スランプから脱する為に色々やって、リアルに色々ありましたが何とか書こうと思っていた話を書けたので投稿再開することにしました。
以前に勇者の話とセットで投稿すると書いてましたが、勇者の話がR指定(最近気づいた需要無しのエピソード)なのでいずれ本編でちゃちゃっと流れだけ書くことにしたので用済みの方々にささっと退場して頂く事になります。
斎藤良樹と近藤礼一は同じ病室に入れられていた。
十人ほど収容出来る部屋を「神の使徒だから」という理由だけで貸し切った院長の横暴に、本来そこで治療を受ける筈だった患者から不満の声が上がった。
しかし彼らの不満の声も理由を聞けば忽ち霧散する。
聖教教会の息がかかった治癒院で、聖教教会の崇める神が遣わせた使徒を相手に不平不満を言おうものなら、神殿騎士と狂信者達によって一族郎党皆殺しにされかねない。
そして彼らが同じ部屋に収容されなかったのはもう一つの理由があった。
「う、おぇぇぇ…げほっごほっ…!」
「ちっくしょぉ…っ!あのクソ蜘蛛…次あったら絶対殺すぅ…っ」
ベッド脇に備え付けられた桶の中に、良樹は何度目になるか分からない吐瀉物をぶちまけて、向かいのベッドで礼一は悪態をつきながら、水差しに直接口をつけて水をがぶ飲みする。
外傷は完治して、体の中にいた子蜘蛛も全て吐き出した筈なのに、二人は体の中にまだ何かいるんじゃないかという不安に駆られ、食事を口にしてもすぐに吐き出してしまうのだった。
―――普通なら衰弱して悪態をつく気力もないというのに、それが出来るのは神エヒトから与えられた一般人より多少強くなったステータスのお陰だろうが、二人はそんなことなど知ったこっちゃないと、横になった状態で出来る限りの怒りを発散していた。
これだけ患者が暴れていれば、普通は治癒院の職員が注意しに来る。だが二人の症状と肩書きを知っていて、職員たちは腫れ物に触るように食事や着替えを持ってくる以外で部屋の前を通る事すら避けていた。信心深い院長ですら急用がなければ近づこうとすらしない。
もはや彼らの中で神の使徒は絵物語に登場するような上位存在から、只の性格に問題のある人間と変わりない生き物になっていた。当然、信者の不興を買って身の危険を招くような言動を表立っては出さないように注意しながら。
「こほっ…ぺっ!…なんで、誰も見舞いにすら来ねえんだよ…っ!」
「薄情者どもが…つーか俺達がこうなったのもあいつ等のせいだろ…!」
自分達が此処に担ぎ込まれる前に、クラスメイト達と決定的な溝を作るような言動を取ったことを棚に上げて、彼らの思いやりのなさを罵倒し、責任の擦り付けをする。
それがどれだけ醜い振舞いなのか、彼らが自覚することはないだろう。
―――だって、ほら…彼らに残された生きる時間は…もう
コンコンコンコンッ!
