった。

 

 足下に転がった酒瓶を拾い上げて、殺すまではいかなくともあの不快な男(バイアス)に怪我を負わせることくらいは出来ただろう。

だがそれをやればバイアスは問答無用でエリヒドをボコしていた。

相手を煽るだけ煽って、最高のタイミングで暴力を行使する。

それで責任を問われても、自分の身を守る為だったという言い訳が出来るからだ。

戦いに慣れているバイアスであれば、老齢のエリヒドを死なない程度に半殺しくらいは酒に酔っていようが造作もない事だった。

 

 エリヒドは自分が痛い目に遭わされる未来を想像して恐怖し、動けなかったのだ。

どうせ死刑になると分かっていても、理不尽な暴力を知らない彼にとってバイアスのする事が全て、恐ろしいものに感じてしまう。

 

「おぉ、ぅぉぉ……ぅっ」

 

 どこで自分が間違えたというのか?

どうして自分が裏切り者だと、自分より下の相手に言われなければならないのか?

聖教教会から睨まれて、どうする事も出来なかったと分かっていただろう?

 

(私は、どうしてっ―――――――――)

 

 惨めな最期を悟り、遂にはまだ生きている家族の心配もする余裕がなくなった。

 

 陰でひっそりエリヒドを見張る皇女の部下達は、冷ややかな目でそれを見ている。

生まれた時から恵まれた環境に居て、突然こんな事になったエリヒドに同情するつもりはない。

野望の為に必要とあらば肉親すら手にかける狂った主人達が正しいとも思わない。

 

 ただ自分達に居場所を与えてくれた方から命じられた仕事を遂行する。

それが陰に生きる自分達の存在理由(生きがい)であり、そこに喜怒哀楽の私情を交える事はない。

”気配遮断”で一人がそっとエリヒドの足下から酒瓶を回収していった。

数分後の事だった、処刑人を連れて彼女達の主…トレイシーが入ってくるのは。

 

「エリヒド、貴様の番だ」

 

「………………」

 

 トレイシーの部下達に連れていかれるエリヒドの目から光は失われていた。

だが彼女はそれを見ても何も思うことはなく、淡々と先を歩いていく。

 

 王城の正門前にある広場で、助けを求めに来た王都の民が集まっている。

だが彼らは正門前に並べられた()()()()を目にして悲鳴を上げた。

それは帝国に対し敵対する意志を見せた貴族と聖教教会の信者達の生首だった。

その中にはフォルビン司祭の首も当然ある。

恐怖で引き攣った表情のまま、目を見開いて死んでいる彼の顔は中々に恐ろしい。

 

 王族が国民に演説する時に使われる台座を処刑台に使っている。

トレイシーに促されて、エリヒドは静かに台座の前で屈んで四つん這いになった。

国王の行動に民衆がざわめく中、トレイシーの凛とした声が響き渡る。

 

「ハイリヒ王国の民よ、心して見るがいい!これが怠惰を貪った者達の末路である!」

 

 ざわめく民衆の中から帝国を批判する声、エリヒドの助命を願う声が上がった。

トレイシーはその声を無視して背後に控えた刑の執行人へと合図を送る。

 

「自分達の平穏さえ続けばいいと、我々の命を軽んじた結果がこれだ!」

 

 刑の執行人は巨大な斧を担いだ大柄な男だった。

拷問か、或いは迫害を受けた彼の顔には生々しい傷痕が幾つも残っている。

民衆の中から彼を嫌悪するかのような声が漏れる中、彼女は更に言った。

 

「帝国は王国との同盟を破棄する!今後お前達が魔人族に滅ぼされようが、モンスター共の餌にされようが、以前と同じように助けて貰える等と思わない事だな!」

 

 エリヒドは自身の首を刎ねる処刑人の男を見てふと思い出す。

目の前の自分を殺そうとした男が、かつて王国の民であったこと。

聖教教会に歯向かったことで異端者として狩られかけ、行方不明になった男がいた。

目の前にいるのは前に見た時よりやつれているが、間違いなく彼だ。

 

「…な、ぜ…お前が……っ」

「…皇帝が、俺を匿ってくれた。いずれ来る…この時の為にと…」

 

「………」

「家族も友人も、お前達に殺された…!俺達はただ、税が上がり過ぎてまともに生活を送ることが出来ないと抗議をしにいっただけなのに…!妻も息子も、親友も…弁明の機会も与えられず殺された…!ずっと、あれからずっと悪夢のような日々だった…!それも、今日で終わりだ…!」

 

 男の斧を持つ手が小刻みに震えている。

怒り、歓喜、悲しみ―――複雑な感情が彼の中で入り乱れているのが分かった。

エリヒドは何も言えず、ただ下を向いて目を瞑りゆっくりと口を開く。

 

「………すまなかった」

 

「っ…そんな、そんな謝罪の言葉で…お前の罪が許されると思うか!?死んでいった者達の無念が、晴らされると思うのか…!国王エリヒド…人の皮を被った化け物め…!偽りの神エヒトに媚び諂った傀儡が…人間らしく振る舞うな!!」

 

 かつて教皇イシュタルが、帝国のハンター達や亜人を見て似たような罵詈雑言を吐いていた。

自分より立場が上の人がそうしているから、自分も同じことをやった。

その結果が、今度は自分が迫害される側になっている。

二人の会話を横で聞いていたトレイシーは民衆の注目が良い感じに集まってきたのを見計い―――

 

「処刑人……やれ」

 

「―――ウ、オオオォォォ!!」

 

(……ああ神よ……どうか、どうか私の死後……この国の民と家族に平穏を齎し給え)

 

 雄叫びと共に斧が振り下ろされて…ザシュッ!と肉を切り裂く嫌な音が王城前の広場に響いた。

エリヒド国王が斬首刑に処されたという話は、瞬く間に各地へと広がる。

ある者はそれを聞いて嘆き悲しみ、ある者は憤慨し、またある者は笑った。

 

「ふーん…あの王様死んだのかぁ…」

 

 そして王都の端にある治癒院で、それを知った一人の少女があっけらかんとした態度で呟く。

エリヒドの死は彼女にとって()()()()()()()であるが、それに付随して自分達がこれから先どうなるのかをある程度は予想していたのだ。

 

「く、ふふ!光輝君がどういうリアクションするのか、楽しみだなぁ~…っとと」

 

 少女は窓に映る自分の顔を見て、人前には出せない顔だと自重した。

慣れた手つきで頬の筋肉を揉み解し、眼鏡をかけて地味な女の子に変わる。

 

(もうすぐ完成だ。あいつ等に直接渡さなきゃいけないのはクソ面倒だけど…)

 

「ふふっ、あははっ…!」

 

 彼女の視線の先には、無数の動植物をすり潰したペースト状の何かが入った小鉢がある。

その周りに転がる空き瓶にはラベルが張られてあった…[危険物]…と書いてある瓶。

そして…ある男子生徒二人の名前に[遺書]と書かれた羊皮紙が2枚置かれていた。

 




 時系列的にはまだクラスメイト達が王国を出て帝都に向かおうとしているくらいなので、最後の不穏な奴は勇者回とセットでもう少し後に投下しようと思います。

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。

初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)

  • 続編にして
  • このまま話数増やしてもいいんじゃね?
  • 打ち切りはヤメロォ!
  • もっと周りの話補完して♡
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