モンスターハンター・トータス   作:綴れば名無し

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 続投、結局これも甘い話になってしまった。
ついでに以前の話で作者がやらかした失態を回収するという……
サンキュー怪物兄貴姉貴


クリスタベルの服屋にて

 クリスタベルを見た時ハジメも内心「すげー」とは思ったが、どうやら優花は生理的に受け付けなかったらしい。その心の声を表情から察した彼女が怒り狂った時はハジメも驚かされた。

以前トレイシーと話していた時に感じた”威圧”のようなものをクリスタベルからも感じたからだ。

 

 何故彼(彼女?)がそんな事が出来るのかと考えていたハジメの疑問は間もなく解消された。

色々なデザインの洋服から冒険者向けらしい皮や鉄製の防具が並んだ棚の一番奥にガラスのショーケースが設置されており、そこに書かれていた文字に答えがあった。

【ブルックの町の元金ランク冒険者・クリスタベルの一推し装備】と……

 

「それで、何をお求めなのかしらぁ~ん?」

 

「彼女の服です。俺の意見を言うなら動き易く、破れにくい……旅に適した服装が理想ですね。後はまぁ……ご覧の通り年頃の女の子ですから、好みの色とか諸々を本人から聞いてくれますか?」

 

「おっけぇ~い。さぁ、こっちにいらっしゃい」

 

「………は、はいっ」

 

「うふん♡そんなに緊張しなくてもいいのよぉ~」

 

 店に入る前にあれだけ怒りで顔を真っ赤にしていた優花が再びクリスタベルを見ると顔を真っ青にして縮こまっていた。怖がられていると分かっていながらもクリスタベルは店員としての対応を欠かさない。

 

「あそこが試着室ね。女の子だから色んな種類の下着とかも何着か置いてあるわ、気に入ったのがあったら着用したままでも出てきて貰って購入は可能よん♡」

 

「あ、ありがとう御座います」

 

 流石にオネエでも性別は男ということか、試着室に入っていったのは優花だけだった。

その間にクリスタベルはショーケースや引き出しから色々な服を選んで箱に詰める。

恐らくはそれを試着室の前に置いて、彼女に中で選んでもらうという形を取るのだろう。

 

「坊や、その荷物。ずっと持ってても辛いでしょお?そこらへんに置いて貰って構わないわ♡」

 

「ありがとう御座います。じゃお言葉に甘えて―――」

 

 クリスタベルが指さした椅子の足の間に置いてハジメは腰掛ける。

ふと先ほど店に入る前の優花に言った自分の言葉を思い出して額に手を置いた。

 

(ちょっとクサ過ぎたよなアレは……チャラ男かっての……)

 

 何が可愛いだ。自分がそんな事を女子に言ったら素で「キモい」と言われるだろう。

次からはもう少し言葉を選んで、彼女を揶揄うのも程々にしようと心に誓うハジメだった。

そうしていると……陳列棚を整理しているクリスタベルが視界に入った。

 

(………冒険者………か)

 

 ハジメの脳裏に過ぎるのは帝都で見たあの乱暴だった男の姿。

あの時は思わず心の中で罵倒してしまったが……あの男は今何をしているのだろうか……?

そして……冒険者というのは本当にああいう者ばかりなのか。

それを恐らく冒険者としてやってきたクリスタベルなら、その答えを知っている気がした。

ハジメの心の声をこれまた読み取ったのかクリスタベルが振り返る。

 

「あら?何か用かしら坊や」

 

「ん、いえ……ちょっと前に見た冒険者の事を思い出しまして……」

 

「冒険者……ふぅん?よかったら聞かせてくれないかしらん」

 

 ハジメはゆっくりと息を吐いて、帝都であった話の一部始終をクリスタベルに聞かせた。

店員として接客の笑顔を浮かべていたクリスタベルは次第にその表情を曇らせる。

全てを聞き終えると「うーん」と腕を組みながら話す。

 

「多分ね、坊やが会ったのは”天閃”のアレックスね」

 

「天閃?」

 

「彼の二つ名、でも今は置いといて。……あのね坊や、アレックスはね―――」

 

