そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。
実は番外編抜いたらこの話が百話なんですよね。だから前々回お祝いしなかったんです。
一度、一年ほど放置してしまいましたが、暫くは続けていこうと思います。これからも不定期更新になりますが、よろしくお願い致します。


悪よ、退け。

SAVER。

一年前より活動を始めて以来、日本を中心に世界を股にかけ、活躍するヴィジランテ。

超常社会となった今でも不可思議と言える事件には必ずと言っていいほどに関わり。

日本に巣食っていた異能解放軍を白日の元に晒し、壊滅させ。i・アイランドに大挙して押し寄せた敵性国家とフィクサーの手の者を撃破した。

その対価は、世界中から犯罪者として身柄を狙われる立場。「英雄」として彼を祭り上げる風潮が少し前から蔓延しているが、本人はただ己の正義を執行することにしか固執しない。

 

ボク…飯田天哉から見た「SAVER」という存在は、「目指すヒーロー像の対極」だった。

己が正義のため、秩序を好き勝手に乱し、己を通すためだけにヒーローという存在を軽くしていく。

その所業は、秩序の番人であり、皆の模範として生きるヒーローたちに失礼極まりない。

模範として在るべきを捨て、エゴだけを信じて突き進んだ果ての姿だと、反面教師として見ていた。

 

そんな存在が、この狂気の世界へと足を踏み入れる。

仮面に包まれて表情は分からないが、機械越しの声音は酷く冷たいながらも、煮え滾るような熱が篭っていた。

 

『彫下鳴子。貴様の悪を砕きに来た』

「あれぇ?なんで私の名前を知って…」

 

瞬間。悪魔の顔を、静かな、しかし荒れ狂う怒りを乗せた拳が捉える。

衝撃波が部屋を揺らし、風が肌を撫でる。

吹き飛んだ悪魔から離れた彫刻を、彼は優しく受け止めた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

『なんや、急に連絡寄越して。

ウチは今ピラミッドから見つかったロストテクノロジーの解明に忙しいんです〜』

「話くらいは片手間に出来るでしょう?」

 

パソコンに流れる映像を傍で見守りながら、通話の向こう側にいる自由人を問い詰める。

そらさんから依頼を受け、今回の事態に至っても傍観を決め込んでいる。コイツのことだ。彫下鳴子が何をしでかすかは、大体検討が付いていたのだろう。

それでも僕たちに黙っていたのには、何かしらの理由があるはず。琴葉茜という人間はそういう人間だ。

僕の怒気が伝わったのか、『んな怖い声出さんといてぇな、泣くで』と付け足し、語り始めた。

 

『彫下鳴子がやらかすんは、昨日気づいたところや。厄介なんは…』

「それを『隠蔽する誰か』がいる…ってことですね。君も手こずるような相手が」

 

僕が問うと、茜さんは「話が早くて助かる」と笑った。

 

『…覚えがあるんは、フィクサーやな。

あのファイアウォールの癖、隠蔽の癖もほぼ間違いない思うで』

 

フィクサー。その名前を、ここ数ヶ月で何度聞いたことだろうか。

つくづく彼らと縁があるな、と思う傍、逸れた話題を軌道修正し、本題に戻る。

 

「君が黙っていたワケは、それだけではないでしょう?」

『…まーな。エジプトで見つけたロストテクノロジーに関係するんやけど…これコウくんに言ってもわかるやろか…?』

 

はて、何故そこでエジプトが出るのか。

僕が訝しげに眉を顰めたのが透けて見えているのだろう、茜さんは仕方ないと言わんばかりにため息を吐いた。

 

『アケト・クフって知っとるやろ。クフ王の眠るっちゅう言われとるピラミッド』

「ああ、メリッサ・シールドさん共々好き勝手漁りまくった」

 

…本当にエジプトに目の敵にされてもおかしく無いんじゃなかろうか、コイツ。いや、今更か。裁こうとしても裁けないから、野放しにされてるんだし。

十分足らずでホイホイ脱獄されるタルタロスの職員も大変だな、と同情を向けながらも、意識を茜さんの話に向ける。

 

『……あんな、その…。癪やけどな…。プライドズタズタにされてホンマに腹立つけどな。

ウチもマジで混乱しとるさかい、推測でもの語ってもなんのこっちゃ分からん思うから、あったことだけ話すわ』

 

────王の部屋の奥に、イズクメタルに近い金属が使われとる部屋があった。

 

その言葉に、僕は手に持っていた携帯を思わず落とす。

SIMカード…知らないうちに変人たちによって魔改造されていた…に変に傷が入っても大変だ。いつまでも抜けない貧乏性が本能に染み付いていたのか、反射的に地面に落ちる前の携帯を掴み取る。

茜さんが向こう側にいる携帯を耳元に戻すまでの数秒で、僕は心を落ち着けた。

 

