Devil May Cry -Russian Roulette- 作:パン粉
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北東の、世界随一の軍事国家・ロシア。ソ連とも呼ばれたこの国の軍は、あらゆる状況においても臨機応変に対応出来る軍人がたくさんいる。そして、野望を持つ軍人、純粋に力を持ちたいという人間もいる。そしてスカウトで入隊した者も。
「ウォラァッ!!」
戦車が置いてある屋外の訓練場。少し長めの黒髪、そして迷彩服を着た青年が、120kgはある大男を、いとも簡単に一本背負いで投げ飛ばし、戦車にぶつけた。少年の身体も少し大柄なのだが、それでも投げ飛ばした相手に較べると小さい。この青年は、まさしくスカウトをされ、入隊した者だ。
現在、この部隊はCQC(近接戦闘)の軍事訓練中。投げ飛ばされた相手は、この隊の隊長。犯人は僅か18歳の、人という種類とは少し違った生き物だった。
「もういいか?動物はちゃんと躾をしねェと、飼い主の手を噛み千切るんだぜ」
「く、クソが……」
階級は軍曹。あまりの態度の悪さに、上官である中尉に灸を据えてやったのだ。身体の埃をぱっぱと叩いて落とし、その場を後にしようとするが、あまりの屈辱に耐え切れない上官が、後ろからナイフを構えて、部下が見ている中飛び掛かった。
銀の刃が、青年の頬を素通りする。上官がわざと外したのではない、少年が頭を反らして避けたのだ。なにがあったのかも知ろうとはせず、ただ無作為に振られた白刃は空を切る。それをわざと外したと勘違いした上官は、ニヤニヤと笑いながら話した。
「ブラックモア、付け上がるなよ?今はわざと外した。だが次は貴様の喉から、紅い鮮血がほとばしるぞ」
「ふゥん。わざと、ねェ」
相手にするのが疲れた、という態度で、ブラックモアと呼ばれた青年は戦車の脇をそのまま歩く。それが、彼なりの忠告であった。それをも解らず、怒り狂った上官は、彼に当たらないナイフをひたすら振り続けている。空を斬り続けるナイフの音は、更に彼の神経を逆撫でした。
ナイフを投げ付け、彼の頭に当てようとする。瞬時にそのまま拳銃を握るが、青年はナイフをキャッチし、拳銃の銃口にナイフを的確に投げ付け、銃を壊した。
「始末書物だな。いや、クビか?」
「クッソォッ!!」
飄々とした態度を崩さずに、その場から基地の中央棟へと立ち去っていく。悔しげな表情を浮かべる中尉をも気にせずに。
――青年の名は、アルトレア・ブラックモア。
この地・コシュマグラード基地での、後に起こる事件の、数少ない生き残りの一人であった。
Devil May Cry
-Russian Roulette-
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「聞いたぜアルトレア。またヴォルギフ中尉をブン投げたらしいな」
「またって何だよ?ハジメテだっての」
コシュマグラード陸軍基地中央棟・食堂にて、気が狂う程の訓練を熟した兵士達が、このミリタリーライフの中で一番の楽しみである食事を行う。みな死ぬほど腹を空かせているようで、バイキング形式で置いてある料理の前に、むさ苦しく何人もの大男が群がっていた。
ここの大隊長・イワン・ペトロフ准将に、わざわざ彼が経営している便利屋まで来てスカウトされ、入隊に至ってから早2年。アルトレアの実力は申し分ないものの、その性格が足を引っ張り、なかなか昇格にならないのだ。別にそのことには不満はないが、家業を削ってまで参加している今、安い賃金で、上官のサンドバッグにされる毎日に、アルトレアはうんざりしていた。どう考えてもワリが合わない。低賃金で、上官に八つ当たりなどは日常茶飯事。自分はその為にいるわけではないが、かと言ってロシアに忠誠もない。ただ、金の為。
「ウチにゃァガキ一人いんのによォ、ったくよォ。なんで20万ユーロもねェんだよ」
