Devil May Cry -Russian Roulette-   作:パン粉

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◆◇◆◇◆◇

 

 

 大分月日が流れた。サーシャがその日の射撃訓練を終え、アルトレアを探しに基地内を彷徨っていると、何やら食堂で大声が上がって騒ぎが起きていた。気になって覗いてみると、アルトレアがアームレスリングで100人抜きを達成したらしい。といっても、吹っ掛けたのは他の人間なのだが。

 

「ほら出せよ、1000ユーロ」

「コノヤロ、強すぎんぞ」

「軍曹、ただいま戻りました」

「おうお帰り、メシ食っとけな」

 

 この基地に来てから、いつも食べているハンバーグプレートセット。アルトレアが用意してくれたのだろうか。アルトレアが向かいに座り、ハンバーガーとコーヒーを摂りながら、サーシャに尋ねた。

 

「馴れたか?」

「はい、お蔭様で」

「そうか、そりゃよかった。そうだ。ほれ、小遣い」

 

 先程の100ユーロ札を10枚取り出し、サーシャの目の前に置く。サーシャが頭にはてなを浮かべるが、アルトレアはニヤリと笑って言った。

 

「16の嬢ちゃんなんだ、オシャレもしたいし遊びたい、食べ歩きだってしてみたい。だったら小遣いやって、その望みを叶えてやるのが保護者さね」

「軍曹は、私の保護者なのでありますか?」

「違いはねェだろ。それにまだお前さんもガキなんだ、遊べるうちに遊べ」

 

 優しいのやら、バカにしているのやら。取り敢えず、アルトレアからありがたくその金を頂戴し、アルトレアの隣に座る。先程頼んだ食事を口に付けると、アルトレアはハッと笑った。

 笑った原因は、恐らく時間だろう。今は20時。射撃練習を始めたのは17時。3時間もやり続けていたのか。それは腹も減るし、呆れもするわけだ。

 

「そういえば、手が痛いです」

「そりゃ3時間もリコイルを受け続けてたら、痛いだろうな」

「こんなに豆が出来てます。でも、言われるまで気がつかなかったですよ」

「余程の射撃バカだな。いい事だ。お前は近接も銃も、しっかり基礎からやっている。すぐに立派な兵になれるさ」

 

 とアルトレアはサーシャの頭を乱暴に撫でた。その手はどこか不器用であったが、しかし彼女の成長の期待と、努力への称賛の、二つの気持ちを表していた。それを感じられたサーシャは、尚更頑張らねば、と意気込んだ。

 

 アルトレアの下で鍛えれば、より強い兵士になれる。その確信はもうぶれなくなっていた。そしてアルトレアは、サーシャがどれだけ延びるのか、試したくなりつつあった。

 ――なんだかんだいって、良いコンビになりそうじゃねェか。

 

 これから、ロシア最強の二人組として名を馳せる事が出来そうだ。まだサーシャは新兵だが、素晴らしい素質とドの付く根性がある。既にこの基地では最強のコンビだろう。だが、浮かれはしない。その地位を完全にする為に、これからもこいつに技術を叩き込んでいこう。

 

「将来が楽しみだな」

「はい!軍曹の指導で、どこまでイケるのか楽しみです!」

「宇宙一まで行けるだろうな、このコンビは」

 

 ここまでアルトレアが他人に期待を寄せるのを初めて見た同僚が、みな口を揃えて呟いた。アルトレアに匹敵する人間。いつの日か、と皆それを望んでいた。それが、今、実現されようとしているのだ。

 

 無論、アルトレアに勝てる人間は、ペトロフを入れても誰ひとりもおるまい。ペトロフ自身でさえ自覚はあるだろう。このパワーバランスはなかなか崩せるものではない。だから、コシュマグラードは安定した軍事が行えるのだ。

 