「……で、そっちはオマケですよね?」

 

現時点では、彫下鳴子とイズクメタルに関連性は全くと言っていいほどない。加えて、エジプトにあるアケト・クフに至っては、渡航歴がない彫下鳴子と関係があるとは、とても思えない。

少々面食らったが、本題となんら関係のない話をされても、今に限っては何の足しにもならない。

 

『おう。本題の方やけど、その部屋で日記みたいなモン見つけたんや。

そん中に、今回の件に関わりありそうなブツのことが書かれとる』

「なんと?」

『えーっと、「バジリスクの瞳」。触れた人体を石化させる人工個性を搭載した宝石。

目的は「生体保存」やとさ。要するに、持ち歩ける冷蔵庫。保存するのは人間やけど』

 

ふむ…。漫画で見たような気がするな。

そんなシロモノが、欲に塗れた個人の手に渡っていると考えるとゾッとする。

 

「コールドスリープみたいなモンですか。

…昔の漫画にそんなのありましたね」

『参考にしたって書いとるで』

「そうです……か…。……いや…、ん…?

…………えっと……、え?は???」

 

確かあの漫画って、超常黎明期以前に連載していたよな…?

そもそも、漫画という文化が産業として発展したのが近代なのだ。『参考にした』という物言い自体がおかしい。

一体どういうことだ、と思考の海に潜りかけるも、僕の頭では最適解を導くのは不可能だと断念する。

 

「…取り敢えず、奴に触れるな、とだけ伝えればいいですね」

『せやな』

 

頑張ってくれ、緑谷くん。

生きたまま彫刻になった生徒なんて、僕は死んでも見たくない。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

捕われの身となった飯田くんたちの保護を、麗日さんと轟くん、ずん子さんに任せ、残ったメンバーは全員が吹き飛んだ彫下鳴子を前に構えを取る。

乗り込んだメンバーは僕、かっちゃん、轟くん、麗日さん、切島くん、あかりちゃん、ずん子さんの七人。奥さんと京町さんは、ヒーローたちの監視に付いてもらっている。

相手は人工個性に連なる何かを有している。並みのヒーローでは太刀打ちできない。i・アイランドの事件がいい例だ。

少なくとも、海外のトップ10クラスの実力者でなければ。

 

「邪魔しないでよ…。今良いところだったんだよ…?この子たちが一番綺麗になるところだったのに…」

『お前の悪趣味に付き合うつもりはない。

さっさと倒れてもらおうか』

 

気絶するほどの力を入れたはずだが、何か細工したのだろうか。

彫下鳴子の顔は赤くなるどころか、無傷の状態だ。全然効いていない。

小細工を暴くのが先決か、と思っていると。彫下鳴子が『あるもの』を取り出したのが、見えてしまった。

 

「邪魔だから、いらない子と相手しててよ」

 

見覚えのある注射器にラベル。間違いない。

フィクサーが売り捌いている、人工個性が入った注射器だ。

それも一本じゃない。ざっと見るだけでも、七本はある。

僕たちが止めようと駆け出すも既に遅く。彫下鳴子が投げた注射器が、周囲に佇む彫刻に突き刺さった。

 

「くひっ、ひひっ、ひひひっ…、あははははははっ!!

これよ…。これさえあれば私の芸術には、命が宿るのよ…!!」

 

どこまで命を侮辱すれば気が済むんだ、コイツは。

怒りを無理矢理に押さえつけるように、ギリッ…、と歯を食いしばり、動き出す彫刻を前に構えをとる。

 

「なっ、な…、何が…起きて……?」

「今はここから逃げるのが先!!」

 

解放された飯田くんが呆然と呟く隣で、憔悴した桜乃さんを背負ったずん子さんが喝を飛ばす。

が。彫下鳴子がその声によって2人の逃走に気づき、怪しい光の灯る瞳を向けた。

 

「どこに逃げるのぉ…?」

『コキュートスフォートレス』

 

轟くんの声で発生した氷の壁が、三人が登る階段と部屋を隔てる。

これで追えないだろうと安堵が沸いたものの、現実においてそんな甘いことはなく。

彫下鳴子がソレに舌打ちし、彫刻になんら関係の無さそうな絵筆を取り出した。

 

「『縮小』」

 

瞬間。轟くんの展開した氷が、軒並み小さく縮む。

彫下鳴子が防壁のなくなった階段を駆け上がっていく。慌てて彼女を追いかけようとするも、動く彫刻たちがソレを許さないように、その前に立ちはだかった。

僕が拳を握り、力を入れた瞬間。轟くんとかっちゃんの蹴りが彫刻を吹き飛ばす。

 

『デク、さっさと行け!!』

『ごめん!!ありがとう!!』

 

階段を猛スピードで駆け上がる彫下鳴子に追いつくべく、ブースターを起動させ、階段の上を飛んでいく。

その気配に気付いたのだろう。彫下鳴子が忌々しげに「しつこいなぁ」と呟き、小さな氷を投げ捨てる。

 