「だよなァ。お前一人で育ててんだもんなァ。誰孕ませたかしらねェけど」
「バァカ、俺は未だそーゆう無責任なコトしたこたァねェ。親戚のババアが死んだから引き取ったんだ」
実際は、色々な因果関係があって拾ったのだ。お人よしやそういうものではない。名前は、ラグナ・ブラックモア。4,5歳にもなるその男の子を、男手1人で育てていた。しかしながら、ほぼ基地に軟禁状態であるアルトレアは、知り合いの家に預け、その分の養育費さえ賄っていた。
「おう、取ってきたぞアルトレア、ギブソン」
「また、篦棒に取ってきたなァ。流石だぜソコラフ」
仲の良い友人達(とはいっても彼等の方が年上だが)が、群がる筋肉と飛び散る汗の中から調達してきたアルトレアのテーブルに料理を運んで来る。彼等とはケンカで築いた仲だ。全員アルトレアにコテンパンにやられたのだが。
たった18の青年が、この大男達を手玉に取る、そんなことから、「彼は人間じゃない」、「紫色の血が流れてる」などの噂が蔓延っている。
実際、それは合っている。彼は人間ではないのだ。彼は言う、「自分は悪魔だ」、と。
「今日のボルシチは一味ちげぇな」
「へえ。それよりも肉が今日は多いな。どうした?」
「アルトレアがヴォルギフのアンチクショウを懲らしめてくれたからな、そのご褒美だ」
「ハハッ、そんなん聞かれたら降級かもな。ありがとよ」
「アルトレア・ブラックモア!いるか?ペトロフ准将が呼んでいる!」
「……ぷっ!降級決定だな!」
大きな机に乗せた、巨大なビーフステーキにかぶりつこうとした所、アルトレアを捜し求め、テーブルのそばまできた上級士官によってそれを遮られた。仲間がアルトレアを馬鹿にし、彼自身も笑いながらそれにしたがった。恐持ての士官はアルトレアを睨むと、ついてこいとぶっきらぼうに言い放ち、周りの視線を浴びつつとこの基地の司令官、イワン・ペトロフ准将の部屋へと連行する。
ドアを開け、背中を蹴飛ばして彼を入れた。もうちょい丁寧に扱え、と文句を言いながら連れ込まれた部屋の壁にはナイフやアサルトライフル等の武器がかけられ、怪しげな長剣などが不作法に立て掛けられてあった。
「アルトレア、また問題を起こしたな?」
筋骨隆々、しかも体格はがっちりした、短い金髪でかなりの大男――ペトロフが、低い声でアルトレアに話し掛ける。アルトレアはヘラヘラと笑いながら、彼の応答に答えた。「目には目を、歯には歯を」と。
気に入らなければ、実力行使。それがアルトレアのやり方だ。ワガママではあるが、綺麗事で誤魔化したくはないからだ。
「ヴォルギフが君に銃を向けた、と聞いたが、本当か?」
「さあな。風穴がどっかに空いていたら、その証拠にはなったんだがな」
「真面目に答え給えよ、まったく。まあ、君のそんな性格は直せそうにはないから、叱りはせんが、自重は覚えろよ」
「余裕があればな。なんせ無理矢理って言っていいくらいの行為で連れて来られたんだ。確かに金はもらってるがな。もうちょっと、給料上げてくれたっていいんじゃねェか、准将?」
上官に対する口の聞き方ではない。が、彼とペトロフの仲は親密だ、互いに気さくに話せるし、プライベートでも交流はある。
ペトロフは苦笑いしながら、軍も財政には苦しいのだ、と言い訳した。なら便利屋に戻っちまうかな、とアルトレアは言うが、それをペトロフは頑なに拒んだ。
「なんだよ、そんなに俺ァ必要か?」
「まあな。必要なんだよ、君ほど我が軍に貢献してくれている者は。信頼している分、手元に置きたいからな。私は臆病なんでね、君みたいな強い者に守られたいのだよ」
「どの口が言うんだか……。話は終わったろ?戻っていいか、メシの途中なんだ」
「ああ、それは悪い事をしたな。食事を楽しみたまえ」
「……給料の事もよろしくたのむぜ」
念を押すようにアルトレアは言った。ペトロフはやれやれと言いながら、アルトレアの背中を見送る。
――だが、彼の口元の歪みに、アルトレアは一切気づかなかった。