そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


愛と調和と宇宙人
運命的邂逅


「雄英体育祭、人数分のチケット取れましたよ」

「先生大好き!」

「その愛の告白はやめてください。あかりさんがすごい顔してこっち見てますから」

 

ヒラヒラと人数分のチケットを見せて報告すると、緑谷くんが僕に向けて平伏する。

まさか同性の生徒から告白される日が来るとは、思いもよらなかった。

僕は二枚のチケットを二人に差し出し、二人の名簿欄にチェックを入れる。

この一年ですっかり大所帯になったなぁ、などと思いつつ、僕は寛いでいるつづみさんに目を向ける。

 

「しかし、意外でした。つづみさんも『見たい』と言い出すなんて」

「私の教え子が出てるのよ?見に行かないなんて、生徒に失礼じゃない」

「教え子…、ずん子さんですか。

……あれ?3年の部で普通科って、参加してましたっけ?」

「してるわよ。大学受験に必要な内申点貰えないから」

 

雄英高校の闇を見た気がする。

多分、練磨されたサポート科やらヒーロー科やらの活躍に飲まれ、僕たちみたいなパンピーの印象に残ってないんだろうな。

普通科に勝ち目なんて万に一つもない時期なのだから、予め参加するかしないかのアンケートでも取っておけばいいのに。

そんなことを思いつつ、僕は無糖のボトルコーヒーを呷る。

 

「国立で『自由な校風』なんて謳ってるんだから、もう少し融通きいても良いと思うんですよね。

内申点の評価には確かに、『行事への参加態度』って項目はありますけども…」

「雄英体育祭は単なる学校行事ではなく、就活も兼ねてますからね。正直、普通科は参加希望型にした方がいいかと。

1、2年はまだ転科の希望があるからマシですけど、3年だと参加のメリットが少なすぎる。下手すりゃ大怪我ですし」

 

まぁ、こんなアパートの一室で愚痴っても仕方ないんだが。

緑谷くんとそんなやり取りをしていると。

ふと、つづみさんがくっ、くっ、と喉を鳴らし、不敵に笑って見せた。

 

「今年の3年は面白いわよ?」

 

その言葉で全てを悟った僕は、胃に走った痛みに顔を歪めた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「やっぱり、3年の普通科のエントリーって必要なの?

受験控えてるから、余計な怪我したくないって、結構な生徒が言ってるけど」

 

体育祭を二週間後に控え、教職員数十名が準備に奔走する中。

高校にいてもいいのかと甚だ疑問を抱かれる女教師…、18禁ヒーロー「ミッドナイト」が、隣に座る相澤に問いかけるように呟く。

彼女が今年担当している普通科は、例に漏れず、ほとんどの生徒が「体育祭に参加したくない」と訴えかけている。

「内申点がもらえると思って…」と説得した回数は、もはや3桁では済まされない。

たった20名のクラスだと言うのに、5倍近い回数相談されるくらいには、3年の普通科には嫌なイベントらしい。

3年ともなると転科も絶望的なので、正しい認識ではあるのだが。

 

「言い方は悪くなりますけど、引き立て役って必要じゃないですか。

お国様はそう言いたいんですよ、きっと」

「そうは言うけどねぇ…。

文句を言ってこないのなんて、桜乃さんと東北さんくらいよ」

 

相澤の捻くれた物言いを訂正する気にもなれず、ミッドナイトは伸びをしながらこぼす。

彼女の口から出た名前に、相澤はパチクリと目を丸くし、首を傾げた。

 

「珍しいですね。無個性の普通科ともなれば、声高々に不満をぶち撒ける生徒が多い印象でしたけど」

「私も聞いてみたんだけどね?

