Devil May Cry -Russian Roulette-   作:パン粉

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◆◇◆◇◆◇

 

 

 通信室の扉の前は、何者かによって厳重にバリケードが組まれていた。アルトレアがヴェルギリウスでそれらを一斉に斬り飛ばし、すぐに入れるようにした。カードリーダにカードを通し、中に入ると、生存者と思われる人間はいなく、ただ死体が転がっていた。

 

「また何かいるのでは?」

「さァな」

 

 危険を省みず、ズカズカと入っていくアルトレア。ある意味、度胸試しと同じなのだろう。コンソールをいじって特殊回線を開き、ロシア軍本部と、コシュマグラード全体に放送を流した。

 

「生存者並びに本部に告ぐ。現在、コシュマグラードは占拠されている。繰り返す、コシュマグラードは占拠されている」

 

 アルトレアが言っている最中にもサーシャは警戒を怠らなかった。彼女の握るAKのレーザーサイトが、隅々まで索敵を行う。ハッ、とサーシャが気付くと、アルトレアの頭上に、サヴェージαが口を開いて今にもかぶりつこうとしていた。すぐにサーシャがAKを撃ち、怪物を地面に落とす。アルトレアはインカムに向かったまま、拳銃でそれを撃ち殺した。

 

「ペトロフ、応答しろ」

『……気付くのが早いな、若僧』

「……お前、誰だ」

『そうだな……。たった今、ペトロフを殺害した張本人、そしてこの宴の主催者、とでも言っておこう』

「へえ?もう寝ようって時に、ギャンギャン喚き散らす有り難迷惑なパーティに引きずり込んでくれたのか。悪ィけど招待状なんざ貰ってねェんでな、俺と嬢ちゃんは辞退させて貰うぜ」

『招待状?その軍服が招待状だ、とでも言っておこうかな。参加は出来るが欠席は出来ない。お開きになるかは、君次第だね』

 

 その通話はサーシャにも聞こえていた。ペトロフではなく、別者の声。そして英語でアルトレアに話している。アルトレアから聞けば、相手の英語はロシア訛り。そして、何かを銃で撃った残響音が聞こえていた。

 

『たった今、イワン・ペトロフは、私ヴェス・ズィヴルが殺害した。これからは、我等覇道を行くもの、"デティドヤヴォーラ"がこの基地――いや、世界を覇道によって支配する!!』

「軍曹、これって……クーデター……」

 

 赴任してから、幸運に見舞われない。サーシャには困惑と疲弊しか無かった。アルトレアは鼻でその声明を笑い飛ばす。インカムを握り締め、高らかに言い放つ。

 

「覇道?ハッ、その考えは嫌いじゃねェ。がよ、俺より弱い奴が覇道語るなんざ、

身の程知らずにもほどがあらァ」

 

 そしてアルトレアは器材を真っ二つにした。インカムやらミキサーやらダイヤルやら、総てが使えない。通信傍受の防止、かとサーシャは考えることにしたが、アルトレアからはなにかワクワクしているような感じがした。

 

「Huh,This party may be fun.」

「はっ?」

 

 剣を抜き、アルトレアはペロリと舌を出した。地面から、何の前触れもなく現れるはサヴェージたち。これが、ヴェス・ズィヴルの言う宴の始まりか。いや、もうとっくに始まっていたのだろう。宿舎を消した時から。

 

 サーシャはBIZONを構えた。しかし、アルトレアは彼女の援護を無視するかのように、思い切り敵に突っ込んでいく。8体のサヴェージβ、10体のサヴェージα。数だけなら、アルトレアたちが断然不利だ。

 

 しかし、その数を補ってもおつりがくる程の戦闘能力を、アルトレアは有している。αを一斉に宙に舞い上がらせ、βを地面に伏せさせる。地面に剣を突き刺すと、拳銃を抜き、柄に右足だけで乗り、左足でαに回し蹴りを放ちながらβに乱射した。

