夢を見ていた。父さんと母さんと晩御飯を一緒に食べる、それだけの、ただただ暖かいだけの夢。壊れてしまったもう二度とかなわない夢だ。あの頃は何にだってなれると思っていた。でももうそうじゃない、あの日両親が殺された時から僕には
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入試当日だというのに今朝の目覚めは最悪だった。終わった夢、そして終わった目標。
あの男は姉さん含めたヒーロー達に討ち取られた。だからもう自分のために生きていいはずなんだ。僕はミルコみたいな、本物のヒーローになる。
「だからもう忘れさせてくれよ...」
雄英に向かう電車に揺られながらそんなことを考えていた。そんな僕を見て、体調が悪いと思ったのか、彼は話しかけてきた。
「兎山君、大丈夫?」
声でだれか分かった。緑谷出久。そういえば彼も雄英受けるって言ってたっけ。無個性での雄英受験。馬鹿にしてるわけではないが、無謀な挑戦だとも思う。
「緑谷はなんで雄英受けるんだ?」
会話の中で思ったことをポロっと聞いてしまった。失言だ、そう思い取り消そうとしたとき。
「認めてもらったんだ」
緑谷は続ける。
「一番尊敬してる人、目標にしてる人に、君はヒーローになれるって。そういって、いろんなものをもらった。だから僕は...」
緑谷がまっすぐこちらを見つめる。
「ヒーローになるよ」
そうだ、そうなんだ。余計な事、考えたってしょうがないことは考えなくていいんだろう。ただまっすぐ目標をみつめてさえいれば。
まだ雄英に受かってもいないんだけどね。笑いながらそういう彼に、心から感謝を伝える。
「ありがとう緑谷、おかげで試験に集中できそうだ」
気を引き締めるまだ僕の道は始まってすらいないんだから。
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筆記試験が終わり講堂に実技試験の説明を受けていた。筆記の方は自己採点でラインぎりぎり、ともかくあとは実技を頑張るしかない。
ポイントが割り振られた仮想的そいつらを倒しつつ総合ポイントで順位を決めるという内容。少し気になるのは0ポイントのお邪魔敵。大型で大暴れするだろうとの説明。0でもポイントと表記している以上、倒すこと、あるいは戦うことは想定されている。大型である以上ほかに比べて弱いわけもないだろう。
「それなのに0ポイントてことは…」
この試験、ポイント以外にも採点基準があるのかもしれない。それを考えるなら状況次第では0pと戦うことも頭に入れておいたほうがいいか。
そうして説明を受け、受験生たちはいくつかのグループに分けられ、ステージとなる巨大なビル群を前に各々準備運動などをしていた。そういう僕も運動着に着替えたところだ。インナーにTシャツに短パン。全体を黒と灰色で揃えていること以外は特筆することのない運動着いつも使ってる分これが一番使いやすい。
緑谷たちとは別のグループみたいだけど、同じ中学での協力禁止のためだろうか。そんなことを考えていると開始の号令がされた。教師曰くヴィランは待ってはくれないぞと。それを受けて僕は個性の使用にあたまを切り替える、試験の制限時間は10分。戦闘での消費を考えるなら常時3割が限度。
「エネルギーチャージ…… 30パーセント」
体に青白い光を帯びながら徐々に出力を上げる。後れを取った受験生達を追いかけ、追い抜きそして引き離す。
三割で十分。余裕はそこまでないが、索敵と移動。どちらかで後れを取れば高得点は狙えないだろう。
ビル群に入ったあたりで、目の前にロボが現れる。仮想敵、形状からして1ポイント
まずは様子見ロボのアームによる攻撃を潜り抜け、右拳による一撃を放つ。放たれたそれは容易にロボのボディーを粉砕し戦闘不能にした。
3割でも動きを終えてなかったし、これなら案外余裕かもな。
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開始からしばらくたち、試験も終盤に差し掛かってきた。
獲得ポイントはすでに十分獲得できたし。余裕があったので、チャージも少し出力を落としてある。まだ不安があるとするなら…
ちょうどその時地面が大きく揺れ始めた。轟音とともに道路を大きく割りそこから這い出てきたのは巨大なロボット。高さは横にあるビルと比べても遜色ないほどに巨大であり、逃げ出す受験者たちに今にも襲い掛かろうとしている。
間違いなく0ポイント、救助対象なんかが出てこない限り、逃げるのが安定択。それと同時にここで倒せたりしたなら、こいつによる被害を減らすこともできる。
それならやるしかないだろ
「フルチャージ!!」
出力100パーセント、それによる身体強化。今持てる全部で
「叩き潰す!!」
ーーー
全速力で0pに接近していく。近づくほどに気づかされる巨大さ。それに伴う威圧感。しかしそれを今からねじ伏せる。横目ではケガで逃げ遅れた様子の受験生が見えた。想定外ではあるが、救助による採点基準に数えられるだろう。そちらを優先する。
近づいてみると受験生は二人いた。足を瓦礫に挟まれた女子にそれを助けようとしている男子。男子の方が体を固くする個性のようで瓦礫を削りながらも脱出スペースを作っているようだ。手を貸さなくても助けられそうだが、手を貸せば簡単に助けれそうだ。
「手をかすよ、上の大きな瓦礫どかすからここを押さえてて」
「お、おう!でもどかすたってこの大きさをどうやって...」
大分大きな瓦礫だったがフルチャージならどかすぐらいなんてことはなかった。
そうして二人で女子を救出する。
「助かったよ!俺は切島ってんだ!おまえは?」
その問いに答えようとしたとき、大きな振動を捉えた。振り返ると0pがまっすぐこちらに向かってきている。
「やべえ、早く逃げよう!肩貸すぜ!」
女子を連れて逃げようとする切島。こちらにも呼び掛けてくる彼だが、ケガ人を連れて振り切ることは難しいだろう。それならば...
「ごめん切島君、その子を連れて先に行っててくれ」
「何馬鹿言ってんだ!速くにーー兎山ーー...え?」
「兎山カオル、僕の名前。切島君、雄英でまた会おう」
それだけ言って僕は巨大ロボに向かって走り出した。
ーーー
接近する僕に気づいた0pがその大きな腕を振り上げる。その巨大さ故、振り下ろすだけで即死級の攻撃だが、それもまともに喰らえばの話。
振り下ろされる一撃。轟音とともに迫るそれを両手の平を広げ、そして捉える
ーーリバーサルーー
物理による単純な攻撃に限り吸収、反撃に転じる技。しかし一気に吸収できるエネルギーにも限度はある。
「くっ…!!」
吸収しなかった衝撃が体を押しつぶそうとする。全身がそれに悲鳴を上げ、全身の筋肉は引きちぎれ、鼻からは血が噴き出る。両足を大きく広げ、精一杯踏ん張る。そうして衝撃を吸収していき、右手のひらにエネルギ―を収束させていく。
「くらえよでかぶつが!出力600パーセント...
ーーインパクト!ーー
その瞬間青白い閃光が巨大ロボの腕を突き抜け胴体に届くまで破壊した。
片腕を失いバランスをとれなくなり倒れこんでいく巨大ロボを見て、ぎりぎりつなぎとめていた意識を手放した。