そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。
情報がポンポン飛び出すから、体育祭見物どころではない模様。


緑谷「試合に集中させてほしいんだけど」

「そ、その、戻りましたー…」

「……おい。いつの間に俺の幼馴染はタラシになった?」

「だから僕も身に覚えないんだって!!」

 

かっちゃんからの視線が痛い。

誑かした覚えもないのに、女誑し扱いされるのは流石に堪える。

僕たちは周りを取り囲む二人の少女に席を譲り、階段に腰掛ける。

そんな中で、轟くんの訝しげな表情が目に入った。

 

「轟くん、どうかした?」

「ど、どうかしたって…。お前ら、さっきからなに言ってんだ?」

「何って…。その子たちのこと?」

「……誰も座ってねーけど?」

 

ふざけていない。

本当に見えていないのか、僕が指差す座席を見て、首を横に振る轟くん。

と。先生が皆に向けて声を張り上げた。

 

「ここに座ってる人が見えてる人は手ェ上げてくださーい」

 

手を上げたのは、僕、あかりさん、かっちゃんのほかに、ヒメちゃんとミコトちゃん、ウナちゃんなど、個性を持たない、または個性という生命体そのものという特殊事例の人たちのみ。

轟くんたちには本気で見えていないようで、何度も座席を確認しては、首を傾げていた。

 

「……あり得ませんわ。肉体のない、魂だけの生命体だなんて…」

 

そんな中、愕然としたイタコさんが呟く。

魂だけの生命体って、幽霊となにが違うのだろうか。

僕がそんなことを思っていると、麗日さんが切り込んだ。

 

「幽霊となんか違うん?」

「大間違いですわよ…。

その…。私にしかわからないでしょうけど、彼女たちは『生きている』のですわ。

その特異性から考えるに…、きっと、彼女たちに近い存在でなくては、認知ができないのでしょうね」

「近い存在って…、無個性とか、人工個性とか、個性特異点とかの特殊ケースか」

 

成る程。だから、警報にも、レーダーにも引っ掛からなかったのか。

不法侵入の手引きをしたとかで、雄英から訴えられる可能性がないってだけでも僥倖だ。

僕が胸を撫で下ろしていると、ふと、飯田くんが声を上げた。

 

「…第一種目が終わったが…。緑谷くん、ちゃんと見ていたか?」

「………あっ!?」

 

しまった。完全に見逃した。

慌てて電光掲示板を見やると、左半分にはハイライトなのだろう、盛り上がったシーンの切り抜きが流れている。

右半分を見やると、第一種目を勝ち抜いた人たちの名前が並んでいた。

 

「……そら姉さんは、敗退してしまったか」

「鍛えてもないパンピーなんだ、勝ち残ること自体有り得ねーだろ」

「それは確かにそうなのだが…。怪我をしていないかが心配なんだ」

 

経過なんてこれっぽっちも見てないから、話に混ざれない。

元凶となった少女二人を軽く睨め付けるも、彼女たちは意に介さず、かっちゃんを観察していた。

そんな中、麗日さんが「ほぇー」と感嘆の息を漏らした。

 

「ずん子さん、勝ち残っとるなぁ。

そんでも中位なあたり、やっぱヒーロー科とかは強いんやなぁ」

「サポート科とか押し退けての中位だぞ」

「ごめん。やっぱおかしいわあの人」

 

本当、なんであそこまで鍛えようって思ったんだろうな、あの人。

そんなことを考えつつ、僕は未だ尚、かっちゃんをじっくりと見つめる二人を見やる。

かっちゃんもその視線が気になるようで、鬱陶しそうに眉を顰めていた。

 

「なんだ、幽霊モドキ。言いたいことあンならとっとと言えや」

「……もしかしなくても、『大・爆・殺・神ダイナマイト』?」

 

その名前に、彼女の存在を認識できている全員が思いっきり吹き出した。

そんな中、かっちゃんが笑みを浮かべ、「イカすじゃねぇか」と呟く。

センス大丈夫?あり得ないほどダサいぞ、かっちゃん。

 

「やっぱり!ねぇ、なんでそんなに綺麗に『調和』してるの?