 

「花鳥風月ってのは、死ぬほど痛いぜ」

「!!!!!!!!」

 

 言葉に鳴らない雄叫びが部屋中に響き渡る。アルトレアの言う通り、その二丁拳銃――花鳥風月はそれらを軽々と死へ誘った。身体が吹き飛び、えぐられ、血が舞い、薬莢が跳ねる。アルトレアが死のワルツを踊るように、華麗に猿を捌いていくその姿。型など決してない。彼の本能のままに動いているのだ。

 

 わずか1分半で、18体総てを片付けてしまう、アルトレアの強者ぶり。たっぷりと返り血を浴び、赤に染まるが、腕で大雑把にそれを拭く。

 

「……」

 

 サーシャは言葉が出ない。彼は軍人?そんな枠、とうに超えている。スーパーマンやら、バットマンやら、そんなコミックヒーローの様に強い。が、彼等みたいにアルトレアは正義に目覚めているわけではない。恐らく、自分の自己満足の為に、好きなだけ暴れ、好きなだけ殺し、好きなだけ口汚く罵るのだ。

 

 だが、ペトロフが絶対の信頼を置いていたのも分かる気がする。この男の右に出るものは恐らくこの世界にはいない。もしかしたら、この世界のものではないのだろう。あのような身体能力、地球の物理法則を好き勝手に変えられるようだ。

 

 ――あのような境地に至りたい。どうしたらよいか?

 

 それは、人間をやめることと同値なのだろう。

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 殺しに徹するには、心を殺すことが必要だ。今までそうサーシャは感じていた。だが、現状を見ると、殺らねば殺られる、その緊張感から殺しに徹するようになってしまえるのだ、と理解するようになった。

アルトレアを見ていると、彼は無情に怪物を斬り殺していっている。その時の彼には楽しさが垣間見えた。だがサーシャは恐怖でしか動いていない。新兵にはキツいシーンなのだ。

 

 通信室を目茶苦茶にしたあと、アルトレア達は階段を使い、ゆっくりと下の階に下りていく。もう西棟には用はない。武器庫のある中央棟で補給をして、そこから首謀者を殺しに行くプランをアルトレアが立てたので、サーシャもそれに従った。

 

 西棟から中央棟の連絡橋は3階にある。そして西棟3階には、アルトレアが預けておいた"あるもの"があるらしく、サーシャはそれに付いて行った。部屋に入ると、クリーニング用の機材があり、そこでアルトレアはサーシャを待たせ、奥で何かをし始めた。2分後には、軍服から、黒いロングコートを身に纏い、レザーパンツとアンダーウェアにショートジャケットを着たアルトレアが現れる。

 

「その格好は?」

「俺の私服だ。クリーニングに出しといたんだ。汚れちまったし、ちょうどいいかと思ってよ」

「なるほど。では、連絡橋に向かいましょう」

 

 どこかでこんな姿を見た覚えがある。だが、それを気にする余裕はなく、ただここから脱出したい気持ちがサーシャを焦らせた。アルトレアは彼女の心情を読み取り、落ち着かせなければ、と感じ、彼女の肩を優しく叩いた。

びくりと跳ね上がる彼女の心臓。これほどまでに恐怖しているのか。無理も無い、とアルトレアは思うが、こんな調子では彼女自身が危ない。

 

「落ち着けよ。焦ったって死にに急ぐだけだぜ」

「は、はい」

「深呼吸しろ。呼吸を整えたら行くぞ」

 

 この指示自体が無理ではあるとうっすらアルトレアは思った。だが他に言い方が彼には見つからなかった。部下など持ったことのない彼だから、戸惑いを覚えたのだ。

 

 ある程度、気持ちを和らげたサーシャは、身体から少し力を抜き、行きましょうとアルトレアに言う。彼は首を軽く縦に振り、暗い建物の内部を歩き、巨大な連絡橋へと辿り着いた。

 

