もしもミルコに義理の弟がいたら。   作:檸檬ソーダ

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パロディ

 

 

 火災による熱気で熱せられた体からは汗がにじみ、コスチュームが肌に張り付いて不快な感触がする。それに比べ目の前の女は、この不吉な敵はそんなこと全く平気という風に、顔色一つ変えず、僕の初撃から今に至るまでのいくつもの攻撃をいなし、躱して見せた。加えて的確に、そして無駄なく返しの刀で僕の体を殴打していた。

 

 それらの攻防で感じたのは違和感だった。しかし、最初それがなにかは分からなかった。

 

 「ッ逃げんな!」

 

 チャージで加速させ、隙を見極めて放った右の拳は、彼女にかすりさえしない。 

 

 「!!」

 

 

 攻撃の直後の、それが隙と呼べるか怪しいぐらいわずかな時間を狙って、反撃の刀が顔めがけて向かってくる。反射的に身をそらせ、すんでのところでその攻撃を回避しようとして...

 

 さらに伸びた刀はぼくの顎を正確に捉えた。たまらずたじろぎ、距離をとる。

 その時やっと、違和感の正体をつかみかけた。

 

 

 (気持ち悪ィ...)

 

 違和感の正体は何となくだが分かった。しかしそれなら、奴があの刀を振るえている理由がわからない。

 

 

 「恐ろしく高度な先読み..?_」

 

 

 つぶやくように出た独り言を聞いて、目の前の女は笑みを浮かべた。

 

 

 「そう。

 

 私のこれは、いっそ個性だと結論付けた方が納得するようなこの特技は、言ってしまえばただの先読みだよ」

 

 相手の動きをよく観察し、動きを読む。文字にしてしまえばそれだけだが...

 目の前の女のそれは、はっきり言って異常だ。

 

 僕が動くよりも早く回避に移り、逆にこちらの回避に合わせて攻撃をそこに置いておく。それはもはや先読みというよりも、未来視とかの類に片足突っ込んだレベルだと思うが。

 

 しかし目の前の女は、下手な個性よりも個性らしいのその能力を、ただの特技と言い張った。僕からしたら、刀の方が手術か何かで後付けしたもので、未来視の個性を持っているといわれた方が納得できるほどに不可解だったが。

 

 「なんだか不満げな顔だね?」

 

 女はそう言って首をかしげる。その動作からはおよそ可愛らしさというものは感じられず、この状況から言えばむしろ攻撃的な印象を受けた。

 

 「納得いかないか...まあそれもそうか。でもしかし、人から信用してもらえないというのは案外傷つくものだね」

 

 「敵が何言ってんだ」

 

 わざとらしく、悲しげな顔をしていたかと思えば、またすぐに楽し気な笑みを浮かべる。

 

 「ネタ晴らしをしようか」

 

 「ネタ晴らし?」

 

 「そう、ネタ晴らし」

 

 くすくすと笑いながらそんなことを言い出した。ネタ。やはり先読みを可能とする個性なのか。

 

 

 「私の個性。それはーーー

 

 

 

*******

 

 

 

 

 ヒーローにあこがれた。

 

 

 みんなを笑顔で助け、かっこよく敵を倒すヒーローに。

 

 

 ヒーローが大好きだった。その個性も好きだった。

 

 ヒーローによって、全然できることが違って、多種多様で、そのどれもが魅力的で。

 

 幼い私は魅了された。そして、自分もいつかそんな風になるんだと、心の底から信じていた。信じ切っていた。

 

そして齢四歳にして私はーーー

 

 

 

*******

 

 

 

 

 「個性パロディ」

 

 

 「それが、私の個性だよ」

 

 

 パロディ?ていうとコピー系の個性か?それとあのバカげた未来視がどう関係あるんだ。

 

 「あせらないでよ。ちゃんと説明してあげるから」

 

 

 こちらの考えを見透かしたように、浮かべた笑みがにやにやとした、こちらを嘲るようのものに変わった気がした。馬鹿にしているのか。それとも馬鹿にしているというポーズか。目の前の女からはどこかくつかみきれない印象を受ける。

 

 「...それで、あんたのその刀と、未来視ともいえるほどの先読みは、そのパロディとやらで真似たものだっていうのか」

 

 僕の言葉を聞いて、何かを考えるように刀に視線を移す女。

 

 「未来視ねえ...」

 

 フッと少し自虐気味に笑った女は、うっすらと笑ったままこう続けた。

 

 「まあ半分、いや半分以上正解かな?」

 