上手いことはぐらかされちゃって…。

お手製ずんだパフェは美味しかったし、未公開作品で1時間潰したわ」

「この忙しい時に何やってんだアンタ」

 

絶対零度の視線が、ミッドナイトに突き刺さった。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「体育祭…。そうか、もうそんな時期か。

早いもんだなぁ」

 

折寺にあるサウナにて。暇を潰すために備え付けられたモニターに映るコマーシャルを見て、オールマイトが呟く。

すっかりおじさんになったせいか、時の流れが早いように感じる。

ハリのある麗しい肌は健在だが、よくよく見るとちょっぴり皺がある。

自分も老けたな、などと思いつつ、オールマイトは隣に座る少年たちを見やった。

 

「……おい、爆豪。話しかけろよ」

「死んでも話しかけねぇ…!ミーハーがいっちゃん記憶に残らんだろォが…!!」

「話しかけないと記憶に残るとかそういう土俵にも立てねーだろ…」

「というか、オールマイトもオフだろう?

ここは同じ客として、プライベートな時間に突っ込むようなことはしない方が…」

 

そこには、爆豪、轟、切島、飯田の四人が、なんとも言えない表情でオールマイトをチラチラと見ていた。

こういうファンは少なくない。

プロヒーローとして…いや。平和の象徴として恥ずかしくない姿を見せるため、ファンサービスはきちんとしなければ。

オールマイトはホワイトニングが行き届いた、驚くほどに真っ白な歯を見せ、ニッコリと笑って見せる。

 

「ごめんね!こんなゴツいおじさんがお隣にお邪魔しちゃって!

この鍛え上げた体はもちろん自慢だけど、こういう場所では恨めしく思うよ!」

「い、いや、全然!憧れのオールマイトとご一緒できて光栄っす!」

 

切島が慌てて返すと、オールマイトは「そう言ってもらえると嬉しいよ」と笑う。

一見、まだ成長期の子供らしく見える体躯だが、マジマジと見ると、恐ろしいまでに鍛え上げられているのがわかる。

例えるならば、研ぎ澄まされた刀のようだ。

 

「よく鍛えられてるね…。

この年の子供にしては珍しいけど、何かスポーツでもしてるのかい?」

「ヒーローを目指すにあたって、恩師のツテでいろんな人に鍛えてもらってるんすよ。

それが軒並みべらぼうに強くって…」

 

切島は言うと、今頃ケーキバイキングに出向いているであろう師を思い浮かべ、どこか乾いた笑いを浮かべる。

その瞳は奇しくも、オールマイトがグラントリノのことを思い浮かべる時の表情にそっくりであった。

 

「その恩師さん、ぶっちゃけヒーローだったりする?」

「いえ、普通の小学校教員ですね。

……いや、アレを普通と言っていいのか?」

 

飯田は言うと、小首をかしげる。

オールマイトがソレを疑問に思っていると、爆豪が口を開いた。

 

「鈴木つづみの旦那って言やァわかるか?」

「ぶーーーっ!?」

 

吹いた。思いっきり吹き出した。

切島は「言ってしまった」と言わんばかりに目を見開き、愕然とする。

オールマイトもその言葉は予想外だったのか、「え、え?え!?」と狼狽え始めた。

オールマイトからすれば、男根しか情報のない男であるため、仕方ないことではあるのだが。

 

「二人揃って性格悪ィからな。自分じゃ無理だっつって、生きづらい世界を変えてくれーって若人に責任丸投げしやがる。

…言われるまでもねェけどよ」

「まぁ、俺みたいな複雑な家庭環境のガキを、親諸共叱り飛ばすような先生だ。先生なりに、世界をより良い方へ変えようとか思ってるんじゃないか?」

「……そ、そうか。…うむ。

二人とも、立派な教師なのだな」

 

この奇妙な邂逅に、オールマイトは思わず笑みを浮かべた。

 

「…よし!私も頑張って、未来の平和の象徴を育てる先生になっちゃおうかな!」

「「どこ校だ?絶対通う」」

「食い気味!!」

「緑谷といい、オールマイト大好きすぎだろ、お前ら…」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「……で、どういう風の吹き回しかな?

