そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


紲星あかりって、こんな強かったっけ?

頂上に着いた。

ここに来るまで、幾度か戦闘を繰り返したが、消耗する必要のない相手で良かった。

 

 

「京町さん、お疲れ様。

結構、戦えたんだね」

 

 

僕は京町さんに労いの言葉をかける。

彼女は褒め言葉に反応してか、その恵まれた体で胸を張り、えっへんと口に出す。

 

 

「そりゃそうですよ!

時空監視員の募集要項には『戦闘技術』の項目もあって、私、トップだったんですから!

筆記は最下位でしたけど!」

「……」

 

 

それ、なんの自慢にもならないんじゃ?

聞けば、戦闘能力の高さだけで、今の職に就いてるらしい。

残念な人だとは思ってたけど、ここまで残念だとは…。

 

 

『イズク様。防御を』

 

 

MESSIAHの指示に従い、ナノマシンを集結させて防壁を作る。

その間わずかコンマ1秒。

1秒後には、その防壁が轟音と共に凹んでいた。

 

 

「きゃあ!?」

『イズク様、狙いはあなたです。

京町セイカを、あなたのそばから離れさせることを推奨します』

「京町さん、ごめん!」

「ちょっ、なぁああっ!?」

 

 

ナノマシンを放出し、彼女を先生のいる麓へと戻す。

と同時に、防壁が粉々に砕け散った。

イズクメタル製のそれを砕いた影を見て、僕は目を見開く。

 

 

「先日ぶりですね、ヒーロー」

 

 

この間の、皮膚が全て無かったはずのバケモノは、そこにはいなかった。

シワひとつないきめ細かでいて、しっとりとした麗しい肌。

活発そうな印象を受ける、淡麗な顔立ち。

腰まで伸びた白い髪を二つ結びの三つ編みにして、ぷらぷらと遊ばせている。

だが、放つ気配はこの間のものと全く同じ少女が、そこにはいた。

 

 

 

何故か全裸で。

 

 

 

「…とりあえず、服着たら?」

「…?ああ、そうでした。

肉壁は難しいんですよね…。

まだ調整が荒っぽいせいで、皮膚ごと服が弾け飛ぶ」

 

 

全く不便な、と愚痴を零しながら、彼女は目を瞑る。

瞬間。彼女の髪の毛の一部が解け、彼女の体を彩る服と化した。

そういう個性かとも思ったが、違う。

 

 

シリウスが示すこの結果は、個性ではない。

 

 

個性因子の働きを無効化する超音波と電磁波の最中、個性が使える訳がないのだ。

彼女のソレは、ただの『生態』だ。

抜け落ちた体の一部を別の形で再構築するという、僕たちとは根本的に違う生物。

 

 

「どうです、ヒーロー?

中々に良いデザインでしょう?」

「ごめん。僕、女の子の服の趣味とか分からないんだ」

「うーわ。モテないタイプでした…か!!」

 

 

彼女の拳が、僕に迫る。

威力は計算して、オールマイトのフルパワーの1.5倍。

全くの予備動作無しで放たれたソレに、僕は驚く暇もなかった。

 

 

「っ、ジャスティスブロウ!!」

 

 

それを迎え撃つべく、僕はその拳を打ち消すように、拳を放った。

 

瞬間。轟音と共に、空の雲が吹き飛んだ。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…コレ、紲星あかりですよね?」

「…ですね」

 

 

ノートパソコンに映る、シリウスのメインカメラの映像。

緑谷くんと戦うその存在は、僕と東北さんにとっては既知の存在だった。

 

6人目のボイスロイド。

 

それが、僕たちの追っていた特異生命体の正体だった。

東北三姉妹はまだだが、水奈瀬コウ、京町セイカ、そして紲星あかり。

ここまで重なれば、いやでも悟ってしまう。

 

 

 

僕たちボイスロイドは、望む望まないに関わらず、この世界を大きく変えてしまう存在だ。

 

 

 

「…紲星あかりに、こんな設定ありましたっけ?精々、大食いくらいでしたよね?

