そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。
尚、その活躍が知られることはない模様。


地球の命運は、再び緑谷出久に託された

「くくく…。轟くん、麗日さん…。

認めるわ。確かにあなたたちは強い。強いけれど、『万能』ではなかったようね?」

 

昼休憩と、その間に観客の関心を離さないように企画された幕間のレクリエーションにより、人々が喧騒を織りなす最中。

少し離れた屋台にて、不敵な笑みを浮かべる少女…『四国めたん』が、打ちひしがれる俺たちを嘲笑う。

俺たちはしたり顔で踊り狂う彼女を前に、睨め付けることしか出来なかった。

 

「恥じることはないわ。あなたたちは、この漆黒のめたんを相手に足掻いた。

『定められし創造』という、私が支配する事象を前に立ち向かう勇気。

それは、十分に賛美に値するわ」

「ただの型抜きだろ」

 

悔しさと無力感に打ちひしがれる俺たちに、そんな冷めきった言葉が投げかけられた。

その言葉を吐いたのは、売店でいろいろと買って来たのであろう、手に大量のビニール袋をぶら下げた切島。

紙コップに入った唐揚げを頬張る切島に、俺たちは演技を止め、立ち上がる。

 

「めたんさんのノリ、なんか面白くてな」

「この小っ恥ずかしい語彙、どっから出てくんのやろ」

「失礼ね!私の織りなす言の葉を『小っ恥ずかしい』などと、俗な言い方をしないでちょうだい!

これは名家に相応しい血筋、そしてこの漆黒のめたんが纏う権威を誇示するためのものなのよ!」

「めたんさんって、お嬢様としての方向性だいぶおかしいよな」

 

切島の鋭い一言に、めたんさんがたじろぎ、「うぐっ」と呻き声をあげる。

自分の家に誇りを持っている割には、四国という苗字で呼ぶと怒る。プライドなどと声高々に言う割には、しょっちゅう先生にご馳走になってる。

確かに、お嬢様と言われても、普段の立ち振る舞いが無ければ首を傾げてしまいそうだ。

そんなやり取りをしていると。昼休憩で席を外していたであろうミッドナイトが、なにかから逃げるようにして通り過ぎた。

 

「勘弁してぇ!!」

 

一体、なにが起きたのだろうか。

彼女の絶叫に、皆が首を傾げていると。

歪なシルエットが、ミッドナイトを追いかけてくるのが見えた。

 

「待ってください、先生〜!『もっと食べたい』って言ってたじゃないですか〜!!」

「いくらなんでも限度があるでしょ!?」

 

そこにいたのは、ずんだの従僕。

ずんだ地獄からの使者が、味覚と胃袋を破壊する兵器…『ずんだ餅』を手に、ミッドナイトを追いかけ回していた。

当人には全く悪気はなく、むしろ善意でやっているのだろうが、いかんせんタチが悪い。

しかし、俺たちにも、あの暴走したずんだの奴隷を止める術はない。

俺たちは断末魔をあげ、ずんだ餅に襲われるミッドナイトに合掌した。

 

「…私の口調より、あっちの方がよっぽど面白いと思うのだけれど」

「「「ご冗談を」」」

「本当に失礼極まりないわねアンタたち」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

会場から少し離れた場所にて。

僕たちは簡素な昼食を摂りながら、はしゃぐ少女二人を傍目に言葉を交わす。

 

「で、先生。この子たち、前世で見覚えとかありませんでした?」

「見覚えはめっちゃありますけど…。

僕たちと同じく、明確なキャラ付けがそんなにされてないって言うか…、使用者にぶん投げられてるって言うか…。

それはもう無限大に解釈が広がってるんで、名前くらいしか分かりませんよ?」

 

先生の前世は、あいも変わらず正確な情報を運んでこない。

『前世の記憶』なんて、そこまで良いものでもないんだな、と思いつつ、ずんだ餅を頬張るきりちゃんを見やる。

きりちゃんもまた、彼女らの情報を持っていないのか、首を横に振った。

 

「ある程度はわかってますけど…。ソレが絶対とは限りませんからね?」

「まあ、参考にはなるだろうし…」

「…髪が長い方が姉の『IA』。ばっさりしてる方が妹の『ONE』ですね。

地球を救うために、『惑星ARIA』からやってきたとかなんとか…」

 

