本当は前回の話で漢女のところまで持っていくつもりだったんですが、作者の中の欲求が「甘い話を見せろ!」と騒いだので書いちゃいました。
反省はしている、だが後悔は(以下略)
昼間のブルックの町中を私と南雲は並んで歩いている。
まさかこんな風に服とか買える時間が貰えるなんて思わなかった。
すぐに愛ちゃん達の所に戻らなきゃいけないうえに、今の私は一文無し。
身嗜みを一々気にしていられないと覚悟を決めていた。
「それで、まずは何処行くんだ」
「……とりあえずぐるっと回りましょ、外からどんなお店があるか見ておきたいし」
「はいよ」
そう言って私が歩くペースに合わせて南雲は歩いてくれる。
一目見て分かる食べ物のお店は全部スルーした。今はそんなに食欲が湧かない。
……っていうか変に南雲を意識しちゃうからそんな余裕出ないわよーっ!
……何で私はこんな事を心の中で叫んでるのかしら。
「あっ」
私はそのお店を見て思わず声を上げて立ち止まった。
綺麗なガラスのショーケースに並んだ可愛らしい洋服の数々。
召喚されてから一度だけ神の使徒だから着飾った方が良いと王宮のメイドさん達に豪華なドレスを勧められたが、メルドさんに戦闘向きではないと却下された。
それからは普通の服の上から皮鎧等をベルトで巻くようになったが……
(今だけは……いいよね)
後で愛ちゃんの所に戻ったら奈々や妙子に「ズルい!ズルい!」とか言われそうだけど。
私が立ち止まって見つめていたのに気づいた南雲が声をかけてきた。
「あの店か」
「……うん。でも後でね」
とりあえず一つ目のお店は決まった。
それから数分間、歩いては気になった店の前で立ち止まり中の様子を窺う。
普通の町だから子供が入っちゃいけないような危ないお店なんていうのはないかもしれないけど、トータスにはそもそもお店に入る人の年齢制限とかそういう概念が存在しない。
……と思っていた、路地裏のとんでもないお店を見てしまった。
「あぁん♡早くぅ」
「昼間っからなんて、貴方も好きねぇ~」
「一名様、ご案内よ~ッ!」
「~~~ッ!!?」
ブルックの町一と評判の娼館。現代風に云うなら風俗店がそこにあった。
下着姿の娼婦達が窓から顔を出して道行く男たちを誘っている。
大体の男が顔を赤くして足早に素通りしているが、中には自ら進んで入る者もいた。
顔を真っ赤にして私が俯いていると、南雲がしれっと言う。
「見た感じこの先はこういう店しかねぇな。引き返すか?」
「―――ッあ、当たり前でしょっ!!」
気を使ってくれたんだろうけど、わざわざ聞かないでよっ……
ただでさえ見た目が超絶イケメンの南雲が隣にいたら変な想像をしてしまいそうになる。
さっと踵を返して普通の店が並ぶところに戻ってきた。
「さっきの通りを除いて……入りたい店は決まったか?」
南雲にそう聞かれて私は「うん」と返した。
一番目の洋服の店は時間をかけてじっくり服を選びたいから最後に、途中で見かけた香水等が売られている雑貨のお店を二番目に、武器が売られているお店を最初に入ることにした。
武器屋(仮称)には私を除く女の人はいない。
屈強そうな見た目の男たちが店頭に並ぶ武具を物色している。
私は少しだけ気を張って店の中に踏み込んだ。
あまり清潔的とは言えない店の中には金物独特の臭いが充満している。
私を見て他の客である男達は「入る店間違えてねぇか?」等と陰口を叩く。
店主も少し無愛想で私を一目見てフンッと鼻を鳴らした。
(ヤな感じ……)
そう思っていると私の前に南雲が一歩進み出た。
不機嫌そうな顔で私を見ていた他の客を一睨みして威圧する。
誰も南雲に因縁つけて絡もうとはしない。
それはそうだろう。彼の背には巨大な鎚があるのだから。
南雲はそれを人に使う事はないと言っていたが、それは持っているだけで威圧に補正がかかる。
「園部、欲しいのは?」
「えっと……短剣とか、出来れば投げられる武器かな」
言うや否や南雲は私の手をそっと掴んで歩き出す。
ちょっと恥ずかしかったが私は振り解こうとは思わなかった。
……私を庇うように立ってくれた時の彼が、少しだけカッコよかったから。
すぐに目的の武器が並んでいる場所は見つかった。
両刃の
投術師という私には少し不釣り合いだと思った天職。
それを少しでも旅の役に立てる為に武器を買いに来た。
「……これと、これを3本ずつ」
「分かった、会計してくるから少し待ってろ」
私が指さしたのたダガーとスティレット。
曲刀はブーメラン代わりに投げてキャッチするものアリかと考えたが、片手が使えない今の私には少し難しいかなと思ったから、使い捨てに出来そうな二つを選んだのだ。
南雲が店主のところへ商品を持っていく間、私は壁際に移動しようとして――――――
「よう嬢ちゃん、此処はガキが玩具買いに来るとこじゃねぇんだぜ?」
「………はぁ………」
案の定、南雲という視覚的な抑止力がいなくなった私に絡んでくる男が現れた。
荒々しい見た目の皮鎧に禿げ頭で眼帯という、私の父親とかの世代が読んでそうな漫画のチンピラみたいな男に対して思わずため息をついた。
男は下卑た笑みを浮かべて更に迫ってこようとするが――――――
