ちょっとだけ戦闘、ちょっとだけハジメ君が成長のお話。
負傷したクルペッコに加え、リオレイアの乱入により2人の狩りは混沌と化していた。
リオレイアが三方向に放った火球を、ハジメは全力疾走からの飛び込み回避で避けるのに対して、アゥータはあえて火球が飛んでくる方へ転がって、紙一重のタイミングで躱す。
地面に着弾と同時に小規模な爆発を巻き起こして、辺りの木々から鳥や小動物が逃げ出した。
クルペッコはそんな状況下で、リオレイアの攻撃に巻き込まれることも厭わずに2人のハンターに対して執拗なまでの突進を繰り返している。
「っだあぁぁぁチクショオォォォ!どうすりゃいいんスかアゥータさぁぁぁん!」
「何だぁハジメ。こんくらいの相手に苦戦してんのかー」
クルペッコが尻尾を振り回して、その風圧に姿勢を崩されたハジメ。
狙ったようにリオレイアが噛みついて来るのを、アゥータがハジメを庇うようにしてリオレイアの前に立って、盾を使ってその牙を弾く。
よろめきから立ち直ったハジメは溜め無しで矢をクルペッコへ放つ。
当然だが、大したダメージは与えられず、クルペッコは痒そうに身をぶるりと震わせた。
「アンタと違ってこっちは飛竜相手にするのも初めてなんスよ……!?」
舌打ち一つして、ハジメはバックステップを取ろうとする――――
それが悪手だった。飛び退いた先でリオレイアが身体をぐるんと回す。
無数の棘を生やした尻尾が風を切る音がして、ハジメの体がどすんと揺らされた。
「――――ごぁっ!?」
「後方不注意。ガンナーとしちゃ三流もいいところだぞ~」
アゥータはその場で武器をしまって屈み、頭上スレスレを尻尾が通過する。
吹き飛ばされて地面を転がるハジメに半笑いで声をかけた。
地面にうつ伏せとなっていたハジメは歯を食いしばって立ち上がる。
「……く、そが…!―――ペッ!」
「冷静になれよ。簡単な戦い方を見せてやる」
口の中を転がるジャリジャリとした砂の感触と血の混じった唾を吐き捨てるハジメ。
怒りで目元に皺を寄せながら、猛々しく唸り声をあげるリオレイアを睨んだ。
屈んだ隙を狙って、アゥータに狙いを変えて飛び掛かってきたクルペッコ。
―――クルルルルッ!
「飛び掛かりはこうして、よっと。ほいほい、後方ブレス」
―――ゴアッ、ゴアッ、ゴアァァッ!
突き出された嘴を避けると、数秒後に背後からリオレイアの火球が再び襲う。
見向きもしないで火球を避けられるのはどういう仕組みなのか。
ハジメの表情から、その疑問を感じ取ったアゥータが口で説明する――――
と同時にデゼルヴェントで、クルペッコの翼を切りつけた。
「人にも言えることだが、攻撃を仕掛ける前に予兆動作ってのがある。掛け声、力溜め、目線その他諸々―――モンスターにも同じようなもんがあるの、さっ!!」
―――ギャオォォォッ!
クルペッコとアゥータ両方を巻き込む形で突進を仕掛けるリオレイア。
しかしアゥータはリオレイアが走り出す前に横の川辺へと転がっていた。
結果、突進してきたリオレイアに吹き飛ばされたのはクルペッコただ1体のみ。
―――グエエェッッ!?
「―――――シッ!」
ハジメは話を聞きながら突っ立って呆ける訳にもいかず、弓を構えて走り出す。
今度はしっかりと二度の力を溜めてから、突進して地面に伏せるリオレイアの顔を狙う。
ザシュッと目の上辺りを矢が掠めて、緑の鱗に僅かな傷がつく。
「尻尾の生えた奴は、それを振り回す時に一瞬だが立ち止まるって尻尾を逆方向に軽く振る。んで体に捻りを加えて勢いをつけた尻尾の振り回し攻撃を行う」
「―――――それは、分かりますけ―――っど!!」
矢を番えたまま地面を滑るようにして2体との距離を詰めるハジメ。
クルペッコは突進された時のダメージでまだ上手く立ち上がれないのか、その場で苦しそうに鳴き声をあげながらもがいている。
リオレイアは先ほどの顔を狙った一撃で、ハジメに狙いを変えていた。
すぅと首を軽く上げて息を吸い込むような動作――――
それを見た瞬間ハジメはハッとした表情で構えを解き、横へ飛んだ。
―――ゴアッ、ゴアッ、ゴアァァッ!
