焦げ臭い匂いが立ち込めている住宅街の一角、火災が起きているであろうその現場には、大きな人だかりができていた。救急、消防、警察、そしてヒーロー。ラビットヒーローと人々に呼ばれるミルコもまたその現場にいた。彼女はのちにヒーロチャートにランクインするほどの人気ヒーローとなるのだが、それはいま語ることではないだろう。ミルコは、ほかのプロヒーローらとともに怪我人の救命にあたっていた。この火災。いや、ヴィランが起こしたと思われる犯行によって住宅4棟が倒壊及び火事になっていた。特に内一軒の損壊がひどく、家はほぼ全壊。そしてそこの住人の三名中二名の死亡がすでに確認されていた。その事実がミルコに強い精神的ショックを与えていた。ヒーローであるミルコがこの現場にいることには二つの理由があり、一つは現場のヴィランの迎撃。そしてもう一つ。それこそがミルコの一番の目的だった。
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「落ち着けミルコ!救助はほかにまかせろ!」
「黙ってろ!私は落ち着いてる!!」
「いやどう見ても...おいまてって!」
一番被害の大きかった住宅での救助をつづげるヒーロー一行。その先頭を行くのはミルコだった。他ヒーローの制止を無視して突き進む彼女に対し居合わせたヒーローの一人が苦言を呈す。しかしそれを一蹴し捜索を続けるミルコ。
「私が助けなきゃいけないだろ...」
この住宅に住んでいた一家。彼らとミルコは親縁関係にあった。夫と妻はすでに遺体で発見され、息子であるもう一名も現場の被害から見て生きている可能性が低いこと、そんなの自分にもわかっていた。特別、あの家族と仲が良かったわけじゃない。親戚の集まりで顔を合わせ、そこで話をする程度。しかし、
「こんなことになっていい理由なんて、あるはずないんだよ」
涙で少し視界がかすんだ。思考だってまとまらない。でも助けなきゃいけない。ヒーローだから。まだ見つかってない子供を探しながら昔のことを思い出す。ヒーローを目指すという私に対してその子が言った、「僕だってヒーローになる」という言葉。無邪気な笑顔がやけに印象的で。
「なんで今こんなこと...」
意識を捜索に向けなおす。集中しろ。私が絶対助けるんだ。呼びかけに反応はなかった。なら私の個性でどうにかするしかない。全神経を耳に集中させる。炎が燃える音。その中にかすかだが人の息遣いが聞こえた。ヒーローのものじゃない弱弱しい息遣い。急いでそちらに向かう、炎で体が焼けるのもいとわず、瓦礫を押しのけた先には探していた少年がいた。服はところどころ焼け落ちてはいるが、特に目立った外傷はなかった。安心して崩れ落ちるのをぐっとこらえヒーローとしての使命を全うする。
「救助完了!急いで救急班へ!」
大きな被害に複数の死傷者を出したこの事件は、被害規模。そして犯人が捕まらなかったことから凶悪なヴィラン事件として人々の記憶に残ることとなり、その後の犯罪への個性使用を取り締まる動きを強めることとなった。
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救助した子供、兎山カオルが受けた検査の結果、命にかかわるようなケガはなかった。やけどの跡が目立ったが、それも治療によって跡も残らないそうで。しかし、心、精神へのダメージはそうではない。事故の影響か、全後の記憶が曖昧らしいが、両親との死別。それを受け止めるにはまだ幼すぎる。カオルはまだ8歳、寄り添わねばと私は思った。ヒーローとしてではなく、姉のように接してくれていたこの子のために、家族として寄り添おうと。そう決めたんだ。
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少しの時間が空き、カオルの病室を訪れた時のこと。彼は涙ながらにその心情を少しずつ話した。ため込んだものが少しずつあふれるようにして出てきたそれらは、自分の身に降りかかった理不尽に対しての嘆きだったり、家族を助けられなかったヒーローに対しての怒りだったりした。そして、最後にこう言い放った。
「どうしてぼくだけ生きてるの?ぼくも...母さんたちのとこにいきたいよ。」
それを聞いてふざけんなとか、そういう言葉で叱ってやりたかった。助かった命を無駄にすんなって。でもいまかけてやるべき言葉はそうじゃないと思った。元々私は考えるの苦手だし、この子が納得するような答えは出せないと思う。でも、救ってあげられるのは自分だけだと思うから。
「薫の父さんと母さんが死んじまったのはヒーローである私のせいだ。だから、薫が死ぬときは私もいっしょに死んでやる」
驚いたように薫が私の目を見つめる。その真っ赤な瞳は飲み込まれそうなくらいきれいだった。
「でももし、薫が生きたいって思えて、楽しい事とかつらいことがあったなら、私も同じように笑ったり泣いたりするよ。そしたら薫の胸に抱えた痛みも少しは軽くなるだろ」
ベットに腰掛け、薫の小さな体を抱き寄せる。
「だから今は、たくさん泣いていいんだよ」
それを聞いて、胸にたまっていた悲しさだとかの感情を全部吐き出すように薫は大声で泣いた。そうして泣きつかれるまで泣いた後、そのまま寝てしまった薫の頭を、私は優しく撫でた。私と同じ色の白髪がさらさらと気持ちよかった。
―――
人を救う。そのことにおいてミルコはこのときどこまでもヒーローだった。そしてミルコが一つの決意を固めたように、ミルコの言葉が、カオルのヒーロに対してのあこがれをより一層強いものへと変えたのだった。
そしてこの事件についてだが、被害にあった兎山一家の夫が再生系の珍しい個性持ちだったために、いわゆる個性目的の犯行であるとして捜査が進められたが、この事件をきっかけとして犯人にたどり着くことはなかった。しかし、その数年後、オールマイトを中心としたチームにミルコも参加したヴィラン討伐。これによって撃破したヴィランが先の事件の犯人と同一とし、一連の騒動に終止符が打たれることになった。