新章開幕、新たなモンスターとハジメが振るう次の武器は…?
変わるものと目指すもの
ゲブルト村の朝は早い。
開拓作業を中断した村の男衆は、本来の仕事である薪集めと食料集めをしにハンター・アゥータを伴ってハルツィナ樹海に向かう。
女達は腹を空かせて帰ってくる男衆と、まだベッドで眠る子供達のために朝食を作る者と収穫可能な野菜を畑で収穫する者に分かれる。
鍛冶屋のヘファイは火の弱まった炉に薪をくべて、一日の準備を始める。
アイテム夫婦はアイが料理を、テムが樹海に食料を集めにいった。
独り身で調理が難しい者には料理長のアイルー・ウマアジ他4匹がついている。
ハンター・ルゥムは荒野側のモンスターの侵入を防ぐために見回りへ向かう。
村の新しいハンター・ハジメも先輩ハンターである二人のどちらかについていき、そこで色々な勉強をさせて貰っている。朝食は基本的にマイハウスで自炊しているが、時々アイテム夫婦や村の村長アボクに誘われて朝食を御馳走になることもある。
これがゲブルト村の
「よーしそっち支えておけ!」
「もうちょい右、斜めってる!直せ直せ!」
「ハジメ君呼んできてくれ。こっちの準備が出来たってな」
「分かりました!」
朝から賑やかなゲブルト村を、新しい住民達が駆け回る。
兎耳と丸い毛玉の尻尾が特徴的な
彼らは亜人特有の人間より高いステータスを生かした自分達の家造りに奔走している。人間の男衆もそれを手伝っているのだ。
額を流れる汗を服の裾で拭い、爽やかに朝の空気を吸うカム。
一昔前の自分達には考えられなかった暮らしが現実のものとなっている。
そうしてくれた恩人、いまこの場にいないアゥータに心から感謝を送った。
「皆、そろそろ朝食が出来ますよー!」
「おおマジかぁ」「腹減った~」「ぐーぺこだぜ……」
「いったん手、止めるかー」「他の奴らにも伝えてこーい」
エプロンを装着した兎人族の女が家の窓から手を振って声をかける。
男衆は全員が頬を緩ませて、漂ってくる良い匂いに腹の虫を鳴らした。
作業道具を置いて、汚れた手を洗おうと各々が井戸に向かう。
カムは一足先に手洗いを済ませていた。
彼らの働きを見て、朗らかに笑みを浮かべるアボクの下へと駆け寄る。
「アボク殿、おはようございます!」
「おはようカム殿。朝から精が出るね」
「えぇ!この調子であれば全員の家造りもあと一、二週間で終わるかと」
「それは良かった。どうか怪我などしないよう、安全には気をつけて」
「はい、ありがとう御座います!では朝食の時間故、失礼」
会話を終えるや否や、カムも腹の虫を鳴らしながら全力で駆けて行く。
アボクは村が活気づいていくのを肌で感じ、静かに目を閉じるのだった。
*
「チャチャッ!虫かご族、俺チャマ達に合わせるっチャ!」
「委細承知!皆の衆、心して掛かれ!」
ハルツィナ樹海の中を駆けまわっていく小柄な獣人族の者達。
ガジャブーが手にした鉈で適当な太さの木の幹を一心不乱に切り落とす。
籠を背負ったテトルー達が落ちてきた木の幹を拾っていく。
ゲブルト村の男衆が行っていた薪集め、それを彼らが代わりに行っていた。
「はぁ~……小さいのに効率よく働けるもんだねぇ、感心感心」
「まだまだこんなもんじゃニャいですぜ、アゥータの兄貴!」
「ですニャ!僕達の働きに乞うご期待下さいニャ!」
一応の護衛として同行したアゥータ。
しかし獣人族は小型であれば肉食のモンスターとも戦える。
万が一に大型の火竜などが出現すれば彼の出番もあるだろうが、樹海の入り口辺りには滅多に姿を現さない。よって仕事のない彼は木に寄り掛かって欠伸を噛み殺しながら、獣人達の働きぶりを褒めることしかやる事はなかった。
更に理由は不明だが、獣人族は皆アゥータを兄貴と呼んで慕っている。
慕われて悪い気はしない為、それを黙認している本人なのだが……
「兄貴兄貴!あそこにデッケェ”ロイヤルカブト”がいやしたニャ!」
「ほーん……捕れるんなら捕っちまっていいんじゃね?」
「兄貴!川にいった仲間から”春夜鯉”が沢山釣れたと報告ニャ!」
「正確なサイズと数を教えてくれ。少なけりゃお前らで食ってくれ」
