Devil May Cry -Russian Roulette- 作:パン粉
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「ほら、あと50回」
ランニングが終わってから、すぐにアルトレアはサーシャの肉体改造に取り掛かった。まずは筋肉、そして柔軟性、敏捷性。今はジャンプによって膝のしなやかさと瞬発力、跳躍力を高めている。
アルトレアの跳躍力は異常であった。サーシャの身体5つ分は軽く飛ぶのだ。だが、サーシャも、しばらく飛んでいる内に、彼の頭を踏めそうな位置にまで達していた。
膝も負担は掛かるものの、次第にぐねぐねと曲がるようになり、バネの反発を使えるようになっていた。これはアルトレアが言うにはC.Q.Cで応用が出来るらしい。
「はい終わり」
「ふぅ……、中々ハードですね」
「そうか。だが現状維持で行くぞ。次はウエイトを乗せてジャンプだ」
鬼軍曹。なかなか手厳しい。だが、ここでヘコたれては補佐は務まらない。サーシャはぐっと堪え、トレーニングに集中した。
これをやり抜けば、アルトレアの様になれる。そして、立派な兵士になるのだ。
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鬼のトレーニングを受けてから7日目。サーシャは一週間で大分身体が変わり、筋骨隆々の、締まった肉体へと変貌した。胸は相変わらずだが、少しばかり大きくなった気もする。アルトレアの鬼のシゴキで、体力も6キロ位では息切れなど起こさず、かなりのスピードで走り切ることが出来るようになった。跳躍力も向上し、また水場での訓練により、水中の中で自由に行動が取れるようになったし、肺活量も素晴らしく向上した。
「よし、今日から戦闘訓練だ」
広いホールの中で、アルトレアは言った。サーシャがこくりと頷くと、ナイフの模型を渡し、彼女に告げる。
「C.Q.Cの基本。ナイフなどを所持しながら、いかに近接化で敵を追い詰められるか、を訓練する」
「ああ、それは得意です!訓練兵時代にナンバーワンでしたから」
言葉の程を確かめてみよう。早速アルトレアはサーシャに組み付いた。
ナイフを彼女の肘間接に引っ掻け、足を払って倒そうとする。しかしサーシャはそれを跳んで避け、ナイフを上手く使ってアルトレアを引っ張った。
そのままアルトレアを投げようとするが、簡単に操られるほど、彼はやわではない。自ら空中に飛び、力ずくでサーシャを引き上げながら、マットにたたき付けた。
「確かに、筋はいいようだな」
「いやいや軍曹、今のはC.Q.Cなんですか?」
「ちゃんと接近してたろ」
きちんと受け身を取っていたのでサーシャに怪我はなかった。ゆっくり起き上がり、ナイフを返すと、アルトレアはそれを腰に差した。
この者の強さは異常だ。それを肌でひしひしと感じられる。とてつもない剛体に、非常に回る頭。彼がこの基地最強だといっても過言でないことが理解出来た。
「確かに磨けば光るな。あと20分したら、お前は変わるだろうよ」
「そんな短時間で、ですか?」
「この1週間で、お前の肉体を闘うための身体にしてやったンだ。俺が出来るッてンだから、出来るさ」
彼女の身体能力は、16歳の少女に似つかないものへと変貌していた。今、彼女の身体はエネルギーに満ち溢れている。
「そうと分かれば、もっとやり込みましょう軍曹!」
「おう、ドンドン打ち込め」
意外と親身になってくれるアルトレアも気に入った。この男の補佐になれたことは、確かに幸運である。自らを高めてくれ、その手助けもしてくれる。第一印象だけでは決めてはいけないのだ。
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20分後、汗だくのサーシャの動きは、確実に変わっていた。素早い動き、力強い腕、そしてアルトレアを狙う眼。総てが短時間で精巧され、まるで人じゃないかのような戦いを見せていた。
「ちょうど20分。変わったじゃねェか」
「でも、軍曹は倒せていません」
「俺は倒されねェよ。さあ、射撃の時間だ」
どうやら、近接戦闘はここで終了らしい。サーシャはアルトレアからタオルを渡され、ついて来るよう指示した。
射撃練習場に入ると、アルトレアはDPMのポケットから書類を取り出した。訓練兵時代のサーシャのデータだ。彼女の射撃の成績は優秀、特に精密射撃、狙撃が抜きん出ている。
「スナイパーか」
「はい、私は狙撃専門です」