もしかしてさ、『今回』になって、イズクがやっと完全な『調和』の方法を見つけたの!?やったじゃん、イズク!!」

「倒錯してんのか、コイツ?」

「さぁ…?」

 

歓喜を露わにして僕に抱きつく彼女の口からは、あいも変わらず意味のわからない言葉が飛び出す。

もしかして、未来人の類なんだろうか。

僕が悶々と思考を巡らせていると、観客席が沸き立った。

 

『さて、狭き門をくぐり抜けた猛者たちよ!

続いての門を突破できるかしら!?

第二種目はぁ…、「三つ巴棒倒し」!!チームはこちらで勝手に決めさせてもらったわ!!』

 

ミッドナイトの声と共に、表示される掲示板に注目が集まる。

名簿を見たが、ヒーロー科、サポート科など、主役級の活躍が期待される人たちは一塊になっておらず、見事にバランス良く分けられている。

そんな事を考えていると、コンクリートでできたフィールドから、三本の柱が精製され、そこらに転がったのが見えた。

 

『ルールは単純!「棒を倒せ」よ!!

棒が二本倒れた時点で即終了!!ただぁし!来年からヒーローになるんだから、人としてアレなのはNGね!!

さぁ、勝負の時よ!棒を持ち上げなさーい!!』

 

流石は雄英というべきか、即席のグループだろうに、テキパキと3チームに別れ、棒を立てる生徒たち。

ずん子さんのグループには、無個性の普通科を入れた帳尻合わせなのか、ビッグ3のトップらしき女子生徒がいる。

彼女は無個性という明らかなデメリットを抱くずん子さんにも嫌な顔ひとつせず、爽やかな笑みで「頑張ろうね!」と声をかけているのが見えた。

…ああいう人が増えてくれたら嬉しいんだけどなぁ。

僕がそんなことを思っていると、ふと、二人の少女が神妙な面持ちで告げた。

 

「……ダイナマイト以外は、まだ『調和』されてないんだね」

「イズク、本当にどうしたの?

いくら記憶を無くしたとはいえ、それさえも忘れちゃったの?」

 

また『調和』だ。

単語の意味自体はわかるけど、何故そこでその単語を用いるのだろうか。

もしかして、かっちゃんみたいに個性特異点となった状態…、つまりは『個性と完全に共存している』状態をそう呼んでいるのか?

未来では、個性という存在そのものが危険視されていた。その理由は果たして、人の手に余るような状態になったから…などという、現時点でも提唱されている程度のものなのだろうか。

僕は恐る恐る、彼女らに問いかける。

 

「…『調和』しないと、どうなる?」

「どうなるって…、それも忘れたの?イズクが…」

 

彼女がその言葉を紡ぐ前に、爆音が轟く。

フィールドを見やると、増強型の個性であろう男子生徒の拳と、異形型の個性の男子生徒の拳がかち合っていた。

まさしく混戦。棒を倒すべく、ヒーロー科生徒や、サポート科の生徒が繰り出すサポートアイテムが飛び交う。

第一種目は見逃してしまったのだ。これ以上は見逃せない。

僕は質問を打ち切り、フィールドの方へと目を向ける。

 

「……ごめん、後で聞いていいかな?」

「いいけど…。イズクさ、大丈夫なの?さっきからなんか変だよ?」

「変って言われてもなぁ…」

 

本当に身に覚えがないのだから、仕方ないじゃないか。

そんなことを思いつつ、ずん子さんの姿を見やる。

彼女は極限にまでに気配を殺し、真っ直ぐに相手の棒へ向かっていた。

奥さんの技術を叩き込まれた僕たちだからこそ視認できているが、ヒーロー科生徒らはソレどころではないのか、それともただ単に認識できていないのか、棒に向かうずん子さんを誰も追いかけては来なかった。