「おい」
「何だよ――――――ッ!!?」
「南雲……」
会計に行っていた筈の南雲が足早に戻ってきてチンピラ男の肩を掴んでいた。
補足だが男は南雲より頭一つ小さい。上から見下ろす南雲の目は冷ややかなものだった。
「俺の連れになんか用か?」
「べ、別に何でもねえよっ!手ェ離しやがれッ」
「おらよ」
南雲がチンピラの肩を掴んだ手から力を抜くと勢いよくチンピラは振り解いた。
足早に店の外へと出て行ったチンピラは「けっ」と悪態をついて何処かへ消える。
「……悪かったな俺の判断ミスだ。園部、俺から離れるな」
「ん……ごめん、私も気が緩んでた……」
言い方はキツいかもしれないけど、こんな客層が如何にもといった店で私みたいな女が一人でいたらそりゃ絡んでくる輩が出てきても不思議じゃない。南雲に促されて会計をする机の方まで私も着いて行った。どうやら値段の計算が終わったようで店主が金額を口にする。
「短剣は一本1000ルタ、刺突短剣は800ルタ。計5400ルタだ」
(高ッ――――――!?)
王国にいた頃は王宮の宝物庫から幾らでも武器が支給されていた。
まさかそんな値段になるとは思わず私は刺突短剣だけでも減らそうかと考える。
けどそれを遮るように南雲が机の上に5000ルタ銀貨一枚と緑の100ルタ硬貨四枚を置いた。
「毎度あり」
「よし、次に行くぞ園部」
「えっ……あっ、うん……」
かなり高い金額の筈なのに南雲は平然とした様子で短剣6本を持って店を出た。
私も離れないように続いていったが、彼の異常な金銭感覚の謎を聞かずにはいられなかった。
「そのお金って門のところで話してた……?」
「あぁ、さっき話した皇女さんからの報酬だ」
次の店、雑貨屋を目指して歩きながらハジメは遠い目をして話してくれた。
ヘルシャー帝国の皇女と知り合い、現代の知識を交換条件に多額の報酬を得た事。
皇女さんは怖い人らしいけど、その話を聞いてちょっとだけ羨ましいと思った。
そんなこんなで話しながら着いた雑貨の店はさっきより客の人相は悪くなかった。
普通の主婦みたいな女の人やちょっと変わった格好の人が出入りしている。
その中で私が探したのは体臭消しの香水やこの世界の化粧品等だ。
私はさっき自分で「気が緩んでいた」と反省したばかりなのに――――――
「……いい匂い……。ね、これとかどう?」
「ん……」
「あっ、えっと……ゴメン」
奈々や妙子に聞く友達感覚で馴れ馴れしく南雲の前に試供品の瓶を差し出していた。
面食らってしまった南雲に謝ってそっと試供品の瓶を戻そうとしたが……
「ちょっと借りるぞ」
「えっ……!?」
「スン………ん、良いんじゃないか。癖もそんなになさそうで」
「……そ、そう。……候補にしておくわ」
南雲は嫌な顔一つせず、私から試供品の瓶を取って評価を口にしてくれた。
正直驚かされた。男の子ってこういう香水とかは嫌いなのかと思っていたから。
これも私の……というか普通の人による偏見なのだろう。
それから南雲は私が聞く前に他の香水などから候補を探してくれた。
「これはどうだ園部。柑橘系っぽいけど……」
「んん~……ちょっと強過ぎるけど、アリかな」
「そうか。……じゃあこれは」
「あっこれ凄く良い。これにするわ」
そう言って南雲が差しだしてくれた二つ目の香水を買う事に決めた。
そうして私が選んだ香水と候補にしていた香水。
南雲は各種類
私は慌てて駆け寄り購入を止めようとする。
「南雲、私そんなに使わない―――」
「お前と……使うか分からんがリンネさん。ついでに先生と宮崎達の土産で持っていってやれ」
「そんな……私一人だけでもお金払って貰ってるのに……悪いよ」
「気にするな。もしもの時の
ぶっきらぼうにそんな事を言って6000ルタの支払いを済ませた南雲は木箱を持つ。
さっきの武器と合わせて、そこそこの重量がある筈なのに南雲は顔色一つ変えない。
私は流石に手持ち無沙汰でいるのが気まずくて提案する。
「南雲……その短剣だけでも私が―――」
「片腕怪我してんだろ。無理せず俺を頼れ」
「ッ………うん、わかった」
南雲はきっと意識せず私の怪我を気遣ってそう言っただけなのだろう。
けれど……
鼻の下を掻くフリをして頬に手を当てると……ほんのり熱を帯びていた。
「次で最後だな」
「うん……」
「……どうした?疲れたのか?」
「ち、違うわよ!次の店で何買おうか、今から迷ってたの!」
「……そうか……」
ちょっと乱暴な返し方だと内心反省した。
それでも南雲は嫌な顔一つせず淡々と私の歩くペースに付いてきている。
少し前にリンネさんが言っていた事を思い出してしまう。
(……デート……デートかぁ……)
異世界に召喚されて、故郷に帰れるか分からないという不安に皆が苛まれる中、私は両親が心配しているとか進学とか就職はどうしようなんて将来の不安もあったけれど……普通の高校生みたいに恋愛する機会も失われてしまった事が少しショックだった。
だからリンネさんの言葉を聞いた時に少し期待してしまった。
相手が南雲だからって気にすることはない、普通に買い物をするだけ。
……それだけの筈……だったのに。
(……何を期待してんの私はっ……!)