「なるほど。ちょうどSVDがある。お嬢ちゃんの腕を見せてくれ」
この基地には、狙撃用の的が設置されている。とても小さく、肉眼では見えないような的だ。しかもかなり距離が離れている。
だが、サーシャの顔は自信に満ち溢れていた。
「撃っていいですか?」
「いいぜ」
言った直後、迷いなく彼女はスコープを覗かずに、的のど真ん中を撃ち抜いた。
一条の鈍い光が、次々に中心を捕らえ、穿つ。アルトレアでさえも驚きだ。恐るべきは、その射撃速度。次の的を撃ち抜くのに2秒もかかっていない。
稀に見ぬ逸材だ。しかも、スナイパーは市場に中々出ない。それに、C.Q.Cの技術も高精度。この兵士は、この基地の宝と言って良いだろう。
「やりやがるな、お前……」
「え?どうかしましたか?」
「いや……。ロシアに、こんな逸材がいたとは思わなんだ。胸張っていいぜ」
フィンランドの伝説的スナイパー、シモ・ヘイヘでさえも真っ青だ。第二次大戦時のソ連に、多大な恐怖を与えた化け物の生まれ変わりが、今はソ連崩壊後であるロシアにいる。なんと皮肉な事だろう。これなら、アルトレアが褒めちぎるのも仕方がない。
「軍曹の腕前はどんなものなんですか?」
「俺ァ、狙撃は下手だからなァ……」
そう言いながら、アルトレアはSVDを受け取る。スコープを覗くが、それは一瞬。瞬時に的を撃ち抜いた。
その後は、的が出ると同時にに銃口を合わせて撃つ。出た瞬間だ、サーシャの理解の域を超えている。だが、スナイパーライフルではやりづらい、と言うのがアルトレアの素直な感想だ。
SVDをサーシャに渡すと、
自前の金と銀の大口径のハンドガンを取り出し、この長距離から的を撃ち抜いて見せた。
精度もそうだが、驚くべきは、その連射速度だ。一秒間に20発は撃っている。しかも、弾切れなしで、だ。それに、見た目からして大きそうなリコイルも、アルトレアの常識を逸する腕力と肩で殺している。
「軍曹って、人じゃないんですね」
「まあな。よく言われるよ。実際、そうなんだけどな」
人外であることを認めているというのは、本当に人外なのだろうか?
――いや、冗談だろう。サーシャはそう考えることにした。いや、そうしたかった。
「射撃かぁ……。もう飽きたよ、って、アルトレア」
「ギブソン、こいつすげェぞ。スナイパーの素質ある」
「は?この嬢ちゃんが?」
拳銃を戻すと、ちょうどアルトレアの同僚が入ってきた。サーシャの実力を話してみると、彼は興味深そうにサーシャを見つめた。
「実際に見せてくれんか?」
「ああ、はい」
「弾代は俺が出しといてやる。遠慮無くブッ放しな」
先程の、まるで機械の様なライフル捌き。アルトレアが目を着けたから、余程、と感じてはいたが、これほどとは。思わず彼は目を疑ってしまったが、これが現実、地球は狭い、と実感させられた。
ふう、と口から息を漏らすサーシャ。イヤーマフを外すと、アルトレアの同僚が、サーシャを手招きする。
「お嬢ちゃん、いやグスタフ二等兵。あんたなら、こいつの補佐は務まるよ。あんたみたいな実力者じゃなきゃ、むしろこいつのパートナーは合わないだろう」
「は、はい」
「恵まれた才能だぜ、俺ァ羨ましくてたまらんぜ。その実力があれば、一気に将校クラスまでいけんのによ」
「なら、既にブラックモア軍曹は中尉あたりにいてもおかしくはないんじゃ」
「あの性格が全てを殺してるから無理だ」
顔もよし、実力もある。だが、その人を小馬鹿にした性格がダメなのだというらしい。お上はそれが気に入らないそうで、昇進をさせないらしい。
その話を聞いていたアルトレアがあーあと話を止め、同僚とサーシャの間に割って入る。いかにも尤もらしく、自分を正当化するかのように、サーシャの肩に手を乗せながら喋り始めた。
「いちいち自分を隠して昇進するなんざ俺ァごめんだね。俺は俺を貫き通す。ペトロフのオッサンだってこのままの俺を買ってる。だから俺は性格を変えない」
「ただのガキの屁理屈じゃないか」
「仕方ねェだろ、まだ18のガキなんだから」
「16の私に同意を求めますか……」
「同意しなくてもいいがな」
いい加減さはこの男の持ち味だと、サーシャは今気付いた。
SVDのカートリッジを抜き、アルトレアに渡すと、彼はそれを片して(とは言っても同僚に押し付けただけだが)、今度はハンドガンの射撃訓練に入った。ゴーグルとイヤーマフを付け直し、備え付けのMP-443で的を穿つ。射撃能力が高いのは解った。
「夕飯時には切り上げろよ。ギブソンは嬢ちゃんに手ぇ出したらぶっ殺す」
「出さねえよ、カミさんに殺されるわ」