もしもミルコに義理の弟がいたら。   作:檸檬ソーダ

7 / 10
vs有精卵

 

 

 体力測定のあった次の日のこと。

 

 「わーたーしーがーーー

 

 普通にドアから来た!!」

 

 その勢いとともに教室に入ってきたのは、みんなおなじみオールマイトだった。

 

 普通に授業も担当するんだなぁ、なんて思っていると、早速と言いながら、戦闘訓練という名の授業の提示。それと戦闘服への着替えを指示された。その指示に従うクラスメートの後に続いて、自分の戦闘服を手に取った。

 

 戦闘服もといコスチューム。僕が要望したそれは、実戦を特に想定したものだった。動きの邪魔にならないように携帯物を減らした戦闘スーツに、腕と足の防具。

 

 黒を基調とした見た目は、みんなが想像するような特殊部隊の隊員のような見た目から、ごちゃごちゃとした装備を全部取っ払ったような見た目だと思ってもらえばいいだろう。

 

 シンプルイズベスト。それが僕のコスチュームへの答えだ。

 

 皆がそれぞれの感想を言い合いながら訓練場へと向かった。歩きながら思ったのだが、ヒロイックーーヒーローなんだから当たり前だがーーな見た目の人が多くて、少し自分が浮いているような気分になった。変更できるタイミングがあればもうすこしヒーロー然とした格好にしようとも。

 

 戦闘訓練は、ビル内での屋内線。かつ二人1ペアの2対2の形式で行われるようで、そのペアはくじ引きで決められた。

 

 僕のペアは葉隠透さん、透明になる個性らしく見つけるのに少し手間取った。

 

 本人は気さくな性格らしく「頑張ろうね!」と明るく声をかけてくれた。そんな雰囲気の彼女が急に暗くなったような気がしたので、どうしたのか訪ねてみた。

 

 「どうしたのって、兎山くん相手見てないの?」

 

 そう言われて、なるほど。とおもった。

 

 僕らの相手はガタイのいい障子と、推薦入学組の一人、轟焦凍だった。

 

 

ーーーーー

 

 いくつかのペアの戦闘が終わり、僕らの順番になった。

 

 ビル内の爆弾を守る敵側と、それを確保するか敵役を捉えるヒーロー側。僕と葉隠さんは敵側だった。

 

 ちなみに今は四階の爆弾のあるフロアにいる。

 

 「葉隠さんは二人の個性知ってるの?」

 

 爆弾のハリボテの位置を調整しながら、同じく防衛の準備をしている葉隠さんにそう訪ねた。

 

 「あんまり詳しくはないんだけどね、障子くんはたくさん耳とか腕とか生やせる個性で、轟くんは氷の個性らしいよ!」

 

 氷?エンデヴァーの息子って聞いたから炎熱系かと思ってたけど…

 

 そんな事を考えていると、もうすぐ訓練スタートという頃合いになった。

 

 障子の個性で耳をはやせるならそれを使って索敵してくるだろう。葉隠さんを伏兵にしても探知されては意味がない、だから爆弾前のこの位置で迎え撃つのがいいはずなんだけど。

 

 そう考えながら、頭のどこかに危機感があった。

 

 訓練開始のアラームがけたたましく鳴り響く。葉隠さんの方を見ると彼女もこちらを見ているようだった。ちなみに彼女は透明化の個性を最大限に活かすためほぼ全裸なため、あくまで僕がそう思っただけだが。

 

 葉隠さんからドアの方へ視線を移す。この部屋にはドアは一つだけ、他には窓もあるがこっちからヒーローが来るとは考えにくい。

 

 緊張する気持ちを落ち着けようとしたその時だった。僕の両足を、凄まじい冷たさが襲った。

 

 「……は?」

 

 凍結による激しい痛みを感じながら、徐々に現状を理解した。轟の個性によるものだろう。ヒザ下辺りまでが凍りついていた。そしてそれは葉隠さんも同様だった。

 

 (最悪だ…。警戒はしていたけど、まさか凍結の規模がここまでだなんて。警戒したりなかった…!)

 

 僕はこの最悪の状況において、取れる最善の行動に身を移した。

 

 

ーーーーー

 

 凍結した通路を進むのは障子と轟だった。轟の半歩後ろを、障子が複製した耳を広げながら続いて歩いていた。

 

 「この部屋か?」

 

 障子の方には目もくれず轟が尋ねる。

 

 「その部屋で間違いない。葉隠と、兎山のどちらもいるが片方は少しもがいているようだ。このまま部屋に入るのか?」

 

 個性で部屋の様子を探っているらしい障子はそう聞いた。

 

 「ああ。このまま行く」

  

 もう勝ちは決まったと。冷めた様子の轟はそう言って、凍ったドアノブを力強くひねった。

 

 氷が砕ける音と感触とともにドアを開き、部屋に入っていく轟。その瞬間。前方から飛びかかってくるカオルをその目で捉えた。

 

 反射的に氷で迎撃した轟だったが、その氷壁はカオルの手のひらからの衝撃で粉砕された。

 

 「轟!」

 

 なおも接近してくるカオルに対して、後方にいた障子が3つの腕を振りかぶって間に割り込む。振るわれた3つの拳はどれもその小さな兎を捉えたかのように見えた。しかし拳にカオルの指先が触れると、そのどれもがピタリと運動を止めてしまった。

 

 深い踏み込みとともに反撃の拳が障子に放たれる。障子の意識が防御に割かれたが、それを振り払うようにカオルの拳は強い衝撃を放って加速した。

 

