Devil May Cry -Russian Roulette- 作:パン粉
1
◆◇◆◇◆◇
サーシャの顔にかかる、赤黒い血。人のものよりも黒ずんだ、創龍の血液。身体で真空の刃を受け止め、彼は戦車の上に倒れた。
「アルトレア?」
「お嬢ちゃん、どうした……アルトレア!?」
深手を負い、血が車内に侵入していく。その真空刃の出所は、ペトロフと思わしき"怪物"。
「中将……!?」
「グスタフ二等兵に、ギブソン軍曹……。私の理想を継ぐための力としては、少々心許ないが……」
「おい、何言ってんだアンタは……!?」
瞬時にペトロフはサーシャに近付いた。創龍を足蹴にし、彼女の首に刀を当てる。
その顔は険しかった。力と何かを追い求める顔。しかし、サーシャには戸惑いがあった。創龍を傷付けた理由がわからない。
「覇道による、平和の道を目指す。私と共に歩むか、死ぬか」
「……部下一人守れないで、平和を語りますか、あなたは」
「平和には犠牲が必要だ。闘わずして、血を流さずに得た平和は、すぐに崩れる」
覇道に染まるペトロフの思想。確かに強い信念が彼の眼にあった。その炎が彼の眼について燃えていた。
寒空の中、少し動けばスッパリと首が切り落とされそうな中、サーシャは眼をペトロフから反らさない。そんな中、笑い声が近くから聞こえる。
ペトロフとサーシャが創龍を見る。血まみれの身体で、いかにも元気そうな笑い方だ。ペトロフの足首を掴むと、思い切り握り、鈍い音を鳴り響かせた。
そのまま片手でペトロフを投げ飛ばす。戦車やヘリの残骸に思い切り叩き付けられた彼の身体に、無数の破片が刺さった。
「クソみたいな妄想垂れ流して、めでてェ宗教の勧誘するたァ、ヤキが回ったなペトロフ」
「アルトレア!!」
「こんなんじゃ死なねェよ、俺ァ」
思い切り跳ね、地面に降り立った。ヴェルギリウスを抜き、ダランと腕を垂らした。血まみれのペトロフが口から垂れた血を袖で拭き取る。
「俺がいる限りは、てめえの思い描くユートピアなぞ創れやしねェ」
「ふん……」
「派手にやらせてもらうぜ。そんだけの事をやろうとしてンだからヨ」
言った途端に、彼の眼が光る。次第に身体が変わっていき、鎧のような金属を身に纏い、顔は一本の角が生えた、まるで龍のような面になった。
背中から、無機質な翼が一対生える。臀部からは、黒い鱗に被われた尻尾が出ていた。
全身は黒く、ヴェルギリウスは先程の姿とは形を変え、巨大化していた。創龍本人の身体も、一回り大きく見え、更に黒い気――闘気が彼の身体を取り巻く。
サーシャの顔が凍りついた。今まで殺してきた怪物と、どこか似ている今の創龍の姿。そして、笑うペトロフ。
――彼は……悪魔の化身?
「そうだ……。魔剣士クラウスの血の力を私に見せてくれ!!人間を統べる為に!!」
「クラウス……!?お伽話の、あの……?!」
「……I'm coming」
低く、地を揺るがす様な歪んだ声で創龍が言うと、彼は姿を消し、瞬きもしない内に、ペトロフの懐に現れると、彼の腹に拳を突き立てた。
その重い一撃は、彼の腹を突き破り、臓物すら引き裂く。大量の血をペトロフが流した。その躯を天空を仰ぐように掲げたあと、創龍は頭上にペトロフを投げ飛ばし、また姿を消した。
巨大化したヴェルギリウス。それを抜き、急降下しながらペトロフの躯に突き刺す。地面にクレーターを作り出し、ペトロフが地面に倒れた時、ヴェルギリウスを抜く。そして、創龍は空中に飛んだ。
あれだけの重厚な攻撃を受けても尚、ペトロフは立ち上がる。傷は癒えた、がしかし、ダメージはゼロとは言えない。そんな彼の頭目掛け、角張った踵を蹴り降ろす。
平手で受け止めるペトロフだが、その手すら破壊して、脳天に一撃をお見舞いする。それでもまだ、ペトロフは死ななかった。
「流石にタフだな。俺の魔力でそこまで強化できるなんざ、想いもよらなかったぜ」
「キツいことに変わりはないがね……。この場は、退かせてもらうとするか」
「フン……。次に会うときャ、死ぬ覚悟はしておけよ、ズィヴル」
逃げるペトロフを創龍は追わなかった。姿を消した彼を見届けた後、創龍は背中にヴェルギリウスを戻し、元の姿に戻った。