黎明期の魔王様?」

 

とある山奥にて。顔が原型を留めず、髑髏のような仮面でソレを覆い隠した男が、フィクサーの前で微笑む。

フィクサーもまた、表面上の笑みを崩さないまま、敵愾心を剥き出しにして問い詰めた。

 

「惚けてもらっても困るよ、フィクサー。

僕たちは『ともだち』じゃないか」

「ともだち?ともだちねぇ…。

ともだちっていうのはさ、『僕の部下の個性を軒並み奪った男』が言うもんじゃないと思うよ」

 

フィクサーがその喉元を、爪で掻き切る。

その程度の攻撃が通じないことは百も承知。

挨拶がわりにと繰り出した攻撃で裂けた喉元が、なんともグロテスクな音を立てて戻っていく。

フィクサーはそれに呆れながら、彼のマスクを破壊した。

 

「僕の協力者を全員手駒にして、礼の一つも寄越さない君も同罪だろう?

僕の方が良心的だ。…だから、こうして手土産を持って来たんじゃないか」

「手土産…、手土産、ねぇ」

 

フィクサーは男の背後に佇む、脳が剥き出しになった怪物を見やり、ため息をつく。

 

「勝手に人工個性を組み込んで、無理矢理に安定化させた怪物が…、手土産?

おいおい、技術盗用にも程があるだろ」

「でも、君にはない技術だ」

「ない…?ないだって…?

違うな。『やらない』んだよ。何度かやったが、一番出来がいいのに逃げられ、残ったのは自分で考える脳もないボンクラだけ。

アレはコストに比べて極端に効率が悪い」

 

思い浮かぶのは、ガラス張りの部屋の中で佇む、白い髪の少女。

あの時は時代が時代だったために、碌に周囲の教育も出来ず。結果として、切り札は手元から離れていってしまった。

男はソレに嘲笑を浮かべ、残った口を開いた。

 

「その逃げた奴は、あの『キズナ』とかいう怪物なんだろう?

ドクターが欲しいと騒ぐからね。捕獲に協力してあげようか?」

「……どこまで解ってる?」

「さぁ、ね?少なくとも、『君の知る僕』よりも、僕はもっと、ずっと、遥かに強いってことは言えるかな?

『君が恐れる者』こそが僕だと断言できるくらいには、ね」

「おい。誰から聞いた?」

 

フィクサーが珍しく怒気を放ち、したり顔の男に詰め寄る。

男は惚けるように肩をすくめ、にっこりと笑った。

 

「『前の僕』に感謝しなくちゃね。

便利な『個性』だ。さすが、君が必死こいて『作った』だけはある」

「……ああ。そうか。それじゃあ、殺しても無駄だな」

 

フィクサーは言うと、どさり、とソファに崩れ落ちる。

さまざまなプランが頭を駆け巡る中で、フィクサーは男に向けて告げた。

 

「で、お喋りに来たわけじゃないんだろ、オール・フォー・ワン。要件は?」

「なぁに、簡単なことさ」

 

────去年の夏。ヤツを治したように、僕を治療してくれないか?

 

フィクサーは気づいた。

コレから先、この男がより強大になって、彼らの前に立ちはだかるであろうことを。

この男が、自分が知るソレより、遥かに強くなっていることを。




ヒント…ずん子は素手でかっちゃんを張り倒せる。

AFO…ようやく登場した原作ラスボス。顔面吹っ飛んだ時点で多分原作より5倍くらい個性をストックしてる。この世界、これ倒したバケモンがいるらしいぞ。どこの何マイトなんだ…?
因みに、デビュー当時の象徴であれば瞬殺できた。

オールマイト…この時、既に雄英教師のオファーは貰ってる。予知の件もあるので、どうしよっかなーと迷ってたが、今回の邂逅で「私も先生になる!」と決意した。尚、あり得ないほど教師に向いてないので名教師にはなれない模様。
なんで5倍くらいパワーアップしたラスボス相手に、原作と同じレベルの負傷だけで済んだんですか…?

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