 防御を振り切り、障子の横っ腹に深々とストレートが突き刺さったそのとき。一連の攻防の中で力をためた轟が特大の氷壁を繰り出してみせた。障子を守ると同時に薫の小さな体を覆い尽くさんとしたその氷壁は、しかしその体を捉えることはなく、カオルは体を翻しながら回避した。

 

 一方で、この一瞬とも言える戦闘を少し離れて見ていた葉隠は、まるでレベルが違うと唖然としていた。 

 

ーーーーー

 

 (仕留めきれなかった)

 

 攻防を終えたカオルの胸中にはそんな後悔があった。

 

 轟の初手の大規模凍結によって凍りついた両足はリバーサルによる冷気の吸収と放出による地道な作業で復活したが、その活動は本調子には程遠い。できるなら負荷がかかる前に不意打ちで終わらせたかったが、ガタイのいい障子があまりにも邪魔だ。接近に持ち込んでもさっきのように割り込まれては轟を仕留めれない。

 

 だからといって障子から倒そうとしたらそれはそれで轟がそれを許さない。全くどうしたものかと、ちらりと葉隠さんを見やる。

 

 彼女を救出するまでの時間はなかったので、彼女の両足は凍ったままだ。無理に動けば皮膚を持っていかれるだろうし、この戦闘での復帰は難しいだろう。

 

 こちらが呼吸を整えてるうちに、早くも障子がダメージから回復したようだった。

 

 (見た目通りタフみたいだな。ならやっぱフルパワーで行くか)

 

 「ミルコの弟ってのもあながち嘘じゃないみたいだな」

 

 そう言う轟に少し驚いた。このタイミングでそんなこと振ってくるのか。

 

 「そちらさんは、エンデヴァーの息子って割に氷メインなんだな」

 

 「親父の力は戦闘では使わねえ」

 

 そう言って語気を荒げる轟。

 

 (言い方的に炎も使えんのか?なんかちょっとムカついてきたな…)

 

 「…そりゃあボコしがいがあんなァ!!」

 

 個性チャージの出力を最大まで上げ、轟に肉薄していく。重心はできるだけ低く、敵の狙いを下方向に絞らせる。

 

 迎撃の氷壁を天井に跳躍して回避、続け様に迫る氷の柱をインパクトで防ぐ。

 

 天井で足のバネに力をため、そして跳躍。轟を障子とは挟む位置に着地。地面に手を向け

 

「出力100パーセント…」

 

 まさかといったような目で轟がこちらの意図に気づく。が、もう遅い、

 

「インパクト!!」

 

 その衝撃で三人がいる床を大きくぶち抜いた。

 

 地面がなくなったことで空中に放り出される三者。一番最初に行動に移ったのは障子だった。轟の背中を掴み僕から遠ざけるようにして間に腕を回す。

 

 それに対して僕はインパクトの放出による反動でその腕に組み付いた。

 

 そして落下する方向とは逆に片手を掲げその手のひらを大きく広げた。

 

 「下まで付き合ってもらうぜ、三連インパクト!!」

 

 再大出力での三連射。その反動で轟を抱える障子を真下に突き落としていく。床を二枚続けて打ち抜き、そうして障子を一階の床に打ち付けた。舞い上がったホコリに目を細めながら少し離れると、障子はダメージですぐには起き上がれないようだった。

 

 轟は障子の腕の中から這いでながらこちらを一瞥すると、

 

 「お前イカれてんのか?」

 

 と顔をしかめたので、成り行きとはいえクラスメートを下敷きに床を複数枚ぶち抜いたことに若干の罪悪感はあったため、その言葉は否定しないでおいた。

 

 そうして両者が構え直すのと、オールマイトによる戦闘終了の合図がされたのは、ほぼ同時だった。

 

 気の抜けた様に、脱力する轟に対して、今回はこっちの勝ちだと。軽く笑みを向けると、轟は見るからに嫌そうな顔をしたので、僕はそれを見てさらに笑みを深めた。

 

 

ーーーーー

 

 戦闘の講評が終わったあと、僕は保健室を訪れていた。僕自身の怪我もあるが、それ以上に痛めつけた障子に付き添うためにだ。

 

 あれだけのことをしたので嫌われたかもと思ったが、障子はガタイの良さからくる威圧感に反して、とても気のいいやつだった。逆に戦闘中に考えてたことなどを聞かれた。それらに答えていくうちに、半ば反省会のような会話になっていった。

 

 また、障子の怪我には深刻なものはなく、リカバリーガールの治癒で全て治ってしまった。

 

 

 そんなこんなで一日を終え、帰りの電車に乗り、途中のコンビニでアイスを二本買って、その日は家に帰った。

 

 リビングで買ったアイスバーをかじっていると、まだ七時を回ったばかりだというのに、珍しく姉さんが帰ってきた。

 

 まだ帰ってくるとは思っていなかったので、急いで夕飯の支度をしながら、今日あったことを姉さんに話した。

 

 クラスでのこと、授業のこと、そして訓練のこと。

 

 轟の凍結で両足が凍った話では、訓練をつけたそうな顔をしはじめたので、完全にやぶ蛇だと思った。

 

 

 そうして夕飯を作って、いっしょに食べた。その日はシチューだったが、珍しく姉さんと一緒に食べられたので、いつもよりなんだか美味しい感じがしたし、何よりも楽しかった。

 

 戦闘訓練はつかれたし、姉が特訓したそうな顔をしているのは不安だが、毎日がこんなふうに過ぎていてくれたらなとも思った。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。