もしもミルコに義理の弟がいたら。   作:檸檬ソーダ

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ヴィランとの邂逅

 

 

 

 「...逃げなさい、カオーー」

 

 

 

 

 こっちを向いた母さんの、目を見開いて焦ったような顔が、僕が見た母さんの最後の顔だった。

 母さんがすべて言い切る前に、その体は内側から破裂した。夏祭りのヨーヨーが割れるみたいに。

 

 

 

 飛び散った血が床、壁、天井までもを汚し、そのうちのいくらかが顔にかかった。

 

 あまりの出来事に、現実が受け止められない僕は、カーペットに血をしみこんでいくのをただただ眺めていた。

 

 

 「せっかくだし、一応息子の個性も見ていくとしよう」

 

 

 目の前の黒いスーツの男が、父さんと母さんを殺したその男がそう言った。ぞっとするような低い声で。

 

 それほど遠くもない距離をゆっくりと近づいてくる。僕はその男の目を、家族を殺した男の目を、その時初めて見た。

 

 

 そして僕は...

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 「また奪いに来たのか...」

 

 

 忘れようとした記憶が呼び起されていく、鮮明に、そして鮮絶に。

 

 黒い靄から続々と出てくる敵たちを前にして、13号と生徒に対して非難の指示を出す相澤。そうして自身は敵の集団に突っ込んでいった。

 

 首に巻いていた布をロープのように器用に使い、次々と敵を制圧していく相澤先生。その戦いぶりは、彼がプロのヒーローであることを納得させるような洗練さを感じさせた。

 

 

 「私たちは早く逃げましょう!」

 

 13号の指示で、一斉に施設の出口に駆け出すクラス一同。しかしその行く手を暗い靄が阻む。

 

 「させませんよ」

 

 黒い靄の中心にいた、靄のと使い手と思われる敵は「オールマイトを殺すためにここに来た」と言い放った。緊張した空気が流れる中、爆豪が手を振りかぶり、切島が個性で腕を硬化させて、靄の敵に対して攻勢に出た。

 

 爆発音が響き、煙が二人と敵を包む。しかし、並みのヒーローだったら倒せてしまうんじゃないかと思えるほどの攻撃を受けても、敵は健在だった。それどころか傷の一つも付いたようには見えない。

 

 13号が二人に離れるように言ったとき、黒い靄にも動きが見えた。黒い靄はあっという間に広がっていき、僕やクラスメートたちを包んでいく。

 

 視界が真っ黒に染まる。そして黒色が見えなくなったとき、僕はUSJ内の市街地にいた。いたるところで火災が起きており、熱気でじんわりと汗が出てくる。

 

 ここがおそらくUSJ内の区画の一つだろうと気づけたのは、あたりに敵と思われる人影があったから。およそ十人ほどの集団だ、きれいに僕を取り囲んでいる。

 

「なんだよ、ひとりだけかよ!」

 

 敵の中の一人がそんなことを言った。下卑た笑いを浮かべて。

 

 こいつもそうだが、一見して強敵とわかるようなやつはいなそうだ。例えば姉さんみたいな。

 

 「おっさんたちどうせただのチンピラだろ?」

 

 「おっ...なめてんじゃねえぞガキがっ!」

 

 そう言いながら激高して殴りかかってくる敵。振りかざした拳にはとげのようなものが生えていた。

 

 (チャージ90%...!)

 

 あえて踏み込むことでタイミングをずらし、アッパー放って顎を砕く。それを隙だととらえたのか、次々に敵が襲ってくる。対して僕は、一人、また一人と時にはリバーサルで攻撃を受け流し、また時にはインパクトでそれらを適切に対処し、次々と無力化していく。

 

 当初の見立て通り、大した奴はいなかったようで、3分とかからずに全員の無力化に成功した。

 

 

 ふう、と呼吸に一息入れ、チャージの出力を落とし、次の行動を考える。ほかに飛ばされたであろうクラスメート助けに行くべきか、広場に戻るべきか。

 

 

 この程度の敵ならみんなの脅威にもならないか。と中央広場に向かおうと決めたとき。後頭部を強い衝撃が襲った。

 

 「っっ!!」

 

 

 

 飛びそうになる意識を何とかつなぎとめる。

 

 上体が前に倒れるのを感じながら、ちらりと後方を確認すると、そこには大学生くらいの、黒い髪の女が立っていた。

 

 倒れる体を、片足を一歩前に出すことで何とかこらえ、女に向き直る。グラグラと頭の中が揺れて、臨戦体制をとるので精いっぱいだった。

 

 「おもいっきり殴ったんだけどなー、君頭かったいねー」

 

 そう言って女は、手のひらから伸びた刀、いや殴ったという言葉が正しければ、鉄の棒を構えなおした。

 

 チャージで身体を強化していたとはいえ、先ほどの衝撃は相当で、頭はいまだにかきまわされているようだった。できるだけ回復に時間が欲しい。

 

 「まだ残りがいたんだな。不意打ちとは随分じゃないか」

 

 「人聞きが悪いなぁ。私はただ君の戦いぶりを、その鬼神のごとき戦いぶりを"観察"し終えたから、油断した君の後頭部に一撃くわえただけだよ?」

 

 

 「それを世間一般では不意打ちと呼ぶんだろ」

 

 

 まだ時間を。  

 

 

 「そのあんたの刀。相当なまくらか?」

 

 女の右手のひらから伸びてるそれを指さす。

 

 

 「あーこれ?...本当は十分な切れ味だったんだけど、確かに、人が切れるって代物ではないよね」

 

 

 面白いよね。と薄ら笑いを浮かべる女。笑顔は人を幸せにするというが、こいつの笑顔からは不吉な感覚しかしなかった。

 

 

 それにしても、と女が続ける。

 

 

 「君の個性、すごいおもしろい。ざっと観察しただけでも、身体強化。攻撃の反転。そして衝撃の放出。こんなきれいな個性の人なかなかいないよ」

 

 不気味な笑みを強める女。

 

 

 「お姉さん、君の事ちょっと好きになっちゃったかも」

 

 

 冷たい声色に、背筋がぞっとするようだった。

 

 

 「笑えない冗談だね」

 

 

 女はクスッと笑いながら

 

 

 

 「冗談だったら、こんな時間稼ぎなんかに付き合ってあげてないよ」

 

 

 その言葉に、またひやりとした。だが頭のダメージはもうほぼ回復していた。

 

 

 「付き合ってもらったところ悪いんだけどさ、あなたを倒させてもらうよ。ヒーローの卵として」

 

 戦いに備えるように、チャージの出力を高める。

 

 

 「ならもっと見せてよ。君の個性」

 

 

 その言葉を合図にして、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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