「よしアルトレア、次は200人抜きいこうぜ」

「200だろうが300だろうが構わねェがよ、ウチの補佐がメシ食ってんだ、落ち着いた環境で食わせてやれよ」

「そうだぜ、ソコラフ。育ち盛りの子供なんだ、ゆっくりたらふく食わせて、成長させなきゃな」

「……あるとこは異常な成長度だが――ブッ!!」

「俺の補佐をエロい眼で見るなよ、ソコラフ?」

「成長期の子供を変な眼で見るたァふてェヤローだ。しかもアルトレアのお墨付きを汚したら俺も怒るぜ」

「すまねえすまねえ……」

 

 美人なのも玉に傷。それを狙われることもあるだろう。それからも上司である自分が守らねば。アルトレアはそう思った。

 

「軍曹、やっぱりここの料理は美味しいです!!」

「そっか、それはよかった。コック、うめえってよ!!」

「よしわかった!嬢ちゃん、皿を持ってこっちに来な!!サービスでもっと美味いもん食わせてやる!!」

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「今日も疲れたなー、っと」

 

 夕食を済ませたあと、サーシャはシャワールームに入って、今日の汗を流していた。柔らかな肌に、硬い筋肉が付いた身体。以前より締まって、よりスタイリングが良くなったと彼女自身は思った。

 

「軍曹……。あの人、確かに私を伸ばしてくれる。信じてついていこっと」

 

 ここまで強くなったのはアルトレアのおかげだと言い切っていいだろう。自分の変化は、訓練生時代より遥かに強く感じられた。

 

 長いブロンドの髪を濯いで、身体の泡を全て落とす。シャワーの湯を止め、タオルで身体の水分を拭き取り、服を着て、部屋に戻ると、アルトレアはいなかった。

 

 サーシャは前々から気になっていた、壁に立て掛けてある大剣の柄に触れてみた。現代には似つかわしくない武器。そういえば、ペトロフの部屋に言ったときも、大剣やら古臭い武器がたくさんあったことを、彼女は思い出した。彼ら二人は武器コレクターなのか?、と疑問に思う。

 

「よいしょっと。あれ、意外に軽い」

 

 簡単に振り回せそうな重量。片手で持っても軽々と動かせる。試しに、椅子に向かって、当てないように剣を振ってみた。すると、刃は当たっていない筈なのに、椅子が真っ二つに分かれ、そのままぱたりと倒れる。断面は非常に滑らかで、芸術的と言ってもいいくらいだ。

 

「あわわ!?凄い斬れ味……」

「ただい……ん?なんだ、ヴェルギリウス振ってんのか」

「ぐ、軍曹!?すみません!!椅子斬っちゃいました!!」

「気にすんな、また新しいの掻っ払ってくるからヨ。それより、ヴェルギリウスが気になるんなら言やあいいのに」

 

 空のペットボトルと針を持って部屋に入ってきたアルトレアは、その光景を何も気にせず、サーシャに話しかけた。全く咎める気がないようで、創龍はサーシャから大剣を受け取ると、壁にゆっくりと突き刺す。

 

「軍曹、その剣は?」

「ああ、親父の形見でな。ある人間から見たら宝剣、またある人間から見たらガラクタ、そして俺から見たら魔剣、っていう風に、評価が別れまくる、クソッタレな剣さね」

「でも、そのサイズで私でも振り回せるなんて……」

「軽ィからなァ」

 

 あの軽量で、壁に刺しても折れも歪みもしない。なんと頑丈な剣なのだ。サーシャの思考を上回る性能。もし、あれをアルトレアが振り回したら、どれだけのタクティカルアドバンテージを得られるだろうか。

「他人に渡しちゃいけねェモンだってくれェはわかってンだ。振るだけなら問題はねェ」

「軍曹?でも、剣なんて、古臭いと思いませんか?」

「否めねェな。ケド、ある状況に於(おい)ては、コイツが一番頼れる武器になる」

「軍曹ほどの方であれば、CQCで対処できないものはないと思いますが……」

「CQCなんかより、余程強力な武器さね。それより嬢ちゃん、手ェ見せな」

「はい?」

 