「アゥータの兄貴、薪集めの任。指示通りに遂行しました」
「チャチャチャッ!俺チャマ達にかかればおチャの子さいさいッチャ!」
「ご苦労さん、他いってる仲間達に合流して村に引き上げる準備を頼む」
(……なんつーか……お山の大将って気分だな)
アゥータ達から少し離れたところで音もなく忍び寄ってきた小型の肉食獣”ジャグラス”の群れを、ガジャブー達が背後から奇襲して”毒投げナイフ”や”壺爆弾”で圧倒している。
群れの一部が逃げ出していき、残りを倒したガジャブー達が勝利の雄叫びをあげる。
アゥータはようやく自分の出番が来たと、剥ぎ取りナイフを腰から抜いた。
ジャグラスの鱗も皮も、彼は既に数えきれないほどのストックがアイテムボックスにあるから使い道は皆無に等しいのだが……
(ハジメの奴に土産と称して押し付けてやるか)
*
「―――きょ、今日も……宜しくお願いしますッ!」
「……(こくっ)」
ライセン大峡谷付近の荒野にて、二人の影が向き合っている。
片や太刀を背負いながら、構えも何もしていない女ハンター・ルゥム。
片や木の棍棒と丸盾を手に、小刻みに震えながら構えを取る兎人の少女・シア。
「やあぁぁぁっ!」
掛け声と共に振り上げた棍棒をルゥム目掛けて振り下ろすシア。
ルゥムは迫る棍棒に見向きもせず、半歩下がるだけでそれを躱した。
地面に叩きつけられた棍棒から鈍い音がして、衝撃がシアの手に伝わる。
「~~~ッてやあっ!!」
指先の痺れを歯を食いしばって耐えたシアは、再度攻撃を試みた。
今度は横薙ぎ。ルゥムは上半身を仰け反らせるだけで棍棒は空を切る。
棍棒の勢いに振り回されないよう足で踏み止まって三度目の攻撃を構えようとして―――
「……」
「ぴゃっ―――」
目にもとまらぬ速さで指を突き出すルゥム。
目潰しを食らうと思ったシアは反射的に目を瞑った。
直後、膝の後ろ側に衝撃が加わりバランスを崩すシア。
足が地面を離れて、一瞬の浮遊感で背筋にぞわっと恐怖が迸る。
「………ッ……?」
「……(こくっ)」
しかし何時まで経っても痛みがやってこない。
恐る恐るシアが目を開くと、ルゥムが彼女の体を抱えていた。
手を借りてすくっと立ったシアは冷や汗を掻きながら答える。
「私の、負けですぅ……」
「……(こくっ)」
ある事をきっかけに心身を鍛えるようになったシアの毎朝の訓練。
戦うことに慣れていない彼女が武器を振るうことに躊躇いなく、攻撃を食らうたび反射的に目を瞑るような癖をなくす為の
シアは一度たりともルゥムにかすり傷一つ与えられていない。それどころか、防具を身に纏って武器を背負った状態の素手という、傍から見れば圧倒的ハンデを抱えながらルゥムはあの手この手でシアを組み伏せていた。
「……うぅ~……」
攻撃の度に目を瞑る癖を、自分でも治そうと思っているシア。
しかし生まれてから樹海で育って十数年、争いとは無縁な暮らしを続けて、菜食主義が基本だった兎人族の彼女は血を見ることすら厭う。
歯痒い思いで表情を歪めて地面を俯いていると―――
「………(ぽんぽん)」
「ルゥムさん……。ありがとう御座います」
気にしなくていい。言葉にすればそんなところだろうか。
シアの肩を優しく叩いて、ルゥムは向かう方へと歩き出した。
日課の組手はこれで終了。此処から先はルゥムの日課である村の安全確保。
ライセン大峡谷の荒野と村の境界を行き来して、異常がないか確かめる。
各所に設置された鳴子が壊れていないか、ついでに生態系の成長ぶりも見届ける。
野生のアプトノスやアプケロスが肥え太り子を生せば、それを狙って肉食の小型モンスターが群れで襲ってくることや、大型の飛竜種が飛来することだってあり得る。
シアがルゥムと一緒に荒野を見て回るのは兎人族の特長であるモンスター並かそれ以上に優れた聴覚を有しているからだ。ルゥムが普段どんな風に見回りをして、狩りを行っているのか見て勉強するのと村の暮らしを守る為に必要な見回りの手伝いをまとめて行える利点があった。
(早く……もっと努力して……ハジメさんの背中に追いつかなくちゃ!)