と。観客席が急激に騒めきだす。

僕たちがそちらを見ると、剛腕を誇るヒーロー科男子生徒が、棒を振り回しているのが見えた。

 

「うぉっ…。棒を振り回してんぞ、あのヒーロー科。

アレ、コンクリだろ…?」

「加減はしてるんだろうが…。大丈夫なのだろうか…?」

 

そんなことを言っていると、ずん子さんがその男子生徒が振るう棒の前に、助走をつけるようにして駆けていくのが見える。

一体何をするつもりなのだろうか。

弧を描いたコンクリートの塊が、ずん子さんへと迫る。

あのままいけば、直撃はまず避けられない。

しかし、幾人もの生徒が吹き飛ぶ中で、間を縫うようにしてコンクリートの塊へと飛び込むずん子さん。

まるで吸い込まれるように、彼女の蹴りが横薙ぎに振られたコンクリートに炸裂する。

 

瞬間。びしり、と音が鳴ったかと思うと、男子生徒が持っていた棒に亀裂が走り、見事に折れてしまった。

 

『…………は?えっ、ウッソォ!?あの子何したの今!?』

 

ミッドナイトの素っ頓狂な叫びが、観客の心中を代弁する。

そんな中、淡々と奥さんが口を開いた。

 

「ずん子の武器は器用さと視力。

じゃあ、そこから導き出されるのは?」

「……比較的脆い部分を見抜いて、ピンポイントで蹴ったのか。

しかも、振り回してる勢いがあったから、本来ならちょっとした亀裂程度で済んだのが、あっけなく折れちまった…ってこったろ?」

「正解」

 

常軌を逸した器用さと視力を鍛え上げると、こんな芸当ができるようになるのか。

ふと、東北家の面々を見ると、凄い勢いで沸き立っていた。

静まり返ったこの場では完全にアウェーなのだが、それすらも気にならないのは、家族の絆が成せることなのだろうか。

 

「……これ、判定どうなるの?」

「ミッドナイトも困ってるぞ…」

「ぶん回すまでは想定してたけど、へし折るとかは想定してなかったんだろうな…」

「セメントスが本気出すと、かなり硬くなるとかヒーロー特集の番組とかで見たような…」

 

……うん。奥さんが鍛えたから仕方ないってことで済ませておこう。

審議の結果、棒が折れてもダメという結論に至ったらしい。

観客席、職員、生徒の全員がずん子さんを凝視する中で、当人はただ真っ直ぐに、次にへし折る棒へと目を向けた。

 

「次」

 

ゾッとするほど低い声。その脅威を前に、サポート科の生徒が小さく悲鳴を漏らす。

ずん子さんが駆け出すと共に、ヒーロー科生徒やサポートアイテムが、彼女に向けて殺到する。

 

と。次の瞬間。轟音と共に、相手側の棒が倒れた。

 

『…………は???』

 

そんな間の抜けた声が、そこらじゅうから聞こえる。

よくよく見ると、守りが手薄になった箇所に忍び寄っていたのだろう、ずん子さんのチームに居たヒーロー科数名が、数の暴力で棒を倒しているのが見えた。

いくらヒーロー科が指揮を取っていたとはいえ、即座に指示に従うほどに実戦慣れしていないサポート科の注目が、ずん子さん一人に集中したことが痛手だったのだろう。

呆然としていたミッドナイトが、はっ、と弾かれたようにマイクを手に取る。

 

『あ、呆気なーーーーいっ!?

大混戦を極めた第二種目は、まさかの普通科、東北純子によるどんでん返し!!3年ヒーロー科にも迫る未知数の実力に、担任の私自身驚きを隠せないわ!!!』

「胃が……」

 

ミッドナイトの声に先生が冷や汗を浮かべ、胃を抑えていた。

僕たち関係ないんで、奥さんを紹介したご自分を恨んでください。




情報を出すたび、本格的に中学生編が終わりに近づいて来たって実感する。もうすぐ書きたいところに到達すると思うと嬉しいような、悲しいような…。
気づいてるか…?まだ原作一年前なんだぜ…?

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