(―――――今のリオレイアの動き……これが……)
「分かるかハジメ?そいつはさっきも同じように首を上げて息を吸い込んだ。
説明を一時中断して、強く地面を蹴って跳躍したアゥータ。
デゼルヴェントの刃を頭上に構え、片手剣最大攻撃のジャンプ斬りを叩き込む。
狙いは火球を吐き終えたリオレイア――――
ではなく、ようやく地面から復帰したクルペッコである。
「そろそろ仕舞いにしようや!!」
「っしゃあぁっ!」
ハジメは矢を弓には番えず、鏃の根本を掴んで振り翳す。
デゼルヴェントの一撃を食らってよろめいたクルペッコの首目掛けて、矢を突き立てた。
―――グルエェェーーーッ!!
「お、らぁぁぁっ!」
鱗と固い筋繊維に阻まれるも、ハジメは矢を握る手の力を更に込めて押し込む。
肉の裂け目から血がドクドクと溢れ出して、クルペッコの体を伝って地面に流れ落ちる。
絶叫したクルペッコは最後の力でハジメを引き剥がそうとするが、ハジメは離れない。
犬歯を剥き出しに、ギラついた目で獲物を殺す一点に意識を集中させた。
(これで殺す、確実に殺す、逃げても殺す、死んでも殺す!!!)
―――ゲ、ェ……ゥ
ハジメとクルペッコの激闘の瞬間も、リオレイアは次なる攻撃をしかけようとしていた。
二歩後ろに下がって翼を短く折り畳み、空中へ飛び上がろうとする。
飛び上がった瞬間に宙返りを行い、尻尾の棘で相手を打ち上げる強力な攻撃。
通称サマーソルト。これで命を落としたハンターも決して少なくない。
しかしリオレイアはもう一人のハンターの存在を見逃していた。
今にも地面を蹴って飛び上がろうとしたリオレイアの顔面にベシャッと何かが命中する。
それを鼻で呼吸し、僅かに口の中に何かが入った途端―――
―――ギャアアアアアァァァッ!?
リオレイアは悲鳴のような鳴き声をあげて後退る。
リオレイアの顔面にそれを、”こやし玉”を投げつけたアゥータはにっこり笑っていた。
こやし玉。それはハンターが狩りに用いる投擲アイテムの一つである。
素材は至ってシンプル。”モンスターのフン”つまりは排泄物を使って作られている。
”ネンチャク草”と呼ばれる粘性の強い植物のエキスを混ぜて、団子状に丸めたものを、ハンターは狩りの最中に邪魔なモンスターが襲ってきた時に投げつけて撃退している。
自分のではない、別のモンスターがケツからひり出したそれを顔に当てられたのだ。
モンスターとはリオレイアは雌。その心中は決して穏やかなものではないのだろう。
しかしアゥータへの怒りを上回るこやし玉への生理的嫌悪感と、それを洗い流したい一心でリオレイアの行動は決まっていた。すぐさま近くの小川へと顔を突っ込んだ。
―――ギャアァッ!バチャバチャ、グギャアッ!
「後輩の実力テストも兼ねてたんでね、お邪魔蟲は退散してくれや」
もう一つオマケにと、リオレイアの胴体へこやし玉を容赦なく投げつけるアゥータ。
また嫌な臭いのするそれを、今度は小川の水では洗い流せないところへと当てられたリオレイア。
ついに我慢の限界が来たのか、リオレイアはその場でバサッと飛び上がる。
―――グ、ガアアァァァッ!!!
「おう無様に尻尾撒いて逃げろ陸の女王サマ。――――さて、と……」
木々を破壊して上空へと避難したリオレイアは飛び去っていく。
それを見届けて、アゥータは後ろで決着のついたハジメへと振り返る。
辺りにはこやし玉の臭いに混じり、濃い血の臭いが漂い始めていた。
「はぁ、はぁっ!……っはぁ……!」
「被弾1回。初見でクルペッコの狩猟、リオレイアの撃退――――まぁ及第点だな」
地面に横たわるクルペッコは口を開けたまま絶命していた。
矢を握る手から血を滴らせて、ハジメは荒い呼吸を繰り返している。
アゥータは彼をリラックスさせようとそっと肩に触れようとして――――
「……ウンコついた手で触るの、止めて貰っていいっスかね」
「チッ。意外に冷静でいやがったか……」
*
「―――――はぁ……。……逃げられた……か」
「俺が
小川の冷たい水で身体についた血や土の汚れを洗い流すハジメ。
下流で同じように手についたこやし玉の残り香がなくなるまで水中で手を濯ぐアゥータ。
しかし水から引き上げると、まだ手には鼻の曲がりそうな嫌な臭いが残っていた。
戦いが終わって昂っていた気分が落ち着くと、ハジメは自分の至らなさを実感した。
と同時に、まだ手に入れてないリオレイアの素材を取り逃したことを悔しがっている。
アゥータに諭されて、実はそのことを頭の片隅に追いやっていたハジメは誤魔化してムッとした。
「分かってますよ。―――そろそろシアを呼んできた方がいいんじゃないですか」
「あいよ。お前は嬢ちゃん来る前にクルペッコの剥ぎ取りでもしとけ」
自分の手の臭いを嗅ぎながら「暫くは娼館通ねえな、こりゃ」と呟くアゥータ。
