Devil May Cry -Russian Roulette- 作:パン粉
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翌日朝4時半。サーシャはまだぐっすりと眠っているものの、アルトレアは既に寝床から離れて、毎朝の日課である身体検査を南棟で受けていた。まだ空も暗く、日も出ない早朝。訓練が始まる前から、彼の仕事はある。
ハイテクな医療機器と研究者、ペトロフが帯同しているこの検査は、まるで自分が研究対象におかれている様な気がするが、アルトレアは敢えてそれを気にしない事にした。ペトロフは一応友人だからだ。
下にDPMだけ穿いて、上半身は裸。鍛え抜かれ、締まっている肉体をあらわにし、解析用のポッドから出て来る。腕には注射針の痕、そして様々な装置を付けられた痕。まるで薬物中毒者のリハビリみたいだが、ここには薬物などないし、また彼自身薬物には興味が無かった。
「今日はこれで終了だ、ご苦労」
「いつまでやるんだ、コレは?いい加減血が失くなっちまうよ」
「お前の健康状態を思っての事だ」
「なら針を刺すのは金輪際止めてもらいてェな。刺繍の布じゃねェんだよ、俺ァ」
悪態を付きながら軍服の上着を羽織ると、アルトレアは注射針の痕に貼られた絆創膏を剥がし、ぽいっとその場に捨てた。既に彼の腕の傷は塞がっており、絆創膏など無駄に過ぎないという主張である。
この時間がアルトレアは大嫌いだ。他人に自分の身体をいじくられて、楽しい奴などはいまい。毎日ぶすぶすと針を刺され、血を抜かれ。何かの実験なのかもしれないが、敢えて親友の嘉ということで見逃してはいた。
「ったく、毎朝付き合う俺もどうかしてるが……。補佐のお嬢ちゃんは起きてるかね」
検査室から出て、西棟の自分の部屋に戻る。ドアを開ければ、ほぼパンツ一丁の少女が、開けた布団にしがみついて寝ていた。まだ彼女は子供なのだ、それは重々承知。だが、軍人である以上は、しかも補佐であるならば、自分と同じ時間に起きなければならないだろう。
アルトレアはサーシャの肩を揺らし、起こしてやる。寝ぼけ眼でサーシャがアルトレアを見る、そして今の自分の姿を確認すると、ほぼ裸の状態だ。
「ぐ、軍曹!私に何か……」
「してねェよ、今検査から戻ってきたばっかだ。起きてからもなんもしてねェ。いいから早く着替えて、顔洗え。飯行くぞ」
がばっ、とブランケットを被るも、アルトレアからは呆れた溜息しか出ない。寝相が悪いのを自分のせいにしてもらっては困る。アルトレアは彼女の軍服を渡し、身支度が終わるまで外で待つことにした。
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「おいブラックモア、いつの間に女なんて連れ込んだんだ?」
サーシャと共に食堂に行くと、まず仲間にそれを突っ込まれた。当然だろう
、いきなりこの基地に、しかもアルトレアが女性を連れて来るのだから、皆は驚く。からかいの色も見せているが、顔色一つ変えず、彼はサーシャに丸投げをする。
「お嬢ちゃん、説明」
「ハッ、私この度ペトロフ准将の命でブラックモア軍曹の補佐役を仰せつかることになりました、サーシャ・グスタフ二等兵であります!」
「その歳で、アルトレアの補佐か……。俺の甥っ子くらいの歳なのになァ」
取り巻きの一人が呟いた。皆幼い彼女を心配そうに見つめている。ましてやサーシャが不幸なのは、アルトレアの補佐であることだろう、と皆は思った。
冷たい目線を感じたアルトレアは、なんだよと聞き返す。そこにいた皆が、アルトレアにこう言った。性格の面からしても、心配材料は沢山ある。昨日の上官への反抗からしてもそうだ。
「この子を泣かすなよ」
「馬鹿共が……。俺にそんな趣味があると思うか?」
「結果的にそうなるのは目に見えてるから言ってるんだよ」
――なんとまあ、信頼のないことだろう!