 続ける女。

 

 「この刀はね、もともと私がいたグループのリーダーの男の人の個性だったんだ。」

 

 もう死んじゃったけどね。と言いながらどこか遠い目をする。

 

 「本当はもっとキレ味とかすごくて、人間なんか簡単に殺せちゃう個性だったんだよ。私が使うとなまくらだけどね」

 

 なまくら。それがパロディの、完全なコピーではなくどこか滑稽さが残るような部分なのだろうか。

 

 「確かに、コピーとは、言い難いな」

 

 「そう、どんなに見栄を張ってもコピーとは言えない、猿真似。いやそれ以下かもしれない」

 

 先ほどの自虐的な笑みの理由が分かった気がした。

 

 「そしてその個性。その発動条件は」

 

 「相手をよく見ること」

 

 わかるようで、全くわからない説明だった。

 

 「見るというのは、つまり観察するとか、視界にとらえるとか...?」

 

 僕の質問に対して、

 

 「その認識自体は間違ってないよ。相手の動きとか表情とか。とにかくいろんなところを、隅から隅までよく見る。それが個性の発動条件」

 

 「一点、おそらく私と君とでずれていると思われる認識はズバリ、その見るという時間の長さ。情報量の多さだよ」

 

 「情報量...?」

 

 またも怪訝な顔をしてしまう僕に対して、今度は馬鹿にするでもなくこう続ける。

 

 「こう見えて、私も昔はヒーローになりたくてね。この個性が分かった後、あこがれていたヒーローの動画だったりを一日中と言っていいほどに見続けた。暇な時間をすべてそれに費やした」

 

 「確か、空を飛ぶ個性のヒーローだったよ。スーパーマンみたいにね」

 

 笑みを浮かべたまま続ける女。

 

 「それでいつ個性が発動したんだ?」

 

 純粋に気になった、見るだけで発動するコピー能力も聞いたことがあるし、やたらともったいぶる彼女の個性の準備期間はどれくらいなのか。

 

 「14歳の時」

 

 「え?」

 

 「私が個性をまねできるまで、7年かかった」

 

 

 7年。あまりにも長い。およそ16年ほどしか行けていない身からすれば、いや何年生きていようとも、長すぎると感じる時間だ。

 

 「14歳で個性が発動して、それでどうなったと思う?」

 

 

 「どうって...?_」

 

 「つまりさ、切れる刀がなまくらになるような個性だ。空を飛ぶ個性がどんな猿真似になるかも、大体予想がつくんじゃないかな?」

 

 「それは...?」

 

 正直、飛べるかどうかも怪しいと思った。仮に飛べたとしても大空を駆け回るなんて真似は到底不可能だろう。

 

 「とにかくさ、私の個性は深く、深ーーく観察することで発動するのさ。先読みっていうのはただの副産物に過ぎないよ」

 

 それはつまり、年単位でヒーローの動きを観察し続けたことによって、先を読む動きが著しく発達したということだろうか。

 

 恐ろしい。それはもはや個性と呼んでもいいだろう。

 

 「それで、今こうやって、無駄話してるのは」

 

 女は笑みを一層強くした

 

 「そう。君の動き、表情、個性を観察して、自分のものにするため。あぁ、心配しなくても年単位の時間なんてかからないよ。結構慣れてるからね」

 

 「その刀を見るに、真似をする意味があるかわからないけど」

 

 「そうとは限らないよ、君ほどきれいな個性は見たことがないから、あるいは、攻撃の吸収くらいはちゃんとできるようになるかもしれない」

 

 

 そう言われて思ったのは、この女はここで仕留めきるべきということだった。これ以上力を伸ばされたら、今後厄介な敵になる。

 

 はっきり言って、現状でも手に余りすぎるほど厄介な敵だが、これ以上強くなられたらたまったものではない。

 

 チャージの出力を上げなおす。倒せるとは思わないが、だからと言って放置もできないだろう。

 

 二人の視線が交差し、どちらかが踏み出そうとしたとき、

 

 轟音

 

 爆発音にも似た音のした方、USJの天井の方を反射的にみると。そこには大穴が開いているのが分かった。さらに目を凝らすと、黒い物体が大空に向かってぶっ飛んでた。

 

 「あーーー。時間切れか」

 

 

 「時間切れ?」

 

 悲しいようなあるいはつまらなそうな声がして、

 

 女の方に向きなおすと、そこにはもう誰もいなかった。

 

 

 僕にとってのUSJの事件はこの時点で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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