武器屋で男達から庇うように立たれた時、香水を選んでもらった時、俺を頼れと言われた時。
それよりもずっと前……あの村で意識がない時、私の頭を撫でてくれたのが誰なのか分かった。
あの手は南雲の手だ。武器屋で手を掴んで貰った時の大きさと感触がそっくりだった。
チラと横目で南雲を見ると、彼は荷物が落ちないように時折前を確認しながら歩いている。
(……背も大きくて、気前良くて、カッコいいとか……ズルいなぁ南雲は)
背が大きいだけの同級生ならオッサン顔の永山がいる。
気前の良さは……噂だけなら野村は女子に奢ったりするのが好きらしい。
イケメンという意味ではウチの学校なら天之河の右に出る奴はいないだろう。
けど……南雲はそういった男性として好まれる部分をほとんど持っている。
変に大人ぶって背伸びせず、話すときには年相応の子供っぽさがあるのも好印象だ。
私はちょっとだけ彼に肩を寄せて歩こうとする。
「ん」
「……?」
南雲は私が寄ってきた理由が分からず、ぶつからないようにと距離を開いた。
心の中では残念そうに、表向きはホッとした様子で最後のお店に向かう。
ずっとリードされっぱなしだったから、最後の洋服選びでは振り回してやるんだから……!
そんな意地悪な心の声を隠して服屋らしい店の戸を開いて――――――
「あ~ら、可愛いお客さんねぇ~いらっしゃあい♡」
中にいた南雲と背丈の変わらない筋肉ムキムキのオカマ口調の男を見て即座に扉を閉めた。
……私、疲れてるのかな……?いま物凄く強烈で悪趣味な見た目の店員がいたような――――――
「だぁれが
「ひゃあああああぁぁぁっ!!」
見間違いじゃなかった。幻覚でも白昼夢でもなく、本当にオネエの巨漢だった。
店の扉を吹き飛ばす勢いで私の心の声をナチュラルに読み取ったオネエ店員が飛び出してくる。
憤怒の形相で血走った目に剥き出しの歯が怖くて悲鳴をあげてしまった私は悪くない。
私の悲鳴を聞いて周りの通行人が反応するが、オネエ店員を見て「あ、アレかぁ」と納得していた。……え、なにその反応!?この町じゃこれ普通なの?ねぇ!!
「あ~すいません。俺の友人は貴方のような珍しい恰好の人を初めて見て驚いたんですよ。…もし貴方が気を悪くされたのなら彼女に代わって俺が謝ります」
何でアンタも普通に会話してんの南雲!?え、これ私が悪いの!?
オネエ店員は俯いて肩を震わせている。……ヤバい、ちょっとチビっちゃいそうなんだけど……
でも顔を上げたオネエ店員は怒っていなかった。寧ろ満面の笑みだった。
「あ~ら、いいのよぉ♪そういう事なら仕方ないわぁ♡イケメンな坊やに免じて許してあげるっ!いらっしゃあ~い、冒険者御用達・クリスタベルの服屋へ」
オネエ店員改めクリスタベルに手招きされて南雲は店の中に入っていく。
……えっ、ねぇ待って……入るの?私が行きたいって言ったけど、入るの!?この店!!
……と店の中の途中まで入っていった南雲が足を止めて振り返り言った。
「……ははっ。園部、お前も可愛らしい悲鳴上げるな?」
「………~~~っ!?」
南雲に言われて私は気が付いた。私に向けられる道行く人の視線が生温かいことに。
そりゃああんな悲鳴を上げれば人が集まってくるだろう。
この町に住んでクリスタベルの事を知ってる人間なら店の前という時点で気づくのだろう。
私は羞恥で今度こそ顔を真っ赤にして揶揄ってきた南雲に怒鳴った。
「う、うっさいっ!!馬鹿ッ!!!」
これもうヒロインじゃねえかなぁ……ユエ姉貴は泣いていい(強敵続々)
ハジメ君が妙に紳士的な振舞いをしているのは勿論、今作の彼にあるちょっと真面目な一面というのもありますが、そういう風に振る舞えと暗にリンネ姉貴から脅されているような気がしたからです(後付け)
このまま連続投稿じゃオラァ!
感想、質問、ご指摘等お待ちしております!
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