ハジメはそれを肩越しに振り返って見送り、そっと立ち上がりクルペッコの死体に歩み寄る。
既に血の大半は傷口から出しきっており、見開かれた瞳には光が宿っていない。
(――――狩りの最中はつい頭に血が昇って死ねだのクソだの言っちまった気がするが―――)
一応だがクソは言っていない。
獲物に対する礼儀がなっていなかったなと、ハジメは自分を更に恥じる。
屈んでクルペッコの前で軽く手を合わせるハジメ。
先ほどの無礼に対する謝罪。そしてその死体から素材を剥ぎ取り、利用させて貰うことへの感謝。
「―――――頂いていくぜ」
僅かな時に死後の安らぎを祈り、ハジメは腰の剝ぎ取りナイフを引き抜く。
それから暫くの間、小川の近くで肉を断つグチャグチャという音だけが支配した。
咽かえる血の臭いの中で、ハジメは手に感じる血がまだ生温かい事を知る。
つい数分前まで、このモンスターは
ハジメの獲得した素材一覧
・彩鳥の鱗2個
・彩鳥の羽1枚
・火打石1個
・へんなクチバシ1個
*
ハジメは剥ぎ取りを終えて、素材を荷物にしまいながらふと疑問を抱く。
先ほどから木の根の向こうへと姿を消したアゥータが帰ってこない……。
それにシアの声も(戦っている最中は無理だと思うが)先ほどから聞こえなかった。
「………2人とも何やってんだ…?」
クルペッコの死体を後でゲブルト村へと運べるように荷車でも作っているのだろうか。
ハジメは武器を背中にしまって、アゥータが向かっていった方角へと歩き出そうとして――――
「止まれ人間」
「――――……ッ」
クルペッコの死体しかなかった筈の真後ろから誰かに声をかけられた。
驚いて声をあげようとしたが、それすらも危険な気がして寸でのところで飲み込んだ。
不意に早くなる鼓動に邪魔されて聞き取れなかったが、後ろでギリギリと弦を引く音がする。
(……音的に弓で狙われてるの……か……?)
弓といってもハンターが使うような大型のそれではない。
冒険者が使っているような、人の背に収まるサイズの弓である。
しかしサイズが小さいからといって、矢で背を射抜かれれば流石のハジメでも死ぬ。
背中にビリビリとした殺気を感じると、条件反射で指を動かしてしまう。
「背中の弓やナイフに手を伸ばすな。下手に動けば、私の矢がお前の頭を射抜く」
(この声……女か)
凛とした女性の声にハジメは聞き覚えが無かった。
何時の間にこんな接近を許したのか?
自分が弓で狙われている理由は何なのか?
こうなっている間に、アゥータとシアは無事なのか?
様々な疑問が頭の中で回転していると、後ろの女が歩き出す。
ハジメは顔だけでも見ようかと振り返ろうとするが――――
「こっちを向くな。両手を組んで頭の上に置け」
(言う通りにしないとヤバそうだな……)
「……これでいいか?」
「あぁ。次はその場で跪け」
女の言葉に従っていると、不意に木の根の方から草木を揺らす音がする。
アゥータが戻ってきたのだと思ったハジメは声をあげようとするが―――――
「とほほ~……俺ら揃って、やっちまったな~」
「……まぁ、そうなりますよね……」
現れたのは両手を木の蔓で縛られ、目隠しをさせられたアゥータだった。
後ろには赤い毛皮で覆われた骸骨の面で顔を隠した人のようなものが並んでいる。
その手には弓、腰には剣が提げられていた。
不意に後ろから女の手が伸びてきて、ハジメの視界が真っ暗になった。
アゥータ同様に目隠しをされたのだと知って、ハジメは抵抗しようか迷ったが―――
「ハジメ……
「……分かってますよ」
「フン。我らが庭で非力に足掻く等とみっともない姿を晒さんことだ人間。―――――連れていけ、他の種族共に気取られるなよ。父上には私から伝えておく」
「「ハッ」」
会話の感じから察するにハジメの背後を取った女がリーダーのようだ。
そして
「亜人族の歓迎は熱烈だねえ。……目隠しプレイなんて初体験だぁ」
「……この危機的状況下で、よくそんなことが言えますね……」
何処までも図太い神経のアゥータに対して、ハジメは呆れる。
こうして2人はハルツィナ樹海の何処かで、亜人族の者達に捕まった。
不安定な足場を、謎のお面をつけた男2人に引っ張られて歩きながら―――
(シアは……無事なんだろうか……)
ハジメは姿の見えなかったシアの心配をしていた。
亜人族がいる手前、不用意に彼女のことを口には出せなかった。
一刻も早く、シアと同族の者達を引き合わせてやりたいといのに……。
ハジメはまだ知らないだろう……。
この心配が、取り越し苦労に終わることを……。
アゥータ兄貴が「何もするな」と言った理由は後に説明します。
これが後の話にも関係……するように書けたらいいなあと思う日々です。
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