 返答も聞かずに、アルトレアがベッドにサーシャを座らせ、手を開かせる。射撃練習で作った血豆。アルトレアは針を取り出して血豆に刺し、針に口を付けて血を吸い取る。

 

「いつっ……」

「動くな。じっとしてろ」

「荒療治ですね……ててっ」

「これが一番速いし、綺麗に治るんだよ」

 

 アルトレアは、口に溜まったサーシャの血をペットボトルに吐き出す。それを何度も繰り返して、血豆はかなり小さくなり、痛みも消えていった。最後に、針で豆を取り、机から消毒液とガーゼ、包帯を取り、手早く傷痕を覆ってやった。

 

「お見事です」

「自分で出来るようにならねェとな?」

「はい。勉強しま――」

 

 

 サーシャが言いかけた時だった。建物が大きく揺れ、サーシャはベッドに倒れ、アルトレアは地面に手を付けて身体を保持した。チッ、と舌打ちし、アルトレアは壁の剣を抜き、ドアを蹴り飛ばす。サーシャはその行動を見てあたふたした。

 

「ぐぐっ、軍曹!?」

「……やべェ。血の臭いがしまくるぜ……」

 

 続いて鳴り響く爆発音。廊下から爆風が吹き荒れ、アルトレアはドアを閉め、それを防ぐ。ドアを斬り飛ばし道を開くと、目の前は残骸で道が無くなっていた。

 

「狂ったパーティに導かれたらしいな、俺達は」

「軍曹、一体……」

「わりィなお嬢ちゃん。お前も巻き込みそうだ」

 

 イマイチ状況を掴めていないサーシャに、アルトレアは壁に立てかけていたBIZONを渡した。道であった道はもう無い。アルトレアはドアとは反対側の壁に向かい、助走を付けて蹴り飛ばした。壁が崩れ、外の暗闇が広がる。窓が無いこの部屋では珍しい光景であった。

 

「軍曹、まさか」

「オウヨ、飛び降りる」

 

 アルトレアは、サーシャに四の五の言わせず、片手に彼女を抱えて、そこから飛び降りた。地上20メートル程の高さ。アルトレアは臆せず地面に向かい、ふわりと地に足を付けた。

 アルトレアとサーシャ。二人が見た、それまで宿舎だった建物は、廃墟へと化していた。外壁は崩れ、炎に包まれ、煙が立ち込める。

 

 サーシャを降ろしたアルトレアは、そこでの危険を感じとった。サーシャについて来るよう命じ、建物から急いで離れた。

 

「軍曹!?一体何が!!」

「いいから走れ、このボロ屋、崩れるぞ!!」

 

 アルトレアの言う通り、建物が崩落した。ガス管に火が引火した様で、爆発が起こり、熱風が吹き荒れ、瓦礫が飛んでくる。アルトレアは振り向いて、射撃場で見せた金銀のマグナムを乱射し、瓦礫を打ち落とす。

サーシャもそれに続き、BIZONを乱射した。

 

「なんてこった。一気に解体されちまったぜ……」

「まだ3ヶ月も使ってないのに……」

 

 瓦礫の山を見て、二人が言葉を漏らした。アルトレアはくるくると銃を回しながらホルスターにしまい、ヴェルギリウスと呼んでいた剣を手に持った。

 

「軍曹?」

「お嬢ちゃん。俺から離れンなよ」

「はい、わかりました。それで軍曹?これからどうしましょう?」

「ここからだと西棟が近い。まずはそこに向かう。そして生き残りとの連絡を取る」

「わかりました」

「それと、どうやらこの災害の原因、不自然だ。その手掛かりも探るかね」

 

 アルトレアはサーシャを引き攣れ、西へと進み始めていく。背後に燃え盛る焔に照らされ、これから待ち受ける惨劇に立ち向かうように……。

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