なんでこんなアイアンマンの三作目みたいなことになってんですか?」

「なんにせよ、この世界で、とんでもないことが起きてるのは確かですね」

 

 

未来含めて。

僕が言うと、東北さんは「あ」と声を漏らした。

 

 

「どうかしましたか?」

「戦いと考察に夢中になって、完全に忘れてました。

オールマイト、どうするんですか?」

「あ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「……OH、MY…GOD…」

 

私は今、信じられないものを見ている。

世間を騒がせているヴィジランテの一人、『SAVER』。

あの無機質な存在が、ただの少女と戦っている姿。

側から見れば、ヴィジランテの一人が、女の子に襲いかかってるようにしか見えない。

だが、長年培ってきた勘は、ひどく煩く私に叫ぶ。

彼女が、彼女こそが、オーガの仇なのだと。

 

 

「凄い!凄いですよ、ヒーロー!

私の攻撃で倒れないって、初めてです!」

「そりゃ、どう…も!!」

 

 

一撃一撃が、私の全力を超えている。

私の伸びた髪が、彼らの放つ拳が激突したことにより発生した風で揺れる。

目の前に広がる光景は、世界の終わりかと見まごうほどの破壊の嵐。

 

 

「ジャスティスラッシュ!!」

「おお!連打ですか!なら私も!!」

 

 

私が真っ先に感じたのは、危険。

SAVERも少女も、この社会を簡単に崩壊させることの出来る力を持っている。

今、ここで止めなくては危険だ。

だが、あの拳の嵐に私が入ってどうなる?

久しく感じていなかった命の危機に、心臓がバクバクと動く。

 

 

…ん?待てよ?

 

 

ふと、私は違和感を感じ、周りを見る。

そこには、私が先ほど通ってきた道が、そのまま変わらず佇んでいる。

周りを見ると、景色が全く変わっていないことに気づいた。

 

 

「…どういう、ことだ…?

あれだけ激しく戦っているにもかかわらず、破壊の跡が一切ないぞ…!?」

 

 

私は思わず、彼らの戦いに目を向け、そして見た。

彼らの攻撃が、「互角の力」によって打ち消されることで、風圧のみを発する結果になっていることに。

私に迫るタフさを誇るクライシスオーガを、一撃で倒した少女の拳。

その攻撃を、彼は打ち返すのではなく、ただ打ち消していたのだ。

 

 

「とっくに気づいてますよ。手加減なんてしてたら、すぐ死んじゃいます…よ!!」

「ぐぅっ…!?」

 

 

びしり。

彼の拳に亀裂が走った。

少女の拳が…それもノーモーションではない、本気で踏み込んだ拳が、彼へと迫る。

 

 

「MESSIAH!エネルギーの供給速度と計算速度を3倍に上昇!

エレメンタルカセット『BURST』を装填!

全力でぇ…、迎えぇ、撃ぅうつっ!!」

『了解』

 

 

瞬間。彼の拳の亀裂が瞬く間に消え、拳と拳が激突する。

凄まじい風圧が私に襲いかかる最中、SAVERの体が変化していくのを見た。

人としての形は保っている。

だが、丸みを帯びていたスマートなボディは何処へやら、やけに刺々しい装い。

 

 

「シリウス…BURST STYLE…!」

 

 

身体中にある噴出口から、凄まじい蒸気が溢れ出す。

いや、蒸気だけではない。

何かのエネルギーなのか、緑の炎がゆらゆらと彼の体に纏わりついていた。

 

 

「ジャスティスゥ、バーストォ…ブゥウロォォォォォォオオオオオッッッ!!!」

 

「きゃはっ!その調子ですよぉ、ヒーローォオ!!」

 

 

一瞬の静寂。

数秒遅れてやってきた衝撃波は、痩せ細った私の状態では耐えられない。

 

 

「ぐ、ぬぅ…!?」

 

 

踏ん張る暇も無いほどの、凄まじい風の暴力。

風圧で目蓋が落ちそうになる中、私は必死に彼らの隙を窺っていた。

 