「ゲートは空いてるか?ん?」

「どうかしました、軍曹?」

「俺の第六感が告げてるぜ。ヤバいヤツが来るってよ」

 そのシックスセンス通りになるのは目に見えていた。サーシャが身構え、何が来ても対処出来るようにした。だが、アルトレアは、そんなことをしても無駄だということを知っていた。

 

 橋の向こう側――中央棟まで後少し、というところであった。アルトレアは即座に振り向き、花鳥風月を、狙いを定めずに乱射した。

 

「……BINGO」

「よく気付けたな、小僧!!」

「あ?この前俺に銃を向けたバカか。醜くなったなァ」

 

 弾丸が、鱗を纏った腕で跳ね退けられた。サーシャが振り向いてそれを確認すると、まるで鮫の様に鋭い牙に、血に塗れた太い左腕。右腕と呼べるものは槍と化しており、身体は肥大し、しかし動きは俊敏そうであった。

 

 アルトレアは、それを一目見ただけで、そいつが以前自分に投げ飛ばされた上官だということを見抜いた。ただ、所詮図体が変わっただけで、雑魚は雑魚。頭の悪さは良くはなっていないらしい。

 

「この前の恥辱、晴らしてくれるわ!」

「自滅しただけじゃねえか、てめえは。そういうのを自業自得って……言うんだよ!」

 

 話の最中、アルトレアに右腕の槍が伸縮して突き刺さりかけた。身を反してそれを避け、サーシャはその槍を転がって避け、AKにアタッチされていたグレネードを放つ。

 

 轟音と爆発。火が上がるも、相手は無傷だ。なんと硬い鱗であろうか。だが、アルトレアはそんなことを気に介さなかった。

 

「おい、クズ」

「クズは貴様だ虫ケラめ!!」

「その腕、壊してやるよ」

 

 花鳥風月をまたもや構える。先程は効かなかったのに、何故また撃とうとするのか、サーシャはわからなかった。

 

 次第に、アルトレアの腕と銃が黒色に染まり出した。槍を素早く、それも連続して突き出す相手だが、アルトレアはそれを避けながらも、銃口を向けたままであった。

 

「Smash down!!(壊れちまえ!!)」

 

 弾丸が黒い尾を弾き、艶めきながら鱗を穿つ。そこからは血が間欠泉の様に吹き出し、鉄橋に血黙りを作った。

 

 それで止まらずに、右手の槍をまた延ばしてアルトレアを突いてくる。だが、それもまたかわされ、無我夢中に槍を連続突きした。アルトレアは大袈裟に壁に飛んで避け、頑丈な合金の壁を床にして走った。重力を無理した動きに、サーシャも敵も眼を見張ったが、サーシャはその隙にグレネードを乱射した。

 

 彼の脚の速さは、サーシャは身を持って体感していた稲妻が走るかの様に

進むアルトレアは、片手に例の大剣を握り締め、敵の左腕を助走の勢いと持ち前の怪力で易々斬り飛ばした。

 

「ぐぁぁぁぁあああっ!?左腕がぁぁああっ!!おのれぇぇぇええ!!」

「腕だけじゃなく、首も貰うぜ、知障野郎!!」

 

 急ブレーキをかけ、壁を蹴り、敵の首を狙う。槍がアルトレアを貫かんとするも、空中で身を操って空を貫かせ、勢い良く頚をぶった斬り、トドメを刺した。

 

 思考を司る機関を失い、その巨躯は倒れ、鉄橋を揺らした。サーシャは足早に中央棟に向かい、アルトレアを待つ。生首が喋ろうとしているようではあるが、彼は聞くのもめんどくさそうで、口を開いた瞬間にブーツで踏み潰した。

 

「結局、弱っちィままで死にやがった。骨のねェクズだな」

 

 期待外れともいわんばかりに残念がり、アルトレアは中央棟へとゆっくり歩き、サーシャとまた行動をし始めた。

 

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