なんてトンチキな設定なんだ。

いや、前に面白半分で聞いたずん子さんの設定の方が、よっぽどトンチキなんだけど。

この突飛な設定がドンピシャで当たっていれば、彼女たちは『宇宙人』ということになるのだろうか。

しかし、僕やかっちゃんのように『元あったレール』とやらがあるのなら兎に角、先生たちのような『レールもクソもない存在』である以上、そう決めつけるのは早計か。

なんにせよ、僕は目の前にいる彼女たち…『ARIA姉妹』のことをまったく知らない。

この子たちと僕の間にある認識の齟齬を改める、もとい明らかにするには、まずこの子たちを知る必要がある。

 

「えっと…、IAさん、でいいのかな?」

「思い出したの!?」

「あ、まぁ…、名前、だけ?」

「ほら、やっぱり!若返ってはいるけど、私たちのイズクじゃん!」

「いや、どう…なんだろ?」

 

「先生たちに教えてもらいました」なんて言えるわけもなく。結局、齟齬がより深刻なものになったような気がしてならない。

僕がそんな複雑な表情を浮かべると、かっちゃんがため息を吐いた。

 

「お前のその迂闊さ、どォにかした方がいいぞ。見てて不安になる」

「かっちゃんに心配されるレベルなの!?」

「お前らってホンット口を開くたび俺のこと馬鹿にするよなァ!?」

「馬鹿にされるほど性格がクソなのが問題なんでしょうが」

「ンだとォ!?そんなことあったわクソッタレェェェエエエッ!!!」

 

かっちゃんって、面白。

先生の指摘に咆哮するかっちゃんを見やり、IAさんたちが首を傾げる。

しかし、かっちゃんのことを馬鹿にできないほど、僕が迂闊なことは理解してる。

轟くんと出会ったのも、実験の失敗からだし、ついなちゃんと麗日さんの悩みを知ったのも、僕とあかりちゃんが夜中に抜け出したのがバレたからだ。

この迂闊さが良い結果を運んでくるばかりではないだろうし、なんとか矯正できないだろうか。

そんなことを思いながら、僕はIAさんたちに問いかける。

 

「その、IAさんたちはどこから来たの?」

「あー…。じゃあ、改めて!

私たちは、地球上にあるすべての生命を『個性』や渦巻く悪意、社会が生み出す苦痛から救うために、惑星ARIAから来たの!」

「私たちの歌声で、すべての生命は救われる…はずだったんだけど。

イズクが必死になって止めるから、先送りにしてたんだからね?」

 

IAさんとONEさんの言葉に、どっ、と冷や汗が流れ出すのがわかる。

最悪の想像が、現実のものではありませんように。

そんな願いを込め、二人に問いかける。

 

「君たちが『救う』と、どうなる?」

 

その問いに、彼女たちは満面の笑みを浮かべ、答えた。

 

「私たちとおんなじになるの!

魂だけの、空腹も憎悪も苦痛も、辛いことなんてなんにもない体になれるの!」

「体を捨てて、朽ちることなんてない、永遠の命を謳歌できるの。

齟齬も誤解も対立も、あらゆる思想の隔たりからも解放されて、自由になれるの。

だって、みんなを隔てるものなんて、何もないんだから」

 

衝撃が頭の中を反芻する。

彼女たちが嬉々として語るソレは、僕たちにとっては『死』でしかなかった。

もし対応を間違えば、この星に生きる生命諸共死ぬ。

そんな張り詰めた緊張感が、僕の気管を狭めるような気さえする。

僕たちは二人に「ちょっと、ごめん」と告げ、少しばかり距離をとった。

 

「ど、どうするんですか!?

エヴァの人類補完計画みたいなことやるって言ってますよ、アレ!?」

「嬉しそォに言ってるあたり、マジで『救い』だと思ってやがる…!

ざけンなよ…!そんなンが『救い』であってたまるか…!!」

「……うん。背負った責任さえも捨てて、そんな命を生きたいだなんて、僕は思えない」

 

あまりにも価値観が違いすぎる。

最悪、彼女たちをなんとか打倒する方法を考えなくてはならない。

そんなことを考えていると。

いつ以来か、先生が真っ直ぐに僕の顔を見つめた。

 

「…彼女たちは『個』であることの苦痛を見るあまり、その必要性を根本的に理解できないんでしょうね。

文化、価値観の違いはあれど、理解しようと歩み寄り、擦り合わせることはできます。

それができるのは、他でもない。

個であることの素晴らしさ、その苦痛。どちらにも真摯に向き合い、ぶつかってきた緑谷くんだけです」

「……先生じゃ、ないんですか?」

「僕は前に、苦痛から目を逸らしました。

僕にその資格はありません」

 