「『アンドゥ』」

『がっ!?』

 

瞬間。先程の氷の防壁が僕を押し上げ、天井へと叩きつけた。

彫下鳴子の手には、先程の絵筆が握られている。あの絵筆に何かあると考えた方が良さそうだ。

力任せに氷を砕き、拘束を脱する。

あの時展開した氷の防壁は、全部で三つ。後二回は妨害があるだろう。

しかし、止まっていられない。彼女に追いつかれたら負けが確定する。

 

「『アンドゥ』、『アンドゥ』」

『パソコンかよ…!!』

 

迫り来る氷の防壁に、愚痴をこぼす。

投げた勢いのまま元の大きさに戻されるのは面倒だ。

戻る速度が1秒足らずというのも、なかなかに厄介だ。処理速度はパソコンと同等と見て良いだろう。

注意すべきは、彼女の口元の動き。絵筆を使うためのトリガーか、単なる合図なのかは分からないが、警戒するに越したことはない。

 

『ジャスティス・ブロウ!!』

 

二発の拳で、二つの防壁を破壊する。

彫下鳴子たちは、もう外に出ている。捕まってしまう前に早く追いつかなければ。

ずん子さんを失うことになれば、きりちゃんは確実に壊れる。それを覚悟しながらも、きりちゃんは、立ち向かうことを選んだずん子さんを送り出した。

いくら力があるとは言っても、スーツが間に合わず、最低限の安全も保証されていないずん子さんには限界がある。

彫下鳴子には追いつけず、埃まみれの家へと戻ると、玄関が開く音が響く。

 

「無駄、無駄よ…。私には、最高傑作のこの子がいるんだからぁあああっ!!」

 

瞬間。埃と木材が弾け飛び、地中から怪物が迫り出した。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

村一つを覆い尽くすほどに巨大な彫刻の怪物が唸り、その場にいる全員に絶望を齎す咆哮を上げる。

ソレを前にして、桜乃そら、飯田天哉の二人は、恐怖に足が竦んでいた。

ざっ、ざっ、と霜柱が折れる音と共に、絶望の体現たる女が、笑みを浮かべて迫る。

 

「さぁ、綺麗になろぉ…?私が永遠に生かしてあげるからぁはははは、ひひっ、くひひは、あはははははっ!!!」

 

その笑い声に呼応するように、怪物がその巨腕で退路を防ぐ。

四面楚歌。あまりに希望の見えない状況に、そらが口を開こうとしたその時。

ずん子がその前に立ち、静かに叫んだ。

 

「あなたの言う芸術は、世界で一番醜いわ」

「……………あ゛?」

 

ドスの効いた声で威圧を向ける絶望に、ずん子はたじろぐことなく弓を構える。

 

「本当の芸術は、人の心を豊かにしてくれる。人の心を前向きにさせてくれる。人の心に悲しみを教えてくれる。人に何かを慈しむ心を与えてくれる。

少なくとも、桜乃さんが書いた小説は、全部がそう」

「………黙れよ」

 

薄らと東北きりたんの影が、ずん子の視界には見える。

言いたいことは、全部吐き出す。妹の力を借りて、ずん子はこの場に立っていた。

 

「あなたの芸術はどう?誰も彼もが気持ち悪いって言って近づかない。

同情なんてしないわ。当然のことだと思う。

人の命を悪用して生み出した芸術なんて、誰かが認めるわけがないもの」

「あーもぉ、ほんっと…うるさいなぁ…。

黙れ…黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ死ね死ね死ね死ね死ねみぃいんな死んじゃえぇえええええっ!!!!」

 

否定の言葉を拒絶し、狂乱する女。

呼応するように、怪物が暴れ、ずん子たちに迫る。

が。その前に緑の一線が走り、怪物の一部を粉砕してみせた。

 

「やっぱり、私じゃ力不足でしたね。

『緑谷くん』。あとは頼みますね」

『ええ。任されました』

 

その後ろ姿は、赤のマフラーにシンプルな出来のヒーロースーツ。

飯田には、仮面に隠れて見えないはずの顔に、浮かぶ笑顔が見えた。

 

「緑谷…だって……?何故、何故君が…!?」

『これでしか、救えない人がいるから』

 

緑谷はそれだけ言うと、ボイスチェンジャーを切り、癇癪を起こす女へと視線を向ける。

そして指を向け、叫んだ。

 

「悪よ、退け…!僕がヒーローだ…!!」




『我の拳が悪を砕く』よりも、『悪よ、退け』の方が決め台詞にぴったりな気がしたので、こっちにしました。個人的に、百話のシメにちょうど良いと思ってます。
…この章、次回で終わりに出来るかな…?2年生編はなるべく駆け足で行きたいの…。
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