アルトレアは落ち込んだ様で、肩を落とし溜息を付いた。サーシャがあたふたしながらアルトレアの背中を叩いて、慰めてやる。その時、昨日の夕食時にアルトレアを呼び出した上官が、サーシャと共に出口に呼び出した。特に口答えをする必要もない。素直に聞き、そちらへと向かう。
「なんスか」
「君達には今日から二人だけで訓練をしてもらう。特にグスタフ二等兵、ブラックモア軍曹から戦闘の基本や武器の扱い方などをよく教わるようにな」
「はいっ、了解しました!」
「場所はどこスか」
「それについては、これを参照してくれ。グスタフ二等兵、彼はこの基地の中で、もっとも戦闘に卓越している兵士だ。その彼とマンツーマンでやるのだ、貴重な体験だから、しっかり学ぶようにな。ブラックモア、頼んだ」
「Yes,sir」
今日からは新兵のお守りか。こんなか弱い少女に銃を持たせるのは気が引けるが、命令なら仕方ない。アルトレアは英語で応答すると、朝のエネルギーを十分補給するように、とサーシャに伝え、朝食を再開した。
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広い広い基地の敷地内の外周の淵で、アルトレアとサーシャは二人で準備運動をしていた。
これから、6kmジョギング。その後に筋力トレーニング。まずは身体能力を高める。
「よし、走るか。自分のペースでいいからな、無理せずにな」
「はいっ!」
今日は並走だ。アルトレアが合図を出し、サーシャが抑え気味に駆け出す。アルトレアはその横を、彼にとってはかなり遅いペースで走る。 この基地は外周り1周で約30kmある。これを、アルトレアは武装した状態で20分も掛からず一周すると言うのだから驚きだ。人外、そう表現せざるを得まい。
身も凍える程の中、暫く緩いペースで走る。常人ならば根を上げる程ではあるが、景色は少し変わって、まだ1km位ではあるが、サーシャは息はまだ整ったままである。アルトレアは汗一つかくこともなく、ただ単調に走っていた。
「つまらねェな」
「それは、訓練が楽しかったらダメでしょう」
「お前のスピードが遅すぎるからつまらねェ。ペース上げるぞ、ついて来い」
いきなり、短距離走の様なペースでアルトレアは走り出した。それでもまだ、20%。サーシャの息は乱れ、心拍は上がり、脚はスピードを付けはじめた。が、追い付けない。アルトレアの速度は異常である。
「オイ、ルーキー!武装した状態でそんなチンタラ走ってたら、すぐにドタマブチ抜かれるぞ!」
「はっ、はい!」
「諦めるな!速く走れ!長く走れ!」
ルーキーだから、とアルトレアは思って、檄を飛ばす。サーシャは辛いと思いながらも、諦めたくなかった。――彼は私に期待しているのだ。その期待に応えねば。
――それに、私は彼の補佐、彼に着いていけずして、補佐が務まる訳がない。
「まだまだ!後2キロ!!」
「ええっ、もう4キロも走ったんですか!?」
「これでも遅い!速く走れ!」
更にペースアップするアルトレア。彼の背中がどんどん小さくなっていく。だが、見失うわけにはいかない。
脚を叩き、鞭を入れ、自分の最高速を上げる。まだ足りない、まだまだ。
「ラストスパートだ!!ダッシュ!」
「Da,ser(了解)!!」
アルトレアの本領発揮。音の壁を突き破る音。きゅうんといい、風を切り、一瞬でその場から数百メートル先に動いた。
――あれが、人間の成せる技なのか?
サーシャが疑問に思った。だが、今自分が走る事の方が優先事項だ。彼女は、身体を屈め、残りの体力を全て使い、かなりの速さでその最後を駆け抜けた。
めぐるましく変わる景色。木々は変わり、空気は白く、基地は角張り。
「……12分。まあまあじゃないか?」
「そう、ですか?」
「ああ。俺なら既に一周終わってるけどな」
「軍曹は、やっぱり、凄い、です」
息切れと、脚の疲労と。そして腹の底から込み上げて来る、朝の食事。
サーシャは口を手で抑えるが、アルトレアは彼女を抱え、すぐにトイレへと連れて行った。危険なサインを見逃さず、人間としての尊厳を失わさせず。
「ここで吐くな……」
「はい……」