 クリスタベルはアレックスという冒険者について色々と話してくれた。

彼もこの町の冒険者ギルドにいると聞いた時、ハジメは驚かされる。

しかしそれ以上にショックだったのは、アレックスが抱える重い事情を知ること。

 

 アレックスという男には既に両親がいない。

ハイリヒ王国に”リズベット”という名前の妹がいて、今は重い病に罹っているという。

アレックスが冒険者になったのもその妹の病を治すため、稼ぐためだったと知る。

 

(だから……あれだけ報酬がなかった事に怒ってたのか……)

 

 ハジメは何も言えなくなって俯いてしまう。

あの時自分が彼に向けた感情はその場限りのつもりだった。しかし彼のことを何も考えずにそんな感情を抱いてしまった自分がクラスメイト達(自分の嫌う者達)と自分がまるで同じである事を思い知らされた、最悪の気分だった。クリスタベルは一度間を置いてから、思い出したように話を続ける。

 

「彼、町に戻ってから相当荒れてるみたいなのよ。……”自分が最低な事をした、子供を足蹴にした”……ずーっと後悔しているみたい。ね、坊や……これはアタシのお願いなんだけど―――」

 

「………ッ」

 

 ハジメはそれから()()()をクリスタベルに頼まれる。

あのアレックスが後悔した出来事の後、子どもの依頼を引き受けたハジメにしか出来ないこと。

彼はそれを二つ返事で承諾した。

 

「この町にいる間に……必ず」

 

「えぇ……お願いよ……――――――はいっ!暗い話はおーしまいっ!坊やすぐに顔を上げなさいな、試着室の向こうで連れの女の子が貴方に感想を言って貰うのを待ってるわよぉ?」

 

 

 パンパン!と手を鳴らして空気を切り替えたクリスタベル。

ハジメも言われた通り意識を切り替えて、クリスタベルの指す試着室に顔を向けた。

ビクッと試着室のカーテンが揺れた。……クリスタベルからは絶対に見えていない筈なのに優花の着替えた終わったと分かるのは冒険者としての勘か店員としての察しの良さと言うべきか……

試着室のカーテンが内から開かれて、現れた優花の姿にハジメは感嘆の息を漏らす。

 

「おっ、ぉ~……!」

 

「フッフッフッ、アタシの見立て通り!よく似合ってるじゃなぁ~い♪」

 

 ハジメからは見えないが優花が選んだのは濃い青の下着上下だった。

それに合わせて肌に密着するタイプのインナーの上から鎖帷子を着用している。

流石にそれだけでは痴女になってしまうので上から布当てを着けている……のだが、この布当てというのが中東の踊り子をイメージさせるような胴体でクロスさせるイメージとなっており、鎖帷子とインナーだけの臍周りと脇腹が見えていることに若干のエロスを感じさせる。

 

 上の踊り子風な布当てに対して下は赤と黒のチェック柄のキュロットスカート。

つま先まで着けるタイプのインナーを隠すように焦げ茶のハイソックスを着用し、靴は見た目がローファーのようだが所々に施されたデザインが機動性を殺さない独特な造りになっている。

腰には黒い皮のベルトが巻かれ、後ろにポーチが二つ付いている。

 

「……あ、あんま……ジロジロ見ないで……」

 

 胸当てでより強調される臍や脇腹を手で隠しながら頬を赤くする優花。

ハジメは最初「よく似合ってるな~」とそれっぽい感想だけを言うつもりだったが……

満足気にしているクリスタベルが聞いてもいない説明を二人に語り始める。

 

(……やべぇな……普通にっつーか滅茶苦茶可愛いじゃねえか……ッ!!)

