すっごいデカいヒント出しちまっただ。
「…3年の部って、プロが観に来ることが多いんですね。あ、エッジショットだ」
「そりゃあ、卒業したらサイドキックとして正式に雇えますからね。
あとは、インターンで面倒見てる子とかの集大成を見に来たのかと」
売店で買ったたこ焼きを頬張りながら、緑谷くんとそんな会話を交わす。
既に観客は席に着いており、今か今かと開始の時刻を待っているのが見える。
僕からすれば、興味もないオリンピックを、家族が進めるからイヤイヤ見ているような気分なのだが。
まぁ、面倒なルートを経由してチケットを手に入れたのだ。お祭り感覚で楽しんでおけばいいだろう。
そんなことを考えていると、解説席に座った、なんとも刺激の強い格好のヒーローが声を張り上げる。
『待たせたわね、紳士淑女諸君!!
旅立つ前のヒヨッコ共、最後の晴れ舞台!!3年にわたる濃密な青春が交錯する雄英体育祭、これより開催よ!!』
3年の部のパーソナリティはミッドナイトか。
教育委員会は、公序良俗的にどうかと思うアレを完全に放任する方針なんだな。プロヒーローの肩書きって強い。
そんなことを思いつつ、行進する生徒たちを見やる。
いくら自由な校風とは言え、「流石に行事くらいはきちんとしろ」という教育が行き届いているらしい。
なんともダサいデザインの体操服を着用し、規律正しく並ぶ生徒たちを観客が見守る。
そんな中で、枝豆のような形のカチューシャが揺れ動くのが見えた。
「ずんちゃーん!ファイトですわー!!」
「フレー!フレー!ず・ん・ちゃん!!」
「ずん姉様ーっ!!」
「……席、離れていいか?」
東北一家が全力で応援してる。なんだその法被とうちわと旗は。
クソガキまでも必死こいて応援してる。
家族仲良しなのはいいことだと思うが、シュールな光景であることには変わりない。
隣に座る爆豪くんが、羞恥からか死にそうな顔してる。
僕も確かにアレは恥ずかしいが、東北一家がこうも応援したくなる理由も分からないでもない。
僕は顔を真っ赤にして震える爆豪くんを、軽く宥めた。
「今の今まで離れて暮らしてたんです。
高校最後の体育祭くらいは応援してあげたい…という気持ちくらいは、汲んであげてもいいのではないですか?」
「……チッ」
そう言われると弱いのか、舌打ちして会場…特にヒーロー科の生徒を観察する爆豪くん。
緑谷くんもまた、ヒーロー科の生徒たちの体躯を見て、ブツブツと考察を繰り広げていた。
「…で、目の肥えた君たちからして、今年のヒーロー科はどうなんですか?」
考察厨を無視し、僕は抹茶ラテを飲む飯田くんへと話を振る。
飯田くんもヒーロー科の観察はしていたようで、少しばかり悩んだ後、口を開いた。
「ボクはまだ新参者だが…。かなり練磨されているように見えるな。
サイドキックどころか、いきなり事務所を構えてもおかしくない実力者が…、うん。そうだな。3人ほどいる」
「雄英ビッグ3…とかいう、いかにもっつー肩書きがあるとかネットで見たな。
粗くはあるけど、その3人はいつでも入れる動きをしてるぜ」
「そんでも、やっぱ学生だな。入り方がパターン化してるぞ、アレ。
どう動くか、俺らからすりゃモロバレだ。個性が初見殺しとか、不意打ち無効とかじゃなきゃ、生身のデクでも勝てんだろ。
今のままだと…、そうだな。良くても2流ヒーローがいいとこだ」
爆豪くん、すごい辛口だな。
ヒーローを目指したことのない僕からすれば全くもって解らないが、概ね皆も同意見だったらしく、複雑な表情で頷いていた。
と。そんな空気をぶち壊すように、あかりさんの腹から、獣が唸り声を上げる。
「……イズクくん、お腹空きました」
「えっ、今!?……種目まで…、あと15分くらいならいけるかな?