「よっと…。おー、痛い痛い。

流石だ…と褒めておきましょう。

 

 

 

人工的に生み出された個性因子と、人工的に生み出された自己修復細胞の結合によって生まれた私ですらも超えますか」

 

 

 

 

「「……は?」」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「京町セイカ。聞いた情報と全く違うんですが、どういうことですか?」

 

 

ナノマシンで麓に帰ってきた京町セイカに、先ほどの映像を見せる。

何が突然変異だ。

彼女の言葉から察するに、紲星あかりは、『人工的に作られた生命体』だ。

虚偽の情報を教えたのか、と問うと、京町セイカはぶんぶんと首を横に振った。

 

 

「いや、私も知りませんでしたよ!?

ただ、『ヤバい特異生命体が居るから捕獲しろ』って言われただけで!!」

「…所詮は組織の末端。ロクな情報を持ってるとは限りませんでしたか」

 

 

僕は言うと、シリウスのメインカメラに映る彼女の顔に向き直る。

 

 

「彼女は君と同じ時代から来た。

それは間違いありませんね?」

「は、はい。私が通ったタイムゲートは、アレが装置で起動したヤツだったんで、同じ時代出身ですよ。

あっ、でもっ、人工的に個性を作るとか、そういう技術なんてないですよ!?」

「君が知らないだけで、存在するんでしょう。

こちとら、世間に隠したオーバーテクノロジーには慣れっこなんでね」

 

 

慣れたくなかったけど。

あれだけの超兵器を、極々平凡な家庭に生まれ、死に物狂いで学んだだけの中学生が作れるような世界だ。

未来であれば、電子工学系専門の彼とは別分野のオーバーテクノロジーが存在していても、なんら不思議じゃ無い。

 

 

「…あれ?」

「東北さん、どうかしましたか?」

 

 

ーーーーーーなんで、個性を人工的に作る必要があったんでしょう?

 

 

僕が首を傾げると、東北さんは続けた。

 

 

「いや、今の時代で強個性持ちって、出生率が増えてますよね?」

「…まぁ、超常黎明期から結構経ってますからね」

 

「逆に、無個性の出生率って、年々減ってきてますよね?

 

私の代で、全体の僅か8%。

セイカさんの生きてる時代じゃ、淘汰されてる可能性が高いです。

 

逆に、強個性は出生率が増えていて、尚且つより強大になってきている…。

それこそ、あるだけで世界が崩壊するような個性があってもおかしくない。

だというのに、人工的に個性を作る必要がある…?」

 

 

はて、妙だ。

東北さんの言う通り、年々無個性の出生率は減ってきている。

無個性同士の親から生まれた子供でさえも、個性を持って生まれるような時代だ。

それから数百年経ち、文明が衰えていない京町セイカの時代に、個性を求める必要はないはず。

 

 

「セイカさん。あえて聴きます。

あなた、個性ありますか?」

 

 

 

「あ、はい。ありましたよ。発現して、すぐ消されましたけど」

 

 

 

消された?

一体どう言うことだ…?

僕たちが首を傾げると、彼女は不確かな記憶を探るように、ポツポツと語り始める。

 

 

「ある英雄が『個性は危険物だ』と世に知らしめたのが、五百年前でして。

それから、人間全員に『個性因子を消す』ことが義務付けられたんです。

 

因子を消す機械…ナノマシンでしたっけ?なんか、ソレがかなり昔の遺跡から見つかって、普及して。

その詳細は、私の生きる時代でも不明だっていう話は有名ですよ」

 

 

……あ。

 

ふと、先ほどの光景が甦る。

…成る程。そういうことか。

 

 

「……緑谷くんにメッセージを送信してください」

 

 

 

おそらくだが、緑谷くんも結論にたどり着いたことだろう。

僕のこの言葉が、彼に届きますように。

そう願いながら、東北さんが送信ボタンを押す音を聞いていた。




答えの一つ。「京町セイカに与えられた情報が正しいとは限らない」でした。組織の末端ですからね。

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