 

「インナーは通気性を確保しながら小型の鳥竜種程度の牙や爪なら通さない”ツケヒバキ”の糸を編み込んであるわぁ。鎖帷子には鉄鉱石の表面から”タウル鉱石”をコーティングしてあるから耐火性は抜群ね。組み合わせは迅竜”ナルガクルガ”の女性用防具を参考にしたってのは此処だけの話よ♡それと布当てのデザインも掻鳥”クルルヤック”の女性防具からちょっとだけね?キュロットスカートとベルトの組み合わせはちょっとミスマッチかなぁって思うんだけど、旅の最中に武器とか道具が手の届くところから取り出せた方が便利じゃない?靴も内側にインナーと同じ素材を使ってあるから、長旅でも壊れたりしない優れものよぉ~二人とも気に入ってくれたかしら?」

 

「……あの……これ上から何か羽織ったりとかは―――」

 

「ダメよぉ~折角のデザインが殺されちゃうもの。女の子なんだから、それくらいお洒落した方が男の子は喜ぶってもんよ♪さっきから坊やも言葉が出ないくらい喜んでるみたいだし」

 

「ぐっ!?―――――――――まぁ、その……なんだ……園部」

 

「………な、何よ………」

 

「似合ってるぞ……すげぇ、その……俺は……良いと思うッ!」

 

「――――――ッ!!あ、ありがと……ぅ……」

 

 お互いに顔を真っ赤にして俯いてしまう。

クリスタベルが身体を揺らしながら「ンフフあぁ~いいわぁ~若い子のこういうの~」と笑う。

優花は自分の心臓がドキドキと高鳴っているのを誤魔化すためにさっと行動に移す。

 

「そ、それじゃこれください!」

 

「おっけぇ~い。前の服と下着はウチで引き取りも出来るけど?」

 

「あ、いえ……持って帰ります。人に貰ったものなので」

 

「はぁ~い♡それじゃ持ち帰りの袋を持ってくるからちょーっと待ってて、ね?」

 

 クリスタベルはそう言って店の奥へと歩き出そうとして――――――

急に踵を返してハジメの耳元で何かを囁いた。彼はバッと頬が赤いまま顔を上げて何かを言おうとクリスタベルを睨むが「うふふ~」と笑って彼(彼女?)はいなくなる。

優花はなんだか不安になって彼に尋ねた。

 

「ど、どうしたの南雲……」

 

「………ンェェ……」

 

 喉の奥から掠れたように声と息を出して苦い表情を浮かべるハジメ。

もしかして服の値段が途方もない金額なのか?と優花は考えてしまう。

すると何かを決心したようにハジメはある所に向かう。

それは小さな階段状の飾り棚に並んだ髪留めだった。

迷わず一つの髪留めを手に取って、ハジメはそれを優花へバッと突き出す。

 

「これ……!」

 

「……こ、これが……なに?」

 

「クリスタベルさんが……この服とセットで付けたら可愛く見えるってよ」

 

「………えっ!?」

 

 ハジメの口から再び可愛いという言葉が出てきて思わず素っ頓狂な声を上げる優花。

乳白色のクリスタルを加工して作ったアシビの花が飾られた髪留めだった。

更に優花の心臓はひと際強く跳ねる。

アシビ(アセビ)の花言葉「危険」「()()」「()()()()()()()()()()()()()」「清純な心」等々

これを(ハジメ)から彼女(優花)に渡すことでその意味は自然と……

 

「ふひゃああぁぁぁぁ――――――っ!」

「うおおぉぉぉっ!?すまんっ!!」

 

 勢いよく髪留めを受け取って試着室のカーテンを閉める優花。

ハジメはカーテンに巻き込まれないようバッと後退って火照った頬を手で扇ぐ。

心の中で二人揃って同じ事を思った。

 

((何考えてんだあの店員(ヒト)はぁっ!!?))

 

 店の奥では会計の準備を整えたクリスタベルがクスクスと笑っていた。

 




 デザインとかは作者の頭の中で勝手にイメージしただけです。
初期案ではFGOの加藤段蔵みたいなスケベ衣装の予定でしたが、流石に優花さんも恥じらいがあるのでちょっとだけ布面積を増やしてあげました(インナーで)
髪留めの飾りとか完全にもう付き合ってる男女の下りなんだよなぁ……
改めて甘い話を作るきっかけをくれたイビルゴリラ兄貴姉貴に感謝

感想、質問、ご指摘等お待ちしております!

初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)

  • 続編にして
  • このまま話数増やしてもいいんじゃね?
  • 打ち切りはヤメロォ!
  • もっと周りの話補完して♡

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