キッパリと、重い責任を僕に渡す先生。

押し付けられた、だなんて思わない。自分ができないことはできないと言う人だと、僕は知っているのだから。

しかし、本当に僕が彼女たちに僕たちの価値観を伝えることができるのだろうか。

そんな不安を抱いていると。

僕の体を、柔らかい感触が包み込んだ。

 

「大丈夫。できますよ。イズクくんはヒーローなんですから」

 

僕を抱擁するあかりちゃんが、にっこりと笑ってみせる。

弱気になるな、僕。覚悟なんて、とっくの昔に決めていただろう。

ぱん、と両頬を叩き、気を引き締める。

 

「やってみます」

 

地球の運命が、一年ぶりに僕の背に乗っかった。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「…本当に、良かったのか?

アーミー、ミラー…。『成功例』に限りなく近い二人を、彼らに渡して」

 

狂乱の景色が広がる空間にて。

少女二人が人の姿を無くし、改造されてゆく光景から目を逸らすように、ブラックボックスが佇むフィクサーを見やる。

しかし、フィクサーは路傍の小石でも見ているかのように無関心な態度のまま、淡々と告げた。

 

「僕が目指したのはキズナだ。あんな単一の個性しか生み出せない失敗作じゃない。あんな人工個性を無理矢理に押さえつけただけの、人間の劣化版じゃないんだよ。

僕たちがどれだけ『捨ててきた』と思ってる?そこに二人加わっただけだ」

 

今更だ。二人殺した程度で痛む良心など、とうの昔に捨てている。

その答えに、ブラックボックスは言葉を紡ごうとして、項垂れるように頭を下げた。

 

「…すまない」

「謝る暇があるなら、ドクターを手伝え。

細工をするのなら、今だ」

「……わかったよ」

 

ブラックボックスは言うと立ち上がり、狂気に笑う医者へと歩み寄っていく。

彼の背をフィクサーがただ見つめていると、すっかり回復したオール・フォー・ワンがその肩に手を置く。

己とは違った、無邪気かつ無作為な悪意を、ただそのまま注いだかの如く澄んだ瞳。同級生を揶揄う学生かのように、その口が弧を描いている。

いっそのこと、人懐っこささえ覚えるその顔に、フィクサーは隠し持っていたアイスピックを向けた。

 

「おやおや?せっかく生み出した『娘』さえも消耗品扱いかい?」

「そんなの、覚えきれないほど居たよ。

同時に、覚えきれないほど殺してきた」

「…相変わらず、君には遊びがない。

『定められた運命』を覆すために足掻くのもいいけど、たまにはハメを外さないとパンクしてしまうんじゃないかい?」

 

刹那。フィクサーは激情のままに、オール・フォー・ワンの首を捉え、流れるように床に押さえつける。

フィクサーから放たれる濃密な殺気が、空気を蝕む。

茶化す暇もなく、仮面の瞳がこれ以上なくオール・フォー・ワンの眼前に近づく。

 

「…お前、分かっているのか?

お前が成ろうとする『ソレ』が、最も僕が排すべきモノなんだぞ」

 

フィクサーが威嚇するも、自分を殺せないと分かっているオール・フォー・ワンは、ただ笑い、その仮面に触れる。

刹那。仮面が粉々に砕け散り、隠してきた素顔が、空気に触れた。

 

「おお、怖い怖い…。そう言う割には、オールマイトのように『笑ってる』じゃないか。

さすがは、『ヒーローを目指していた』だけはあるね。ねぇ…」

 

────『何回前から繰り返してる』かもわからない『────』。




ARIA姉妹…その気になれば、歌うだけでサードインパクトみたいな生命体の統合を引き起こせる危険生命体。ただ価値観が違うだけなので、擦り合わせをすればなんとか阻止できる。ただし、そこに至るまでが果てしなく困難。現時点で説得できそうなのは、緑谷出久ただ一人である。頑張れ、デク。気張れ、デク。お前に全てがかかってる。

緑谷出久…また地球の命運託されたわ。どうしよ?

現在進行形で作られてる脳無…キズナの捕獲を用途とした「ハイエンド」として、以前にi・アイランドを襲撃したアーミー、ミラーの二人の遺体を素体にして作成中。フィクサーによって安楽死させられた。尚、あと数分で完成する模様。

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