ゲブルト村で暮らすことが決まってから。
或いはもっと前、ハジメが恐ろしい黒狼鳥と戦って生き延びたと知った時から。
シアには今まで考えたこともなかった、自分の将来の夢が出来たのだった。
それが実を結び、彼と肩を並べて戦えるようになるには―――――
「ぴゃあぁぁモンスターっ!?―――って、只のモスでした……」
―――もう少し、先の話になるのかもしれない。
*
「―――っぉぉぉ……!」
ゲブルト村の農場から少し離れた小川にて。
ハジメは朝の自主鍛錬に汗を流し、苦悶の声を上げている。
重さにして150キロはある巨大な岩石を
それを自分の肩と水平からやや上にあげてから地面スレスレまで下げた。
重量のある武器を使った際に、体を振り回されて負傷しないようにするための体の重心を落として膝の耐久力を上げ、同時に指先から肩までの筋肉を鍛える訓練。
それでも壊れないのはハンターとして体の基礎が出来上がっているから。
ハジメは樹海で戦い、一人で倒し切れなかったリオレイア、イャンガルルガとの戦いを想定したイメージトレーニングも同時に行っていた。
「――――ッフゥー……フゥーッ!」
彼の頭の中で立ち回る自分が、紙一重でリオレイアの火球を躱す。
仕返しに矢を放って、リオレイアの翼膜を破壊する光景が浮かんだ。
ギリッと歯を食いしばって岩石を上下に振りながら、再度想像力を働かせる。
常に全力の自分が如何に強力な武具を身に纏っていようとも、相手となるモンスターには必ず苦戦を強いられていなければならない。ハジメはそう考えてイメージトレーニングを続けている。
イャンガルルガが空中から猛スピードで突っ込んでくる。
またハジメはそれを躱そうと身を捻るが、タイミングを見誤った。
鈍い音と共に自分の体は吹き飛ばされて、地面へと叩きつけられる。
「―――っく!?」
集中力が乱れ、岩石を持つ指先の力が一瞬だけ緩んだ。
全身を斜め前に引っ張る重みに意識を戻されたハジメは頭をブンブンと振る。
現実の訓練と頭の中で想像する戦い、どちらかに偏ってはいけない。
額を伝う汗が瞼の端を通過して、涙のように一本線を頬に描いていく。
(もっと強く……。力任せじゃダメだ……先を読んで、確実な一撃を―――)
脳裏に浮かぶ光景は、自分が苦戦したイャンガルルガをあっさり倒したルゥムの姿。
あの時、彼女は太刀を振るっていたがその動きは普通のそれとは明らかに違っていた。
村に戻ってからルゥム本人に聞いても答えが返ってこないだろうと思ったハジメは、恐らくそれを知っているであろうアゥータに見たものをありのままに伝えて質問をした。
しかし返ってきた言葉はあまりに残酷で単純なものだった。
『悪いが教えられねぇな。あの型について知りたきゃ、古龍の一匹でも撃退して
(――――――あんな動きが出来るハンターが……ルゥムさんの他にもいる……!)
風の噂に聞く例外と呼ばれるハンター。
ルゥムとアゥータの二人もその中に含まれていた。
ハンターとして強くなりたい。純粋にそう思うようになったハジメの今の目標。
古龍を撃退するとか、ハンターランクを上げるといった具体的なものよりも―――
(今はただ……限界を超えて、更に上を……っ!)
もはや岩石を振った回数を数えることに意味を感じなくなったハジメ。
全身から湧き出る熱に突き動かされて、気のすむまで自分の体に鞭を打つ。
これが今のゲブルト村の朝から始まるちょっと賑やかで活気のある日常。
少しだが……日常にも、変化の時が訪れようとしていた。
*
ライセン大峡谷の荒野を一頭の馬が駆けている。
時折吹く風と漂う空気を押し貫くようにして四足を動かす。
馬の背には外套を靡かせて手綱を隻腕で握り締める女がいた。
女の後ろには、虚ろな顔で気を失っている少女がいた。
少女が馬から振り落とされないよう、二人は胴体を紐で強く結んでいた。
少女の衣服は血の染みで汚れ、女の背にも血の汚れが飛び散っている。
二人を乗せた馬が湖の町ウルを飛び出してもう一日が経過した。
吐血や嘔吐、痙攣を繰り返して時には幻覚や幻聴で狂ったように喚いていた少女はもうそんなことをする体力も残っておらず、虫の息といった様子だ。
ウェーブのかかった茶色の髪は手入れをする余裕もなくボサボサに乱れ、食事を口にすることも出来ず体内の栄養分を消費していくだけの少女の体は瘦せ細り、声を発することも出来ない。
休む時間は僅かに与えられても、それ以外は常に尻を叩かれて全力疾走の馬。
苦しそうに息を吐いて首を上下に揺らす馬を見て、女はその首から垂れる毛並みを撫でた。
「ごめんね……もう少し、もう少しだけ頑張って!」
女の記憶が正しければ、陽が落ちるより前には目的地に辿り着ける。
道中でモンスターに出くわさなかったのは奇跡だったのかもしれない。
「――――――お願いよ、優花ちゃん……死なないで!」
湖の町の用心棒・リンネ・ユキト
神の使徒”愛ちゃん護衛隊パーティー”のリーダー・園部優花
彼女達が向かう先は、王国と帝国の境界線を跨いで広がるライセン大峡谷の荒野を越えた先にあるハルツィナ樹海の入り口にある小さな辺境の村。
その名前はゲブルト……ハジメ達が暮らしている村の名前である。
人知れず神も結末を知らない運命の賽子は振られた。
優花の状態が作者の脳内イメージで毒手にやられた刃牙でした……
何気にこっちのハジメ君は錬成技能がまだまだ未熟だから家建てたりとか新しいものを作ったりとか出来ない模様
感想、質問、ご指摘等待ってまーす!
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
-
続編にして
-
このまま話数増やしてもいいんじゃね?
-
打ち切りはヤメロォ!
-
もっと周りの話補完して♡