あ、ちょっと行ってきます」
緑谷くんは言うと、財布だけ持って、あかりさんと共に立ち上がった。
これが、大波乱の幕開けとは知らず。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ふぅ…、小腹は埋まりましたね…」
「……これで、小腹…?」
半分が消し飛んだ財布の軽さに愕然としながら、僕は満足そうにお腹をさするあかりちゃんを見やる。
この眩い笑顔があるから、僕も母さんもつい甘やかしてしまうのだ。
戦ってきた分だけ飢餓を強く感じ、その分補給しなくてはならない体とは言え、流石に一年近い年月が経っても満たされないのは流石におかしい気がする。
…いや。この満たされない飢餓こそが、彼女の過去の凄惨さを語っているのだ。変に茶化すのも良くない。
そんなことを思っていると。
ふと、あかりちゃんの瞳が、晴天へと向いた。
「……なにか、来る?」
その瞳が向く方向に、僕はお手製の携帯を取り出し、特殊カメラをオンにする。
しかし、カメラ自体には何も映らず、ただ晴れ渡った空模様だけが佇んでいた。
「…レーダーには何も映ってな…」
と。僕が言いかけたその時。
なんとも摩訶不思議な音を立てて、ふよふよと光が降りてきているのが見えた。
僕もあかりちゃんも、あまりの光景に唖然とし、目を丸くする。
きっと、空いた口が塞がらないとは、こう言うことを言うんだろうな。
どこか他人行儀にそんなことを思いながら、降り立つ光を見つめる僕たち。
何かの攻撃かも知れない。僕たちはそう判断すると、いつでもスーツに着替えられるよう、携帯を構えた。
「……人?」
よくよく見ると、光の中に、二人の人間かのような影が佇んでいるのが見える。
警戒するに越したことはない。
ゆっくり、ゆっくりと光が収まっていき、そのシルエットが浮き彫りになっていく。
そこに立っていたのは、細く、現実離れした美しさを持つ、同い年くらいの少女が二人。
少女の一人がゆっくりと閉じた瞳を見開くと、僕に向けて、満面の笑みを浮かべた。
「イズク!久しぶり!」
「は?」
顔も名前も知らない少女が、凄まじい勢いで駆け出し、僕を抱きしめる。
僕が湧いては消える疑問を浮かべる中で、ふと、あかりちゃんを見やった。
「イズクくん……?」
あかりちゃんの絶対零度の視線が、僕に突き刺さった。
違う、違うんだ。僕、この人のこと何にも知らないんだ。その困惑は僕も同じなんだ。
ぐるぐると思考が巡る中で、僕は慌てて少女を引き剥がし、衝動のままに問い詰める。
「い、いやいやいや!?どなたですか!?」
「えー!?たった数億年前のことを覚えてないなんて、酷すぎるよ!」
「君の知ってる『緑谷出久』がどうかは知らないけど、僕はノーマルな寿命のホモ・サピエンスで、今年で14歳の中学生だよ!!」
「ウッソだぁ!前会った時、『81京超えてから数えてない』って言ってたじゃん!」
「なにその天文学的数字!?僕、そんな宇宙の寿命を超越したクリーチャーじゃないんだけど!?」
だめだ。どこまでも話が噛み合わない。
なんだよ、数万年ぶりって。なんだよ、81京を超える年齢って。
僕が心底呆れていると、残っていた短髪の少女が、僕にウザ絡みをする少女の脳天に手刀を振り下ろした。
「あだっ」
「そこまで。イズク、困ってるよ」
「はぁーい」
「…にしても、本当に覚えてない?
イズクのことだから、若返ってもそんなに違和感ないけど…」
「い、いや…」
僕が首を横に振るも、少女たちは、まじまじと僕とあかりちゃんを見つめる。
舐め回すように、というよりは、確認するような感じだろうか。不快ではない視線だ。
露骨に不満を顔に出し、あかりさんが僕の腕を抱きしめる中。
ふと、彼女は首を傾げた。
「……あれ?」
「どうかしたの?」
「いや…、雄英って、校内に侵入者が出たら、警報鳴るんじゃ…?」
「…………あっ!?」
そう言えばそうだ。
ここは雄英の敷地内。明らかに侵入者である二人に対して、何の警報も鳴っていないのは、確かに気になる。
そんなことを思ってると、携帯から着信音が鳴り響く。
画面を見ると、『かっちゃん』の文字が羅列している。
何かあったのか、と思い、通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。
「もしもし?」
『どこほっつき歩いてンだ!とっくに始まってンぞクソデク!!』
「……えっ!?あ、マジだ!?」
会場にある電光掲示板に映る時刻表を見ると、8時16分という現実があった。
とっくに競技が始まっているようで、爆音の歓声がここにまで轟く。
僕は慌ててあかりちゃんの腕を引っ張ると、その場から去ろうとする。
と。短髪の少女が僕の左腕に腕を絡め、長髪の少女が僕の背に乗っかる。
「……あのー、これは、なんですかねぇ?」
身体中から水が抜けていくような、そんな感覚が襲う。
右隣を見ると、目が据わってらっしゃるあかりちゃんが、こちらをこれでもかと凝視しているのがわかった。
そんな殺気に気付いているのか、それとも気付いていないのか、彼女らが頬を膨らませ、僕にその細い体を密着させた。
「もう!イズクってば、約束したじゃん!」
「イズクが覚えてなくても、それは守ってもらうんだからね」
「…えっと、なんの話?」
「ふんっ!大事な約束を忘れちゃうようなおばかさんには、教えてあげないもんっ!」
そうは言われても、本当にまったく身に覚えがないのだけど。
僕が顔を引き攣らせていると、あかりちゃんがハイライトが消えた瞳で告げた。
「イズクくんの女誑し」
「マジで身に覚えないんだけど!?」
なんてギャルゲーだろうか…?