不意に病室の扉が控えめにノックされて、二人は罵詈雑言を飛ばしていた口を閉ざしてびくりと肩を震わせる。だが次に聞こえてきた声を聞いて、すぐに余裕を取り戻す。
「斎藤くん、近藤くん。私…中村だけど…入っていいかな?」
「あ、あぁ?…中村ぁ?」
「お、おう。別にいいぜ、入れよ…」
てっきり治癒師の職員が食事か着替えを持ってきたものかと思っていた二人は、思わぬ来客に動揺しながらも入室を許す。扉が開いた先には、両腕で籠を抱えた中村恵理の姿があった。
「ごめんね。雫ちゃんからお見舞いにいってあげてって頼まれてたんだけど…光k…天之河くんの容態があまり良くならなくてさ、付きっ切りの看病してて遅くなっちゃったんだ」
「は?あ、…あぁ、そうかよ…!」
「つーか他の奴はどうしたんだよ。八重樫とか永山とかよぉ…」
「雫ちゃんは大迷宮で起きた事を報告しにメルドさんと王城にいってまだ帰って来てないの。永山くん達は…声を掛けたんだけど、断られちゃって…」
雫の事情は仕方がないと納得した二人だったが、永山パーティーの面々が断ったと聞いた瞬間怒りの表情を浮かべる。恵理は少し怯えつつも、振り返って開けた
扉を閉めてから、二人の下までゆっくり歩み寄っていく。
「えっとね…これ雫ちゃんから…二人の怪我に効く薬なんだって」
「…あ?」
「んだよそれ…」
彼女が籠の中から取り出したのは、橙色の怪しげな液体が詰まった二つの瓶だった。
液体の色が普通の飲み物の色をしていなかったとしても、薬と言われば納得する。トータスに召喚されたその日に出された食事のスープも独特な色合いをしていたから、二人はそれが薬であるという彼女の言葉を疑わなかった。
「体の中の免疫…みたいなものを高めて、悪いものを便と一緒に排出するんだって」
「なんだそりゃババアの使う便秘薬かよ…」
「…ま、なんでもいいや。早く寄越せって中村」
恵理の手から奪い取るように瓶を手にした二人は、嫌な臭いがする事を覚悟して顔を顰めながら蓋を開けたが…中から香ってきたのは甘い菓子パンのような香りだった。
「…なんだこりゃ…本当に薬なのか?」
「ちゃんと効果あるんだろうな…」
「えっとね…他のクラスの子がそのままじゃ苦くて飲めないかなって、私が薬を調合する人に相談したらハチミツと落陽草って草を入れてくれたんだ。効果は変わらないから安心して」
ハチミツと聞いて、二人の単純な頭は目の前の液体の色がハチミツのそれによるものだと思い込んだ。落葉草という草について聞き覚えは無いが、効果が変わらなければ二人にとってはどうでもいい事であり深くは追及しなかった。
ごくごくと喉を鳴らして二人が飲む様子を、恵理はニコニコ笑いながら見つめていた。
それから「何かいるものはある?私から用意して貰えるようお願いしておくよ?」と彼女が気を利かせて、すっかり気分を良くした二人は胃腸の弱った病人であるにも関わらず脂っこい肉や酒類を持って来いと言う。
「…うん、分かった。それじゃあ後で持ってくるね」
「おう、早くしろよ」
「ついでにこの薬も持ってきてくれよな~」
お気楽にベッドで寝転がる二人からもう用済みと言わんばかりのそっけない態度をされるが、恵理は満面の笑みのまま部屋を後にした。
…わざわざ恵理が持ってきた籠を、わざとらしく二人のベッドの近くに置いていったことに二人がこの時気づいていれば、もう少しだけ寿命が延びたかもしれない。
*
彼女が廊下に出ると、夕陽の光が視界に差し込み目を細める。
この時間になると治癒院の職員達は、我儘な注文の多い患者たちを相手に苦労しながら食事や体を拭く準備をして忙しそうに歩き回っていた。
「―――――――――アハッ、アハハッ…!」
笑顔の奥で堪えきれなくなった心の愉悦を、恵理は笑い声に変えて吐き出した。
胃がひっくりかえるような感覚を伴って、小刻みに震える彼女の両肩。
(どうして馬鹿って奴は、なんの疑いもなく人から与えられたものを口にするんだろうねぇ)
彼女から見た良樹や礼一は、餌を与えられて肥えるだけの家畜と同じだ。
…否、いずれは食肉として利用される家畜以下のどうしようもない存在と言えるだろう。
さっきの二人が口にした薬は正しく調合などされていない。
恵理が密かに治癒院の保管庫から拝借した”毒テングダケ”と”マンドラゴラ” ”に、先ほど二人に説明した通りの”ハチミツ”と”落陽草”、”眠魚”を適当にすり鉢で混ぜ合わせたものである。
毒テングダケを除き、これら四種のアイテムは調合の素材次第でハンターの傷や状態異常を瞬く間に回復させる薬にもなるのだが、王国の人間も恵理もそれを知らない。
しかし、たとえ体に良いものであったとしても正しく調合されていなければ効果が出ることはなく、逆に人体にとって有害なものを生成してしまうこともある。
調薬に疎い恵理であっても、それくらいの常識は知っていたのだ。
だからそれを利用し、弱った二人が確実に死ぬであろうタイミングで薬を渡した。
「くふふふっ…あーおっかしぃ!――――――人生最後の晩餐が女の子の手作りだなんて、野垂れ死んだ檜山と中野より幸せものだよねえ?死んだ後に降霊術で感想でも聞いてみようかな?」
一人で笑っているところを見られると怪しまれる。彼女は早々に普段通りのおどおどした勇者パーティーの一員という役柄に表情を作り変え、愉悦の余韻を隠したまま近くを通りかかった職員の女性に目を付けて声をかけた。
「あ、あの…!」
「…はい……っ!…し、使徒様…!?…なにか、御用…でしょうか?」
(…こいつ、なんで僕が声かけたくらいで怯えてんだ…?)
職員の様子に首を傾げた恵理だが、彼女の視線がチラチラと礼一達の部屋に向けられていることに気づいてなんとなく事情を察して呆れる。
(なるほど。馬鹿共の世話をしようとして何かされたってところか。…まぁ、適任かな)
恵理は職員を怖がらせないよう、困った笑みを浮かべながら話し始める。
礼一達のような態度で接してこないと分かり、職員も少し緊張が解れたようだ。
「えっと…私少し前に此処で治療を受けてる男の子二人の様子を見に行ったんですが、理由も言わず入るなと追い返されてしまって…。…多分だけど二人とも機嫌が悪いみたいなんです」
「は、はぁ…」
当然だが部屋の中から恵理と職員の会話を聞かれることはない。
治癒院の病室は患者が大声を出したり暴れて音を立てることで他の患者に余計なストレスを与えないよう防音対策を施してあるのだ。
中で何が起こっているか、扉を開けなければ見聞きすることは出来ない。
恵理の話を聞いて職員は困惑しながらも、二人の機嫌が悪いと聞いて顔を強張らせた。
ニィ…と内心邪悪な笑みを浮かべた恵理は職員が聞いたら喜ぶであろう提案を告げる。
「ああなったら二人は暫く機嫌が治らないんです。だから…
「え…っ!にっ二、三日も…ですか?それは流石に…」
「大丈夫です!…ここだけの話、二人は医師の先生や職員の皆さんに黙って僕や他の使徒の子を脅して食べものとかお酒を隠れて摂ってるみたいですから…」
恵理の真っ赤な嘘だが、二人に関わりたくない職員はその話を疑うよりも、信じる方に心を傾ける。その方が職員にとっても
心なしか職員の不安そうな表情の端に安堵の笑みが見え隠れしている。
それを見逃さない恵理ではない。彼女はダメ押しと言わんばかりの一言を口にした。
「もしそれで二人に何か文句を言われたら
「……そう、ですか。…はい!使徒様がそう仰るのでしたら…!」
責任を取らず、自分以外の誰かに押し付けられると知れば、誰もがそうするだろう。
人の考えてることや意思のロジックを、恵理は過去の経験からなんとなく読めた。
無論、そうならない真面目な人間もいるがそれは極少数の例外である。
「お仕事が忙しい中で大変恐縮なのですが、この話を他の職員の方にも伝えて貰えませんか?それと私から個人的に…いつもお世話をしてくれて、ありがとう御座います…って」
遂に本心を隠そうともしなくなった職員の女は、先ほどまでとは打って変わってとても良い笑顔で恵理の話を聞いており、恵理に向ける目も以前の「神エヒト様から遣わされた神の使徒」に対する尊敬のそれに戻っている。…彼女の神に対する信仰や他者への信頼など、所詮はこの程度の言葉で簡単に心を変えるものだった。
何度もお礼を言いながら仕事に戻っていく職員の姿を、恵理は手を振って見送る。
それから暫くして彼女も愛しい彼のいる病室に戻ろうと歩き出す。
物音一つしなくなった二人の病室に、彼女達が振り返ることはなかった。
―――――――――それから数日後、近藤礼一と斎藤良樹はこの世を去った。
死因は栄養失調と毒による多臓器不全の衰弱死。
二人の病室には毒の元となったであろう液体が入った瓶、そして
更にこの後、治癒院は
毒の下りは毒キノコで例えるなら破壊の天使と死の傘の症状が倍のスピードで発症するくらいに考えて下さい。…毒テングダケもマンドラゴラも、ハンターなら装備の発動スキルによって平気で食えるとかいう…やっぱ一番ヤバいのはハンター(キノコ類が美味しいかは分かりませんが)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